そして漫画家へ   作:rearufu

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遅くなりました。他の作品とか読んでたら書く時間ががが(´・ω・`)


8頁

 

知っていて行動を起こさない事は悪い事だろうか。

俺には未来の記憶がある。つまりこれから先起こるであろう出来事を知っているのだ。

ただ知っていると言ってもなんでも知っているわけではない。俺の頭はそこまでハイスペックではないのだ。

覚えているのは大きな事件や災害、自分に関係する事ぐらいだ。それだって何月何日何時何分と詳しく覚えているわけではなく、あれって今年の夏だよなーとか確か2月ぐらいだったかなとか非常に曖昧だ。

そんな曖昧な記憶を頼りに行動して、もし記憶違いとかだったらどうする。

もう一度聞こう。知っていて行動を起こさない事は悪い事か?

 

「そりゃ悪いだろ。罪にはならないかもしれないけど人間として最悪だな」

「だよなー」

 

自分が至った答えと同じ事を言われ、どうしたものかと肩を落とす。

 

「なんかいいアイデアない?」

「ちなみに何もしないとどうなる設定?」

 

相談相手の千葉は相談料のアクセルコーヒーをすすりながら問いかけてくる。

千葉は過去未来も含め一番付き合いの長い友人であり俺がマンガ家なのも知っている。知っているというかこの間バレた。だからマンガの中の話と仮定してこれから起こる誘拐事件をどうしたらいいのか相談している。

 

「数日で警察が犯人を探し出すんだけど、犯人を確保した時にはもう女の子は殺されてた」

「なんで過去形。女の子を生かしておいてそれを助け出すとかに話変えれば?」

「攫われてからどれくらいで殺されたかわかんないから無理。攫われたら女の子が死んでるのはデフォルトでお願いします」

「なんでだよ」

「…もう描いちゃったから?」

「俺が聞いてるんだよ。前の話直せばって言いたいけど都合が悪くなるたびに直してたら話がおかしくなっちゃうか。んー、そうだな。その子尾行しようぜ」

 

それは俺も考えた。

攫われる日時や場所は曖昧、犯人の名前も記憶に無いのだ。確実に誘拐を阻止したいのなら、起こるまで見守ればいい。

幸いというか期間は限られている。

犯行は1月20日土曜日、もしくはその次の日の日曜に行われる。

1月20日土曜日はこれから受験をする中学生の保護者を対象にした説明会で本校の生徒は休みで部活もない。

当時は本来登校日のはずの月曜日が説明も無く臨時休校となり、事の詳細を知ったのは火曜日になってからだった。同級生の子だっただけに衝撃的で、忘れたくても忘れられない記憶だ。深く考えず臨時休校ラッキーとか思っていた自分が恥ずかしかったのを今でも覚えている。

 

「み、見つかったらどうしよう」

 

だが確実だからって簡単にYESとは言えない。もし見つかってストーカーと思われたらどうするのさ!

 

「見つからないように描けよ。マンガなんだしそれくらい有りだろ」

 

出来ないとは言えない。しかし他に方法も思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイコー、あれ」

 

八名大経済学部の受験が終わり帰ろうと校門を出た所でシュージンが前を指さし立ち止まる。

なんだろうとシュージンが指し示した方向を見ると

 

「…大神さん?」

 

少し離れた場所だったので声が聞こえたわけではないだろうが、こちらの声に反応したかのように振り返る。

大神さんは回りをキョロキョロと見回すと再び歩き出す。

咄嗟に隠れてしまったけど声かけた方がいいだろうか。

 

「何してんだろう?」

「ここに居るって事は大神さんも大学受験に来たんじゃないのかな?」

「新年会で大学には行かないって言ってた気が。それになんか大神さん動きが変じゃね?」

「そういえば妙に周りを気にしてるような」

「サイコーちょっと尾行してみようぜ」

「なんでだよ」

「なんかおもしろそうだし。それにTRAPの参考になるかもしれないしな。探偵と言えば尾行は付き物だろ」

 

そう言われると断れない。

尾行し始めて気付いたのだが、どうやら大神さんも誰かを尾行しているみたいだ。これは俗に言う二重尾行というやつではないだろうか。なんかハンターハンターっぽくてワクワクする。

最初は乗り気ではなかったのだが、尾行の途中で身バレしないように途中で帽子やサングラスを買ったり、掛かってきた電話にあたふたしているうちに楽しくなってきた。

 

「サイコー、俺アイデアがガンガン沸いてくるんだけど!」

「うん、僕も尾行してる構図とか自然に頭に浮かんでくる」

 

そうこうしてるうちに大神さんが突然走りだす。

どうしたのかとこちらも走り、目にしたのは見知らぬ男にドロップキックをかます大神さんの姿だった。

近くには大神さんが尾行していたであろう女の人が尻もちをついて座り込んでいた。

 

「えっ、なに、どゆこと!?」

「シュージン、停まってる車からも誰か降りてきた!」

 

大神さんはすぐ横に停まっていた車から降りてきた2人の男と起き上がってきた男に囲まれ殴られ始める。

 

「け、警察────」

 

 

 

 

 

 

犯人が3人なんて聞いてないよ…。

いや、覚えてないと言うのが正しいのだろうかこの場合。

あの後誰かが警察を呼んでくれたらしく、無事犯人は捕まった。俺は無事じゃないけど。

助けた女の子からは泣きながらありがとうと言われたが、俺は感謝されるような人間じゃないと言いたかった。

俺はこの事を知っていたんだ。知っていて本人に誘拐されると伝えるかどうか迷ったが、結局言えなかった。

なんて言えばいいのか分からなかった。

何言ってんのと変な目で見られるのが怖かった。

もし誘拐が起こらなかったらなんて言い訳すればいいんだ。

我が身可愛さにそんな事ばかりが頭に浮かんだ。

もっと強くなりたい。そう思った。

 

 

今は情けない俺だけど、自分を貫けるような売れっ子漫画家目指して頑張るからみんな応援してくれよな!

 

 


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