そして漫画家へ   作:rearufu

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未来なんて簡単に変わる。変えられる。変わってしまう。そう実感した。

これから起こる事を知っているからと言って、全部がその通りに起こるとは限らない。

『疑探偵TRAP』の休載が本来約三ヶ月のはずが、何故か一ヶ月で連載再開になって驚いた。変えたのは俺じゃないけど。俺じゃないけど。たぶん吉田氏のせい。

昔の俺なら、高校生で漫画家デビューなんて出来なかった。

昔の俺なら、この時期原稿を集英社に持って行く事も無かった。

昔の俺なら、その原稿を無くす事も無かった…

未来は何時だって不確定だ。

未来は何時だって僕らの手の中にある。

でも俺の未来(原稿)はただいま絶賛行方不明中…カイジ面白いよな。ってそんな事考えてる場合じゃねぇ。

本来なら担当の吉田さんが原稿を回収に来てくれるのだが、近くまで行く用事があったのでついでに持ってくかと思ってしまったのがいけなかった。幸い電車に乗る前に気が付いたので、無くしたのは家から駅までの間と分かっている。

俺は来た道を戻りながら原稿を探していた。過去形だ。川原で俺の原稿らしきものを読んでいる女の子を発見

 

「………」

 

あかん、なんて声掛けたらいいんだ?

思わず女の子の斜め後ろに座ってしまったが俺怪しすぎる。いや、でもやっぱあれ俺の原稿だわ。返してもらわんと。

しかしなんて声を掛けよう。見た感じ女の子は俺より年下だろうか。後姿だし良くわからないが、体格が同年代の女の子よりかなり小さいし、たぶん年下なのは間違い無いと思う。

 

ピーポーピーポー

不意に聞こえてきた救急車の音に体をビクリと震わせる俺。何も悪い事してないんだけど、何故かパトカーを連想してしまい警官が居ないか周りを確認してしまう。

周りにはパトカーも人影も無く、ホッとして前に向き直ると女の子が振り向きこちらを見ていた。

 

モンスターが現れた。

モンスターはこちらの様子を伺っている!

 

 

⇒はなす

 なぐる

 にげる

 持ち帰る

 

「い、いい天気です、ね」

「……」

 

無言のカウンターが炸裂。

大神は64のダメージを受けた。

モンスターはこちらの様子を伺っている!

 

 

何言ってんの俺ぇぇぇ!見合いじゃないんだから!しかも年下の女の子になんで敬語!?

…落ち着け俺、まだライフは残ってる。

 

「曇ってるよ?」

 

モンスターの攻撃。

大神は57のダメージを受けた。

モンスターは首を傾げている!可愛いなおい

 

「…そうだネ。ところで君が持ってるその原稿なんだけど」

 

過程はどうであれ、話す切っ掛けはできた。このまま返して貰おう。

 

「あ、これお兄さんの?はい、返すね。中も確認したけど全部あると思うよ」

 

にこりと笑って持っていた封筒に原稿を入れ、こちらに差し出す女の子。

 

 

天使が現れた。

天使は光輝いている。

大神のライフは全快した!

 

 

「助かったよ。ありがとう」

 

差し出された封筒を受け取り胸を撫で下ろす。まじ感謝。

 

「お兄さん漫画家?」

「うん。ジャンプで連載中の『time traveler』って漫画を書いてる。って言っても女の子じゃ分からないかな」

「分かるよ。お姉が買ってきたの私も読んでるし」

 

貴重な女性読者発見。

女の子でジャンプ読むの珍しいねと聞いてみたところ、なんとお姉さんがプロの声優さんらしくその影響でこの子も読んでいるそうだ。サイン貰えないかな

 

「いいよ。今度お姉に貰っておいてあげる」

「まじで!?」

「うん。だからお兄さんのサインも頂戴」

「俺なんかのサインでいいの?」

「お兄さんの漫画好きだよ。あと知り合いが漫画家だって自慢できるし!」

 

ええ娘や。この娘マジ天使。

KMT!KMT!

EMTだと?RMTの間違いだろ。鬼嫁が欲しい?正しい判断です。

 

原稿を拾ってくれたお礼もしたいしサインの件もあるので、連絡先を交換してお別れした。

未来は予定通りには行かない。でもそれでいいと思う。

未来が決まったものなら、俺は売れっ子漫画家になんてなれない。俺は俺の望む未来を掴み取る。そう、この手で!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この女の子もっと出そうか」

 

ただ今吉田さんと『time traveler』8話目のネームの打ち合わせ中。

吉田さんは5話で出した女の子を指してそう言ってきた。

5話で出てくる女の子は、この間知り合った子がモデルで未来が分岐する話を作った回だ。この回オンリーのつもりで描いたのだが

 

「じゃぁ、ヒロインの友達ポジションですかね」

 

使い捨てで描いた割には可愛く描けてたので俺も勿体ないとは思っていた。

しかしまだ数コマしか出ていないが、すでにヒロインは居るのだ。

 

「いや、この娘をヒロインにしよう」

「なん…だと…」

「絵もそうだが、話し方とか雰囲気がこのヒロインは少し大人すぎる」

 

ヒロインのモデルはまぁキャバ嬢ですから。そのままだとさすがに大人すぎるから子供っぽく描いたつもりなんだけど…

 

「その点こっちの女の子は、絵も話し方も自然に見える」

 

モデルがリアル少女ですから。

 

「このヒロインダメですかね?」

「ダメではないが、ジャンプを読むのは子供だ。ヒロインは読み手により近い方が身近に感じられるし、感情移入もしやすい。それに読者受けもいいと思う。実際この女の子が出た回の話はアンケート結果も良かっただろ?」

「確かに」

「とりあえず8話はこの間話をした1話読み切りの話を────」

 

 

 

予定通りに行かない事は多いけど、売れっ子漫画家の未来を目指して頑張るからみんな応援してくれよな!

 




 はなす
 なぐる
 にげる
⇒持ち帰る

もちろん原稿の事です

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