ジャンプにて『time traveler』の連載が決まりました。
学校に行きながらという不安要素はあるが、新妻先生や亜城木先生といった前例があるからか、編集部もいけると判断してくれたようだ。
吉田さんからは高校を卒業してからでも良いとは言われていたが、話題性のあるうちに連載まで持っていきたかったので連載会議にネームを回してもらった。というのも
「『time traveler』の主人公はちょっとキャラが弱いからな。逆行による未来の知識はあっても能力的にはただの人だし、ジャンプの主人公としては普通すぎて子供には受けないかもしれない」
と吉田さんから指摘を受けていたからだ。
キャラが弱いか。そうなんだよな。前に連載していた学園物の主人公も、喧嘩は強くても能力的にはただの人だった。そのせいか一時は連載打ち切りになりそうだった所をギャグ多めに方向転換したらなんとか持ち直したが。
そこらへんを踏まえて実は新しい漫画を描き貯めてはいるのだが。
しかし今回の『time traveler』は逆行とかの設定ばかりに気をとられてそこらへんの事をすっかり忘れていた。ならば特殊能力でもつけるかとも考えたが、ネームを書いて持っていったら微妙な顔をされた。吉田さんいわく、主人公に無理に特殊能力を付けて作品が崩れてしまっているらしい。
そんな経緯もあり、話題性のある今のうちに連載まで持っていきたいと連載会議にネームを回して貰った次第だ。吉田さんも
「ああは言ったがジャンプにだって特殊能力の無い主人公が居ないわけじゃないし、何より君の作品は面白い」
と言ってくれた。
自信はある。だが怖くもある。
以前は売れっ子とはいえないまでもそこそこな漫画家だった俺ではあるが、打ち切り候補に挙げられたことは何度かあった。
病気になりぶっ倒れそうな体で原稿を書いた時もあった。
締め切りに間に合わす為に徹夜なんてざらだった。何度楽になりたいと思った事か。
だがあの気持ちを知ってしまうと止まれない。
初めてジャンプに載った俺の漫画を読んで笑っている人を見かけた時、俺の胸は熱くなった。なんて形容していいかわからない衝動に駆られた。
そして今俺はあの時と同じ衝動に駆られている。
走り出したい。いや、俺はもう走り出している。この道の先に何があろうとも俺はもう止まらない。止まりたくない!
売れっ子漫画家を目指して頑張るから応援してくれよな!
「サイコー、体の方はもう平気か?」
「通院はしなくちゃいけないけどなんとかな」
「気付いてやれなくて悪かった」
「なんでシュージンが謝るんだよ。悪いのは俺だろ。体調管理も出来ないなんてプロ失格だ」
「…しかし編集長まで出てくるとは思わなかったな。こういうのって普通担当の仕事だろ?」
「それはたぶん『川口たろう』が俺の叔父だからだと思う」
「…そっか。編集長、おじさんの担当だったって前に言ってたもんな」
「ごめん」
「なんでサイコーが謝るんだよ。それこそ誰も悪くねーだろ」
「…シュージン、ありがとう」
「や、やめろよ。なんか体がムズムズしてくる」
「でも一ヶ月休載はキツイな」
「けっこう頻繁に休載してる漫画家とかもいるし大丈夫じゃね?」
「新人の俺たちと人気漫画家が休載するのじゃわけが違う。週刊連載は休んじゃダメなんだ」
「…もしかして、かなりまずい?」
「シュージンはジャンプの漫画全部読んでる?」
「俺は見るな」
「俺もそう。でもそうじゃ無い人も居る。自分の好きな作品だけ読んで後は読まないって人も結構居ると思うんだ」
「…居るな。俺の場合面白いからってのは勿論だけど、やっぱりライバルの作品は気になるし。他誌だと確かにいくつか読み飛ばしてるな」
「そういう人たちが休載している間に離れたり、連載再開しても読み逃したりして話の続きが解らないからまぁいいかみたいなのもあるかもしれない」
「まずいじゃん!」
「だからそう言ってるだろ。来週からは新連載で『time traveler』も始まる。休んでる場合じゃないのに…」
「いや、サイコーはゆっくり休んでまずは体を治してくれ」
「でも…」
「体調管理もプロの仕事だろ?それに逆境に立たされてなんか燃えてきた!俺休載する前より人気の出るようなすっごいの考えてくるから、サイコーはそれをベストな状態で書けるようにしておいてくれよな。話はいいけど、絵はちょっと…みたいなのは勘弁な」
「シュージン…。ああ、分かった!俺も書くのは禁止されてるから出来ないけど、仕事部屋にある漫画を読み直してコマ割りとかキャラの動きとか研究してみる!行こうぜ、シュージン。ゆっくりでもいい」
「ああ。足踏みは終わりだ。行こうぜ、サイコー。俺たちの戦いはこれからだ!」
「…シュージン君、そういうのやめてくれるかな。縁起が悪いよ」
「す、すまん、つい。あは、あはは…」