この素晴らしい紅魔族に祝福を!   作:西陣L

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紅魔のたのしいばいと

私は、この黒い毛玉を自室に入り放してやると、堂々と私のベットで丸くなった猫を見て呟いた。

 

「さて、こいつはどうしたものでしょうか」

 

このふてぶてしさ。この子は意外と大物なのかもしれない。

 

まさか、こめっこの希望通り朝ごはんにするわけにもいかず、そうかと言って、家で飼ってやれる余裕も無い。

……まあ、あのカズマという男を使えば良いような気もするけど。

とりあえず、それは後でやる……じゃなくてそれは最後の手段として。

 

しかし、このまま外に放り出して再びこめっこに見つかればカズマが持っている食糧が有るとは言え、いつかこの子は今度こそ食われる事だろう。…………となると…………

 

そう静かに覚悟を決めた時、ドアの方からノックする音が聞こえてきた。

 

「おーいめぐみーん居るかー」

 

「あ、はい、入って良いですよー」

 

そうして入って来たカズマはベットの上で丸くなっている猫を両手で包み込んで「おー」と言っている。

 

「それで?今日は何でここに来たんですか?」

 

「あー。いや、俺これから何すればいいかなーって思ってさ」

 

…………

 

「……何するも何も、カズマは旅人何でしょう?別に何したっていいじゃないですか」

 

「旅人じゃあないけど……あのさ、俺遠い国からやって来たばかりで何もわかんないんだよな。だからこの世界……じゃなくて、ここの事教えてくんないかなーって思って」

 

ノープランですか。

 

「まあ、ずっとここでダラダラしてるのもいいかなとは思ったけどいつまでもここに迷惑かけるのもあれだからな……」

 

…………どうやら、迷惑をかけてはいけない、とちゃんと思ってるらしい。

それなら…………。

 

「それなら提案があるのですが」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

俺はめぐみんに言われて次の日に農業区みたいな所に来ていた。

 

空には厚い雲が垂れ込め、今にも雨が降りそうだ。

そんな中、真剣な表情をした三人の紅魔族が、それぞれ、杖を手にして離れた場所に立っている。

 

「いくわよー!」

 

遠くからお姉さんが声を張り上げる。

その声に応えるように、他に散らばっている者もそれぞれ手を挙げ、合図を返した。

合図を受け、遠くから声を掛けてきたお姉さんは杖を地面に突き立てると……!

 

「我が魔力を糧に、この地に大いなる豊穣を与えよ!『アース・シェイカー』!」

 

大仰な口上と共に、大声で魔法を唱えた。

 

おおっ、これが魔法か!

何で農業のバイトで魔法を使わなきゃいけないのかわからんが、俺ってば初めてこの世界で異世界っぽい事を体験したような気がする!

 

そう思っている間に大地がうねり、振動し、脈打つように流動する。

術者の意のままに土は動き、俺の前に広がっていた土地は広い範囲で耕された―――――!

 

 

そう。耕されただけだった。

 

 

…………ええっと。

 

 

 

 

 

………………魔法って何だったっけ。

 

 

俺の頭のなかが真っ白になっていく中、その間にどんどん魔法が撃ち込まれていく。

 

 

………勿論全て農業用の。

 

 

こんな事に魔法を使っているところを国のお偉いさんが見たらこう思うのではないだろうか。

 

こんな事に魔法を使ってないで、魔王軍と戦ってくれ、と。

現に今、俺も同じ事思ったしな。

 

「今日はこんなものね!魔力もほとんど使い果たしちゃったし、私達も収穫するわよー!それじゃあ、バイトさんも頼むわ!」

 

あのー。

 

収穫は魔法じゃないんですね。

 

 

「どうしよう……。俺も上級魔法だの何だのと覚えたけどこんな事にしか使わないのかよ…………」

 

と、それを聞いていたのか、お姉さんがこう聞いてきた。

 

「え?あなた上級魔法が使えるの?」

 

「あ、はい。この前もバイトして、お礼に冒険者カードを作って貰って上級魔法を覚えたんです」

 

「冒険者カードを作ってすぐ上級魔法を覚えた……?そんなこと出来るはず無いのに………ちょっと冒険者カード見せてくれる?」

 

そう言われ、言われるがままに冒険者カードを見せた。

 

「サトウカズマ……ⅬⅤ1……?スキルポイント……150!?えっ!ちょっと貴方、上級魔法と中級魔法とテレポート覚えておいてⅬⅤ1で150って!?どんだけスキルアップポーション飲んだらこんな事なるのよ!?」

 

いや転生特典ですが。

 

「いやでも、詠唱だなんて覚えてませんし、宝の持ち腐れだと思いますけど……」

 

「ええ……。どうなってんのよ……。こんな感じの名前の人は凄い能力を持っているって聞いたことあるけどほんとだったのか…………。ねえ、詠唱は私が教えてあげるからさ、魔法を打ってみる気は無い?」

 

「えっ、まあ、打てるものなら打ってみたいですけど……。」

 

「決まりね!じゃあ、畑の真ん中に向かってこう言って魔力を込めて『トルネード』って言ってみて」

 

「あ、わかりました」

 

きたっ!異世界で初めての魔法だっ!

魔力を込めるってのがよくわからんけど……

 

そう思いながら俺は詠唱を唱えた――――!

 

「大気よ、風よ、荒れ狂え、我が意のままに、舞い上がれ……『トルネード』」

 

俺がそう言うと、畑からうっかりしてると転ばされそうな程の風が畑から吹き荒れ、野菜が宙を舞い、畑の中心に集められた。

 

……人生初の魔法が畑仕事かよ……

 

気怠さを感じながら、少し悲しいなと俺は思った。

 

「おー!初心者にしては上出来上出来。ほら、あの野菜たちも目回してるよ!」

 

野菜が目回すってどういう事だよ。

 

そして俺はちょっとふらついて中心にある野菜を収穫しに行った。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「あー疲れた……」

 

というかなんで本当に野菜が目回してんだよ。

あと、なんでまだ動いてる奴までいんだよ。

……何でじゃがいもが膝に体当たりして来るんだ。

 

結局あの後、全ての野菜を収穫して1万2千ほどのバイト代を貰った。

 

……1万2千。

 

バイトでこれはかなり高いと思ったが、魔法を使ってくれたからこんなに渡してくれたらしい。

 

今俺は昨日みたいに食材を買って家に向かっている。

 

改めて冒険者カードを見るとスキルポイント150って結構凄いんだなーって実感出来る。

 

そう思い家のドアを開け。

 

「ただいまー」

 

と言うと一人の女性が出て来て。

 

「あれ……?あなたは……?」

 

めぐみんが大人になったみたいな人だった。

 

 

……はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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