この素晴らしい紅魔族に祝福を!   作:西陣L

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この魔性の一家で居候を!

「ここには変な食い物しかないのか」

 

俺は定食屋に来て、渡されたメニューを見ながらそんなことを呟いた。

 

カモネギだの今朝畑で採れた魚定食だの俺が見たことも聞いたこともなかったような意味不明なのが書かれていた。

 

「とりあえず一番わかる野菜炒め定食にするか……あ、野菜炒め定食1つで」

 

そう言って「お会計600エリスです」と言われたので、この店は前払いなのがわかった。

ついでに言うと、定食一つ600エリスだとすると、1エリス約1円と考えていいだろう。

 

さて……問題はこれからどうするかなんだよなあ…………

くそう、こんな事になるんだったらちぇけらさんにでも頼めば良かった……!

 

……しょうがない、どっかの家に頭下げて住まわせてもらうか……

 

「お待たせしましたー」

 

まあ、今は腹減ったし、考えるのは後にして食う……!…か……

 

…………え?

 

何かこの野菜ピクピクって動いているんですが。

え、何か恐いんですが。

恐る恐る口に運んでみると。

 

「……やっぱりちょっと動いてる」

 

は?これ野菜炒めなの?

モンスターの類じゃないの?

 

「うん、やっぱり動いてる」

 

そう思い、店員に動いていると指摘しようとしたその時。

 

「お!今日の野菜一段と動いてて鮮度がいいな!」

 

…………今何と?

え?今の言い方だと野菜は動いてんのが普通どころか野菜は動いてる方がいいみたいな意味になっちゃうんですけど。

 

 

………………マジでどうなってんだこの世界は!!

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「納得いかねえ」

 

何で動いてる得体の知れないタダの野菜炒めが美味いんだ。

 

そんなことを考えながら俺は夕飯の食材を買いに行った。

食材って言っても調理器具なんて無いけどね?

泊めてくれる人へのお礼って意味だけどねっ!

 

「えっと……キャベツ200エリス……カモネギの肉300エリス……じゃがいも1個50エリス……」

 

うん。やっぱり1エリス1円と見ていいと思う。

しかし野菜の外見とか名前は日本と一緒なんだな。

 

「お会計800エリスになります。ありがとうございました」

 

俺は買った袋を握りしめ。

これからどうするか考えていた。

 

さてと……どの家にお邪魔するか。

今は大体4時頃。

泊めさせてもらうには少し早い時間だが早く泊まる場所を取っておくのに損はないだろう。

 

そこで俺は一つの民家が目に入った。

 

結構ボロいとても裕福とは言えなさそうな家。

 

俺の知識によるとこういう裕福ではない家の方が優しいとは思うんだが。

 

「すみませーん。誰かいませんかー」

 

俺がそう言うと奥から何やらバタバタと足音が聞こえてきた。

そしてドアが開いて、服の裾を泥だらけにしたまだ幼い女の子がドアから俺を覗き込んでいた。

年齢はまだ5歳ほだろうか。

 

「新聞屋のお兄ちゃんですか?」

 

「えっと。俺は新聞屋の人じゃあないけど、君のお父さんお母さんに用があって来たんだ。……お父さんお母さんはいるかな?」

 

と、まるで誘拐犯みたいな事を言ってみた。

何か、絵面的に俺が誘拐犯みたいになってきた気がする。

 

心の中で何とも言えない気持ちになってると女の子が。

 

「もうみっかもかたいものをくちにしてないんです」

 

と、そんなことを。

 

……可哀想に。

まだこんなに小さくて三日も腹に溜まる物を食べれてないなんて。

 

「……っていうとたべものがもらえるって姉ちゃんが言ってた!」

 

おい。どこの姉だそいつは。

 

「こめっこー。帰りましたよー。……って、あなたはカズマではないですか」

 

お前かよ。

 

「姉ちゃんお帰り!」

 

「あーあー……。ローブの裾が泥だらけではないですか。留守番してなさいって言われてたのに、また外に遊びに行っていたんですか?」

 

「うん!新聞屋のお兄ちゃんはげきたいしたから、その後に遊びに行った!んで、また新聞屋のお兄ちゃんが来てたから、またげきたいしようとしてたとこ!」

 

「ほう、今日も勝ちましたか。流石は我が妹です。あと、その人は新聞屋ではないですよー。たぶん」

 

多分じゃねーよ。絶対だよ。

 

「うん!もうみっかもかたいものをくちにしてないんですって言ったら、お食事券を置いてってくれた!」

 

同じ事したのかよ。

 

こめっこが貰ったお食事券を見せびらかせてめぐみんが「よくやったぞ」的な表情でこめっこを撫でていると、こめっこが何かに気付いた様だ。

 

「姉ちゃんから良い匂いがする」

 

「おっと、流石は我が妹。お土産です。魔神に捧げられし子羊肉のサンドイッチ!さあ、その腹がはち切れるまで食らうが良いです!」

 

……そんな感じの名前のサンドイッチをどっかの定食屋で聞いたことがある。

あーあー。おぼえてないなー。きのせいじゃないかなー。

 

「すごい!魔王になった気分!じゃあ、捕まえてきた晩ごはんは、明日の朝ごはんにしよう!」

 

お土産のサンドイッチに喜ぶこめっこが突然そんな事を言い出した。

……捕まえてきた晩ごはん……?

紅魔族って子供までそんなことすんのか……?

 

「こめっこ、晩ごはんとは何ですか?何を捕まえて来たんです?」

 

「見る?しとうの末に打ち倒した、きょうぼうなしっこくの魔獣!」

 

不穏な言葉を残し、こめっこが家の奥に駆けて行く。

 

お、おい、紅魔族の子供は魔獣まで捕まえて来んのかよ!

すぐ逃げれるように心の準備をして待ってると、やがてこめっこが抱えてきた物は……。

 

「……にゃー……」

 

一体何があったのか、疲れきった様にぐったりした、黒い子猫だった。

 

「……これまた大物を捕まえて来ましたね」

 

「うん。頑張った!最初は抵抗してきたけど、かじったらおとなしくなった」

 

「勝ったのは喜ばしい事ですが、むやみに何でもかじってはいけませんよ?」

 

めぐみんの言葉に素直に頷くこめっこから、彼女は小さな黒猫を受け取った。

その黒猫はめぐみんの手の中に収まると、よほど怖い目に遭ったのか、怯える様にめぐみんの胸元に頭を寄せて丸くなる。

こめっこは、めぐみんのお土産のサンドイッチを両手でわし掴んでひとしきり頬張ると、やがてそれをジッと見てかじりかけのサンドイッチをめぐみんに差し出し。

 

「……食べる?」

 

「私はお腹いっぱいですから、こめっこが全部食べるといいですよ。それより、この毛玉は私が預かっても良いですか?」

 

「うん!」

 

こめっこはそのまま幸せそうに、サンドイッチをかじる作業に没頭した。

 

「んで、何故貴方はここに来たんですか?」

 

そうめぐみんに聞かれ、当初の目的を思い出す。

 

「ああ……よく考えてみたら俺泊まる場所無かったんだよな。でもここの里に宿なんて無いからどっかの家に泊めて貰おうと思って目に入ったのがこの家だって訳」

 

「はあ……だからといってなんでこんなボロ屋に……私はともかく、家は貧乏ですから、家の親が何て言うかわかりませんよ?」

 

「まあ、今日一日だけでいいからさ。お礼と言っちゃなんだが、俺が今持ってる食い物もやるか「さあどうぞ入って下さい!一日とは言わずに何日でも良いですから!」

 

……貧乏一家に食べ物というのはかなり効くらしい。

 

 


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