これが水代の実力だ。
と言うのは冗談で、良い作業用BGMを見つけたので、本日二話目の投稿。
つぅ…………と、私の頬を赤い滴が流れ落ちて行く。
全身に感じる倦怠感。
手に残る生々しい感触。
平気だ、私は、大丈夫…………いくら口に出してみても、体の震えは止まらない。
眼前に映る視界…………世界が赤かった。
赤い。赤い。赤い。
それでいて黒い…………血の色。
「っぁ…………!!!」
こみあげる吐き気。
胃の中身を全て吐き出す。
それでも止まらず、何度も何度も、吐き出した中に混じる胃液のせいで、口の中が酸っぱい。
錆付いた心が軋みを上げる。
凍りついた心が限界を叫ぶ。
それでも。
「っ!!!」
撃つ。
撃つ。撃つ。撃つ。撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
さもなければ、私が殺される。
それが分かってしまうから。
撃って、撃って、撃って。
飛び散る肉片が顔にべとりと付着する。
狂ったように叫ぶ。気が触れたように顔を掻き毟る。
だがそれでも、撃つのは止めない。
もう動かないソレ。
原型すら留めていないソレら。
けれど心の底にこびりついた恐怖がまだ錯覚させる。
ソレらが私に銃を向けてくるその姿を、幻視する。
「ァァァァァァァァァァァ!!」
撃つ。気力が果てるまで。
撃つ。意識が朦朧としても。
撃つ。自身の中が空っぽになっても。
そうして…………意識は途切れた。
目が覚める。
朦朧とする意識。
ふと体を起してみれば、そこはどこかの森の中。
眩しい…………朝だろうか、と寝ぼけた頭で考える。
昨日はたしかに街にいたはずなのに、どうしてまた森の中に?
というか何でこんなところに寝ているのだろうか、私は?
「昨日何してたっ…………っけ?」
瞬間、思い出す。
あやふやだった記憶を。
覚醒する。
同時に全身から力が抜け落ちる。
震えだす体。
ああ、思い出した。
そうだ思い出した。
私は、私は昨日。
………………………………。
………………………………………………。
………………………………………………………………。
地上から見た月が満月になると、月と地上との間に繋がりができる。
その時だけは、地上から月へ連絡を取ることができる。
今日が満月だったのは…………偶然と言って良いのか、それとも。
『………………そう』
月の民を殺した。そう告げた私に、豊姫様が返した一言は素っ気無いものだった。
叫ぶだけは叫び、出すものも全部出した。それでも体の震えが収まった時には、すでに夜だった。
「……………………言い訳はしません。どんな罰も受けます」
と言っても、奴隷階級の玉兎が月の民を殺したのだ…………どう考えても死刑だろう。だが月で殺せば穢れが溢れるので、地上にいる内に
『一応聞くけれど、殺さずに止めることはできなかったのかしら?』
機器から聞こえる豊姫様の言葉に、少し考える。だが答えは変わらない。
「言い訳に聞こえるかもしれませんが、不可能でした。何か薬を使っていたようで、どう見てもまともな精神状態には見えませんでした」
私の能力が効かないほどに…………あれは多分、精神を壊されていた。その上でたった一つの命令だけを上書きされていたのだろう。
即ち、私を殺せ、と。
「お聞きしておきたいのですが、一体何故彼らは私を殺そうとしたのでしょうか?」
『…………………………そうね、それを話しておかなければならないわね』
意外にも、あっさりと豊姫様は話してくれた。
だが、それ以上に意外だったのは、豊姫様の第一声。
『ごめんなさい、レイセン』
それが謝罪だったこと。
どういういことなのか…………意味が分からない。
『あなたは私たちのとばっちりを受けたのよ』
とばっちり…………?
『ことここに至っては仕方ないわ…………本当はあまり知ってほしくなかったのだけれど』
そう前置きして豊姫様が言ったこと、けれどその内容にどこか納得してしまった自分がいる。
要約すれば、月も一枚岩ではないということだ。
現在の月の実質的なリーダーは綿月姉妹様方だが、綿月姉妹様方を快く思わないものもいる。
そう言った人たちから見た私は、綿月姉妹様方の駒の一つに見えるらしい。
どう考えても邪魔だが、今まで捨て置かれたのは、私を排除するリスクのほうが高いから。
だが先のクーデターの件で私の危険性と言ったものが上がった、リスクを覚悟で排除したほうが良いと思われたらしい。
そんな時にちょうど私が地上へ行きたいなどと言い出し…………結果、私は月から逃げ出した、と月の民たちからそう思われているらしい。
そして綿月様のペットと言うことは、知ってはいけないことも知っているのではないか、などとこじつけの理由で私を殺そうとする部隊が送られてきた…………豊姫様の話を要約するとそういうことらしい。
『あなたには何の罪も無いことは分かってる。私たちのせいで…………』
物悲しそうな豊姫様の声。それを聞いた瞬間、自然と口が言葉を紡ぐ。
「楽しかったですよ。豊姫様に拾われてからの日々」
毎日毎日、豊姫様の突飛な行動に付き合わされたり、依姫様に追い回されたり。
ハチャメチャと言うならまさにソレだ。
「だからそんな顔しないでください。私は、感謝してます、豊姫様に拾っていただいて」
顔なんて見えない。けれど簡単に想像は付く。そんな素振り滅多に見せないけれど、二人とも身内に対して誰よりも情の深い方たちだから…………自分たちのせい、なんて言ってる時点でどんな顔してるかなんて想像がつくし…………そんな顔して欲しくない。
「これからどうなるかは分かりませんが…………自分たちのせいだなんて、責めないでください」
それと。
「今まで、ありがとうございました」
『…………っ』
機器の向こうで、豊姫様が息を飲む音が聞こえる。
ぐっ、と何かを堪えるような、そんな雰囲気が伝わってくる。
そうしてしばしの沈黙が続き。
『…………レイセン』
「はい」
『最後の命令よ』
すっ、と豊姫様が軽く息を吸い込み。
『地上で生きなさい…………終わりが来るその時まで、生を諦めることを決して許さないわ』
だから。
『生きて…………必ずまた迎えに行くから』
「……………………」
正直言えば、意外だった。
ここまで言ってくれるなんて。
自分など、豊姫様の長い人生の一時の気まぐれに過ぎないだろうと思っていたから。
けれど、ここまで言ってもらえたのだ…………私も、決意しなければならない。
「…………待ってます、いつまででも、待ってますので」
そう答えると、機器越しにくすり、と豊姫様が笑う声が聞こえる。
『ええ、待ってなさい。それまでは…………あの方のところに逃げればいいわ』
「あの方?」
それはもしや、いつか聞いた。
『いつか話した、あの方よ…………だいたいの目星は付いてるわ』
この世界で最も賢しきお方…………その名は。
『八意様…………あの方は今、始まりの地にいるわ」
ほとんど説明回。
それと急展開だと思った人。
ホントはアメリカ編か放浪編書きながら途中で出そうと思ってたら、幻想郷直行意見が多かったから、端折った。
アメリカルートは消えていった。儚月抄辺りでまた盛り返すかなあ?
どうでもいいけど、感動的シーンてのが書けないなあ。
やはり自分で見てて薄っぺらく感じる。
どうすればよいのだろうか……。