起承転結の起に当たる部分なので「なにこれ?」って思うかもしれないけど、続きを待って欲しい。
「この家の最高権力者が誰であるか、一度知らしめる必要があるわね」
「この家を取り仕切っているのが誰か、教えてあげましょう」
「この家で一番働いているのが誰なのか、それを知って後悔しないでくださいね」
「これが誰のお陰で手に入ったのか、それを考えれば答えは決まってるよ」
そこでは誰もが本気だった。
「誰も譲る気は無いのね…………?」
「当然です」
「愚問ですね」
「当たり前だよ」
ぎらつかせた視線で互いが互いにけん制し、その一瞬を待つ。
「こうなれば」
「実力」
「行使しか」
「ないね」
声を揃え、互いの力を高め…………。
その時は来た。
「これは私のものよ!!」
「いいえ、私のものよ!」
「違います、私のです!」
「私のだよ!」
仲の良かった家族を戦乱に貶めた禁断の兵器。
その名を…………すき焼きと言う。
「牛肉はいただいたわ!!」
「甘い! 姫の牛肉はいただいたわ」
「だがそれも幻影。ホンモノの牛肉は私の手の中に」
「最後の最後で気を緩めたね、鈴仙! 肉はいただくよ!」
かくして、永遠亭で勃発した一つの戦争。
そこに至る経緯を記すには、時間を十時間ほど遡る。
「タケノコが食べたいわね」
と言う朝一番の姫の言葉。
「そう、じゃあうどんげ、てゐ、ちょっと探してきてくれるかしら?」
と言う師匠振り。
と言うわけで朝から竹林を歩き回っている私とてゐ。
「まだちょっと早く無い? タケノコってもうちょっと先だと思うんだけど」
まだ少し雪が残っているくらいだ、タケノコが出るには時期尚早ではないだろうか、そんな自身の疑問にてゐが人差し指をピン、と立てて答える。
「地面に埋まってるタケノコを探すんだよ。そう言うのってえぐみがなくて生でも食べれるくらい美味しいんだよ」
ふむ、だがその地面に埋まったタケノコをどうやって探すのか。それを尋ねる。
「普通はちょっと土が盛り上がったところを探して、そこを掘ってみるのが一番かな?」
「ふむふむ…………ここかな?」
ふと足元の土の盛り上がった部分を手で掻き分けてみる。
「わ、本当にあった」
そこにあったのは、小ぶりながらもたしかにタケノコ。
しかもてゐが言うには、まだ土の下に埋まっているタケノコは美味しいらしい。
「おー、もう見つけるとか、幸先いいね、鈴仙」
「そうなの? ならてゐのお陰かもね」
何気に人を幸運にする程度の能力と言う、本人の性格とは真逆のような能力を持っているてゐの周囲にいると、運が舞い込んでくることが時々ある。
まあてゐ自身が起こすトラブルで差し引きゼロの場合も多いのだが。
「この調子でどんどん探しましょうか」
と、まあ気合を入れて探し始めておよそ三十分。
「もういいわね」
「だねえ、籠いっぱい取れたしね」
持ってきた籠一杯に詰まったタケノコを見てほくほく顔で永遠亭へと戻る私とてゐ。
地中にあるなら、ソナーみたいなことできないかな? と思った私の案により、てゐについていき運よくタケノコのありそうな場所へと行き、そこで私の能力で地表近くを音波は通りが悪かったので、電磁波を使って調べ、タケノコの場所を特定する。非常に感覚的故に説明しにくいが、どこにどんな形のものがあるのか、と言うのがイメージで頭の中に入ってきてそのお陰で簡単にタケノコを掘り当てることができた。
その結果がこれである。
「今夜はタケノコご飯でも作ろうかしら」
「姫なら刺身が好物だよ」
「そうなの?」
そんな他愛無い話をしながら、永遠亭へと歩いて帰っていた…………その時。
ザッ、ザッ…………と言う砂を掻くような音。
「何の音?」
「…………さあ?」
あまり脇道に入るとすぐに迷うので方向と場所をしっかりと注意しながら、ゆっくりと音の発生源へと歩いていく。
竹ばかりで草むらも無いのは良かったのか悪かったのかは分からないが、そのお陰で音の主がすぐに見えた。
「…………あれって、イノシシ?」
「だねぇ…………」
多分またてゐが作ったのだろう落とし穴にかかっていたのは一頭の小柄なイノシシ。
もがけどもがけど穴から出られないようで、穴の中で足掻いている。
「どうする?」
「持って帰る?」
「でも持って帰るにも…………ねえ」
背中にはタケノコが詰まった籠。小柄とは言えイノシシ。結構な大きさがある。
抱えて飛ぶには少しばかり重過ぎるだろう。
そんな風に私たちが罠にかかった獲物の処遇に困っていると。
「あ、あの」
背後からかけられた声に振り返ると、そこにいたのは気の弱そうな人間の男性。
「誰?」
率直に尋ねたてゐの疑問に男性がぺこぺこと頭を下げながら答える。
「俺は人里の外れで暮らしてる猟師なんですけど…………そのイノシシ、いただけませんか?」
「どうするてゐ?」
「鈴仙に任せるよ」
てゐの言葉に少し考え、男性に向かって頷く。
「別に構わないけど、良くここまでこれたわね…………道中に妖怪も出るでしょうに」
「えっと、日中は割りと妖怪も動かないし、猟のために竹林にはちょくちょく入っているので」
そう、と答えイノシシを形成した弾丸で撃ちぬく。
頭部を一撃で貫かれたイノシシはその動きを止め、倒れ伏す。
「じゃ、後は好きにしなさい」
「え、あ、ちょ、ちょっと待ってください」
すでに姿を消したてゐを追って、私も帰ろうとした時、男性に呼び止められる。
「えっと? まだ何か?」
「あ、あのこれ…………大したものでは無いのですが」
そう言って渡されたのは木彫りの仏像。
本当に対したものじゃない。だいたい私は無宗教だ。
ただまあ感謝の気持ち、と言う意味では受け取っておくべきだろうと思い。
「ありがとうございます」
そう言い残してその場を去った。
「鈴仙、ソレ何?」
「さあ…………ってどこから出てきたのよ、てゐ」
永遠亭への帰り道。いつの間にか現れたてゐ。
私は手の中で仏像を弄びながら歩く。
「と言うか、これ女性像?」
そんなてゐの言葉に私は笑う。
「そんな、だって仏像だよ? 女性なわけ…………」
けれど良く見るとたしかに胸の辺りに膨らみがあったり、体全体も丸みを帯びていて、女性像に見えなくも無い。
「これ仏像じゃないの?」
「さあ?」
謎過ぎる像を片手に永遠亭へと戻る。
像は邪魔だったので、スカートのポケットにでも入れておく。半分頭を出しているがまあ落ちなければ問題ない。
「戻りました…………って師匠?」
「戻ったよー」
玄関を開けると、そこにいた師匠と目が合う。
手に手から下げるような籠を持った師匠は、おかえり、と返すと籠を差し出してくる。
「悪いのだけれどうどんげ、ちょっとお使いを頼まれてくれないかしら?」
「あ、はい了解です」
そうして師匠の言うことをまとめると、里で買い物をしてくればいいらしい。
お使いのメモと籠を片手に玄関を出て行き、さきほどまで歩いてきた道を逆戻りする。
「えっと、薬の材料みたいね…………だいたいは分かるわね」
師匠に詰め込まれた知識を思い起こしながら書かれたものを一つ一つ思い浮かべる。
そうしているうちに竹林を抜け、人里に辿り着く。
「さて…………ついでに夕飯の買い物でもしますか」
一人ごち、人のごった返した里の通りへと向かった。
正直眠い。そのせいで、自分が何かいてるのかおぼつかない。
明日修正する可能性も…………。
と言うわけで、リクエスト募集したら送ってくれた人がいたので、書いてたんだけど…………書いてる内に全部混ざって一話になっちゃった。
後二話、中編と後編で完結予定。