感覚が繋がる。
五感が生まれる。
全身の神経が繋がったような錯覚すら覚え。
閉じられたマブタを開く。
瞬間、自身はそこに生まれた。
「おぎゃあ…………なーんて」
戯言を呟き、口元を歪ませる。
開かれた視界から差し込む光の眩さに数度瞬きし、すぐに順応した瞳が視界に入る光量を抑え、ようやく視界がクリアになる。
「は…………?」
そこは一面の荒野だった。
ぺんぺん草一本生えない不毛の大地とでも言うべきか。
でこぼことした岩場、暗い空、瞬く星々。
そして空の彼方。遠く遠くに見える青い星。
「なるほど…………
知識でなく、本能が理解した。
そして、それを理解した瞬間。
「がぁぁぁぁ!! ああああああぁぁぁぁぁ!!!」
焼け付くような痛みが自身の両目を襲う。
咄嗟に両手で目を抑え、その場で蹲る。
イタイイタイイタイイタイイタイ。
どうにもならない目の奥の痛みに、脳が焼き切れそうな思いすらする。
このまま目玉を刳り抜いてしまえたら楽だろうに…………そんな馬鹿な思考が一瞬脳裏を過ぎり。
十数秒ほどで痛みが治まる。
恐る恐ると目をゆっくりと開き…………驚嘆する。
歪んでいる。
世界が、視界が、目に見える全てが。
輪郭が歪んでいる。色は滲み、あらゆるものの境界線が混じる。
「っ!!」
咄嗟に目を閉じる。
黒に包まれる視界に、けれど先ほどの光景が見えないためほっとしてしまう。
何だ今のは!? そんな内心の呟き。
動揺する心中を鎮めようとするが、あまりもおかしな光景に胸の動悸は治まらない。
もう一度心を静めようと深く息を吸い、吐く。
何度か繰り返す内、少しだが冷静さが戻ってくる。
そんな時、ふと脳裏に浮かぶものがある。
狂気を操る程度の能力。
張り付いたように脳裏から離れないその言葉を心中で反芻し…………理解する。
今度は本能などと言う生易しいものではない。
心が、頭が、体が…………魂が知っている。
それが自身の存在だと、自身の全てが叫んでいる。
気づいてしまえば、あまりにも当たり前にそれは自身の中に馴染み、解けていく。
目を開く。
視界は…………正常だった。
「………………これで良い」
一つ呟き、空を見上げる。
さきほどとはまるで別物の空。
けれど全く同じ空。
なるほど、これは興味深い。
「ああ…………ところで」
さきほどから実はずっと疑問だったのだが。
「私は誰だ?」
何を持って
我思うゆえに我あり…………素直に受け取るならば私が
などと言っても、偉大なる哲学者様の残した言葉の意味は全く違うのだが。
「なんて…………戯言かな」
全く持って。言い訳のしようも無いくらいに。
端的に言うなら。
私には前世の記憶と言うものがある。
その前世の私を唯一の私とするのか?
けれど前世、と言い切ったように。以前の私が私であると言う意識は薄い。
だというのに前世の私を今の私とする、とはおかしな話ではないか。
だが完全に無関係であるか? と聞かれるとまた話は違う。
今の私は、以前の私の影響を多分に受けた
だとするなら、前世など関係ない、と割り切るのもまた何か違う。
そう、例えるなら、前世の私を見て今の私が育った…………そんな感じだろうか?
だとするなら、私とは一体どこにあるのだろうか?
「うーん、なんて哲学」
フィロソフィーと言う言葉の響きが良い。
なんだかちょっぴり頭が良くなった気分。
と言うことで。
「私は私と言うことで決定」
一体何がどうなってそうなったのか。
さてはて、自分でも分からないのだから考える必要も無い。
顔にかかる髪をはらりと手で払い、不毛な月の大地を歩く。
歩いた…………はずだった。
一歩踏み出し、ふと気づく。
「私って一体何?」
前世の私は人間だった気がする。
特筆すべき人生でもなかったので割愛。けど私の人生はオンリーワン。えっへん。
私以外が私の人生を歩むことはできないのだから、私の人生がオンリーワンであることは明白である。
明白って言葉が格好良い。あとオンリーワンって言葉を使うとなんだか特別度指数が上がる気がする。
いいよね、特別度指数。でも特別度指数って何さ?
まあそんな思いつきワードは置いといて…………でもなんだか素敵なのでメモメモ。
前世の私は人間。でも今の私は人間ではないみたい。
そもそもなんで月にいるんだろう?
え? なんで人間じゃないって分かるかって?
勘。
いやいや、嘘々。
簡単だよ、とっても簡単。
だって、頭から兎の耳が垂れてるから。
そうそう、兎さん。ロップイヤー。可愛いよねロップイヤー。ところでロップイヤーってどんな姿してるの? いやいや、可愛いってのはつまりあれだよ、ロップイヤーって言葉からして可愛いよね、って話であって、私は見たこと無いよ。それと普通の耳もあるよ、ちゃんと。
あと兎ちゃん尻尾ある。兎さーん。
もこもこだけどちょっと短い。っていうか、なんで上手い具合にスカートに尻尾出すところがあるんだろう?
ていうか、何故に私はブレザー?
ぐるぐる。思考中の擬音語。
ぐるぐるぐるぐる。昔グル○ルって漫画あったよね。ガン○ンで。
ぴこーん。電球点いた。いや、思いついた……じゃなかった、思い出した? 理解した?
まあ何でもいいや。
玉兎。私はそう呼ばれるものらしい。不思議と思い出せた。
玉兎って言うのは、なんと。月の兎らしい。
本当にいたんだね、月に兎って。
餅ついたりするのかな?
まあどうでもいいけど。
つまり私は兎さん。
「にゃー」
それは猫さん。
兎ってどんな鳴き声なんだろう?
その時、ふと何かが聞こえる。
「……………………ん?」
…………ァ。
……………………ェ。
声。そう、声だ。
………………♪
………………ッ!!
楽しそうな声と、怒るような声。
それが、近づいてくる。
さて…………どうしようか?
少し考え。
「~~~♪」
鼻歌交じりに歩き出す。
そうして彼女たちに出会うのは…………その後の話。
内容がカオスな理由? 作者が徹夜だからに決まってる。