艦これ世界で平和に暮らしたい   作:黒蒼穹

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彼と彼女

 

 

「よっこいしょ!」

 

 ゴミを纏めた段ボールを焼却炉まで持って行き一息つく。正直、あの部屋を見た時は思考が停止したが隣の潮の事を考えていたら自然と体が動いていた。結果的には潮の動揺も拭えた様であった。

 さて、あれこれ考える前に今日の寝床を確保しないとなぁ……。聞いていなかったが飯とかどうするんだろう。

 

 

 

 医務室に戻ると不足しているものが無いか確認していた潮が棚のチェックを終えた様だ。

 

「確認作業の方は終わりました。そろそろ食事にしますか?」

 

 二人とも作業が一段落したところで潮から提案がありそれに肯定する。先ほどまで疑問に感じていた食事に関して聞いてみると、食堂で食べるか持ってくるかが選べるようだ。

 自分たちは他所から来ているため食堂で食べない方がいいのではないだろうか……。しかしここがどんな所か聞くチャンスでもある。今日は取り敢えず食堂の方に行って決めるか。

 その事を潮に伝え食堂に向かう。場所は潮が確認済みという事らしい、よくできた娘で関心した。

 

 

 潮についていき食堂に到着した。扉を開けると時間がずれているせいか他の艦娘の姿はない。食事をもらいに行こうとするが先に潮が厨房の方に向かっていた。

 

「厨房の方にも誰もいないようですが、2人分の食事に私たちの名前が書いてあるので持ってきました」

「持って来てもらって、ありがとうございます」

 

 食器を対面に置かれ、潮の正面の席に着く。斜めとか距離を少し置いた方が楽なのだが……。彼女が置いたのだから気にしないで食べるか。今日はカレーの様で味は普通であった。食事中の会話は無いがお互い気まずい空気にならなかった。

 

 

 

 日が完全に沈む。掃除は完了し、お茶を飲みながら今日渡された資料に二人で目を通す。

 自分の中で小さな問題が発生した。自分と潮の寝る場所をどうするかというものだ。潮は艦娘だが少女である。そんな少女が男と同じ部屋で寝るというのは自分の中で罪悪感が暴れまわりそうになるため、どのようにするか悩んでいた。

 問題点としてここの鎮守府の医務室は一部屋しかない。皇提督の所は医務室の奥に部屋があるのだがここにはない。部屋を分けようにも分けられない。加えて自分たちに許された場所はこの部屋のみだ。

 一人で悩んでいても何も起こせないため、潮本人に聞いてみよう。

 

「潮さん、寝る場所について何ですが……」

「それでしたら私はソファで寝ますので、ベットを使っていただいていいですよ」

 

 同じ部屋で寝るのは解決した。自己の罪悪感は後で潮に償えばいいとするとして、潮の提案を飲むわけにはいかない。

 

「いや、自分がソファで寝よう。別に気を使っているわけではなく、仕事場ではこっちの方が寝慣れているからというのがあるだけなんですが」

 

 半分は本当で半分は嘘。見え見えの言い訳に潮は仕方ありませんと言い、自分がソファ潮がベットに寝ることになった。

 その話題の後は、また無言で資料に目を通しそれが終わったらお互いそれぞれの床についた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 暗く爆発の音だけが辺りに轟いている。そんな中を必死に声を上げている仲間の声が聞こえる。

 

「………ッ!!」

 

 声の方に視線を向けると命令を伝えようとしているが周囲の轟音でかき消される。それでも口の動きから何とか言葉の意味を探ろうとする。

 

 しかし、こちら側を向いている――――敵に背を向けた彼女の後ろに砲弾が降り注いでいる。死が迫っていることに気付かず、爆発と水飛沫にに巻き込まれる。目の前で沈む仲間を助けには行けず、他の仲間に引っ張られ撤退する。私には聞こえていなかったが、撤退の命令が出た様だ。

 

 仲間に引きずられながら私は砲弾が降り注ぐ海を、旗艦である彼女が沈んだ場所を眺め続けた。

 

 

 

 

 

 

 ――――夢。

 体を起こし辺りを見る。離れたソファから整った呼吸音が聞こえる。昨日着いた鎮守府の医務室。安心した私は嫌な汗を何とかするため着替えを取り医務室の隣のシャワー室に向かう。何故隣にあるかは分からないが白猫さんはどこか心当たりがあるような反応をしていた。その後シャワーがすぐ浴びれて良いと言っていた。確かに広い鎮守府で自分の部屋から体を清めるところが近いというのは良いものであるな、とシャワーを浴びながら思う。

 汗を流し終え医務室に戻ろうと扉を開けると崎谷提督が丁度扉を開けようとしていた。沈黙が続き失礼しますと急いで医務室へ向かう。あのシャワー室は男性用であったのか、自分がやってしまったのか、色々考えが巡り医務室に入る。

 

「何かありましたか?」

 

 彼は私に気遣う様に尋ねた。

 

「いえ、問題ありません。少しシャワーを浴びてきたので……」

 

 彼の優しさを突き放すように言葉が出てしまう。彼はそうですかと言い立ち上がる。私が着替えをしまい椅子に座ると彼はマグカップを差し出した。

 

「今日も頑張りましょう」

 

 カップを受け取り一口飲む。――――甘い。さっきまでの不安を溶かしてくれる様な安心する温かさ。彼の淹れてくれたココアは私が好きな甘さだった。

 

 

 


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