今日も今日とてつるはしを振るう作業を繰り返す。段々とコツを掴み始めたため体の痛みはない。初めて作業した次の日の筋肉痛は想像を絶する痛みが体を襲った。あれはもう経験したくはないな、と心に誓った。
そんなこんなで初めての仕事から1週間経過した。皇提督とは他愛のない会話をするため緊張もなく行えている。肉体労働の方も周りの妖精さんから教えてもらいながら順調に仕事が出来ている。
さてと、仕事も終わりシャワーでも浴びようかと思い自室に向かう。自室に入るためにもまずは医務室に入らなくてはならないのは、正直面倒だと最近感じ始めた。特に困ってもいないから暫くすれば慣れるだろうと思い、医務室の扉を開く。
「……お疲れさまです。書類が幾つか届いていたので纏めておきました……。それでは失礼します」
「今日もありがとね」
綾波型 10番艦 潮
その名前を受け継いだ艦娘が今医務室で俺の仕事の補助をしてもらっているのだ。1週間前に皇提督に呼ばれて行った夜に彼女を俺の補佐としてつけることとなったのだ。診察の時にも色々聞いてみたがその話をすると誤魔化して別の話題にするため本当の所は不明だった。
ある日、ただ彼女の事は彼女自身から話すまで待っていてくれとだけ言われてしまい、それ以来この話題は話していない。
そんなこんなで彼女は俺が仕事から帰るまでの間の医務室で書類の整理や部屋の掃除なんかをやってもらっている。普段医務室に居ない方が問題なのはわかっているので申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
部屋から出る彼女を見送ると纏められた書類を軽く目を通し、シャワーを浴びに自室に向かう。シャワーを浴び終わり書類を処理するために今日の診察の情報や検査の結果を書き込んでいく。しかし彼女が書類を纏めておいてくれるため仕事が一段と早く終わってしまった。軽く伸びをして電気を消し、自室に向かう。明日も早いし今日は休むか……と考え眠りについた。
☆☆☆☆☆
書類を片付け休もうかと立とうとするが今朝、秘書艦から手紙が届いていると言われたことを思い出し再び席に着き手紙を手に取る。
「差出人は……。ここの鎮守府は確か、それよりも中身を読むか」
手紙を取り出し読み始める。すべて読み終え、思わず目頭を押さえる。どこから彼の情報が……、いやそれよりも相手は彼に対して過度の期待をしているようだな。彼は異邦人ではない一般人だ。彼を見ていて演技ではないのだと近くで見ていて分かった。万が一のために潮を補佐に任せて様子を見ているが、それらしき物や様子は見られていないとの事だ。となるとこの手紙の誘いはどうするか……。
「私は彼にが行くことで疑いが晴れると考えています」
不意に声が聞こえ隣を見ると赤城が手紙を読んだのか近くに居た。
「異邦人であるために他の異邦人から狙われる可能性があるのなら彼が行くことでその疑いが晴れて安全が保障されると、そう言いたいのか」
はい、と真っすぐとこちらを見つめながら答える赤城。確かにこの鎮守府はそこまで問題は起こしていない。であるならば早めに彼の安全を保障された方がいいだろう。
「分かった。彼には潮と一緒に行ってもらおう」
「では手続きはこちらで行っておきます」
「返事を書いたらよろしく頼む」
彼を信頼している事は嘘ではないが上に立つ人間として彼に万が一があると考えると……。今回の一件で彼の信頼が得られるのならば、彼には頑張ってもらわないとな。手紙の返事を書きながら彼になんと説明するかを考えていた。
☆☆☆☆☆
翌朝、いつも通りに診察に向かうと空気が変わっていることに気付く。皇提督と潮が居り、部屋に入ると皇提督が待っていたよと声をかけてくれる。けれどその声はいつもよりも真剣なものだった。
「揃ったね、それじゃあ始めるよ。潮、白猫君、2人には1か月の間別の鎮守府に行ってきてほしい」
急な出来事のため、驚いて荷物を落としてしまう。
「そんなに驚かなくてもクビにするわけではないから安心してくれ。出張だと思ってくれて構わない。衣食住についてはあちらで用意してくれているから安心してくれ。早速で悪いが明日には出発してくれ、白猫君は準備に取り掛かってくれ。潮はこの後話があるから残ってくれ。以上だ」
失礼しますと扉を出て医務室に向かう。色々な感情が湧き上がるが抑え込み準備に取り掛かる。仕事道具さえそろっていれば後は着替え程度だろうか。書類も纏めておかないといけないか、と急な予定に一つ一つ対処していき明日の準備に取り掛かる。途中から潮が来てくれたため書類の方は任せ道具の準備を行った。
そこで一つ思った。俺、潮といまだに打ち解けてすらいないのにいきなり二人で出張とか……。今考えても仕方ない、相手に不快に思われないように必要最低限の対応していれば問題ないはずだ。
問題は解決したことにし目の前の準備を行う。別の鎮守府はどんな所なのだろうかと考えながら作業を行った。