艦これ世界で平和に暮らしたい   作:黒蒼穹

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ハジマリ

 

 

 

 

 さて、俺は今海の上に居る。正確には海を滑走しているところだ。確かに海の上を自由に走ることが出来れば楽しいのだろうな。どうして第三者的な感想なのかって?

 

 だって、女の子に抱えられてる状態なんだから……。

 

「大丈夫です、敵の攻撃は止んできています。直に鎮守府にも到着しますのでもう少しの辛抱です」

 

 どうしてこんな状態になってしまっているのか、俺は記憶を振り返る。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「先生……、私は治るんでしょうか?」

「安心してください、風邪です。お薬を出すのできちんと飲んで休まれれば治りますから」

 

 薬の説明をし診察が終了すると、お礼を言い部屋を出る老婆にお大事にと声かけ背を見送る。本日最後の患者の診察が終わり一伸びする。明日は久しぶりの休みのため、更衣室に向かいながら休日の予定を組む。

 ぼーっと帰路に着くと、気付けば夜になっていた。明日は海にでも行って気分転換でもしようかと考えながら意識は闇に沈んでいった。

 

 翌朝、海に行くために準備をし車に乗り込む。エンジンをかけ海を目指し走り始める。

 今回は都心近くの海ではなく、少し足を延ばした遠くの海を目指す。海は地元にもあったためか、心が安らぐ場所となっている。やっぱり海は綺麗で静かに波の音が聞こえるところが一番だからな。少し遠かろうが車であれば向かえるしな。

 

 海に着き車を降りる。海の風、潮の香、砂の感触。久し振りに感じる感覚に心が安らぎながらも体は興奮している。波の音を聞きながら砂浜を歩く。何も考えず一歩また一歩と歩く。しばらく歩くと腰かけに丁度いい流木があり、そこに向かい腰を下す。目を瞑り海を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………! ……!」

 

 何分経っただろうか、周りが少し騒がしくなってきた。他に海に来た人がいるのかと思い瞑った目を開く。

 

 するとそこは先ほどまで居た海ではなかった。

 遠くの海上で黒い船と何かが戦っており砲弾などが飛び交っている。先ほどまで、いや俺の居た国では考えられない平和はそこには無かったのだからそこは先程までいた海ではなかった。

 

 今の所、結構な距離があるため流れ弾の心配はないが何が起こってもおかしくないこの状況を考えるにここに居るのは愚策であろう。だが周りを確認するに場所自体別の所の様で下手に動くと元の場所に帰れない可能性もある……。

 考えがまとまらないが体を動かす事で何とかなると感じ、海と反対の方向に走る。しかし――――

 

「……やばッ!」

 

 走った直後に爆風が俺を襲う。爆風で飛ばされ体が宙を舞い何とか受け身を取る。直撃でないこと下が砂浜であったためか怪我は軽く済んだ。海上に目を向けると黒い船達の戦いはこちらに近づいていた。

 

(思った以上にやばい状況らしいな……。夢なら先の痛みで目が覚めるはずだが。どうしてここに居るかは今はどうでもいい、まずはこの状況を切り抜けないと)

 

 そう思考をした矢先にもう一発の弾がこちらに飛んでくるのを見つけ予測着弾点から離れる。しかし空を見上げるとそこには絶望が広がっていた。黒い物体がこちらに向かって飛んできており、さらに砲弾が数発こちらに向け発射されていた。

 だが、俺は足を止めずに走り続ける。それが無駄な足掻きになろうと生き残る確率が0でないなら諦めないためだ。

 

 背後に着弾したのか爆音と共に風が吹く、段々とその音はこちらに近づいてきておりそれと共に風も強くなる。体が飛ばされそうになるが意地で粘りながら足を動かす。足が痛くなり息も上がり始め、そろそろダメかと考えていると透き通る声がした。

 

「こちらまで頑張ってください! あと少しです!」

 

 声のした方を向くとそこには海に浮かぶ女性がいた。その声のお蔭か限界に近かった足が自然と女性の方に向かう。今思えば海に女の人が浮いてる事に疑問を持たずに向かったのに今更ながらに自分に少しあきれる。

 

 希望の風が吹き必死にその風に乗るために俺は体を動かす。そして風に手を伸ばし手を取ってもらうとそのまま俺は海に出た。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 さて、そんな振り返りを行い俺の今後に対して少し心配をする。助けられたとはいえ俺はこの後は助からない可能性も考えられる。

 

「鎮守府が見えてきました。もう少しだけこの状態でお願いします」

 

 どうやら俺も覚悟を決めて事に当たる必要があるな。相手が人なら話せば何とかなるはずだ、人でないなら諦めて切腹でもするかな。

 

 

 

 

 

「こちらが提督の居る部屋になります」

 

 

 さっきぶりの陸の感覚に有難みを少しだけ感じていると、こちらですと促され付いていく。ここでは下手に動かず黙って言う事を聞いてれば悪いことにはならないだろ。と促された場所がここのトップとはな……。さてと人が出るか、人外がでるか…………。

 扉が開きそこには白い制服に包まれた青年がどっと構え仕事をこなしていた。その姿は若いにも関わらず真剣に取り組んでいた。どうやら話は出来そうな人で少し安心した。

 

「提督、報告した人物をお連れしました」

「ご苦労様。さて、ようこそ我が鎮守府へ歓迎します。取り敢えず立ち話もなんですから座りましょうか」

 

 お言葉に甘え席に着く。俺を連れてきた彼女は提督の後ろに立ち、提督は俺の正面に座る。

 

「まずは自己紹介しましょうか。私はここの鎮守府で提督をやっています、皇(すめらぎ)といいます」

「白猫(はくびょう)と言います。まずは助けていただきありがとうございます」

「白猫さんですか。単刀直入に聞きます、あの場所で何をしていたんですか? あそこは危険区域で一般人は近づけないはずですが……」

 

 ふむ、どこから話していいものか。信じてもらえるか分からんが下手に嘘をついてもばれるだけだしな。正直に今まで起こった経緯を皇提督に話す。彼は真剣にこちらの嘘のような話を聞いてくれた。

 

「成程。信じられない話ですね……。では白猫さん、艦娘という単語を聞いた事はありますか?」

「カンムスですか? 初めて聞きましたね」

 

 初めて聞いた単語に首を傾けると、相手側二人は驚愕の表情をしていた。え、そこまで驚かれることなのか……。

 

「その反応嘘ではないようですね。貴方の話信じてみましょう。では今この世界での現状をお話しましょう」

 

 長い話のため纏めると、突如現れた深海棲艦により人類の海路は占領された。人類のピンチに艦娘が突如現れ徐々に海路は取り戻すことが出来ているという。しかし以前深海棲艦と艦娘の戦いに終わりは見え無いとの事。因みに俺を助けてくれた皇さんの隣に居る彼女が艦娘らしい。

 そしてここは僻地に近い所らしくあまり前線からは遠い場所らしい。俺を助けた場所は現在も敵地に近く安全が確保されていなかったらしい。まぁ助かって良かったな俺。

 

「さて白猫さんの今後についてですが……。こちらの考えとしてはここに居てほしいですね」

「そうですね安全を確保できているこちらなら、自分がお願いしたいくらいですよ」

「そこでですね白猫さんに聞きたいことが一つありまして。この世界に来る前は何か職に就いていましたか?」

「一応は医者をしていました。田舎の病院ですけどね」

「それは良かった。実はうちの鎮守府には医者がいなかったもので、是非ともお願いしたいのですが」

「別にタダでお世話になろうとは考えていなかったので構わないですけど、艦娘とか治せるか分からないんですが」

「大丈夫です。彼女たちを診てもらう訳ではないので。私の健康管理の面を見ていただくだけでいいので」

「はぁ……、問題は無いと思います。これからよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします。今日の所は部屋の方へ案内しますのでゆっくりとお休みください」

 

 艦娘の案内で皇提督の部屋を出て目的の所まで彼女に付いていく。僻地の方だとは言っていたが結構広い場所なんだなと周囲を見ながら考えていると前の彼女が立ち止まった。どうやら目的地に着いたようだ。

 

「こちらが白猫さんのお部屋になります。中へどうぞ」

 

 部屋の中に入ると机とベット、そして薬品などが並ぶ棚があった。これは医務室か?

 

「こちらは医務室になっており奥の扉が白猫さんの部屋となります」

「分かりました、案内ありがとうございました。後は大丈夫ですので戻ってもらって大丈夫ですよ」

「そうですか。それではこれで失礼します」

 

 綺麗な一例をして部屋を出る彼女を見送り自室と言われた部屋の扉を開く。中はベットと机、本棚があり海が一望できる窓がある俺好みの部屋だった。窓の方に歩みを進め窓を開ける。

 潮の香りが部屋の中を駆け抜ける感覚はどこか懐かしさが感じられた。さてとこれから俺はどうなっていくのやらと脳内で呟きながら海を見つめる。辺りは暗くなってきており綺麗な夕焼けが俺の目を焼くように輝いている。

 

「テレビとかゲームとかってここあるのかな。普段暇だろうし暇つぶしが欲しいものだな……。」

 

 誰に届くわけでもない言葉を話しベットに横になる。目が覚めたら元の世界に戻っていたら少しもったいないような気がするな、と考えていると意識が段々と遠のいていった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「提督、本当に彼は問題ないのでしょうか?」

 

 その言葉に執務中であった顔を上げる皇。

 

「恐らく彼は近頃有名になっている異邦人。だから心配なのだろう、赤城?」

「私が助けたとはいえ異邦人であれば問題を起こす恐れだって……」

「確かに異邦人は優れた指揮能力をもつ反面、セクハラ行為や命令無視などで問題となっているのは私も知っている。しかし私も馬鹿ではない、彼と話して分かったよ」

「彼は問題ない、という事ですか?」

「異邦人というのは艦娘の事は勿論の事、深海棲艦についてやこの世界の今の状況を詳しく知っているんだ。だが彼は――――」

「その事すら知らなかった。しかし演技という可能性も考えられます」

「その可能性はあるかも知れないと考えているが現状では分からない。兎に角今は様子を見ていこう」

「了解しました。ではそのように」

「赤城、いつもありがとな」

 

 失礼します、と部屋を出る彼女を確認し仕事に戻る。みんなの心配は分からなくもないが、私は彼を信じてみようと思う。そんな彼の思いは誰にも届くことなく風のように消えた。

 

 

 


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