咲〈オロチ〉編   作:Mt.モロー

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長くなりそうなのでいくつかに分けます。今回は地区予選のダイジェストです。次話投稿後にまたまとめようと思っています。



第十一話 国麻にて:地区予選ダイジェスト

 国民麻雀大会(以下国麻)が九月の最終週より開催された。麻雀という競技の特性上、全国を八地区に分割し、その代表を地区ブロック大会で選出することになる。よって、十月に福井県で行われる国麻本大会にはジュニアAもジュニアBも八都道府県しか進出できない。

 国麻は、まだまだ歴史が浅く(本大会で9回目)、試行錯誤(しこうさくご)しながらの大会運営であり、競技方式も毎年変化していた。昨年までは総当たり戦で獲得ポイントによって順位を決めていたが、本年度は熾烈(しれつ)を極めたインターハイの結果を受けて、敗者復活を重視したトーナメントに変更された。これによりとびぬけた実力校でも、運次第では敗退する可能性がある。これには、実力主義を重視するニューオーダー派(まだ正式には発足されていない)と対立する麻雀評議会(実質三尋木咏個人とも言えた)の圧力があったのでないかと噂されたが、総当たり戦の煩雑(はんざつ)さに辟易(へきえき)していた開催地側に好感され、ルール変更が容認された。

 とはいえ、本大会は、有力選手の参加辞退が相次ぎ、逆の意味で混沌化していた。

 

 ※出場辞退選手(抜粋)

  関東地区

   宮永照、辻垣内智葉

  東海地区

   対木もこ

  北信越地区

   宮永咲

  近畿地区

   荒川憩

  九州地区

   白水哩

   神代小蒔

   石刀霞

   薄墨初美

   石刀明星

 

 

 ※地区ブロック試合結果

 

 1.北海道、東北地区

 

 インターハイ個人戦7位の姉帯豊音と12位の小瀬川白望が所属する岩手県が圧倒的な強さを見せつけジュニアAの本大会出場を決めた。インターハイ団体戦の宮守女子高校がほぼそのままスライドしただけとも言える結束力に、対抗馬とされた北海道チームも歯が立たなかった(ジュニアBは北海道が選出された)。 

 

 ジュニアA代表:岩手県

 ジュニアB代表:北海道

 

 以下、岩手県代表 臼沢塞選手へのインタビュー。

 

 ――国麻への意気込みをお願いします。

「そうですね……私たちは優勝することしか考えていません」

 ――本大会は“絶対王者”宮永照選手が出場しませんので、おおいにチャンスがあると思います。

「たとえ宮永選手が出場していたとしても目標は変わりません。私たちは総合力で勝負しますから」

 ――総合力という点では、長野県や大阪府も(あなど)れませんね?

「うまく言えませんが……総合力とは個の力の足し算だけではないと思います」

 ――と、言いますと?

「私たちは優勝するしかありません。その思いが、総合力を何倍にもしてくれる。そう考えています」

 

 

 2.関東地区

 

 “絶対王者”宮永照の不在と、インターハイ個人戦8位の辻垣内智葉の出場辞退により、関東地区本命の東京都にも赤信号が灯っていた。選手層の厚い神奈川県や霜崎絃(しもざきいと)がいる千葉県押されつつも、先鋒渋谷尭深(しぶやたかみ)という奇策により東京都が勝ち抜けた。宮永照が不在なので各県は先鋒にポイントゲッターを集めていたが、決勝戦で渋谷尭深がラス親になったことで勝負は決した。ジュニアBも実力が伯仲していたが、こちらも超新星 大星淡を擁する東京が頭一つリードして本戦進出を決めた。

 

 ジュニアA代表:東京都

 ジュニアB代表:東京都

 

 以下、東京都代表 大星淡選手へのインタビュー。

 

 ――大星選手の宿敵である宮永選手が不参加を決めておりますが?

「私の敵はサキだけじゃないですから。奈良の高鴨選手にも借りを返さなければなりませんし……」

 ――そ、それでは大星選手は近畿大会の結果はご存じない?

「???」

 ――近畿ブロックのジュニアBで奈良県は敗退しました。

「マジで! どこに?」

 ――ジュニアA、Bとも大阪が代表となりました。

「シズノはだれに負けたの?」

 ――だれにというわけではありませんが、高鴨選手お得意の後半のスパートを二条選手に止められました。

「にじょう……だれ?」

 ――……千里山の二条泉選手と言ったほうが分かりやすいでしょうか?

「よくわかんないけど、にじょういずみだけは100回倒す」

 ――……。

 

 

3.北信越地区

 

 全国の都道府県より“魔境”と呼ばれ恐れられた長野県が圧倒的な強さを見せつけ、ジュニアA、ジュニアBとも全勝で本戦に進出した。インターハイ個人戦トップ4の福路美穂子を先鋒にして、大将の昨年度インターハイMVPの天江衣までまったく隙のない編成で他県につけ入る隙を与えなかった。ジュニアBもインターハイ団体戦チャンピオンの清澄高校メンバーを中心に他を寄せ付けない強さを見せた。これで、もしも“魔王”宮永咲が出場していたらどうなっていたか? 今後3年間は長野県の天下は揺るがないのではないか? 関係者たちは畏怖の念を込めて、そう噂した。

 

 ジュニアA代表:長野県

 ジュニアB代表:長野県

 

 以下、長野県代表 龍門渕透華選手へのインタビュー。

 

 ――見事な闘いでした。

「ありがとうございます」

 ――大将戦までもつれ込んだのはわずか3試合でした。ほかのすべては龍門渕選手で決着しましたね。

「世間一般では長野の優勝が堅いと言われているようですが、そんなに甘くはないと思っています。ですから、こちらといたしましても、それなりの対策を用いなければなりません」

 ――インターハイはライバルである清澄高校に主役の座を奪われてしまいました。

「一時的にお貸ししただけですわ。この大会は、私たち龍門渕が主役となります」

 ――昨年のインターハイのような快進撃を期待してよろしいでしょうか?

「当然ですわ! (わたくし)と衣が出るのですから、決して皆様のご期待は裏切りません」

 

 

4.東海地区

 

 インターハイを辞退した東海チャンピオン対木もこが、宮永咲ら傑出した一年生たちと闘ったらどうなるのか? それが大きな注目点であった。しかし、対木もこは本大会も出場辞退を表明しており、関係者たちの関心はジュニアAの百鬼藍子(なきりらんこ)がいる静岡県が地区を勝ち抜けるかに移行した。結果、ジュニアAは静岡県が、ジュニアBは岐阜県が代表となった。

 

 ジュニアA代表:静岡県

 ジュニアB代表:岐阜県

 

 

5.近畿地区

 

 地区ブロック大会最大の激戦区となった近畿地区、ジュニアA、ジュニアBとも大阪府と奈良県の一騎打ちの状態になった。荒川憩の不在が、逆の意味で功を奏し、姫松高校と千里山女子高校の連合チームとなった大阪府が、奈良県の松実姉妹を攻略して代表を勝ち取った。最大の番狂わせとなったのはジュニアBであった。インターハイ同様に終盤での強さで勝ち点を重ねていた奈良県 高鴨穏乃が、決勝戦で大阪府の二条泉に抑えられてしまった。結局、奈良県は、ジュニアA,Bともに代表を逃した。

 

 ジュニアA代表:大阪府

 ジュニアB代表:大阪府

 

 以下、大阪府代表 二条泉選手へのインタビュー。

 

 ――手がつけられなかった高鴨選手を見事止めての本選進出です。

「ありがとうございます。結構苦労しましたが、良いテストができました」

 ――テストですか?

「はい。長野の“魔王”を倒すためのツールをテストしました。高鴨選手には申しわけなく思っています」

 ――そ、そのツールで、宮永咲選手を倒すということですか?

「はい」

 ――それはどのようなものですか?

「お答えできませんが……しいていえば“船久保率(ふなくぼりつ)”でしょうか」

 

 

6.中国地区

 

 優位性が伝えられていた広島県であったが、インターハイ個人戦の影響か、岡山県や島根県(個人戦出場者が宮永姉妹と対戦経験あり)との大接戦となった。かろうじてジュニアAは代表権を得たが、ジュニアBは岡山県に奪われてしまった。とはいえ、広島県 鹿老渡高校の佐々野いちごの活躍は目覚しく、インターハイ敗退戦犯の汚名を返上する勢いを感じた。

 

 ジュニアA代表:広島県

 ジュニアB代表:岡山県

 

 以下、広島県代表 佐々野いちご選手へのインタビュー。

 

 ――厳しい闘いが続きましたね。

「はい。でも、ここで負けるわけにはいきませんから」

 ――インターハイのリベンジということでしょうか?

「そうじゃのぉ。借りを返さにゃあならん人がいますから」

 ――それはどなたでしょうか?

「詳しゅうは言いませんが、ここからちょっと東の方におる人じゃのぉ」

 ――愛宕選手ですか?

「……最低でも倍返し、そう思うとります」

 

 

7.四国地区

 

 愛媛代表がジュニアA、Bともに選出された。愛媛チームは驚異的な成長を遂げており、他県を完封してしまった。それにはインターハイ以後、行方不明となっていた戒能良子が関与しているのではないかと噂されたが(戒能良子は愛媛県出身)、地区ブロック戦終了後に本人が(おおやけ)の場で否定した。しかし、愛媛チームジュニアBに戒能姓の人物がおり(中学3年生の戒能清子)、疑いが払拭されたわけではなかった。

 

 ジュニアA代表:愛媛県

 ジュニアB代表:愛媛県

 

 

8.九州地区

 

 最大の棄権者を出した九州地区は、2強とされていた福岡県と鹿児島県の戦力ダウンでどこが勝ってもおかしくない混戦状態になった。それでも、日程が進むにつれ、インターハイで実績を残したメンバーのいるチーム(福岡県、鹿児島県、沖縄県)が、実力を発揮しだし、最終的には鶴田姫子を大将に据えた福岡県が勝ち抜けた(ジュニアBも福岡県が選出された)。

 

 ジュニアA代表:福岡県

 ジュニアB代表:福岡県

 

 以下、福岡県代表 鶴田姫子選手へのインタビュー。

 

 ――白水選手とのコンビ解消は驚きました。

「部長は棄権しましたから……それにコンビは解消したわけではありません」

 ――私(インタビュワー)には、新道寺の来年への布石(ふせき)に見えましたが?

「……今は新道寺ではなく福岡県代表として闘っています。来年のことは来年考えることにしています」

 ――失礼しました。それでは、国麻は福岡県で優勝を目指すということですか?

「ベストを()くしたいと思います。ただ、結果についてはなんとも言えません」

 ――消極的に感じますが?

「そうですか? より真剣に闘った者が勝つ。単純な理論です。ハングリーさだけでは結果は伴いません。私は、インターハイでそれを知りました」

 

 

次回「国麻にて」本編

 


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