Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

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ラースエイレムが解禁(ザコ敵限定)


フラグは折るもの


以上


我は!破滅を断つ剣なり!

カタパルトに集合した操縦者達は驚くべき光景を目にした。開発者である篠ノ之束がISを纏っていたからだ。

 

「束、それは一体?」

 

「これ?これは特別チューンを施した私だけの専用機、ラピエサージュ・アルキュミアだよ」

 

「継ぎ接ぎの錬金術師・・・ですか?」

 

ラピエサージュ・アルキュミアという名だけあって、身体の節々にあらゆるの機体を参考にして開発されたパーツが見え隠れしている。

 

カスタムに使用した原型機体は紅椿のようであるが、驚くべきなのは脚部はグランティードを解析した物を採用。オルゴンエクストラクターをも搭載し、ラフトクランズのオルゴンキャノンを装備。

 

武装はラフトクランズのソードライフルを研究し、射撃武器として完成させたハルバート・ランチャー改、遠距離迎撃用のオーバー・オクスタン・ライフル。

 

近距離用にはクストウェル・ブラキウムのデータを参考に作り上げた高周波武装のマグナム・ビーク・ファング、ヴァイサーガの五大剣を参考にしたディバイン・アーム。牽制用の四連チェーンガン。

 

スラスターは紅椿の機構を使用し、ラフトクランズのデータから流用したブースターを装備している。これだけ見ればあらゆるISの良いとこ取りともいえる機体だが、その分扱いは非常に難しくなっている。

 

それに加え、束自身が己の身体能力に合わせてチューンをしてある為、並の人間や代表生が乗れば瞬く間に機体に振り回され、落下速度による衝撃などで重傷を負うだろう。

 

「良いとこ取りの機体ですね、これは」

 

「アハハ、そう言われると言い訳できないね。それとね?私、サイトロンに適応させるために自分を使って人体実験したんだ」

 

人体実験という言葉を聞いて全員が驚愕する。だが、束本人はあっけらかんとした様子で話を続ける。

 

「そしたらね?会社でサイトロンを浴び続けてたせいか簡単に適応しちゃってー」

 

アシュアリー・クロイツェル社はサイトロンを有効活用しようとISを始めとし、あらゆる機械のエネルギーの代わりにならないかと日夜、研究が続けられている。

 

その研究部長を勤め上げているのが、篠ノ之束本人である。故にサイトロンを浴びる機会は少なくはない。

 

「セルダさん曰く、サイトロンを毎日浴び続けた影響で遺伝子がフューリーに近くなっちゃってたみたい。あくまで予想だけどね?人体実験でそれが表面化したのかな」

 

束が話している中、出撃前にシャナが三人の騎士に向かって、何かを伝えようと声をかける。

 

「政征、雄輔、フー=ルー、私から伝えることがあります」

 

「ん?」

 

「伝えること?」

 

「なんでしょうか?」

 

「今はまだ私に権限があります。故にラースエイレムの使用許可を、封印を開放します」

 

「ラースエイレムを?確かにあの数を相手にするのは消耗戦ではありますが」

 

三人は冷静な顔を装いながらも驚きを隠せずにいる。ラースエイレムは騎士にとっては禁忌ともいえるものだ。

 

「エイテルムは希少なはず、それを使用して大丈夫なのですか?」

 

「この戦いは負ける訳にはいきません。故に許可するのです」

 

シャナ自身も戦いの重要性を分かっているのだろう。だからこそ、禁断でもあるラースエイレムの使用許可を出したのだ。

 

「分かりました。二人共、ラフトクランズを。フー=ルーもです」

 

「「はい」」

 

「御意ですわ」

 

展開する前に待機状態のラフトクランズをシャナの手に握らせる。三人のラフトクランズを祈るような仕草で握った後に何かをつぶやく。

 

「フューラの名の下に命ず、騎士の枷を解き放ちたまへ」

 

『音声確認、声紋確認、ラースエイレム使用許可認証』

 

三機のラフトクランズから枷が外され、封印されていた機能が復活する。最後の確認にガーディアン・パックを装備している事を確認し、準備を終えた。

 

「さぁ、出撃するよ!クーちゃん、ウチガネは任せたからね!」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

「行くよ!皆!」

 

束の号令と共に機体を持つ操縦者達は一斉にウチガネと呼ばれた戦艦から出撃していった。

 

 

 

 

 

操縦者全員が出撃したと同じ時刻、要塞の地下の最深部ではカロ=ラン、一夏、箒が機体の調整を終えていた。

 

「どうやら来たようだな、我等の倒すべき敵が・・・!」

 

「赤野・・・青葉・・・」

 

「アイツ等を葬る・・・」

 

白と紅を関する機体を駆る二人はもはや仇敵を打ち倒すことしか考えていない。倒したと同時に一方は女を嬲り犯し、一方は次なる敵を求めて虐殺を続けるだろう。

 

破滅の因子はISに宿る意志だけではなく、操縦者の意志すらも奪ってしまったのだ。それ故、カロ=ランにとっては都合が良い駒となっている。

 

「では、歓迎の支度をせねばな・・・くくくくく!」

 

騎士から暗殺者へと変わったラフトクランズ・カロクアラ、白き真実、失われた愛と新たに名付けられた白と紅のIS達。

 

対となる二機に最早、自意識はない。あるとすれば自壊衝動、つまりは死への渇望だけが深層内部で残っているに過ぎない。

 

『コロ・・・・し・・・て・・・』

 

『ワタ・・・し・・・達・・・を』

 

そんな声すらも虚空の彼方へと消えて行き、意識は完全に眠り込んだ。

 

 

 

 

 

要塞近辺では女性利権団体のタカ派に属する操縦者とミーレスの混合部隊に足止めを食らわされていた。

 

「邪魔だぁ!」

 

「退けええ!」

 

現状で最も戦力となっているのはラウラと千冬の二人だ。彼女らの機体は基本的に、実態のある武装をメインで戦う為、エネルギーの消耗が少ないのだ。

 

「な・・何故、ブリュンヒルデがああああ!?」

 

量産型のラファールを纏っていた一人の女性が一瞬で撃墜され、地に落ちていく。まるで引き裂かれたような装甲の傷がどのように攻撃されたのかを物語っていた。

 

「私を蔑称で呼ぶな・・・!私はブリュンヒルデではない。さぁ、この水流爪牙で引き裂いて欲しい奴から前に出てくるがいい!」

 

千冬から発せられる威圧はミーレス以外のパイロット達を怯ませるだけの力があったが、隊長格らしくカスタムされたラファールを纏った女が叫ぶ。

 

「惑わされるな!最早、あの方は我々の裏切り者!倒せば名誉が付くぞ!」

 

「これが権力という名の力にしがみつく者達の実態か・・私自身も人の事は言えんが」

 

無謀に突撃してくる女利権のメンバー達を今度は五大剣で迎撃していく。ヴァイサーガのスピードには追いつけないが一発の弾丸が狙ってきていた。

 

「やった!これならブリュンヒルデを落とし・・・・」

 

刹那、周りの全ての流れがまるで映像を一時停止したのかのように止まった。否、止められていた。ミーレスも女利権のメンバーも、千冬を含めた味方までもが全て止まっている。

 

動けているのはラフトクランズを駆る三人の騎士とグランティード・ドラコデウスを纏うシャナだけだ。

 

 

【推奨BGM[Moon Knights]スパロボMDアレンジ】

 

 

「申し訳ありませんが、彼女を撃たれる訳にはまいりませんので」

 

周りの全てを止めていたのはフー=ルーだ。ラースエイレムを起動し、千冬を狙った弾丸を雄輔が弾くように軌道を逸らした後、護衛のミーレスを撃墜し、狙撃を行った女利権のメンバーの機体へ一気に接近し、武装と機体を行動不能な状態にする。

 

「では、解除」

 

フー=ルーがラースエイレムを解除すると同時にミーレスの機体が爆発し、女利権の兵士達は何が起こったのか分からずに混乱している。

 

狙撃を行ったメンバーは機体が行動不能になっており、強制解除に追い込まれたのを信じられずにいた。

 

「何!?何が起こったの!?どうして機体が行動不能になってるのよぉ!?」

 

「な、何故だ!?私の機体があああああ!?」

 

千冬への狙撃の軌道を逸らした位置に別部隊の部隊長がいたようで、その弾丸に命中し撃墜され、地に落ちていく。

 

「力を得ようとも制御できないのならば、戦士の資格はありませんわよ?」

 

そう言いながらも情け容赦のないオルゴンライフルの閃光が無慈悲に相手を倒していく。ミーレスには容赦なくコクピットを狙い、女利権メンバーは撃墜するまでも操縦者としては再起不能な状態にしていく。

 

倒しても倒しても援軍が増えていく。その中に蛇と竜を掛け合わせたような機体、ウィオラーケウム。空戦特化型の機体、フォルティス・アーラ。中距離格闘に特化した機体、プリスクス・ノクスの三機が現れる。

 

「な、なんだアレは!?」

 

「どうやら指揮官機ね。おまけにISのコアも搭載されてるみたい」

 

ラウラの驚きをよそに鈴は冷静に戦場を見ている。三機の指揮官機は、内部突入は許さないといわんばかりに自らを防衛拠点としている。

 

鈴からの通信を聞いた束は怒りの表情をしたが、すぐに持ち直し、味方の全てに通信で訴えかけた。

 

「お願い・・・あの子達を楽にしてあげて!これ以上、あの子達を苦しめたくない!!」

 

束の訴えを聞きながら前衛に出たのが、スコールとオータムの二人だ。スコールの手にはZ・O・レイピアが握られ、オータムは腕部に一本を鮫の口のような形にしている。

 

「ここは私達が引き受けます」

 

「お前らはサッサと内部へ行きな!私等が道を作ってやる!」

 

二人は長年の相棒らしく、同時攻撃を開始した。距離が離れてはいるが、念動力の感知力によって彼女達には意味を成さない。

 

「行きなさい、レイン・ファミリア」

 

「ハハハハッ!コイツは痛いぜ?第三の地獄!!トロメア!!」

 

二機の回転式銃に翼をつけたようなビット兵器と、スズメバチの姿をした大量のビット兵器が指揮官機の一機であるウィオラーケウムにダメージを与え、ウィオラーケウムが塞いでいた突入口をこじ開けた。

 

「ケリを着けるべき相手が居るのでしょう?私達はあの指揮官機を相手にしてから向かいます」

 

「お前らの機体は大軍相手に向いてねえ。範囲兵器がある私等が此処は引き受けてやる!パーティーには必ず出席してやるさ!」

 

二人からの言葉に全員が戸惑うが、指揮官としての経験があるフー=ルーが全員に叱咤する。

 

「皆、行きますわよ!今を逃したら突入できません!」

 

「「「「「御意!!」」」」

 

内部に突入していく中、束が残った二人に通信を繋げる。その声は震えており、哀願してるようだ。

 

「あの子達を・・・頼んだよ。スーちゃん、オーちゃん」

 

それだけを言い残し、束も内部へ突入する。

 

「・・・産みの親からすれば子供を利用されているようなものね、私が言えた事じゃないけど」

 

「そうだな。でも、この力を使わなきゃ変えられねえ、この世界もな」

 

「余計な事は後にして今はこの場を殲滅するほうが先よ!受けなさい!アトラクター・フォルス」

 

「おう!凍りついて砕けろやぁ!!第二の地獄!アンティノラ!!」

 

祈りを捧げる黒き天使と地獄への歌を歌う歌い手は大軍の中、突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

「あの二人、大丈夫かな」

 

「俺達以上に実戦経験が豊富なんだ。きっと大丈夫さ」

 

「そうだ、我らは先へ行くのみ」

 

「うん!」

 

シャルの不安を政征と雄輔が励まし、進んでいく。出口を示す光が見え、通り抜けるとそこには巨大な円を象った建造物があった。

 

その下にはカロ=ラン、一夏、箒が守るように立っている。

 

「ようこそ、IS学園の諸君。心より歓迎申し上げる」

 

「カロ=ラン・・・!」

 

「だが、我らの下にたどり着けるかな?」

 

指を鳴らすと同時に女利権のメンバーが通路を塞いだ。精鋭のようでカラーリングが違っている。

 

「我等はヴァルキュリア!大人しく投降し、そちらの男共の機体を渡せ」

 

数としては五百人程だが、全員が一斉に、マシンガンやガトリングを向けていた。

 

「皇女の許可が有るとはいえど・・・騎士としては禁忌だが、やむをえぬ・・・!ラースエイレム起動!」

 

今度は政征がラースエイレムを起動させる。時を止めたかのように極限まで減速させられた空間の中で動けているのは、ラフトクランズとグランティードだけである。

 

束による緊急補給を施されたフー=ルーとラースエイレムの中で動ける雄輔が女権利メンバー達のラファールを武装を破壊し、展開と行動不能な状態にしていく。

 

「ラースエイレム解除!」

 

約三分間の間で五百の部隊が全滅していた。女権利メンバー達の命に別状は無いが、狂ったように叫んでいる。

 

「何が、何が起こったのよ!?」

 

「機体が・・・機体が破壊されてる!?どうして、何もしてないのに!?」

 

「私達の力であるISが・・・嘘よ!こんなの!!」

 

「ヴァルキュリアであるはずの私達が負けるなど!」

 

騒ぎ立てる女権利のメンバー達を鎮めようと政征と雄輔はソードライフルを地に突き刺し、轟音を立てた。その音に機体を失った全員が怯む。

 

「我等は命を奪うつもりはない。望むのはここから退去してもらいたいという事だけだ」

 

「ここから去れ!力無き者が居ていい場所ではない!!」

 

騎士としての二人の威圧に女権利メンバー達は我先にと施設から逃げ出していった。タカ派が潰れた事でISによる女尊男卑は瓦解し、報復もあるだろうが少しずつ修復されていくだろう。

 

 

 

 

 

「クク・・・ラースエイレムを使うとは、騎士の誇りを捨てたか?」

 

「いいえ、彼らは私の承認を受けた上で使用しました。故に騎士としての誇りは失っていません」

 

「シャナ=ミアか・・・」

 

カロ=ランの表情は変わらない。女性となった身でも内側からにじみ出る黒い野望は隠しきれていないようだ。

 

その言葉を聞いた一夏が歓喜した様子で口を開く。

 

「なぁ、シャナ=ミアさん。俺と一緒になってくれよ!俺と一緒に何処か遠くへ行って一緒に暮らそう?そうすれば」

 

政征は何も言わない。雄輔も黙ったままで、代表候補生達も更識姉妹も一夏の発言を聞いている。シャナ=ミアが一歩踏み出し、目を閉じ深呼吸すると目を開いた。

 

「いいえ、貴方とは共に行く事は出来ません」

 

「何で!?」

 

「貴方のした事は最早、消し去る事は出来ません。それに私にはもう心に決めた御人がおります」

 

「っ・・・!何で、何でだ!?初めて心から愛した人が離れていくんだよ!?」

 

「アンタ、まだ気付いてないの?」

 

痺れを切らした鈴がシャナの近くへ歩み寄り、口を開いた。呆れ返っているようでため息を一つ吐いている。

 

「好きな人と一緒に居たいと思うのは女性として当たり前の事だけど、アンタはシャナに対して何をした?思い返してみなさいよ!」

 

「お、俺はシャナ=ミアさんとずっと一緒にいたくて・・・」

 

「じゃあ聞くけど、アンタ・・・ちゃんと自分の気持ちをシャナに伝えたの?」

 

「っ!?」

 

鈴から発せられた言葉はかつて政征から言われた言葉と同じものだった。自分の恋した気持ちを相手に伝えたのかと。

 

一夏は鈴の厳しい言葉に狼狽えていた。自分の気持ちだけを先行させ、シャナ=ミアの気持ちを考えていなかった。それを再び指摘されたのだ。

 

「私も人の事は言えないけど、好きな人がいるなら気持ちを伝えるべきよ!それをしないで自分の物にしようなんて愚の骨頂よ!你明白嗎?(分かった?) 你很大(大馬鹿野郎)

 

「ぐ・・・ううう!もういい!赤野を殺せばシャナ=ミアさんは俺のモノに出来るんだ!」

 

一夏は首を振った後、太刀を握り、その鋒を相手に向ける。敵対の意思を明確にしたのだ。思い通りにならないのなら破壊してしまえと。

 

最后、你已经跌到了那么远?(とうとう、そこまで堕ちたのね?)

 

鈴はあえて祖国の言葉で話している。怒りを抑え込むためだ。全員が武装を構えた。

 

「黙れ!私が一夏を惑わしたソイツを始末してやる!!」

 

「篠ノ之箒、哀れさは変わらずか・・・」

 

最早、言葉は意味がない。全員が戦闘の意思を見せ、突撃していった。




次は戦闘回です。

いよいよラスト二話前です。

最後までどうぞお付き合いくださいませ。


後々、この世界線が見たいという意見があればアンケートをとりますのでよろしくお願いします。

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