Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

83 / 87
最終決戦の前のインターミッション


マドカにフラグ。


以上


突然変わる物って恐怖があるよね

束の治療用ナノマシンをアシュアリー・クロイツェル社の息のかかった病院から看護師が派遣され、それを投与された政征は検査入院後、入院の必要はないと診断された。

 

教員四名、代表候補生達七名、男性操縦者二名がIS学園の屋上で何かを待っていた。その後、迎えに来たのかのように、屋上へ戦艦のような物がステルスを解除して現れた。

 

「お待たせ、最終調整に時間が掛かっちゃって遅れちゃったよ」

 

映像通信で全員に見えるように現れたのは篠ノ之束本人だ。だが、待っていた全員は驚きもせず、要件を述べる。

 

「束、この乗り物でアイスランドまでどのくらいかかる?」

 

「四時間って所かな?相手が何の対策もなく無防備にしてるとは思えないよ。とりあえず、みんな乗り込んで!話はそれから!」

 

全員が乗り込み、再びステルスを展開し、学園から飛び去り、戦艦のブリッジにて全員が集合した。ステルスを展開し、上空を飛んでいる。

 

「いよいよ本拠地に乗り込む事になるけど、確認しておきたい。命を背負う覚悟は皆あるかな?」

 

束の言葉に全員が頷く。命を軽んじているのではない、小規模ではあるが戦争が始まる。命を奪い、その重さに耐えられない者は連れて行く訳にいかない。

 

この戦艦に乗り込んだ者は皆、命の重さを学んだ者達ばかりだ。例外はいるがそれぞれが命に対しての価値を見出している。

 

「うん、それじゃ。それぞれ自由に行動していいよ。セッシーちゃんは話があるからあとで呼ぶね?」

 

「分かりましたわ」

 

「ちーちゃん、ちょっと来て。姉同士、話したい事があるんだ」

 

「?わかった」

 

誰も居ない艦橋で千冬と束は向き合って話を始める。束の真剣な目に千冬も気を引き締める。

 

「ちーちゃん、分かってるよね?」

 

「ああ、私達は姉として最後のケジメを付けなければならない。アイツを・・・一夏を介錯してやるつもりだ」

 

「同じ考えだったなんてね。私も箒ちゃんにケジメをつけるよ。ISを本来の姿に戻さないといけない」

 

「お前の夢を最初に壊したのは私だ。生きている限り償っていこう」

 

「ちーちゃん、本当に変わったね?そんな言葉が聞けるなんて思いもしなかったよ」

 

束からすればやはり己の夢への翼のあり方を最初に壊したのが千冬だ。それでも有用性を示す為にマッチポンプをしたのは自分自身、千冬一人が全て悪い訳ではない。

 

己が未熟だったが故に今の世界になってしまった。自分が望んだ世界とは全く違っている。誰もが好きな時に自由に宇宙へ行ける事。それだけが私の望みだったのに。

 

「もう一人の友のおかげだ。その友が居なければ、私は変わる事が出来なかっただろう。今となっては称号すら要らない物に成り下がっている」

 

「フーちゃんだね?すごいなぁ・・・私には出来ない事をやり遂げちゃったんだもん」

 

「ああ、そうだな。それに・・・今の私は、ただの織斑千冬だ。称号も何もなく一人の人間でしかない」

 

「捨てたんじゃなく、降ろせたんだ。私も戻れるかな?ただの篠ノ之束に」

 

「私が戻れたんだ。お前も戻れるさ」

 

「ありがとう。それじゃ、用があるから行くね。迎えに行かなきゃいけない二人もいるから」

 

束が去った後、入れ替わるようにフー=ルーが現れる。二人のやり取りを物陰で見ていたようだ。

 

「よろしかったんですの?あのような事を」

 

「良いんだ。私はアイツの夢を壊した。だからこそ向き合っていかなければならない」

 

「・・・・もし、私達に着いてくると博士が言ったらどうするのかしら?」

 

「着いて行くさ、私は生きている限りアイツを支えねばならん」

 

「そうですか・・・でも、その前に自分のトラウマを抑え込まなければなりませんわよ?」

 

「!気づいていたか、流石だな」

 

千冬は自分の身体に震えが来ていた。武者震いではなく、カロ=ランに植えつけられた破滅の記憶が今も千冬を蝕んでいたのだ。

 

一度、恐怖に蝕まれた心が立ち直るのは容易ではない。人よりも並外れた精神力を持って彼女は破滅と対峙しようとしている。

 

「止めはしませんが、貴女が迷うのなら彼は私が真の死へと誘います。それだけは頭に留めておいて下さい」

 

要件を終えてフー=ルーが去った後、千冬は窓から空を見るように手摺りへと手をかけた。

 

「迷い・・か」

 

空に向かって吐き出した言葉を噛み締め、手摺りを強く掴む。取り戻せるのではないかという僅かな可能性が、千冬に僅かな迷いを生じさせていた。

 

「いかんな。アイツはもう、人間として越えてはならん一線を越えている」

 

手摺りから手を離し、匕首サイズの小太刀となっている待機状態のヴァイサーガを強く握る。それと同時に身体の僅かな震えが止まった。

 

「ヴァイサーガ、私の相棒の魂を受け継ぐ剣。改めて力を貸してくれ」

 

 

 

 

 

 

束に艦内放送で呼ばれ、セシリアは一対一で束と話をする事になった。ブルー・ティアーズに関しての事だろう。

 

「待たせたね。ブルー・ティアーズは完全に新しい身体を受け入れてくれたよ。使いこなせるかはキミ次第ってところだね」

 

「ありがとうございます」

 

機体の情報と武装の情報をモニタニングすると、セシリアは一箇所に見覚えのない武装が追加されているのを発見した。

 

「オルゴン・バスター・キャノン?それに断空光牙弾?何ですの?この武装は」

 

「ん~?これは束さんも搭載した覚えがないねー、改修の際、ベルゼルートのデータを少し流用したけど」

 

「新しくなったユニットが変形して放つ武装みたいですわね?」

 

「これは束さんの勘だけど、オルゴン・バスター・キャノンの方はシャルちゃんも使えるかもしれないね。あの子は機体が殆どベルゼルートだから交互性があるかも」

 

「ふふ、切り札として使う時が楽しみですわ」

 

「そうだね~、束さんも見たいよ」

 

二人は未知の武装に心をときめかせながら武装の調整と、今までのブルー・ティアーズの戦闘データを移し替える作業に勤しんだ。

 

「(今までありがとう、プロト・ブルー・ティアーズ・・・アナタの意志と魂はわたくしとブルー・ティアーズ・ブリガンディが受け継いでいきますわ)」

 

 

 

 

 

戦艦内部にあるカタパルト付近において、ラウラとシャルは運動も兼ね格闘技の組手をやっていた。

 

「ふっ!」

 

「やっ!」

 

お互いに拳や蹴りを受けては返し、返しては受けるを続ける。あくまでも組手ではあるが、試合ではない為に直撃しそうになれば寸止めするというルールだ。

 

「うっ!?しまった!」

 

「はあああ!」

 

拳を止めたラウラがシャルに笑みを向けながら口を開く。

 

「私の勝ちだな?シャルロット」

 

「負けを認めるよ、ラウラ」

 

シャルは立ち上がり、ラウラから少し離れた後、同時に一礼する。鍛えてもらった格闘家から教わった相手への尊敬を忘れないために行う作法だ。

 

「ねえ?ラウラ」

 

「なんだ?」

 

「ラウラは誰かが死んじゃった所に出くわしたことがある?」

 

「あるぞ、何度もな・・・だが、一番辛かったのは夏休みの最終訓練の時だった」

 

ラウラは空に浮かぶ雲を見ながら、自分が飛ばされたデータ世界での激戦を話し始める。家族や友人との望まぬ戦いに身を投じた戦士。

 

その片割れであり、自分と激戦を繰り広げた強くも悲しい戦士の末路を。

 

「そっか、そんな事が・・・」

 

「あの人との戦いで、私は失われていく命を改めて学んだ・・・だからこそ、破滅は許してはならない」

 

眼帯に触れ、ラウラは決意を改めてシャルに語っている。そんな中でシャルは自分が経験したデータ世界での決闘を思い返していた。

 

「(マサ=ユキとの戦い、あれがボクにとって命を学ばされた事、自分の信念を貫く人、無意味に奪う人・・・ボクは命を託された、だから戦うよ)」

 

別世界の拳王の騎士たるマサ=ユキの存在は、シャルの中で大きいものとなっていた。異性としてではなく、己の信じた信念を曲げない姿勢に憧れを抱いていたのだ。

 

鎖に繋がれたにも等しい生活をしていた自分にとって自由は求めるものであった。しかし、いざ解放されてみれば自分には何もなかった。

 

戦いの中で奔放的でありながら、任侠を通し、信念を貫く者から与えられた戦士としての命。それを手にした自分は次代へとつなげる役割がある。

 

母から与えられた命、騎士から与えられた命、二つの命を失う訳にはいかない。その為には破滅と戦う事を改めて胸に誓う。

 

 

 

 

 

同じ艦に乗り込んだ亡国機業の三人と更識姉妹、布仏姉妹は一緒だが、それぞれが話し合っていた。

 

「つまり、今の簪ちゃんは一つの体に二つの魂と意識があって、お互いに共有しているって事?」

 

「そうだよ。機体は一緒でも戦い方も全然違うし、思っている事も性格も違うの」

 

『二人で一人!だから、私達は共存している!でも・・・ね?』

 

楯無はいきなりの展開に冷静に整理してパニックになってはいないがショックである事は変わらなかった様子。

 

「でも、何?笄(こうがい)ちゃん」

 

『私は・・・貴女達が戦おうとしている破滅と同質の存在なの、成り損ないだけどね?』

 

「そう、なのね・・・でも」

 

『次にお姉ちゃんは「私の妹に変わりないんだから」という!』

 

「私の妹に変わりないんだから・・・ハッ!?また、笄ちゃんに読まれたー!?」

 

「お姉ちゃんは分かりやすいから」

 

「本当にその通りですね」

 

「虚ちゃんまでー!」

 

「かんちゃんに笑顔が戻って良かったのだ~」

 

二人の仲は以前の溝は無くなり、笄も受け入れられている。破滅の意志と似た魂が簪の中に有るのも事実。

 

それでも、楯無にとってはたった一人の妹だ。同時に本音にとっては主人であり友人でもある簪は大切な存在だ。

 

二人がようやく仲を取り戻せた、この光景を失いたくないと思い、布仏姉妹は固く決意するが、自分達は破滅と戦う術がない。

 

ならば、二人が帰る場所を守ろう。それが自分達に出来る戦いだと認識し、今はこのひと時を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

同時刻、艦内のトレーニングルームでは鈴とマドカが座禅を組んでいた。マドカが座禅に付き合ったのは己自身を見つめられると聞き、実践したいと鈴に頼み込んだからだ。

 

「・・・・」

 

「・・・・っ」

 

「マドカ、まだ乱れがあるわね」

 

「うう・・・」

 

座禅を解き、目を開く。なれない事もあるだろうが、それ以上にマドカは自分の内に眠る何かを怖がっていた。

 

「鈴、自分の中で違う自分が出てくる感覚はないか?座禅をしていると私はその感覚がある」

 

「うーん・・・何か覚えはない?私は専門じゃないから」

 

「覚え・・・もしや、ガリルナガン・ナーゲルか?」

 

「自分に覚えがるのならそれかも知れないわね、そこから先はマドカだけで何とかしなくちゃならない領域よ」

 

「私だけで?」

 

鈴から言われた言葉にマドカは目を見開く。今まで命令を聞いていれば良かっただけの考えから、己自身で答えを見つけねばならない状態になった為だ。

 

「そのIS、ガリルナガン・ナーゲルだっけ?言いたくないけど、ものすごく嫌な感じがするのよ。例えるなら恨まれたり、付き纏われているような・・ね」

 

「・・・嫌な感じ?(まさか、ディス・レヴが原因なのか?)」

 

マドカは束が正気を失う程の動力源、ディス・レヴに関する注意を思い出した。ディス・レヴは奉ろわぬ霊達を取り込み、そこから発生するエネルギーを利用していると。

 

仮に制御が出来なくなれば自分自身が取り込まれ、ガリルナガン・ナーゲルは暴走し続けるであろうと。

 

「私が向き合わないといけないのか・・・・鈴、協力してくれ」

 

「分かったわ。けど、協力できるのは入口までよ?そこからはマドカ次第だから」

 

「ああ」

 

マドカは再び座禅を組み、鈴に意識を集中するよう指導されながら己の心の深淵へと潜っていく。

 

「っ・・・!これは、これが奉ろわぬ霊か?」

 

己の心とガリルナガン・ナーゲルの動力であり、コアが眠っているディス・レヴの内部へと到達したが、そこで待っていたのは己を取り込もうとする奉ろわぬ者達であった。

 

「行かなければ・・・ディス・レヴを何とか制御できなければ私の相棒は破壊するだけの機械になってしまう」

 

中心である門に到着する。恐らくはイメージだろうが開くとそこには、一人の女性が磔にされているような姿で眠っているかのように目を閉じている。

 

近づこうとした時、一人の男が陽炎のように不安定な形でマドカを見つめていた。

 

細身で銀髪、何かを伝えるように頭の中へと声が響く。

 

『ようやく自覚したようだな?この世界でのディス・レヴを持つ者よ』

 

「っ!何故、ディス・レヴの事を!?」

 

『お前は数多の世界を旅する覚悟はあるか?』

 

銀髪の男は試すような口調で聞いてくる。自分の生まれた世界との決別を意味する為だ。

 

「・・・」

 

『ディス・レヴを制御した瞬間、因果律に囚われ、数多の世界を彷徨うことになる』

 

「そうなのか・・・」

 

『それでも望むか?ディス・アストラナガン・・・・銃神の火を』

 

「ああ、私は望む!」

 

『わかった・・・この先へ向かいコアに触れろ、さすれば目覚める』

 

銀髪の男が消え、磔にされた女性へ触れる。この女性こそがガリルナガン・ナーゲルのコアそのものだ。

 

「貴女・・・と・・・共に」

 

マドカは現実に引き戻され、目を開く。鈴は真剣な目のままマドカを見つめていた。

 

「何か掴めた?マドカ」

 

「ああ・・・」

 

待機状態となっているガリルナガン・ナーゲルを手に持つと、僅かに熱を持った感覚があった。

 

それがマドカにとって、自分が生まれたこの世界との決別を意味しているとも知らずに。

 

 

 

 

 

別の場所では聖騎士団メンバーの三人と皇女であるシャナ=ミアが騎士の鎧や剣が飾られている一室に集まり、話をしていた。

 

「どう思います?」

 

「間違いなく狙ってくるかと・・・」

 

「向こうにとって自分達は憎悪の対象ですからね。愛しくなった者を奪った相手、己よりも上に居るのが許さない相手・・・と」

 

フー=ルーの質問に騎士の二人は、さも当然のように答える。何度も戦闘しているがゆえの予想だろう。

 

「私も行きます。条件として政事と皇女の身分から降りるように言われました。後継には私が最も信頼を置ける者を手紙にて指名してあります」

 

シャナ=ミアから告げられた言葉に三人は驚くが、それは当然だろうというフー=ルーの冷静な意見に政征と雄輔も頷いた。

 

「皇女を戦場に出すなど、我らにとっては大問題ですからね」

 

「確かに」

 

「その通りです」

 

「ですが、守ってくれるのでしょう?貴方が」

 

シャナからの視線に政征は力強く頷く。そんな二人を微笑ましく、また厳しくも見ていた。戦いに本来は持ち込んではいけない感情を持ち込んでいるからだ。

 

しかし、今のシャナは戦う事の意味を理解している。以前までは自らが剣を取るとは考えなかったが、フー=ルーを始めとする仲間との特訓により力の制御と守る事の難しさを身につけた。

 

追い返す鍵となるのはシャナであり、それゆえ最も危険な事に身を委ねなければならない。

 

「私達も共に有りましょう。皇女と友の為に」

 

「無論。それに私は貴女を守る誓いがあります・・・フー=ルー様」

 

騎士の礼節をフー=ルーに向けてする雄輔。それを見ていたシャナが壁にあった模造の剣を手にし、フー=ルーへと差し出す。

 

「皇女殿下?」

 

「誓いを捧げた者に対する返礼を・・・フー=ルー。それに今の私は皇女ではありませんよ」

 

剣を手にし、雄輔の右肩から左肩へと剣の腹を当て、誓いを受け取った事を肯定するかのように剣を構える。

 

政征の隣に寄り添い、騎士の誓いの義を見届けたシャナは笑みを見せていた。これで二人の絆はより強固なモノになっていると。

 

終えると同時に艦内放送が響き渡る。AIによるもので到着まで後30分という内容だ。

 

30分後に見えてきたのは、アイスランドにある休火山から遺跡のような姿をした要塞ともいえる建物であった。

 

全員がカタパルトへと集合する。それぞれの思いと破滅を追い返す事を胸に秘めて。




いよいよ最終回まで後3~4話となります。

え?インターミッションの間にベッドシーンは無かったのかって?

健全なルートですよ、ここは!え?早く書けよ・・・ですか?

うう・・・書きますよ。何とか

どうぞ、最終回までお付き合い願います。

ラフトクランズと別れたくないよ~(願望)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。