Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

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バシレウスの覚醒

紋章の移動

神話技能習得!?

氷と炎が一線越え済み


以上

※注意書き

胸糞表現があるので、それを踏まえたうえでお読みくださいませ。


頼まれるとどうすべきか悩むよね

とある国の地下、そこには地下に似つかわしくない機械や施設があった。その内部で一組の男女が一室から別々の訓練を終えて出てきた。

 

「ふう、訓練をすればするほど、身体が軽くなってきてるな」

 

「一夏」

 

「よう、箒。そっちも終わったのか?」

 

「ああ、鼻血が少し止まらないがな」

 

血を拭い、止血のための詰め物をした後に隣へ並ぶ。それが二人の間では当たり前となってきているからだ。

 

「大丈夫なのかよ!?」

 

「問題ない。その・・・一夏、今晩も・・・良いか?」

 

「訓練後で疲れてないのか?最近多いし」

 

「大丈夫だ、だから」

 

「わかった、部屋でな」

 

この二人は共通の敵と目的、それを果たせない悔しさと支え合いもあり、一線を越えていた。

 

愛などの感情は箒からの一方通行であり、一夏はただ受け入れているだけであった。お互いに辛さを忘れるために貪り合い快楽を得る、傍から見れば傷の舐め合いにも等しいだろう。

 

しかし、それがこの二人にとって、理性の繋ぎ留めであった。一夏は自分の中にある意中の相手を投影し、箒は愛しい男の熱を受け入れられる。

 

約束を取り付けた後に一夏と箒はある一室に向かった。そこにはクロスゲートがあり、カロ=ランが解析班と共にいる。

 

「織斑一夏か、何用だ?」

 

「強化してくれた機体のテストを兼ねて出撃したいんだよ、相手にはもう予告したし」

 

「ほう?あれのテストか、構わんが。向こうはお前の味方は居ないに等しいぞ」

 

「アイツを倒したいだけだからそれでいい。倒せばシャナ=ミアさんを俺のものに出来る」

 

シャナ=ミアと聞いて箒は歯を噛み締めながら憤っていた。愛しい男の中には必ずシャナ=ミアが居る、何故、自分に振り向いてはくれないのか。

 

「お前はそればかりだな。念の為聞いておくがシャナ=ミアを手に入れたらどうするつもりだ?」

 

「俺の証を刻み込むさ」

 

「ほう?」

 

証と聞いてカロ=ランが不敵に微笑む。その意味を理解している故に笑みが浮かんだのだろう。

 

「とにかく、行かせてくれ」

 

「よかろう」

 

「一夏ッ!私も連れていけ!!」

 

「ああ、箒の機体も生まれ変わったからな」

 

箒の目的は雄輔を倒すこと、そしてシャナ=ミアの始末である。障害があるなら排除し消せばいい、居なくなれば何もかもが収まるはずだと。

 

出て行く二人を見送った後、クロスゲートに身体を向けて独り言のように口を開く。

 

「後は呼び寄せるだけ、その時こそお前達が役立つ時だ。せいぜい今のうちに生を謳歌しておけ・・・ククク」

 

 

 

 

 

 

二人が出撃する二時間前、政征は休み時間に送信者不明のメールを鋭く睨むように読んでいた。

 

『もう一度俺と戦え!シャナ=ミアさんを立会人に連れてこい。場所は』

 

差出人の予想はついていた。仮に罠だとして隠れて向かってもサイトロンによってメンバー全員に気づかれてしまうだろう、そんな風に思っていると電話の方に着信が入った。

 

相手は楯無からのようですぐに通話ボタンを押した。

 

「もしもし?」

 

「あ、政征君?依頼されていた結果が出たから放課後に生徒会室へ来て欲しいのだけれど」

 

「そうですか。じゃあ、いつものメンバーも?」

 

「立会人をしてくれたみんなもよ。それじゃ、放課後にね」

 

通話を切り、教室にある時計を見る。ちょうど授業が後、一科目だけで放課後となる。授業に集中しようと考えを収め、準備を始めた。

 

放課後、代表候補生のメンバーと男性操縦者の二人が生徒会室に向かい、扉を開け中へとはいる。そこには楯無が真剣な目付きで座っており、従者たる虚も表情を引き締めている。

 

「みんな、集まってくれたわね」

 

部屋の内部の雰囲気に今から話すことは重要事項だという事を無言で伝えている。その雰囲気を組んでか誰もが軟派な気持ちで無くなった。

 

「破滅の軍勢が拠点にしているとされる場所がようやく見つけられたわ」

 

楯無の言葉に皆が息を呑む。破滅の軍勢の経典だとされる場所が見つかったと聞いたのだから。

 

「ただし、前提として候補とされる場所が見つかっただけだから確定とは言えないの」

 

映像用スクリーンが用意され、世界地図が映し出される。その中でマーキングらしき赤い円が二ヶ所に付けられている。

 

「二ヶ所か」

 

「ええ、スリランカとアイスランドよ。どちらかに破滅の軍勢が拠点としているの」

 

「(拠点・・・破滅の王を呼ぶクロスゲートがある可能性があるのか。もし、クロスゲートが暴走する時あれば。元々俺は・・・)」

 

雄輔が楯無と会話している中、政征は自分の中で固い決意をしていた。それはサイトロンが見せる必要もないほどに微弱な決意で誰も知る由もない。

 

「・・・・」

 

どちらに拠点があるのか話し合っている最中、鈴、セシリア、シャルロットの三人がサイトロンによって映像を見せられる。

 

「っ・・あ」

 

「っ・・これは?」

 

「っ・・サイトロンからくる情報?」

 

フューリーとして自覚した三人はサイトロンの親和性が高くなり、断片的な未来を見ることが可能になっていた。戦闘を行っているようで場所は間欠泉や雪景色、大西洋の海域が見える場所だ。

 

「ちょっと聞いて、恐らくアイスランドよ。奴らはそこにいる」

 

「え?そうなの?根拠は?」

 

鈴の言葉に楯無が疑問を持つが、その疑問に対して続くようにセシリアが答える。

 

「間欠泉の風景が浮かんできたのです。断言はできませんが・・・」

 

「雪景色のような場所も浮かんだし、アイスランドは北極圏に位置しているはずだから」

 

「まるで予知能力者ね、わかったわ。アイスランドを重点的に調べてみるわね!それと織斑先生とフー=ルー先生にも報告をお願い」

 

「分かりました」

 

雄輔が代表して返事を返し、報告会は終了した。生徒会室から出ようとした瞬間、楯無が政征だけを引き止めた。

 

「政征君、ありがとうね。あの模擬戦をやってから簪ちゃんと仲直りする事が出来たわ!」

 

「俺は何もしてませんよ。ただ、簪にも考えがあるって事だけを知って欲しかっただけですから」

 

「でも、本当に君ともう一人の彼は何者なのかしらね?」

 

「俺とアイツは唯の企業代表候補生で、IS学園に在籍している一人の生徒ですよ」

 

答えをはぐらかされた上で政征は出て行ってしまった。妹の一件は感謝しているが、楯無からすれば彼らには謎が多すぎていた。

 

彼らを見送ると楯無は扇子を広げる。そこには『報本反始』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

生徒会室から出た後にフー=ルーと千冬の二人を見つけ出すと、破滅という単語で内密な話があると口にした。

 

それを聞いたフー=ルーは千冬に目配せし、応接室へ案内するよう説得した。全員が応接室に入り、生徒会室であった事を話す。

 

「そうか、アイスランドに」

 

「意外な場所ですわね・・・あの国は確かに隠れ蓑にはピッタリですが」

 

「まだ、断定は出来ませんがね」

 

「とにかく、情報に関して感謝する(一夏・・・お前もそこにいるのか)」

 

応接室を出ると同時に一瞬だけ、IS学園が揺れる。地震ではなく何かの衝撃を与えられた揺れだ。千冬は急いで厳戒態勢を敷くように命じ、フー=ルーは生徒達の安全を確保するよう指示を出した。

 

 

 

 

「出てこい・・・早く!」

 

「来る、必ずな」

 

駆けつけたのはメンバー六人と教員の二人、ISを纏って空にいる二人を見上げて全員が目つきを鋭くする。

 

「一夏・・・」

 

「それに・・・篠ノ之箒」

 

破滅の軍勢へ組みした二人は全員を見下すように見ている。ただ、一点だけ優しさと憎悪の対象を向けている事を除けば。

 

全員がISを展開する。だが、その瞬間に政征と雄輔、シャナ=ミア以外の機体の四肢が凍らされていった。

 

「何!?」

 

「これは!?」

 

真っ先に千冬のヴァイサーガとフー=ルーのファウネアが凍らされ、代表候補生達も戦闘が不可能な状態にされていく。

 

「邪魔はしないでくれよ、千冬姉・・・俺は赤野を倒してシャナ=ミアさんの騎士になるんだ」

 

「一夏!何故、破滅の軍勢になど手を貸す!?今ならまだ!」

 

「うるせえよ。あの時、助けにくれてきたのは感謝してるさ。けどな、それ以外に何をしてくれたんだ?」

 

「な・・・に・・・」

 

一夏は千冬に対し、自分が溜め込み抑え込んでいた感情を吐き出し始めた。

 

「私の弟ならば出来ると自分本位で考えて、周りからは千冬姉の話ばかり聞かされて、唯の付属品だったんだよ!千冬の弟というだけで何でも出来る扱い!出来ないといえば何故できないと言われ、出来てもそれが当然とされる!」

 

「分かるかよ!?周りが見てたのは俺自身じゃない!俺の後ろにいるブリュンヒルデの栄光を掴んだ織斑千冬の存在だけだったんだ!!」

 

「っ!!!」

 

初めて見た一夏の本音に私は応えられない、弟の為にと思って行動してきた事が逆に追い詰めていたのだから、それは私自身も未熟であったせいだろう。

 

両親が蒸発し、当時十代であった私は自ら生きていく糧を得なければなかった。その為には何だってやった、その時も間違いだと知りながらも生きていくためには仕方のない事だと割り切ったつもりだった。

 

栄光を手にし、それによって基盤が出来ると思っていた時には私はたった一人の家族を蔑ろにしていた現実を目の前で叩きつけられた。

 

一夏の独白に誰もが反論は出来ない。一般社会でも強い権力を持つ相手に怯え、その相手との繋がりがあれば一個人など目に入らないだろう。

 

その叫びは誰もが持つ、自分を見て欲しいと望む切実な叫びであった。

 

「だから俺はぶっ壊してやる!赤野を倒して、シャナ=ミアさんを手に入れた後、何もかもぶっ壊してやる!」

 

「・・・・それがお前の本音か」

 

シールドクローとソードライフルを強く握り締めた政征が一夏を見据える、その目には同情と怒りが入り混じったものであった。

 

「環境に関しては同情はできる。だが、フー=ルー教諭から聞いた。お前がシャナ=ミア様にしようとした事を考えれば許す事は出来ん。身勝手な言い訳にしか聞こえないが、シャナ=ミア様を守るのは俺だ!」

 

「やっぱり気に入らない、赤野!!」

 

「感情の赴くままで戦いを仕掛けるか!」

 

二機のISが空へ飛び上がり二人の刃が交差する。だが、刃を合わせたと同時にソードライフルが僅かずつだが凍り出していた。

 

「何!?冷気?」

 

「そうだ、零落ではなく冷落白夜・・・白き夜の凍てつきで凍えろおお!!」

 

「ぐっ!?」

 

触れたものを凍りつかせるという特性に気付く事は出来たが、逆にそれは受けを使えない事を意味していた。一夏から振るわれる刃を避け続けてはいるが僅かでも掠った部分も凍らされている。それによって動きが鈍くなっていく。

 

「剣だけだと思うなよ?赤野!」

 

一夏はライフルにも似た武装で射撃を繰り出してきた。狙いは正確でギリギリの所で避けられたが、あまりの正確さに肝を冷やす。

 

武装の要は凍らされ、頼りになるのはオルゴンクローのみとなってしまっている。

 

「かかったな!赤野!!」

 

「な・・・がっ!?」

 

突然襲った痛みに政征はゆっくりと痛みのある方角へ顔を向ける。そこには鋭いトゲのような氷柱が肩に突き刺さっていた。オルゴンクラウドを突破し、直接搭乗者へ傷を負わせる程の威力がある事に驚きを隠せない。

 

生暖かい血の感触が政征の腕を伝っていく、こんな攻撃を受け続けたら身が持たなくなってしまう。

 

「お前は俺の領域に踏み込んだんだ。氷柱は一本だけじゃないんだぜ?」

 

「!!!!」

 

見上げた瞬間、まるで吊り天井が落ちてくるがごとく、氷柱に貫かれた。両腕、両足、腹部、貫かれた部分からは鮮血が流れ、武器はその手から滑り落ち落下していく、オルゴンクラウドを貫通するほどの威力だ。

 

「ごふっ・・・・あ・・・・ぐ・・・」

 

「これであの時の借りは返した」

 

政征自身も落下していき、そのまま地に大きなへこみを作りながら、赤い水たまりを作り出していた。貫通されたとはいえオルゴンクラウドの防御機能は生きていた為に息はあった。

 

一夏は大の字の状態になっている政征に近づくと左腕に突き刺さっている氷柱を抉るように回してから引き抜いた。

 

「がああああああああああ!?」

 

「ハハハハハ!少しは気持ちが晴れてきたぜ!」

 

堪えきれない痛みに獣のような声を上げるがそれは相手にとっての愉悦のスパイスにしかならなかった。更には両手と両足に氷柱を落として磔にする。

 

「政征!嫌ぁ!!」

 

「ぐ・・・・この氷、厄介だわ!それなら、命の炎を燃やす!」

 

余波で足を凍らされていた鈴の右手の甲にシャッフルの紋章が浮かび上がり、炎のような輝きが溢れ凍りつかされた部分が溶け始める。

 

政征の四肢を磔にし、一夏は鈴達に向き直る。氷を溶かし始めている鈴に驚きを隠せない。

 

「鈴が俺の氷を溶かしてる!?いつの間にそんな力を持ったんだ!?」

 

「アンタ達が乗り込んできて帰った後、かなり特訓させられたから・・よ。シャッフルの証よ!少しの間だけでいいわ!みんなに力を貸してあげて!」

 

そう言って最初に氷が溶けた溶けた右腕を突き上げるように上へ向けると、四つの小さな光が女性陣四人の右手に宿っていく。

 

「な、何ですの!?右手が、右手が熱い!」

 

「まるで火に炙られてるみたい!ううっ!」

 

「ぐうううう!?痛いが熱い、熱いが痛い!」

 

「ああっ!熱い!熱いぃ!!」

 

「それは敵じゃないわ!味方なの、みんなを試しているのよ!」

 

鈴は叫ぶが、女性陣は右手からくる痛みに苦悶の表情をしている。右手の光が収まり、少しずつ彼女達の右手に浮かび上がってくるものがあった。

 

セシリアからはクイーン・ザ・スペード、シャルロットからはジャック・イン・ダイヤ、シャナ=ミアからはクラブエース、そしてラウラからはブラック・ジョーカーの模様が完全に浮かび上がった。

 

浮かび上がると同時に凍らされて奪われていた四肢の自由が利くようになり、四人が立ち上がる。

 

「一夏の破滅の氷を溶かしただと?」

 

箒は四人に起こった現象に驚き、戦闘態勢を取り警戒した。破滅と聞いた瞬間にシャナ=ミア以外の表情が殺気立つ。

 

「賭けだったけど命の炎でね。それに・・・箒、アンタ破滅の洗礼を受けたって訳?」

 

「そうだ、力を得るためにな!私は全てを燃やし尽くす炎を得た!」

 

「・・・何が炎よ、アンタはこの世界を破滅させて何がしたいのよ!?」

 

「全てを破滅させた後など知ったことではない!後はお前達さえいなければ一夏は私のものになる!」

 

「狂ってますわ・・・!でも、わたくしもあのような考えを持つ事もありえたのですね」

 

「自分の欲しいものだけしか考えられなくなってるみたいだね。分かる、分かるよ」

 

「これが・・・破滅の力の影響なのか?」

 

 

 

 

 

 

それぞれが立ち上がり、箒に対して武器を向ける。だが、箒自身も手にし構えた。

 

「まさか、一人で相手をするというのか!?」

 

「これが破滅の炎だ!」

 

刀で一閃すると同時に凄まじい熱量が鈴達を襲う。その熱量は敵対している目の前の者だけに作用し、磔に使用されている氷柱に影響は無い。

 

「ぐうう!?っ!?みんな!」

 

「何!?お前は耐えられるのか?私の炎に!」

 

箒の一閃で鈴、セシリア、シャルロットの三人が膝を着いていた。冷却に対しては対抗したものの、熱量に対抗するものがオルゴンクラウドのみしかなく、操縦者を守るので精一杯だったのだ。

 

しかし、その中でラウラだけは熱量に耐えられていた。それだけではなく、物質を凍結させる気化熱にも耐える事が出来ていたのだ。それは彼女の相棒でもあるレーゲンに理由がある。

 

レーゲンはデータ世界での出来事であるとは言えど、テッカマンブレードの世界においてテッククリスタルによるフォーマットをラウラと共に受けていた。

 

その影響でレーゲンはラダムテッカマンとしての特性を取り込んでいたが為に、ISとしては過剰とも言える程の防御機能を有している。ラウラ自身はあの時の戦いで消失していたと考えていた。だが、レーゲンはラウラと共にあり、ラウラを守るという意志を有している。

 

その為にテッカマンとしての特性を最大限に利用したのだ。ラウラを守るために。

 

「そうか。レーゲンが、Dボゥイさんが、シンヤさんが、ミユキが、そして第二の戦闘教官であるゴダードさんまでもが、私を守ってくれている」

 

「なんだ!?コイツの、ラウラの後ろにいる奴らは!?」

 

箒の目にはラウラの後ろに立つ四人の仮面の戦士の幻影が見えていた。それぞれが武器であるテックランサーを手にラウラを守る形で前へと一歩踏み出し構えた。

 

自分の世界ではDボゥイとミユキの二人は生きているが、あの世界での出来事で影響があったのかは分からない、シンヤとゴダードは亡くなってしまっている筈だ。

 

「まやかしだ!まやかしは消えろォ!」

 

「あやつの目には私が共に戦い、そして敵対していたが尊敬に値する二人が見えているのか?」

 

ラウラはテックランサーを取り出し、幻影の四人と並ぶように構えると箒の目から四人のテッカマンがラウラへと重なっていき消えていった。

 

「っ!まやかしが消えたか!」

 

「鈴から借り受けた力もある。今回は私が相手をしてやろう!テッカマンレーゲンとして!!」

 

二人は飛び上がり、一夏達がいる方向とは別の方角へと向かい、戦闘を始めた。

 

 

 

 

「ぐ・・・う」

 

「シャナ=ミアさん、俺と一緒に来てくれ!そうすれば」

 

一夏は磔にした政征を放置し、シャナを説得しようと歩み寄る。

 

シャナは一時的なシャッフルの紋章からの試しに耐え、自らのISであるグランティードを展開し、テンペスト・ランサーを手にしている。

 

「何故、破滅の使者と共に行かねばならないのですか?それに、あの時、私の名を呼ばないで欲しいと言ったはずです」

 

「っ・・・何で、なんでそこまで俺を避けるんだよ!?」

 

「組み伏せられて犯されかけて、貴方を避けない理由がありません」

 

シャナが言っている事は女性の視点からすれば正論だ。己を犯しかけた相手を受け入れるなど、被害を受けた側からすれば最も嫌悪するものだ。

 

「だったら、今度は強引に連れて帰るまでだ!」

 

「・・・!」

 

一夏はシャナへ向かって刀身を振り下ろす、冷気を纏っていないのかランサーのオルゴナイトが凍りつかず競り合いになっていた。

 

「へへ・・・こうすれば!」

 

「っ!また、あの時と!!」

 

かつて模擬戦をした時と状況が似ていた。あの時は力もなく、強引に押し込まれ迫られた。

 

「ここで使わせてもらう!冷落白夜!」

 

一夏が発動したのは先程の冷気を纏い触れるものを凍てつかせる刃だ。それを感じたシャナはペンペスト・ランサーを手放し、距離を取る。

 

「っ、ランサーを失ったのは大きいですね」

 

「そこまでして来ないなら・・・」

 

一夏は磔にし放置していた政征の近くへ来ると足にその刃を突き立てた。

 

「があああっ!」

 

「っ!?」

 

「どうする?シャナ=ミアさん、大人しく着いてくればこれ以上は何にもしないぜ?」

 

引き抜いては別の場所を刺し続ける。今までのシャナであれば泣き叫んで大人しく着いていっただろう。

 

「許さない・・・もう、許しません!」

 

「ぐ・・・シャナ・・・ダメ・・だ!それが・・破滅の・・・」

 

「その口を閉じてろよ!」

 

容赦のない刃が政征の腕に突き立てられ、引き抜かれる。それを見たシャナは珍しく頭に血が上ったのか、 フィンガー・クリーブで殴りかかった。

 

「そうだ、その憎しみを俺に向けてくれよ!憎しみは愛情の裏返しとも言うからさ!」

 

「ふざけないで!」

 

だが、怒りに目を眩ませた相手ほど簡単に倒せる者はいない。一夏も殺し合いのような特訓の中で才能を開花させていたのだから。

 

「あうっ!?」

 

殴りかかってきた腕を掴み、押し倒した一夏はまるでシャナ覆いかぶさっているかのような状態にした。

 

「あの時出来なかったのを今ここでやってやる!」

 

「ぐ・・・やめ!」

 

「いやぁ!」

 

チャンスとばかりに一夏はシャナ=ミアを再び手篭めにしようとした瞬間、グランティードから咆哮のような声が上がる。それは人のような物ではなく、何か威厳のある生き物の咆哮だ。

 

咆哮は衝撃波となり、一夏を軽々と吹き飛ばす。ユニットとなっていたバシレウスが龍の姿の幻影を見せるとグランティードを包み、その形状を変えていく。

 

肩のユニットが大型化し、肩と腰にあたる部分からは竜の首のようなものがシャナを守るように現れ、胸部にはその竜の主首が合体していた。

 

本来は竜と一体化した男性の巨人ような姿だというのがフューリーに伝わる伝承だが、ISであり皇女自身が扱うという心が反映され、全身装甲化せずにドレスアーマーの竜騎士のような姿になっている。

 

「ま、まさか!?二次移行したのか!?シャナ=ミアさんを助けようとして。嘘だ!ISが助けようとするなんて!」

 

シャナは起き上がると自分の扱っている玉座機の変化に驚きを隠せない。己をなかなか認める事が出来ずにいたのに何故、グランティードは二次移行を果たしたのかと。

 

「己自身の心を認めろと、そう言っているのですか?玉座機、グランティード」

 

『だい・・・じょう・・・。貴女は・・・・強い』

 

僅かに聞こえた声はすぐに聞こえなくなり、代わりに雑音だらけの無線機から聞こえる声のようなものが頭の中に響く、それはまるで助けを求めているかのような声だ。

 

『して・・・・はや・・・・・・消え・・・・破滅・・・嫌』

 

「(今の二つの声は、一体!?)」

 

「二次移行したからといって変わる訳が!っ!?」

 

「真のグランティード。グランティード・ドラコデウス!皇家の剣、今ここで!」

 

胸に合体している竜の頭部から槍の柄のような物が現れ、それを手にしオルゴナイトの結晶で槍を再び作り出した。

 

「竜の神だって!?そんなのが存在するかよ!」

 

一夏は自信を持った剣撃をシャナ=ミアへ繰り出すが、シャナ=ミアはそれを受け止めず流れるように優雅な動きで受け流し、一夏をオルゴナイトの槍で殴り飛ばした。

 

回転による遠心力とグランティードの補助がある一撃は女性の力とは思えない威力を持っていた。

 

「ぐあっ!?な・・なんだよ今の!?」

 

「私が弱いままだと思いですか?私に厳しい修行を課してくれた方々が居るのです、今ここで強くして下さった方達に最大の感謝と敬意を」

 

「嘘だ、嘘だ!シャナ=ミアさんは俺が守るんだ!俺が守らなきゃいけないんだよぉ!!」

 

「やはり、貴方も破滅の洗礼を受けていたのですね」

 

箒と同じく目的しか目に入らず、破壊と己の欲するものを手に入れようとする欲だけが彼を突き動かしている。

 

追撃しようとした瞬間、一夏へ通信が入った。

 

「もういいだろう?テストとしては上々だ。戻ってこい」

 

「嫌だ!シャナ=ミアさんを手に入れるまで俺は!」

 

「また洗礼を受けたいのか?」

 

「っ・・・わかった」

 

「篠ノ之箒は既に撤退している。お前も早く戻れ、期待を調整せねばならぬからな」

 

カロ=ランからの通信が終わり、一夏は名残惜しそうに飛び去っていった。入れ替わるようにテッカマンレーゲンことラウラがボロボロになりかけた状態で戻ってきた。

 

「ラウラ!」

 

「シャナ=ミア姉様・・・申し訳ありません。取り逃がしてしまいました」

 

「いいのです。それよりも早く皆の手当を!」

 

破滅の軍勢に与する二人が去った事で教師二人も自由となり、全員を医務室へと運んだが、政征は一夏から受けた傷が思いのほか重傷でアシュアリー・クロイツェル社が出資している病院へと搬送された。

 

病院への教員はシャナ=ミアにフー=ルーが付き添い、ラウラ以外の代表候補生達は学園の医務室で手当てを受けているため、付き添いには来れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「姉様・・・」

 

「ラウラ、私は大丈夫ですよ」

 

姉様は平気なのを装っているがそんなはずはない、政征兄様が重傷を負ったのだ。それだけでも辛いだろう。

 

もしかしたらシャナ=ミア姉様は何かされたのではないかと私は思う。だが、それが何なのかは分からない。

 

「兄様の傷は致命傷ではないと医者が言っていました。ですから安心してください」

 

「ええ・・・ありがとう、ラウラ」

 

こうやって励ますのが精一杯だ。だが、姉様は何かを考えて老いるようにも見える。

 

「(二つの声、グランティードともしや?)」

 

「シャナ=ミアさん」

 

「雄輔師匠!」

 

「だから、師匠はやめろ」

 

「はっ!?つい癖で言ってしまった。いかんな、修正せねば」

 

鵜呑みにするだけではいけないという事か。とラウラは心の内で反省した。

 

「雄輔さん、どうしたのですか?」

 

「ええ、知らせておきたいことがありまして」

 

雄輔も付き添いに来たと同時に手当てを受け、腕に包帯が巻かれていた。軽い傷を負っただけで済んではいたが助けられなかったのを悔いている様子だ。

 

「知らせておきたい事・・・ですか?」

 

「はい、日にちはかなり前になるのですが夢の中で声が聞こえてきたのです」

 

「夢の中で声が?」

 

「消えたくない・・・塗りつぶされる・・・破滅に飲まれると」

 

雄輔が敬語になってしまうのはやはりシャナ=ミアの持つ皇女としての気品さ故だろう。

 

「もしや?」

 

「推測が正しければ・・・あの二人の機体かと思います」

 

「雄輔殿、どういう事だ?」

 

「(今度は殿呼びか、師匠よりはましだが)言葉通りだ、ISの声じゃないかと推察している」

 

「ISの声・・・」

 

ISの声と聞いて私には覚えがある、恐らく兄様や雄輔殿も経験があるのだろう。破滅に意思を飲まれているのだとしたらまず間違いなくあの二機は。

 

助ける事は難しいだろう、望むのであれば破壊するしかない。ISは意思を持つ、その意思が破滅を望んでいないのならば。

 

 

 

 

 

アイスランドに関して重点的に調査した結果、地下に巨大な建造物があると内偵者から連絡があった。報告後に連絡が途絶えた事を鑑みればその人は・・・。

 

「お嬢様、より詳しい結果が出ました。休火山の内部で建造物は動いているそうです」

 

「その建造物が破滅の王を呼ぶ装置なのかもしれないわね。それで軍勢の動きは?」

 

虚は書類をめくりながら淡々と報告を続ける。

 

「軍勢は今、何も動きを見せていません。おそらくは建造物の解析を優先しているのではないでしょうか?」

 

「だとしたら急がないと。でも、肝心の政征君が入院・・・あまり言いたくないけど主力となる代表候補生達も怪我で動けない状態、状況は悪いわね」

 

生徒会長が守るべき生徒を戦力として考える。常識では考えられない思考だろう。しかし、それ程までに一般生徒と代表候補生となった生徒の力の差は歴然だ。

 

そんな中で破滅の王がこの世界に現れたら生きとし生けるもの全てが破滅してしまうという事を聞いてしまい、戦力を考えねばならない。

 

本来と相反する考えにより楯無は精神的に追い込まれていた。

 

「お嬢様。お嬢様はクトゥルー神話というのはご存知ですか?」

 

「クトゥルー神話、クトゥルフ神話のことかしら?確か、トーク系のゲームなどで用いられてる物よね?」

 

「そう、宇宙的恐怖を題材にした作品です。似ていると思いませんか?破滅の王と呼ばれる存在が」

 

「まさか、実際に破滅の軍勢は出てきているのよ?虚ちゃん」

 

虚はその時点で口をつぐんだ。これ以上は報告できる内容は無いということなのだろう。

 

「もし仮にそのような存在だとしたら・・・政征くんの言う通り、本体なんて出てきたら良くて追い返すのが精一杯なのかも」

 

「その時には誰かが犠牲になっているやもしれませんね」

 

虚の呟いた言葉に楯無は何も答えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

病室で政征は眠っていた。夢の中で紅いドレスを着た少女と白いワンピースを着た少女が立っている。

 

彼女達は何かを訴えかけている。それがよく聞き取れない、聞こうとした瞬間に彼女達は黒い何かに飲まれ、沈んでいく。

 

「私達を・・・・破滅・・・から」

 

「開放・・・して・・・くださ・・い」

 

聞こえたのはそれだけだった。自分も飲まれようとした瞬間に目を覚ます、病室のベッドの上で寝かされているようだ。

 

身体を起こすことはできず、まだ感覚がボーッとしている。鎮痛剤を打たれ点滴もされている影響だろう。

 

「開放・・・破壊してくれって事なのかな?」

 

自分一人の意見では決められない。破壊する事が正しいにしてもISそのものを自分の我が子と思っている人が居るのだから。




あれ?一万越えてた。

紋章の移動はある合体攻撃のフラグです。

本陣乗り込み前に大怪我。

玉座機が竜の身体を得ました。これも意味があります。

次回は裏側です。束さんがとある神になってます。

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