Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
簪の身体に二つの魂が宿る。
以上
※注意書き
今回は特撮のライダーネタや奇妙な冒険のネタがありますので、それを踏まえたうえでお読みください
開始と同時に簪は薙刀を手にし、盾無に突撃する。それを見た楯無は迷いながらも蒼流旋と呼ばれる槍を手に受け止める。
「お前の罪を数えろって、大切な人を守るのが罪になるの!?簪ちゃん!」
「やっぱり気づいてない、それなら、私がこの戦いでお姉ちゃんの罪を教えてあげる」
楯無は迷いながらも反撃を仕掛けるが、迷いがある攻撃は簡単に避けられてしまう。
「お姉ちゃんの罪はね、自分が良いと思った事を私に押し付けてしまった事よ」
「な・・・!」
「無能のままでいなさい。だなんて言われたら反抗されて当たり前、諦めかけた私にも罪はあるけどね」
簪の言葉にショックを受けた楯無は薙刀の石鎚を利用した攻撃に当たってしまい、後退されられる。
「うう・・・!(簪ちゃん、映像で観たよりもキレが増してる!?)」
「生徒会長の地位を奪おうだなんて思ってない、純粋に姉と妹として戦おう?これが最初の姉妹喧嘩よ!」
簪の姉を越えるという精神に共振しシュンパティア・システムが起動する。その瞬間に簪は自分の内側から何かを引っ張り出される感覚に陥る。
「(な、何!?誰かいる?)」
『(初めまして、というべきね。私はシュンパティアから引っ張り出された貴女の強気な一部分よ)』
「(私の強気な・・・所?)」
戦闘中でありながら会話が出来るのは自分自身の心の中だからだろう。強気な簪と言える人格は構わず話を続ける。
『(私は貴女、貴女は私。どちらも更識簪に変わりはないけど、紛らわしいから、そうね・・・笄(こうがい)って名乗るわ』
「(そう、笄・・・力を貸して?)」
『(なら、私が表に出るわ。武装の扱いをよく見ていて、二人で戦いましょう?)』
「(うん!)」
心の中の会話を終えると笄の人格が表に出る。そして何故か打鉄弐式から何かの待機音のような音が出始めた。
【Level Up!Mighty Brothers!Futari De Hitori!Mighty Brothers!Futari De Victory!X!!】
「だ~~~い!変身ッ!!」
音が終わると同時に両腕を大きく振り回しその場でターンすると、薙刀を構え直した。
【Gacchan!!Double-Up!Ore Ga Omae De!Omae Ga Ore De!We are!Mighty!Mighty!!Brothers XX!!】
「(え?今のって変身音!?)」
『(良いでしょ?私達は今から二人で一人なんだもの。貴女が観てた特撮作品からちょうどいいのがあったから使ってみたの)』
「い、今の何!?」
呆気に取られている楯無をよそに笄の人格となった簪は髪をポニーテールに纏め、眼鏡型のディスプレイを外して拡張領域にしまったようだ。
どうやら主人格である簪に負けないくらい、笄も特撮作品が好きな様子だ。元は簪自身なのだから当然といえば当然だろう。調子に乗ったのか、作品の主人公がやる口上まで真似をし始めた。
「超協力プレイでクリアしてやるわ!なんてね」
『(ちょっと~!ずるい~!!)』
「か、簪ちゃん?」
雰囲気が180度変わった妹の様子に楯無は混乱していた。オドオドした様子は無くなり口調も強気だ。
「さぁ、お姉ちゃん。喧嘩の続きをしようか?」
「ど、どうしちゃったの!?」
笄の人格となった簪の薙刀捌きは正当な薙刀術ではなく、拳法家が使うようなアクロバティックな動きをしている。それによって楯無は追い込まれていく。
「ぐっ!?さっきまでと全然違う!?」
「手加減なんてしたらボコボコにするからね?」
◇
立会人を兼ねた観客として見ている代表候補生達と騎士の二人は簪の変化に何かを感じていた。
「あの変わりよう・・・束さんが作ったプログラムのせいか?」
「束さん、サイトロンも研究してたからな、ありえるぞ」
「簪ってあんな性格だったかしら?特撮好きなのは知ってるけど」
政征と雄輔は原因を、鈴は困惑した様子で試合を見ている。
「先程の音、ISから聞こえていたような気がしますわ」
「その音がしてからまるで性格が変わった感じだね」
「しかし、音だけであのように変わるものなのか?」
データ世界での壮絶な出来事があってからメンバー達は人としての常識が麻痺してしまっており、単純な事では驚かなくなっていた。
冷静に状況を見られるようになったのは幸いだが、逆にそれは一般人としての生活を送る事ができない事を意味していた。
「(この姉妹喧嘩、油断してたら負けますよ?楯無さん)」
政征は心中で楯無に忠告のような言葉を考えていた。簪の変わりようは負けたくないという気持ちから変わったのだと解釈した。
◇
「混乱してたけど身体を動かして頭が冷えたわ。ところで簪ちゃん、なんだか熱くないかしら?」
「っ!?やば!!」
気づいた瞬間に水蒸気爆発が起こった。これが楯無の専用機、霧纒の淑女の技の一つ、清き激情、クリアパッションと呼ばれるものである。
「ぐ・・・う・・・まさか、こんなに削られるなんて、侮って・・・た」
直撃を受けた笄は仰向けに近い状態で倒れ込んでいる。水蒸気爆発の直撃を受けたのだから当然の結果だ。
「簪ちゃん、もういいでしょ?貴女は」
「次にお姉ちゃんは『私には絶対に勝てないんだから』と言う!」
「私には絶対に勝てないんだから・・・はっ!?」
「ふふ、油断大敵って言葉を知ってる?お・姉・ちゃ・ん?」
してやったりといった表情をした後、ベクター・ミサイルを近距離から一斉に発射した。普段の簪からは考えられない大胆な戦法であり周りも驚いている。
「ああああああっ!」
自分の考えを読まれ動揺していた楯無は防御のタイミングを逃してしまい、ミサイルに直撃してしまった。それにより、ダメージが五分と五分になった。
「これでダメージは五分五分、武器は使わずに殴るっ!」
「がはっ!?」
笄から受けた拳の一撃によって別の何かと気づいたが、追撃を警戒し防御しようとした。
「私に殴られるのが怖いのか!この自分勝手のシスコン姉貴がぁーー!」
笄のラッシュと本音をぶつけられ、防御機能を使わずに防御したままだ。それにも関わらず笄は殴り続ける。
「ぐ・・ううう!一撃一撃が重い!」
『(笄、代わって!私も殴りたい!!)』
主人格の簪が笄の熱に当てられたのか自分も殴りたいと言ってくる、それを聞いた笄は笑顔で応えた。
「(良いわよ!殴り方は私がアドバイスしてあげる!)」
『(うん!)』
主人格の簪に交代し一呼吸置いた後、ラッシュを再開した。重さは先程よりも無いがその分、速さが増している。
「すぅ・・・・ふぅ、これが私の積年よ!」
「やああっ!!!これがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがぁーーー!!」
殴れる機会が回ってきた事で興奮して、アドレナリンが大量分泌されている影響か勢いが止まる事が無い。ISによる補助があるにしても第三者から見れば異常だ。
「調・・子に・・・乗らないでぇ!!」
「げほっ!?」
ラッシュを防御していた楯無もとうとう我慢の限界を迎え、殴り返した。それによりラッシュが中断させられてしまう。
「大切だから、裏に関わらせたくなかったから突き放したのよ!それが悪いの!?」
楯無も防御を考えずに殴り始めた。怒り泣きをして殴り続けるが簪も負けてはいない。
「悪すぎよ!たとえ関わらなくても普通に姉妹として協力すれば良いだけの話じゃない!」
簪のアッパーが盾無の顎を捉える。絶対防御機能によって無傷となってはいるが、その衝撃は逃す事は出来ない。
「それじゃ、いずれ狙われるわ!」
「だったら訓練して強くなればいい!!」
「私より弱かった癖に!!」
「自分から突き放したのはお姉ちゃんでしょ!!」
もはや会話になっていない、真面目な戦闘から姉妹間で起こる取っ組み合いの喧嘩に発展し、それがアリーナの中心で行われている。しかもISを纏ったままで。
◇
「ねえ、私達・・・此処に居ていいのかな?」
鈴の言葉に全員が言葉を濁した。ISの試合を見守るはずが、いつの間にか唯の姉妹喧嘩を見せられているのだから。
「と、とりあえず。見守りましょう?簪さんに頼まれていますし・・・」
「そ、そうだね」
「なかなか決着がつかなそうな気がするのだが・・・」
「ラウラの言うとおりだな」
代表候補生達と雄輔は呆れ気味だったが、楯無と話した事のある政征は笑いをこらえつつも何処か羨ましそうに二人を見ている。
「そろそろ、終わるな」
その一言で両者がパンチをお互いの顔面にヒットさせ、同時に倒れ気絶した。それを見届けた立会人の6人はアリーナに駆けつけると担架を二つ用意し、医務室へ運んだ。
担架で運ばれていく二人の顔は何処か満ち足りた表情で笑ったままであった。
簪がリアナとクリス(リム)化した、これも篠ノ之束って奴の仕業なんだ(棒読み)
はい、姉妹喧嘩の結果はドローです。これでもかというくらい鬱憤は溜まってるんじゃないかと思いながら書いていました。
変身音は特に意味はありません、変身する訳ではなく入れ替わりの演出代わりです。
笄(こうがい)は実際に髪飾りとしてあるらしいです。名前が簪なら髪飾りに関するモノにしました。
次回はラフトクランズが・・・破滅の白い氷に貫かれます。
それを見た玉座機が咆哮を上げ、無窮の剣をその手に。