Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

77 / 87
簪の特訓

更識姉妹ゲンカ勃発


以上


亀裂って見えないところから広がるよね

カラオケ会の日から訓練を予定していた土日に簪が訓練に参加させて欲しいと言ってきた。完成した自分の機体で実戦の空気を感じておきたいためだろう。

 

代表候補生達は二つ返事でOKを出し、政征達も異論はなかった。訓練は試合を織り交ぜつつ、実際の戦闘で起こりうる行動を想定したプログラムだ。

 

「じゃあ、まず格闘戦から行くわよ?私が相手になるわ。よろしくね?簪」

 

「うん、よろしく。鈴」

 

爪龍を纏った鈴と打鉄弐式を纏った簪がアリーナで対峙する。簪は日本の代表候補生まで上り詰めた実力者だ。和やかに話してはいるが、鈴が隠している実力を本能で感じ取ってしまっている。

 

「(鈴は間違いなく相当の実力者。半端に訓練した訳じゃないのが分かる)」

 

「(お手並み拝見よ、簪)」

 

ブザーが鳴り、二人が戦いを始める鈴は二刀の青龍刀を手に突撃し斬りかかる。それを拡張領域から薙刀を出現させ受け止めた。

 

「薙刀とは珍しいわね」

 

「突くよりも切る方がいい。長物で切る事が出来るのはこの武器だって調べて見つけたの」

 

正確には超能力に目覚め光の力を持った戦士が、アンノウンと戦う時に使う武器を参考にしたものだ。

 

 

[簪 戦闘時推奨BGM[Duologue]スパロボOGより]

 

 

鈴の一撃を受け返した後に薙刀の石鎚を利用し反撃した。薙刀は刃で切るだけではなく、柄にある石鎚も打撃武器となるのだ。

 

回避が一歩遅れた鈴は回転で繰り出された石鎚を受けてしまい、エネルギーを削られてしまうがオルゴンクラウドの防御機能によって鈴自身は無傷だ。

 

「ぐっ・・!なるほどね。折れても殴れるし、折られないなら範囲の広い武器として使える訳ね。生身で受けたらと思うとゾッとしたわ」

 

「流石に直撃は避ける、か(あの一撃・・・自信あったのに)」

 

鈴は一息吐くと青龍刀を地に突き刺し、拳法の構えを取った。その姿に簪は目を丸くする。

 

「どういう事?武器を手放すなんて」

 

「別に舐めている訳じゃないわ。私の本当の武器はこの拳と脚なの、武器を使っているのは牽制なのよ」

 

「格闘戦重視って事かな?」

 

「そういう事」

 

鈴は両手を何度も閉じたり開いたりした後、軽く浮いて足をプラプラと準備運動にも似た動きをする。

 

「良い?神経を研ぎ澄ませなさい、一瞬たりとも気を抜いたら終わるわよ」

 

「それってどういう・・・!!!」

 

言葉を発する前に鈴は最大速度で簪の懐に入り込んでいた。

 

爪龍の拳にオルゴナイトの結晶が纏っており、ブラキウム・レイドを起動していたのだろう。

 

「これはジャブ!この連打に耐えてみなさい!!」

 

拳の弾幕とも言える鈴のラッシュに簪は薙刀で必死に防御する。鈴の拳の速さはハイパーセンサーがあっても見切るのが難しく、打鉄弐式に積んだプログラムのおかげで防御出来ている。

 

「うああああ!くっ!こ、こんなに早いなんて!」

 

予想外だった!ISで此処までの動きを、しかも体術だけで鈴は追い込んでくる。拳の弾幕だけが強さなのだと私は考えた。

 

「ISの常識なんて私達の間では通用しないわよ!簪!!」

 

「え?」

 

「見切れるものならやってみなさい!無影脚!!ハイハイハイハイハイィーーー!!」

 

「嘘!?ISで蹴り技!?うああああああ!」

 

ISの常識を覆す事に驚いた簪は蹴りに直撃してしまい、追撃をも受けてしまう。それでも攻撃の手を鈴は緩めることはしない。

 

「吹き飛べ!」

 

仕上げと言わんばかりに最も得意とする回し蹴りで簪を壁まで蹴り飛ばした。

 

「あがっ!?ぐ・・・う・・・こ、こんな戦いを・・・訓練で・・してるの?このメンバー・・・は」

 

「フー=ルー先生や政征達も言ってたじゃない、どんな形であれど戦いの場は全て戦場。命を失うかもしれない覚悟を持って立てって」

 

壁に叩きつけられた簪は薙刀を支えに立ち上がりながら、鈴に命がけに近い戦いをしているのかと聞いた。

 

聞かれた鈴はさも当然のように答える。鈴がさらに追撃をしないのは簪がどれだけの喰らいつく意思を持っているか確かめるためだ。

 

高揚して来てるのか、鈴の額や頬にはフューリー特有の模様が浮かび上がってきていた。それを見た簪は立ち上がって思わず指摘する。

 

「その模様・・・フー=ルー先生や政征と雄輔もあるのと同じ?」

 

「ええ、そうよ。だから何?私は私、本当の自分を受け入れているもの」

 

「簪、私達との模擬戦で何故戦うのか、自分が戦う理由というのを考えなさい。その答えが見つかれば貴女は必ず強くなるわ」

 

鈴の瞳にはフー=ルーや政征達と同じように自分を試練と導きを示してくれる騎士のような雰囲気を出していた。

 

「私の戦う理由・・・」

 

鈴に言われて私は初めて自問した。私はなぜ戦うのだろう、お姉ちゃんを見返すため?頂点に立ちたいから?誰かに認められたいから?

 

認められたいのは確かだ、でも、私が戦う理由はそうじゃない。お姉ちゃんと同じ舞台に立って一緒に戦いたい。小さい時に仲の良かったあの頃の関係に戻りたいのが本当の願い。

 

それから、どうしてあんな事を言ったのか。聞いてから一度殴らないと気も済まない!

 

簪は目つきが変わり、すべての砲門を展開する。それと同時にテストプログラムが起動しモニターに表示された。

 

 

 

 

「【system sympathia】システム・シュンパティア?テストしてるプログラムの名前なの?」

 

表示されたロックオンシステムには鈴を逃がさない為のホーミング機能、そして切り札となるリミットオーバーモード表示されている。

 

「ベクターミサイル!オールロックオン!発射!」

 

立ち上がった簪は飛び上がり。緩急を付けながら機体に搭載されているミサイルを鈴に向かって放った。その数、中小合わせて58発。

 

全てが完全にロックオンされ、ホーミングされている状態だ。しかし、鈴の顔には笑みしか浮かんでいない。

 

簪はその笑みの意味が分からなかった。自分を嘲っている訳でも、馬鹿にしている訳でもない。それなのに何故笑えるのかと。

 

「それが簪の全力、それを待っていたのよ!!」

 

「嘘?全てホーミング仕様でロックオンしてるはずなのに・・・!」

 

簪は信じられないものを見るように鈴の動きを見ていた。

 

僅かにしか無いはずのミサイルの抜け道、鈴はそれを見つけて隙間を潜ると上下左右に動いて緩急を付けつつ離脱することでミサイルを誘爆させている。

 

「私が想像している以上の訓練を受けてきたの!?」

 

「モード・セット、オルゴンシャドウ!余所見してる場合?まずは二発!!」

 

巨大な拳の形をしたオルゴナイトの結晶を分身と共に放ち、残ったミサイルを迎撃し爆煙によって目くらましを作った。

 

「目くらまし!?どこ・・・!?」

 

「上よ!シャドウは一体だけじゃないのよ」

 

フューリーとして自覚した鈴はシャドウを16体から18体に増やしていた。サイトロンとの親和性が高まった恩恵だろう。

 

「っ!!!!!」

 

「全部受けなさい!!」

 

本体と分身から放たれた拳の形をした巨大なオルゴナイトの結晶が簪に迫ってくる。回避することは叶わない、それならダメージを最小限にするために後ろへ退くようにして防御する。

 

「きゃああああ!」

 

簪が攻撃を受けたと同時に終了のブザーが鳴る。実戦と変わらない戦いをしていてもこれは訓練だ、機体を損壊させたり怪我をさせては本末転倒だ。

 

「大丈夫?簪」

 

鈴が手を差し出し、立ち上がれるようにする。勝ち負けに関係なく純粋に相手を労っての事だ。その手を掴み、簪は立ち上がった。

 

「大丈夫、でもこのメンバーでやる訓練は練度が濃いね。今までやってたのがお遊びに見えるくらい」

 

「あはは、それは大袈裟よ。私だって未だにあの二人には勝てないんだから」

 

あの二人というのはラフトクランズを扱う男性操縦者の二人の事だろう。鈴も勝てないだなんてどれだけ強いのだろう。

 

「私は格闘。セシリアは空間攻撃、シャルは戦術射撃、ラウラは強襲を得意としてるのよ。私達は長所を伸ばしながら短所を補えるように訓練するの」

 

「長所を伸ばして短所を補う・・・そんな訓練があるんだ」

 

「セシリアはビットで逃げ場を無くしてくるし、シャルは自分の間合いで戦わせてくれない。ラウラは軍人だからもっと凄いわよ?」

 

「何・・・それ」

 

想像した簪は顔を青ざめてしまった。無理もないだろう鈴の動きを見て気づいた事だが、このメンバーは誰もが国家代表になっても可笑しくないくらいの実力がある。

 

己に枷を付けてまで何故、代表候補生のままなのか?そんな疑問が簪の中で湧き出てくる。

 

「簪、これは私が自分でたどり着いた持論だけどね。力を持ったならある程度、隠さないといけなくなるのよ」

 

「!?どうして?ちゃんと立証すれば!」

 

疑問に答えるように鈴が話を始め、簪の反論を聞く前に鈴は肩を貸しながらピットへと戻り始めた。

 

「確かに全部の力を見せつければ賞賛されるわ。けど、その後はどうなると思う?」

 

「え?どうって・・・」

 

「その力をずっと維持し続けろと言われるでしょ。どんなに維持しようとしても衰えていくのは止められない、次の世代に追い抜かれる時が必ず来るわ」

 

鈴の持論はある意味正論だ。今はどれだけ強くともいずれは衰え、次の世代が生まれて追い抜かれる日が来る。

 

自らが苦労して手に入れた力を手放すのを嫌がるのは当然の事だ。しかし、それ以上の力に対抗できなくなってしまえばどうなるか?

 

盛者必衰、栄えるものはいずれ必ず終わりが来る。戦士だった千冬が今、教壇に立っているのがいい例だろう。

 

「だから力を隠すの?それならどうして訓練を続けるの?」

 

「守りたいからよ、ここで出会えた最高の友人達をね」

 

ニカッと輝くような笑顔を見せて来た鈴が簪には眩しく見えていた。ああ、これが私の目指したい英雄の姿なんだ。

 

「それと、英雄になろうとしちゃダメよ?」

 

「え?」

 

考えを読まれたかのように簪は驚き、鈴は真剣な目付きで簪を見ている。

 

「英雄ってのはね、英雄になろうとした瞬間に英雄じゃなくなるの。英雄なんてこじ付け、賞賛されることじゃないのよ」

 

「(その言葉は)でも、私は!」

 

「目指すな、とは言わないわ。でもね・・・卑怯だと思われる事が戦略だと言われるのを忘れないで」

 

ピットから鈴が去るまで簪はその背中を見つめていた。自分より背丈が小さいのに大きく見えて遠くに居るようにも見える。

 

今、訓練に付き合ってもらっている各国の代表候補生、そして男性操縦者の二人。

 

全員が並んでいる状態で背中を観る事が出来たが、今の簪にとっては全員が遠い存在だ。自分も代表候補生なのにと思わずにいられない。

 

彼らにあって今の自分にないもの、それは戦場に立つ覚悟だ。競技ではなくルールなどない生きるか死ぬかの本物の戦場へ立つ事への覚悟。

 

それでも自分はヒーローに憧れる。慣れなくてもいい、覚悟なんてそう簡単にはできないし自分は自分でしかない。それが分かっただけでも簪は自分の中で新たな目標が出来上がったのを嬉しく感じた。

 

 

 

 

訓練後、簪は生徒会室に向かっていた。己に楔を打ち込んだ相手と戦うために、自分で自分の過去にケジメを付ける事を決意して。

 

扉を開けると生徒会長である楯無が驚きと感動を同時に表現するような表情で出迎えた。その隣にいる従者の虚も躍いている。

 

「簪ちゃん!ここに来てくれて嬉しいわ!」

 

「お姉ちゃん、私がここに来たのは仲良くお喋りするためじゃないの」

 

「え?」

 

「生徒会長の肩書きは抜きにして私と戦って、お姉ちゃん。いや、更識楯無!」

 

「!!」

 

簪に名前で呼ばれ、さらに驚きを隠せない。だが、簪は戦う事を望み、ごまかして逃げることは許さないと言わんばかりの雰囲気がにじみ出ている。

 

「わ、わかったわ。日にちは?」

 

「今週の土曜日・・・本気で行くから覚悟しておいてね」

 

そういって簪は出て行った。それと同時に盾無は政征に言われた事が頭をよぎる。

 

姉妹や兄弟はぶつかり合って初めてお互いを認識できるのだと。自分は妹を自分より下に居させることで守ろうとした。

 

だが、それはかえって逆効果となり確執を生んでしまった。しかも、妹は自分と戦う決意まで固めてきている。

 

それなら、全力で迎え撃つのが今の自分にできる事だと盾無は考えた。

 

「お嬢様、申し上げておきますが今の簪お嬢様は強いかと」

 

「ええ・・・」

 

虚の言葉に盾無はただ俯くしかなかった。

 

 

 

 

 

約束の曜日となり、それまで訓練に付き合ってくれた全員を集めた簪から報告があると言われた。

 

「私、今日の放課後お姉ちゃんと戦ってくる」

 

その言葉に全員が吹き出すが、その顔は真剣そのものだ。戦いを挑むという事は自分自身を姉に見せるためだろう。

 

「簪、思いっきりやってきなよ」

 

「いつまでも弱い妹ではなく、更識簪という一人の人間だとぶつけてやればいい」

 

「見せつけてやりなさいよ!アンタの強さを」

 

「簪さんならきっとやれますわ」

 

「うん、そうだよ。きっといけるから」

 

「私達との特訓を乗り越えた今ならな」

 

「ありがとう、みんな!」

 

二人の騎士と仲間の激励を受けた後、簪は笑顔で応えた。

 

その日の放課後、更識姉妹はアリーナの中心にいた。観客は代表候補生の四人と男性操縦者の二人だけ。

 

「簪ちゃん、どうして私と戦うなんて・・・簪ちゃんが私に勝てる訳が」

 

「お姉ちゃん、その言葉が上から目線になってるって気づいてないの?」

 

簪の言葉に姉であるは息を飲んだ。可愛いたった一人の妹、自分が彼女を守らなければならない立場になり、とっさに言ってしまった一言を思い出してしまう。

 

『貴女は無能のままでいなさい』

 

その言葉から始まり、姉が出来るのだから自分もできる。それだけを思い、簪は逆に自分に追いつこうと努力を重ねてきてしまった。

 

暗部の世界に踏み込ませたくはない。その思いは通じなかったのだ。

 

「私はね、ずっとお姉ちゃんに勝てないまま生きていくんだなんて諦めてた。そんな時、政征と雄輔、鈴達が私を引っ張り上げてくれたの」

 

「!?」

 

「私はどんなに足掻いてもお姉ちゃんにはなれない、同じ血を引いていてもお姉ちゃんとは違う人間だもの。出来る事も出来ない事も違って当たり前」

 

簪は少しだけ言葉を強めながら、今まで考えていた自分の意見を姉である盾無に向けて言っていく。

 

「当たり前すぎて気づくのに時間が掛かりすぎちゃった」

 

簪は一度目を閉じ、顔を伏せ探偵が被るハットを拡張領域から取り出した。そのハットは傷が入っており日常生活で使うのには適していない。

 

「一つ、私は自分一人で出来ると思って周りの人を信じられなかった」

 

「二つ、大切な人を傷つけて閉じ篭った」

 

「三つ、そのせいで周りを見る考えを持たなかった」

 

簪からブツブツと何かを聞かされる言葉に楯無は意味がわからなかった。

 

「何を言っているの?簪ちゃん!」

 

「私は自分の罪を数えたよ?お姉ちゃん・・・」

 

被っていたハットをピット付近へと投げつけ、顔を上げる。数多く観てきた特撮ヒーローの中でハードボイルドを体現している戦士のようにゆっくりと楯無を指さす。

 

「さぁ、お前の罪を・・・・数えろ」

 

その言葉と同時にブザーが鳴り、最大の姉妹喧嘩が始まった。




あれ?鈴が導く役になってる・・・?

姉妹喧嘩、勃発です。自分より下のままでいろ、これってどんな人でも「ふざけんじゃねえ!」ってなるかと思います。

因みにこの世界の簪は特撮好きなのが強調されています。それだけにヒーローに憧れやすいですが、理想とは違うと鈴が止めました。

シュンパティアの理由?弱気な子が強気になる方法ですよ(ニッコリ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。