Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

75 / 87
決闘の決着。

千冬の変化。

以上


現実って逃げ出したい出来事が多いよね

振り下ろした先は千冬の首筋であり、ほんの僅かに切り傷が付けられていた。頚動脈に近い位置ではあるが、致命傷には至っておらず応急手当をすれば治る程度の傷であった。

 

「これで、現実を見ずに盲進していた織斑千冬は死にました。今の貴女はただの織斑千冬ですわ」

 

「何・・・?どういう事だ?」

 

「今の貴女は教職者という立場も、一人の姉という立場もブリュンヒルデとしての立場もない、ただの織斑千冬という一個人。どうです?全てを降ろせた感覚は?」

 

フー=ルーの言葉を聞いて教員でもなく、一夏の姉でもなく、ISを扱うブリュンヒルデとしての自分すら無い状態。破滅の恐怖も、何も縛られていない一個人の織斑千冬という存在になった。

 

「ああ・・・そうか・・・そうだったのか」

 

今まで自分は一人で解決してきた。それ故にプライドと虚勢に塗り固められた自分を演じ続けなくてはならなくなった。

 

がむしゃらに力を求め続け、スポーツ界のISで世界の頂点にもなったが、己を保つための自衛に過ぎなかった。

 

今ここで、その総てを崩され破壊されたのだ。いや、背負い込んだ物を降ろすことが出来た。それを許されたのだと。

 

「フー=ルー教諭、いや・・・フー=ルー」

 

「はい?」

 

「ありがとう。ようやく私は私に戻れた気がする」

 

千冬は自分の腕で目を覆い、声を殺して泣いた。溢れ出した涙が頬を伝っている、悔しさとカタルシスが同時に起こっているのだろう。

 

千冬を起こそうとしたフー=ルーに向かって狙撃の弾丸が向かって来ていた。それをフー=ルーはオルゴン・ソードの刃で軌道を逸らした。

 

「フー=ルー・ムールー!千冬様を地につけた罪を償いなさい!!」

 

「そうよ!千冬様が負けるなんて絶対にありえない!」

 

「千冬様はブリュンヒルデ、最強で無敵なんだから!!」

 

 

 

 

 

アリーナの内部に侵入して来たのは千冬の熱狂的な信奉者達だ。纏っているのは強引に学園から奪い、纏ったラファールや打鉄などだ。

 

「彼女達は貴女の熱狂的なファン達みたいですわね?」

 

「こんな時に来るか」

 

フー=ルーから差し出された手を握り、千冬は立ち上がると再びヴァイサーガ・楔渦を身にまとう、傷だらけな為にフルドライブは使えないが通常戦闘は可能な状態だ。

 

五大剣を鞘から引き抜き、その切っ先を自分の信奉者達に向ける。その目からは「貴様等は私の戦いを侮辱しに来たのか?」と言わんばかりの怒気を放っている。

 

目の前にいる傷だらけの戦乙女、正に神話に出てくるヴァルキューレ・ブリュンヒルデそのものの姿と重なっている。放たれる威圧感に千冬の信奉者達は冷や汗を流し続けていた。

 

「フー=ルー様」

 

「私達も援護します」

 

反対側の入口から現れたのはフー=ルーの信奉者達だ。しかし、フー=ルーはオルゴン・ソードで塞ぐように構えた。

 

「気持ちは受け取っておきます。しかし、これは騎士の決闘の領内。理解出来ているのならば下がりなさい」

 

「はい!」

 

フー=ルーの信奉者達はおとなしく引き下がり、アリーナから去った。フー=ルーの信奉者達は女性でありながら騎士を目指している者が大半で、フー=ルーの補講授業や実務などを熱心に受けている。

 

しだいに講義の中で騎士の在り方などを教えていたフー=ルーに憧れを持つようになっていった。今の世の中は女性の社会ではあるが、彼女達は女性でありながら、小説などに出てくる騎士のように誇り高く生きたいと思っている。

 

そんな彼女達にフー=ルーは騎士としての厳しさも教えていた。それゆえ彼女達は狂信者にならずに済んでいた。

 

目の前の千冬の信奉者達は狂信者となっていた。最早、千冬への憧れはこじ付けで力を崇拝しているに過ぎない。

 

「さて、今の私はただの織斑千冬・・・私の心に従い、良いと思った事をするとしよう。まず手始めに私のせいで出来が悪くなってしまった目の前の生徒達をお仕置きするとしよう」

 

「決闘は終わりました。今は共闘するとしましょう、あの生徒には少し痛い目にあって反省させましょう」

 

二人の刃が乱入してきた生徒達に向けられる。ブリュンヒルデと博愛の騎士、正しく理解し少しでも実力が付いているものならば目の前にいる相手がどれだけ恐ろしいのか、理解出来るだろう。

 

「千冬様が私達に刃を・・・!?」

 

「千冬様!私達の目的は隣にいるフー=ルーです!退いてください!」

 

千冬はため息を吐くと五大剣を鞘に収めた。だが、威圧は変わらず生徒達に向けられている。

 

 

 

[推奨BGM【ASH TO ASH】スパロボOGアレンジ]

 

 

 

「悪いがそれは出来んな。お前達は何があってフー=ルー教諭を狙う?」

 

「貴女を地につけた。ソイツが許せないだけです!退かないと言うなら例え貴女様でも!」

 

その先を言おうとした瞬間、千冬はその生徒の背後に居り、五大剣を鞘にゆっくりと収めていた。居合抜きを終えたように鍔と鞘がぶつかり、刃が収まれる。

 

「これが風刃閃、二の太刀だ」

 

「きゃあああああああ!?」

 

生徒が纏っていたラファールは刃が収まった瞬間に機能が停止していた。斬られた生徒も周りに居た生徒達も驚きを隠せない、何故ならISだけを無効化されたのだから。

 

今の千冬に心を縛っていた鎖はない。それだけに迷いがなく、刃には重さが増していた。先程の一撃を見ていたフー=ルーは笑みを浮かべている。

 

「っ!遠慮はもうしないわ!例え千冬様でもぉ!!」

 

打鉄の射撃特化型を身に纏っている生徒はマシンガンを千冬に向かって撃っていた。それは恐怖心から来るもので己の心を制御出来ていない。

 

「やった!あの千冬様に一撃を与えられたわ!!」

 

「私は一撃?それだけで満足しているのか?」

 

「え・・・?そ、そんな、確かに私は命中させたはず!?」

 

命中させた先に視線を向けるとヴァイサーガを纏った千冬と同じ姿が陽炎のように消えていた。それを見て、全身から震えが来ている。

 

「あ・・・ああああっ!うわああああああ!!」

 

再びマシンガンを放つが全て残像を生じさせ回避されてしまっている。しかし、フー=ルーと戦った時とは違って分身を使用しておらず、更には鞘から五大剣を抜かず回避だけを行っている。

 

「ああああっ!あ・・・・?」

 

気付けば両手のマシンガンが弾切れを起こしていた。トリガーを何度も何度も引くが弾は出ず、恐怖で青ざめ始めた。

 

「そんな恐怖に飲まれた状態で当たる訳がないだろう?弾切れになったとて、武器を持っているのなら容赦はせん」

 

千冬は五大剣を鞘から抜き、圧倒的な速度で向かってくる。斬撃を打鉄に二回ほど切りつけ、仕上げの一撃となる横薙ぎの斬撃を与えた。

 

「あああああっ!」

 

「風刃閃、三の太刀。これがな」

 

二人同時に倒され、三人のうちリーダー格らしき生徒だけが残っていた。この間にフー=ルーは足止めをしていただけでダメージは与えていない。

 

「何故、何故ですか!?千冬様!私達は貴女の為に!!」

 

「私の為?勘違いするなよ、小娘共が・・・。私はフー=ルーと正々堂々戦い、敗れた。それをお前達が認められずにフー=ルーを倒そうとするなど、私の戦いを侮辱している事に他ならん!」

 

千冬の言葉にリーダー格の生徒は打ちのめされた様な感覚に陥る。お前達がやろうとしている事は私を侮辱しつつ、自己満足に浸るのと同義であると千冬自身が言っているのだ。

 

「っっ!貴女まで堕ちたのですね!ならば私が貴女を元に戻します!!強く気高かった千冬様に!」

 

「力しか信じていなかった私に戻す・・・か。余計な事だ」

 

「そこにいる奴の洗脳を解いて差し上げますから、今は倒れてください!」

 

リーダー格の生徒の言葉にフー=ルーは千冬の隣へ並び、ソードライフルを構えながら話しかけた。

 

「あれが現実を見ようとせず、盲進し自分の都合の良い世界を作り出した者ですわ」

 

「私もあの状態に近かったというのか?」

 

「ええ、弟を救いたい。その一点しか見ていなかったのです」

 

フー=ルーの言葉は冷酷にかつ残酷に千冬の心を抉った。目の前に鏡に映った自分等しい存在もいる。だが、今の千冬はそれすらも受け入れていた。

 

助け出せる、やり直せるという甘い考えは最早無い。ならば自分の心が求めるのは何かと考えた結果、弟の介錯であった。

 

弟は何かしらの処置を施され、それが解けることはない。肉親殺しが最大の罪とされているのならば自分はそれを背負う覚悟はある。

 

弟の罪は肉親であり、姉である自分の罪。その罪を断ち切るために剣を取る、ヴァルハラへ導く戦乙女のように。

 

少し考えてみれば自分も間接的に人を殺している。あの白騎士事件で。

 

人殺しの罪は人殺しが背負う。これではまるで毒を以て毒を制すの言葉通りではないかと自虐した。

 

「今はあの子の目を覚まさせてあげましょう。常勝無敗の人物などいない、ただ力の扱いが出来る人間なのだと」

 

「そうだな・・」

 

オルゴンソードと五大剣、二つの刃の鋒が向けられた。それは宛ら武士と騎士が並んでいるようにも見える。

 

「お前が、お前が千冬様をおかしくしたんだああああああああああ!!」

 

叫びながらラファールに装備されているライフルを狙いなどつけずに撃ってくる。二人はシールドマント、シールドクローを掲げ、銃弾を防御した。

 

「逆恨みもほどほどにしてくださいな」

 

そのまま近づいていき、それでも弾丸の雨が止むことはない。逆に近づかれる事が重圧となって相手を追い詰めていく。

 

「来ないで来ないで来ないで!来るな来るな来るなぁあああああ!!」

 

「!烈火刃!!」

 

千冬の投げた刃は武装とスラスターに突き刺さり、燃え上がった。両方は使用不能だろう。その隙を逃さずフー=ルーがオルゴンソードで斬りかかった。

 

「この剣は覚悟の証、止められるものではなくてよ?」

 

たった二回の斬撃でISを解除されたリーダー格の生徒はその場で座り込み、自然喪失状態になってしまった。都合の良い現実だけを見て、現実をいきなり直視させられた結果だろう。

 

 

 

 

 

「さて、私達の戦いは終わりましたわね」

 

「ああ、やっとな」

 

二人は機体を解除すると生徒達に校舎へ戻るように催促した。戦いを挑んできた生徒達は教員達によって連れて行かれた。

 

その後、ラフトクランズ・ファウネアとヴァイサーガは修理と調整を行うことになり、整備陣営に預けられた。

 

二人に戦いを挑んだ生徒三人は二人が二週間の停学、リーダー格だった生徒は自然喪失状態となった為に休学となった。

 

 

 

 

その頃、アシュアリー・クロイツェル社の研究施設では一機のISが完成間近となっていた。

 

「私の専用機、ラピエサージュ・アルキュミア」

 

継ぎ接ぎの錬金術師の名を持つ専用機。ラフトクランズなどを始めとするあらゆる機体の武装や、機体特性を参考に作られた機体である。

 

「・・・・候補は地点は三つ」

 

コンピューターには世界各国の未開となっている地域が映し出されていた。

 

「最初で最後の大ゲンカ、盛大にやるとしようか?ねえ、箒ちゃん・・・」




デート回は次回です。

束さんならグランゾンじゃないの?と言われそうですが、グランゾンは流石にと思ったのでボツにしました。

その代わり、パーツや調整しだいで変化するラピエサージュにしました。

ラピエサージュって準チートですし、精神的に成長した束さんが乗ったら十分すぎるのではないかと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。