Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

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ブルー・ティアーズが過負荷状態

簪の機体のプログラムにシュンパティア的なフラグ

千冬とフー=ルーのぶつかり合い


以上


どんなに仲が良くても許せない事ってあるよね

フー=ルーと千冬が決闘を承諾し合っている同時刻、政征と雄輔はセシリアと共に簪のいる整備室へと足を運んでいた。

 

「あ、政征。それに雄輔も!あれ?イギリス代表のセシリアさんまで」

 

「こうして会話するのは初めてですわね。更識簪さん」

 

「うん、そうだね。私の事は簪って呼んでいいよ」

 

「では、わたくしの事もセシリアとお呼び下さい」

 

簡単な会話を済ませ、簪は政征の方へと向き直る。

 

「簪、機体の方はどうだい?」

 

政征が重要な話題に触れると簪は複雑そうな顔で言葉を紡いだ。

 

「機体自身に問題は無いんだけど、プログラムに問題があるの。マルチロックオンプログラムが組めなくて」

 

「うーん、マルチロックオンか。難しいな」

 

「ああ、プログラムに関しては基本的な知識しか無いし」

 

行き詰まっていた所、政征の携帯電話から着信音が鳴り、画面を見るとそこにはウサギのマークが表示されていた、本体を手にし取り出すと操作して着信を受けた。

 

「(束さん?タイミング良いな)はい、もしもし?」

 

「あ、まーくん?束さんだよ!」

 

受話器からは陽気な束の声が響く。どうやら何かしらの要件があるようだ。政征は一人になれるよう部屋から出ると廊下で会話を続けた。

 

「実はね、武装によってロックオンが変わるプログラムを開発したんだ!だけど、テストしてないから、まーくんか、ゆーくんに頼もうかと思って」

 

「束さん、俺達のラフトクランズはテスト機じゃ・・・!待てよ?束さん、そのプログラムってマルチロックオンって出来ます?」

 

「通常時はマルチロックオンだよ。接近戦とかになったら距離を算出してロックオンを切り替えるんだ」

 

政征は束に交渉しようと考えた。簪の機体に組む込めれば打鉄弐式は形になるのではないかと。

 

「束さん。俺達が使うよりも、それを日本の代表候補生の子に譲ってあげられませんか?」

 

「え?あの子に?」

 

「条件としてプログラムテストのレポートをメールで提出させますから」

 

「なら良いよ。流石にタダではあげられないからね」

 

「ありがとうございます。それとですね」

 

「ん?何かな?」

 

電話をしてきたこの機会を逃さず、政征は伝えられる事を全て伝えようと電話を切らせなかった。

 

「イギリスのブルー・ティアーズっていう機体が操縦者の動きについて行けなくなってきているようなんです。動きが鈍いと言っていまして」

 

「あちゃー、やっぱり出て来ちゃったか。その子の身体はね?試作機として作られたから、ドッキング状態で強化アーマーを使い続けてきた為に、余剰出力に耐えられなくなっちゃったんだよ!夏休みの時に改修したけど、誤魔化しみたいなものだったから」

 

「という事はどうなるんです?」

 

「形を保っている今のうちにオーバーホールを兼ねて、一から作り直さないとコアごと壊れちゃうよ」

 

ISの生みの親であり、科学者でもある束が言っているのだから間違いないのだろう。しかもコア諸共となれば重大である。それを知ったセシリアはどうなるだろうか?失意に落ち込むだろう。

 

「あ、ゴメン!まーくん、少しだけ待ってて!」

 

束が電話を保留状態にしてきた。誰かしら来たという事なのだろう。それも会社の人だと予想できる。

 

「大変だよー!!まーーーくん!」

 

「ぎゃああああ!?」

 

耳がキーンとなるような叫び声に政征は悲鳴を上げる。思わず電話から耳を離してしまうが、手にしっかりと握っている。

 

「い、いきなり大声を出さないで下さいよ!」

 

「ああ、ごめん!ってそれよりも大変なんだよ!亡国機業の機体の中にイギリスから強奪された機体、サイレント・ゼフィルスがあったんだよ!」

 

「ええ!?それって大変な事態じゃないですか!というよりも俺に教えて大丈夫なんですか!?」

 

「上からの指示でイギリスの代表候補生に君から伝えて欲しいって。あ、見つけたことは既にイギリスの支部を通して、偶然私が見つけて奪還したって事でイギリス政府には報告済みだよ」

 

束が偶然見つけたとなれば政府も納得できるだろうという判断だ。開発者ならば見つけて奪還する事は実際、容易い事実である。

 

「それで、話を戻しますがブルー・ティアーズに関しては?」

 

「そうだね。コアが無事なうちに強化アーマーの余剰出力をエネルギーに利用出来る機体を用意しておくよ。ちょっとしたサプライズと共にね」

 

「サプライズ?」

 

「それは後々のお楽しみ!レポート用アドレスは君の携帯に送るから教えてあげてね。確認したらプログラムとサプライズを送るから!じゃ、バイビー!」

 

要件を終えた束は通話を切ってしまった。やれやれと思いながらも政征は携帯をしまうと部屋の中に戻った。

 

 

 

 

 

中へ戻ると三人はマルチロックオンに関して意見を出し合っているようだが、一向に形にならない様子だ。

 

「簪、アシュアリー・クロイツェル社の研究部長から、ロックオンプログラムのテストをして欲しいって依頼が来たけど受けてみるかい?」

 

「え?良いの?」

 

「ああ、ただしプログラムに関しての改善点やレポートをメールで提出しなくちゃならないけど」

 

政征は簪に事実を少し隠した上で伝える。開発者である束からのプログラムだと聞いたら失神するかもしれないからだ。

 

「ありがとう。でも、どうしてこんなにも協力してくれるの?初めて会った時から」

 

「【手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それがいやだから手を伸ばすんだ】ってセリフ知ってるかな?」

 

「!!それって、特撮ヒーローの・・?」

 

「そういう事だよ。機体を完全に仕上げてお姉さんと戦うんでしょ?」

 

政征に続く形で雄輔が口を開く。それは冷静な彼が最も気に入っている熱い言葉送るために。

 

「【俺たちは弱い。だが、弱いからこそ強くなれる。これまでも、これからも】そうじゃないのか?」

 

「あ、それも聞いた事ある!」

 

「それと、お姉さんと戦う時に言ってあげたら?」

 

「そうだな。二人で一人の戦士になって相手に投げかけるあの言葉をな」

 

二人は目配せした後、まるで本人そのものになりきった様にセリフを言った。

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ」」

 

それを聞いた簪はキラキラしたように感動していた。赤髪と青髪という特殊な髪色も相まって特撮のキャラクターそのものに見えたのだ。

 

「私、頑張る!そのプログラムのテスト引き受けるよ!」

 

「じゃあ、これアドレスね?簪の端末に送信しておくから」

 

素早く携帯を取り出し、アドレスを送るための操作をしてアドレスを送る。

 

「ありがとう!それとね、打鉄弐式の名前を変えようと思うの」

 

「名前を?」

 

「そう、打鉄弐式改め・・・ケラスス・レーギーナ!登録されちゃってるけど私はそう呼ぶ」

 

 

そんな会話をしているとセシリアが先程の二人を見た上で声をかけた。

 

 

 

 

 

 

「演技、お上手でしたわね」

 

なりきっていた二人に対してセシリアは冷静に感想を述べていた。呆れているわけではなく演技が上手い事に素直に賞賛していた。

 

「そうでもないよ。あ、そうだ!!セシリア、少し良いかな?」

 

「はい?」

 

簪達から距離を離した後、セシリアに小声で束から伝えるべき事を伝え始めた。ブルー・ティアーズの後継機であるサイレント・ゼフィルスが束の元にあり政府には報告済みである事、ブルー・ティアーズ自身がやはり限界で、このままではコアごと壊れてしまう事実を伝えた。

 

「そうでしたか、やはり限界が来てしまっていたのですね」

 

「束さんがブルー・ティアーズのコアの為に新しい機体を開発中らしいから、それに乗り換える事になるかもしれないな」

 

「機体が変わってもブルー・ティアーズと戦えるのが私には嬉しいのです」

 

真面目な話が終わると、飛び込むように本音が整備室に入って来た。全力で走ってきたらしく息が切れている。

 

「はぁ・・・はぁ・・!大変だよ~!」

 

「のほほんさん、話す前に喉を潤してからの方がいい」

 

雄輔は紙コップを手に取るとウォーターサーバーから水を注ぎ、それを本音に渡した。

 

「んぅ、んぅ!はぁああ・・・生き返ったよ~。ってそうじゃない~!大変だよ~!」

 

「一体何が大変なのですか?本音さん」

 

「織斑先生とフー=ルー先生がアリーナで決闘するって~!」

 

本音の言葉に反応したのは雄輔だった。何故、自分の担任と恋人が戦う事になったのか?雄輔は本音に迫る勢いで聞いた。

 

「どういう事だ?のほほんさん!詳しく聞かせてくれ!」

 

「こ、怖いよゆーゆー・・・」

 

「雄輔、落ち着けよ。それで、のほほんさん。どうしてあの二人が決闘する事になったんだい?」

 

政征が雄輔を本音から引き剥がし、喋りやすい環境を作る。落ち着いたのか本音はポツポツと話し始める。

 

「うん、織斑先生とフー=ルー先生が言い争って、フー=ルー先生が織斑先生へ手袋を投げつけてたのを見てた人がいたって話だよ~」

 

「本気の決闘だな・・・。一切の遠慮なしの」

 

「え?どういうことですの?」

 

セシリアの疑問に政征が真剣な顔で答えた。

 

「クラス代表を決める時、決闘だって言った事があったけど、あの時はあくまで名義上だったんだ。手袋を投げつけたって事は、生死を賭けるほどの戦いになるって事」

 

「そんな・・・」

 

「余程の事があったんだろうね。それでのほほんさん、決闘の日にちはわかる?」

 

「今日から二週間後だって、新聞部の人が言ってた~」

 

新聞部に知られたという事は当日、千冬やフー=ルー目的でギャラリーがくるだろう。しかし、この戦いは見世物ではなく、本気の殺し合いに近い事を二人の騎士は予感していた。

 

だが、決闘を止めさせる訳にはいかない。決闘を止めるという事はその決闘に立つ者を侮辱する事にほかならない行為だからだ。

 

雄輔はやり場のない気持ちを押し殺し、歯を噛み締めていた。生死をかけた戦いに向かおうとしている恋人に声をかけたくともかけてはならない。かけてしまえば騎士の掟を破ってしまう。

 

「くっ!」

 

「雄輔さん!?」

 

セシリアの制止を振り切り、整備室を出て行った雄輔は離れた位置で壁を殴った。かつて親友が嘆き、苦しんだ恋人との一時的な別れ、それが今、己で味わっている。

 

手を伸ばせば届くのに伸ばしてはいけない。親友は恋人を洗脳され戦った。自分は恋人を助けてはいけない掟に縛られた。

 

「勝ってくれ・・・フー=ルー」

 

今の雄輔にできる事、それは恋人であるフー=ルーの勝利を願う事だけであった。

 

 

 

 

 

 

そして二週間後、決闘の日の当日となった。この日は誰もがアリーナに集い所狭しと言わんばかりに生徒達や教職員が詰めかけている。

 

そんな中、ピットの待機室の椅子に腰掛けたまま千冬は何かを待っている。扉が開きそこへ真耶が手に匕首サイズの小太刀を握って入ってきた。

 

「織斑先生、これが先生の機体です。今は待機状態になってますが」

 

「そうか、ありがとう」

 

小太刀を受け取り、手にする。待機状態の機体は千冬を認めたかのように一瞬だけ輝いた。

 

「機体展開」

 

刀の鯉口を切ることが展開の合図であるらしく、千冬は久々のISに大きく深呼吸をした。

 

「VR-02・・・ヴァイサーガ。それがこの機体の名前、か」

 

千冬は一足先にアリーナへ飛び出す。一次以降(ファースト・シフト)すら出来ていない機体で飛び出すなど、弟の初陣と同じではないかと思い自虐した。

 

自分が出来たのだからお前も出来るだろうという考えを、今更になって後悔する。いざ、自分がその立場に立ってみると丸腰で戦えというのも同じ状態ではないか。

 

居なくなって初めて己の失態を自覚する。これは最早、悪癖に近いだろう。

 

そんな風に自己反省していると向かい側から、最早、この学園の人間にとって見慣れている機体が現れた。

 

機体のカラーリング。頭部部分は違っているものの紛れもなくその機体はラフトクランズであった。その操縦者はフー=ルーである。

 

「お早いのですね。それにまだ完全では無い」

 

「ああ、しばらく待っていてもらえないか?一次以降(ファースト・シフト)が完了するまで」

 

「ええ、対等でなければ意味はありませんもの」

 

千冬は歩行と飛行を繰り返し続け、一次以降(ファースト・シフト)を完了させた。

 

背にはマントのようにしなやかなシールド、腕部に装着された爪、極めつけは鞘に収められた剣だろう。見るからに剣撃戦闘用であることが伺える。

 

「これがヴァイサーガの姿・・・か。武装は?メイン武装は五大剣。投げナイフと似た烈火刃、腕にある水流爪牙、斬撃を衝撃波として飛ばす地斬疾空刀、エネルギーを利用して風の渦を引き起こし剣で一撃を加える風刃閃・・・それから」

 

「リミッターを解除し、フルドライブで相手を音速で斬る奥義・光刃閃か。なるほど、確かに武装と追従性から私向きの機体だ」

 

一次以降(ファースト・シフト)を完了させた千冬は武装の全てを試した後、フー=ルーと向き合った。

 

「待たせてしまったな。始めようか」

 

「ええ、それに時間はさほど経っておりませんわ」

 

千冬は五大剣を構え、フー=ルーはソードライフルをソードモードに切り替え、オルゴンソードを礼節のように構えた。

 

「織斑千冬、参る!!」

 

「フー=ルー・ムールー!お相手致しますわ!」

 

二つの刃が交差し、火花が散る。これこそが二人の女傑の戦いの合図であった。

 

「叩き切ってやる!貴様の気概を!!」

 

「止めてみせますわ!貴女の盲進を!!」

 

性質の違う二人の女傑が譲ることの出来ない思いを剣に込めて、戦いによる対話が今ここに始まった。




ブルー・ティアーズは過負荷状態ですが、名称は変わらず別の機体にコアを移されます。

束さんが作成し、テストさせようとしたプログラムはリ・テクノロジストの技術が使われています。無論、アレです。

二人の決闘はどちらが勝つか。

千冬さんへヴァイサーガを選んだ理由は近距離武装が多い事と剣を扱う事でピンと来た為です。

介錯役になるやもしれません。

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