Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
以上
裏側 三つの血筋
裏側 それぞれの血統
あの戦いの後、すぐに私は今は連絡しか取る事の出来ないお母さんに電話で連絡した。フューリーという単語を口にした途端、電話越しからも解るくらい驚くのが伝わった。
「鈴、私が日本に行くわ。一週間滞在するからそこで全てを話すわね」
「分かったわ」
鈴の母である凰蘭は当日に出発し、予約したホテルにチェックインし、鈴に連絡した。すぐに行動に移す所を鈴は受け継いだのだろう。
「鈴、ラースホテルまで来て。そこで会いましょう」
「うん」
鈴は夜間の外出許可を取り、母親が指定したホテルへと向かった。IS学園からは電車に乗り、二つ目の駅に降り30分ほど歩いた距離にあった。
「鈴!」
「お母さん!」
久々の親子の対面とあって鈴の母は鈴を抱きしめた。無論、変化にも気づいており、しばらくして身体を離すと宿泊している部屋に鈴を招き入れた。
「鈴、聞きたい事は分かるけど、どこから聞きたいのかしら?」
「お父さんもお母さんも、どうしてフューリーなのか?から聞きたい」
鈴の真剣な顔に鈴の母は少し目を閉じると、見つめ返しながら口を開いた。
「先ずは、これを見せないといけないわね」
そう言って鈴の母は髪をかき分けた。そこには鈴にとって見覚えのある紋様が額の左右にあった。
「それって、政征や雄輔の顔にある模様と同じ・・・」
「知っているのね?鈴が考えている通り、これはフューリーである事を示す一族の模様よ。本来は生まれた時からあるものだけど」
髪を戻すと鈴の母は静かに語り始めた。
「私はね、お父さんと出会う前にステイシス・ベッドから目覚めて、地球の環境を報告する担当者だったの」
「ステイシス・ベッド?」
「分かりやすく言えば人工冬眠装置よ。目覚めたのはちょうど貴女ぐらいの年頃、16歳位ね」
「(だからお母さん、年齢の割に周りから若く見られてたのね)」
「りーんー?今、何か失礼なこと考えなかった?」
「う、ううん!(お母さん、変な所で鋭かったの忘れてたわ)」
昔から母は勘が鋭く、失礼な事を言われたりすると問い詰めてくるので余計な事は言えなかった。
「まぁ、いいけど。それからちょうど地球人で言えば25歳の時にお父さんと出会ったの。お父さんは軍属だったけど」
「どうりでお父さん、揉め事に強かった訳ね」
「恋愛して普通に結婚して貴女が産まれた。ここからがフューリーに関することよ」
話の本筋に入るという意味なのだろう。母の目は怖いくらいに強い光を目に宿している。
「純血なのは本当に偶然なのよ。私は純血だって自覚してたわ、お父さんが純血に気づいたのは貴女を身篭った時よ」
「え?」
「お父さんはステイシス・ベッドから目覚めた時に調整不足のままで眠ってしまって、記憶が封印されていたの。言いにくいけど子作りで記憶を取り戻したのよ」
「流石にそれはドン引きだわ・・・」
親の記憶が子作りで戻るなど、子供からすればあまり気分のいいものではない。母は笑いながら話を続ける。
「貴女が生まれた後、すぐに昔の知り合いに連絡して、貴女のフューリーとしての力を封印したのよ」
「どうして?」
「フューリーとして生きれば否応なしに戦いへ駆り出されるわ。そんな事はさせたくなかったの」
「それに人は違うものを忌避する。分かるでしょう?そのせいで、私は貴女が苦しんでいたのに私は何もできなかった」
母の顔から悲しみに満ちたトーンで鈴に話しかける。かつて日本で生活していた時にいじめられていた事を言っているのだろう。
子供の問題は子供一人で解決すべきレベルを越えた場合、親が出るものだが、父親よりも母親の意見が通ることが多い。
だが、鈴の家庭は中華料理店、しかも人気店であった為に子供の問題に手が伸びなかったのが現実だ。
「その事はもう大丈夫よ」
「そう言ってくれると気が楽になるわ。それで貴女のフューリーとしての力は結果的に、再び訪れたこの日本で目覚めてしまった」
「うん、自覚してる」
「だから、最後の封印を解いてあげる。鈴」
鈴の母は鈴の額に手をかざし、何かをブツブツと唱えるように言葉を紡いでいる。そしてその後。
『鳳凰は鈴の音と共に飛び立つ』
暗示に近い封印であったのか、ただの解除キーかは分からないが、母から発せられた言葉を聞いた瞬間、自分の中で何かが弾け飛んだ感覚を味わった。
「鈴、これで貴女に託せるものは全て託したわ。フューリーなのを黙っていて本当にごめんなさい」
「いいの、フューリーだって事にショックは受けたけど、そのおかげでサイトロンと爪龍が使えるし、逆に感謝してる」
「それならフューリーとしての名前も教えておくわね?フューリーの名はファン=リン・ウィルトスよ」
「ファン=リン・ウィルトス、それが私のフューリーとしての名前・・・」
噛み締めるのようにフューリーとしての名前を呟く。どちらも自分自身には変わりはない、自分がフューリーの純血であると改めて聞かされてから覚悟していた。
「お母さん」
「なに?」
「私の顔にもフューリーの紋様を付けて?出来ればお父さんのも含めて」
愛娘からの言葉に鈴の母は驚く。顔の模様は覚悟を決めた戦士の証でもある。それを刻んでくれと自分から進言してきたのだから。
「本当に良いのね?」
「うん、お願い。地球人としての凰鈴音の名前は捨てないけど、しばらく伏せておきたいから」
「そう、分かったわ」
鈴の母が近づき、鈴の頬に触れると額と頬に花弁のようで鳥の爪のような模様が浮かび上がった。
それが、ファン=リン・ウィルトスを名乗る女性フューリーの誕生であった。
◇
鈴が母と出会っている間、セシリアの元に小包が届いていた。差出人はチェルシーで手紙と鍵のついた古い日記帳、それを開けるための鍵と一枚の古い写真が同封されていた。
「一体、これは?」
日記の鍵を開ける前にチェルシーからの手紙を読もうと紙を開く。謝罪からの文面のようだ。
『お嬢様、突然の荷物をお許し下さい。同封した日記らしきものは屋敷の掃除をしていた時に偶然見つけた物です。写真の方を見てしまい大急ぎで送りました。恐らくですが、お嬢様が最も知りたい事が同封した日記に書かれているかと思います』
手紙を読み終えると古い写真を手にして見る。そこには二十代半ばの男性と長い髪を持ち貴族が着るようなドレスを身に纏った女性が写っていた。
「これは?曾祖母様ですの!?それにこの男性、政征さんや雄輔さんの顔にある紋様と似ている物が」
写真を見た後、母と同じような顔立ちに驚きつつ日記の鍵を開ける。中身はかなり分厚く、人生の中で重大な出来事を書き留めてきたかのような厚さだ。
『あの方と出会い、私は恋した。でも私は貴族の身、許されざる恋だ』
読み進めていくうちに当時の婚姻が厳しかった事などの情景が浮かんでくる。それだけ、自分の曾祖母は自分で選んだ伴侶に本気だったということだ。
『私と共に逃げて欲しいと頼んだ。でも、あの方は騎士として君を迎えに来ると言って旅に出てしまわれた』
『数年後、あの方が戻ってきた。しかし、オルコット家の仕来りでわたくしの両親が決めた婚約者ともう一人婚約者が現れた場合、決闘にて決めねばならない。これは騎士の武家であるためだから』
「曾祖母様・・・」
読み込んでいくうちに自分がその場に立っているような錯覚に陥ってくる。僅かにブルー・ティアーズが光ったのにセシリアは気づかなかった。
『決闘は一進一退だった。でも、両親が連れてきた婚約者の一撃をあの方は迷いなく腕で受け、急所に一撃を加え倒してしまいました』
『両親は驚きを隠さず、あの方を仕方なさげに彼を受け入れた。無理もない、彼が倒したのは資産家の御子息だったのだから』
次々に読んでいき、曾祖母が幸せな結婚をしながらも葛藤していた事も書かれている。
結婚後、彼は本当に支えてくれた。娘を出産した時にも「性別など関係ない、私達の大切な子供だろう?」と。まるで本物の騎士のようだ。
子供が出来てから様子が変わったのだ。どうやら曾祖母に自分は地球の人間ではないこと、フューリーである事を明かしていたようだ。
『私は信じられなかった。心を惹かれたあの方が別の種族だという事にわたくしと子供に深い愛情を注いでくれたあの人が』
『夫婦関係を解消するつもりで言ったのではないと言ってはくれましたが、不安は拭えません』
『彼曰く、私の代で純血としては絶えるかもしれない。しかし、子孫の中で隔世によって純血に近しくなる者も現るだろうと』
ここまで読んでセシリアは王の意志となっていたリベラの言葉を思い出す。自分達の世代で目覚めたのだと
「目覚める・・・という事はわたくしの家系はフューリーの血を引いているということなのでしょうか?」
混血であっても、自分の家系はフューリーの血を引いている事なのだろう。セシリア自身も薄々と疑問に思っていた。
臨海学校時、ブルー・ティアーズにオルゴンエクストラクターを束によって搭載された時、違和感なく何故、受け入れられたのだろうかと。
それがこの日記によって明らかになった。母方の曾祖母が、フューリーの騎士と結ばれていた事実を知る事ができたのだ。
「曾祖母様、曽祖父様・・・感謝致しますわ。わたくしに力を与えて下さった事に」
最後のページには子孫へ当てたメッセージらしき言葉が書かれていた。
『オルコット家の未来の子孫へ。目覚めた子孫に【ナトゥーラ】の名を与えたい。わたくしと夫、そして会う事は叶わぬ子孫との繋がりとして』
「フューリーとして名乗るなら、セシ=リア・ナトゥーラという事になるのでしょうね」
セシリアは嬉しげな笑みを浮かべながら日記を閉じると、かつて自分の思想に間違いはあったにせよ、自分の家系は誇り高い貴族の家系であった事を誇りに思った。
◇
それぞれが思いを馳せている頃、シャルロットは義姉と義兄であるカルヴィナとアル=ヴァンの家にいた。
そこへ実家であったデュノア社にいた社員の一人から、カルヴィナ宛に小包が届けられたのだ。
「シャル、貴女宛に小包が来てるわよ?」
「ボクに?誰からだろ・・・あ、アガットさんから!?」
それはカルヴィナと出会う前、デュノア社にいた時にシャルロットがお世話になった年配の女性であった。
既婚者で女尊男卑の思想にも染まってない人物であり。また、シャルロットの実母が亡くなる直前まで親しくしていた人物でもある。
小包を開けるとそこには一冊の日記帳らしきものが入っていた。
「日記帳みたいだね、お母さんの筆跡だって間違いない事を証明するために、アガットさんってば筆跡鑑定までしてくれたんだ」
添えられていた手紙を見てシャルロットは笑みを浮かべる。アガットは研究員であり、科学捜査官でもあるため鑑定ができたのだ。
『まだ見ぬ娘、シャルロットへ』という件から始まり、日記を読み進めていく。
日記の日付は自分を妊娠し、三ヶ月経ってから始まっているようだ。
『私は恐らく、貴女が産まれる頃には私はこの世にいない』
『この日記に書き綴った事は全て真実、これが手元に届く時、貴女が受け止められるほど強くなっていると信じて書きます』
日記を読み進めていくうちにシャルロットは驚愕の事実に打ちのめされ、義姉と義兄であるカルヴィナとアル=ヴァンを呼ぶことにした。
「カルヴィナ義姉さん、アル=ヴァン義兄さん。少し良いかな?」
「あら、どうしたの?シャル、追い詰めた顔して」
「ああ、何があった?シャル」
「うん、これを読んで欲しいんだ」
シャルロットは手にしていた実母の日記を二人の前に差し出す。それを見て更に二人は首を傾げる。
「これ、産んでくれた本当のお母さんの日記なんだけど・・・途中まで読んでたら一人じゃ全部読めなくなっちゃって」
「よほどの事情があるようね、三人で読んでみましょう」
「ああ、そうだな」
カルヴィナとアル=ヴァンはテーブルに置いたまま日記のページを開いていく。シャルロットが読んだ所まで読み進め、二人の表情が真剣になっていく。
『私の両親はフューリーという別宇宙の種族、隠していてごめんなさい。でも、私は地球で育った影響と病弱だったせいかフューリーとしての力を覚醒しなかった』
『両親から聞いていた話によれば、世代によっては覚醒する者としない者がいるそうで、私が覚醒できなかったのは病弱が原因なのだろう』
『もしかしたら、貴女が覚醒する可能性は十分にありえる。その時に傍にいられないのが辛い』
カルヴィナとアル=ヴァンの表情にも驚きが走る。まさか、自分の義妹がフューリーと関係があったのだと知らなかったのだから。
『過ちを犯してしまった子として、蔑まされないだろうか?女尊男卑に近づいている世の中で』
『混血となったフューリーは純血よりも少しだけ劣る。出来る事ならサイトロンに関わらず、覚醒はせずに幸せに暮らして欲しい』
「シャルの母君が純血のフューリーだったとはな。よもや、サイトロンの波動を浴び続けた事で動かせるようになったと思っていたが」
「驚きすぎて言葉も出ないわ。確かにこれは一人で読むには辛すぎる内容ね」
「お母さん・・・」
それぞれが驚きを隠せず、会話もないまま日記を読み進めていく。最後のページの日付はシャルロットの誕生日で終わっている。
『シャルロット、女の子だと判明して名付けようと決めていた名前。もしも、フューリーとして覚醒し生きると決めたのならば』
『シャル=ロット・アストルム、それがフューリーとしての名前です。貴女の幸せを願っているわ』
最後のページの裏側に走り書きされたような言葉が残っていた。
『シャルロットを守ってくれている方へ。もしも、この日記がその方に届いているならお礼を言わせてください。ありがとうございます』
日記を読み終えると黙祷するようにアル=ヴァンは目を閉じ、カルヴィナは静かに日記を閉じていた。
「ボクは・・・・フューリーの」
「シャル」
カルヴィナの声にシャルロットは頭を上げる。カルヴィナの表情はいつもと変わらない、厳しさを表に出した顔だ。
「一つだけ聞くわ、シャル。貴女は自分が別の種族だと思ってる?」
「え?」
「答えなさい」
「ううん、ボクは地球人だよ。フューリーの血を引いていてもね」
その言葉を聞いたカルヴィナはため息を一つ吐くと笑みを見せた。それは家族に接するときにだけ見せる微笑みだ。
「もし、自分の事を悪く言うようならひっぱたいてた所だけど。その言葉を聞いて安心したわ」
「ふぇ?」
「だって、地球人でもフューリーでも一緒になれるって目の前で証明してあるのよ」
「あっ!」
カルヴィナの言葉にシャルロットは思わず声を上げる。そうだ、二人は種族の壁を越えて愛し合っている。
自分も愛人の子とはいえど、二つの種族の間に生まれ母から望んで生まれた子供なのだと。
「カリンの言う通りだ。フューリーとしての名と地球人としての名、二つの名を誇りに思うといい。君は母君が望んで産んだ命なのだからな」
「カルヴィナ義姉さん・・・アル=ヴァン義兄さん」
カルヴィナが席を立ちシャルロットを抱きしめ、アル=ヴァンは頭を撫でた。二人からの愛情にシャルロットは涙を目に溢れさせている。
「本当に泣き虫なんだから、全く」
「ふっ、そうだな」
「うう・・・うあああああああああん!!」
シャルロットは大声でカルヴィナの胸の中で泣いた。母に望んで生まれた事、新しい家族となった二人も母と変わらぬ愛情を向けてくれる事に嬉しさと感謝を伝えてくても、それが涙となって伝えきれない。
母が残してくれた名前を胸に刻み、今だけは思いっきり泣きたいとシャルロットは嬉し涙を泣く事で流し続けた。
◇
リベラの影に告げられた言葉が真実と知った三人はその日の翌日にIS学園へと戻り、放課後を利用して三人だけで集まった。
「やっぱり、本当の事だったわ。アレは」
「わたくしも鈴さんと同じですわ」
「ボクも」
三人は飲み物を飲みながら自分達がフューリーの血筋であったことを隠さずに話した。聞いた所で三人は驚きもなにもしない。
真実を知って吐き出した事でどこかスッキリしている様子だ。
「改めてフューリーとして名乗るわ。凰鈴音改め、ファン=リン・ウィルトスよ」
「セシリア・オルコット改め、セシ=リア・ナトゥーラですわ」
「最後はボクだね。シャル=ロット・アストルムだよ」
地球人でありながらフューリーの血を引く三人は改めて名を名乗った。フューリーとしての名前を。
それはデータ世界で忠告された破滅と戦う戦士としての名前として名乗ったのだ。
「ところでさ」
「はい?」
「何?鈴」
鈴が急に口を開いて二人は首をかしげた。
「私達、反省文を書けって絶対に言われるわよ」
「あっ・・・!」
「あ・・」
三人は怒られる覚悟でフー=ルーのもとへ行ったが、鈴は母から連絡が来ており、シャルロットもカルヴィナ達から連絡が入っていた。セシリアに関しては学園の中庭に居た為に注意だけで済んだ。
「それじゃ、また明日ね」
「ええ、訓練時に」
「うん、またね」
三人はそれぞれ、部屋へと帰っていく。三人で会話していた時、ベルゼルート・リヴァイヴとブルー・ティアーズがコアを通じてデータ交換を行っていたのを誰も知らない。
判明しただけで全てが変わるという訳ではないです。
オルゴンエクストラクターを扱えるという謎が三人の中で解けただけに過ぎません。
フューリー名は二週目でも使う可能性があります。