Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
ISの意志が僅かに喋る
以上
騎士の鎧を纏いながらも獣のごとく戦い始めた政征と雄輔、一人が流血し倒れる度に従士達の戦意が喪失していく。
「うおあああああ!」
「がああああああああ!」
獣の爪を表すかのようにオルゴンクローを振るう政征、獣の牙を模したかのようにオルゴンソードでなぎ払う雄輔。
「なんだ、あれは・・・本当に騎士なのか!?」
「来いよ、俺は・・・まだ、戦えるぞぉぉ!!」
俺の中にある怒りが収まらない、別世界でもシャナを守りたいと思っていたのに守る前から離されていた。
これが無力な現実なのか、何も出来ずただ呆然と見ているだけそんなのは絶対に嫌だ。
笑われるかもしれない、蔑まれるかもしれない。それでも自分の好きな人を守れないで何が騎士だ!
そんな事すら守れないで称号に固執するのなら騎士の称号なんか捨ててやる。
「どうした、従士なら自分の敬愛する騎士を守って見せろ、来い!」
怒りを通り過ぎて俺は笑いが止まらない。頭の中は非常に冷静なのに気持ちが昂っているという矛盾した状態だ。
この世界のフー=ルーは居ない、親友の恋人も倒すべき相手の腕の中に居る。随分と残酷な場所に連れてきてくれたものだと思う。
こうして戦っているのもただの八つ当たりだ、自分の思い通りに事が運ばない事への八つ当たり。
異性を愛する事を知ってしまったからなのか、感情をコントロールするのが苦手になってしまっている、フー=ルーが居ないというだけで悔しさと歯がゆさと寂しさが表に出てくる。
しかも、誰かを傷つけなければ自分の感覚を感じる事も出来なくなってもきている。これが盲目状態ってやつなのか、愛さえあれば他には何もいらなくなるという危険な状態。
それを自分自身でなってしまうなんてお笑い種だな。結局はまだまだ足りないモノがあるって事か。
政征と雄輔、それぞれは自分の事を思いながら戦い続け、遂には隊長機であるヴォルレントを追い込んでいた。
「な、何故!騎士でもないお前達がラフトクランズを!?」
「知りたいのか?」
「なら、こちらからも条件がある」
「な、何だ!?」
「お前達が居る場所は何処だ?」
「そ、それは・・・」
リーダーたる準騎士は答えようとするも言い淀んだ。この二人に場所を教えるという事は騎士団を裏切る事になるからだ。
「言わないなら身体に聞くか?」
「ひっ!?わかった!言う、言うから!」
『裁きの光を受けよ!』
「っ!があああああ!?」
「「!?」」
上空から突如ラフトクランズ以上に強力なオルゴンのエネルギービームが準騎士のヴォルレントを捉え、跡形もなく消滅させた。
それをオルゴンクラウドの転移で回避した二人だったが攻撃を仕掛け、上空から降りてきた機体に戦慄し、汗をかいていた。
「我らを裏切る者はヴォーダの闇に消え行くのみ・・・!」
「皇帝機・・・ズィー=ガディン!」
「こうして対面すると・・・すごい威圧感だ。だが、何故?機体のコクピット部分に当たる場所が異様に大きい?」
「ほう?ラフトクランズ、その機体をまだ扱える者がおったとはな」
威圧感が漂う低い声に二人は歯を食いしばる。実際はその場に座り込んでしまいたい程の恐怖に苛まれており、それを堪えるためだ。
「お前が・・・お前がシャナ=ミアを傷つけたのか!?」
「シャナ=ミア?我が妻の事か、気安くその名を口にするな。貴様のような未熟な若造が」
「っ!ざけんじゃねえええええ!!」
「政征!!よせええ!!」
雄輔の制止も聞かず、政征は怒りのままズィー=ガディンへと突撃していく。それを見たグ=ランドンは表情を変えずにオルゴンバニシングソードを容赦なく突き刺した。
「があっ!?は・・っ・・が・・・」
「その無謀さ・・・あやつと一緒よ、貴様ではこのズィー=ガディンに傷一つ負わせられぬわ」
まるで邪魔になった異物を振り払うように政征を雄輔の隣へと投げ飛ばし、ラフトクランズを強制解除させてしまった。
「はぁ・・はぁ・・ぐ・・ごふっ!」
政征は地に叩きつけられた衝撃で吐血し、それを見た雄輔はその場で止まってしまっている。グ=ランドンは更に絶望に叩きつける事実を二人に見せつけた。
「これを見るがいい」
「!?」
「なっ!?」
二人の目に飛び込んできたのはコクピット内部に生体ユニットのようにズィー=ガディンに取り込まれたシャナ=ミアとフー=ルーであった。
「シャ・・ナ?」
「フー・・・ルー?」
信じられない、信じたくないと言わんばかりに二人の声は震えている。生体ユニットと化している二人を現実として見せつけられ、思考が停止しかける。
「愛するというのなら我と一体化させたまでよ、これによりズィー=ガディンは従来以上の性能を持ったわ」
「そ、そん・・な・・・」
「嘘だ・・嘘だ・・・嘘だァァァァ!!」
完全に戦意を喪失した二人は地に手を付け、ISを解除してしまった。
「ならば機会をやるとしよう、貴様同士が戦い勝った方が望む相手を開放してやる」
「・・・!?」
「なんだと?」
グ=ランドンの言葉に二人は顔を上げた。発せられたその言葉は甘美に二人の胸に染み込んでいく。
「場所はコロセウム、地球人達がローマと呼ぶ場所にあった闘技場で行うとしよう」
「わかった・・・」
「ああ・・・」
ズィー=ガディンはオルゴンクラウドで転移し、先にコロセウムへと向かった。政征と雄輔はお互いに睨み合っている。
いずれ戦う事になるのはお互いに分かっていた事ではあるが、それが自分の愛しい存在を人質に取られてでの戦いとは思わなかった。
二人は言葉を交わす事もせず、クド=ラに変装してコロセウムに来るよう頼んだ後に自分達も指定された場所へと向かった。
◇
数時間後、ローマのコロセウムには溢れんばかりのフューリーと帰化した地球人達が観客として集まっていた。いまや失われたとされるラフトクランズの戦いが見れるとの事で宣伝は抜群だったのだろう。
コロセウムの中心には政征と雄輔が相対しており、リベラとモエニアを手にしている。
二人は共に培ってきた友情を思い返していた。些細な事で喧嘩した事、強くなろうとお互いに決意した事、別世界で再会した事、あらゆる事が思い浮かぶ。
「俺達は逃げ続けてきた」
「その通りだ」
「だから、着けられなかった決着をつけよう」
「あぁ、これは俺達自身が乗り越えなきゃならない戦いだ。決着をつけよう!俺達の戦いに!」
お互いに退路を封じた事を示すかのように上半身を覆っていた服を脱ぎ捨てた。その様子を見た地球人の観客は盛り上がりを見せていたがフューリーの観客は静かだった。
その理由は二人の背中にあった、政征の背には皇族の剣を表す模様が、雄輔の背にはバシレウスの頭部を模した模様が浮かび上がっている。
「力を貸せ!リベラァ!」
「開放しろ!モエニアァ!!」
二人のラフトクランズは戦いを望んでいないかのようにスラスターのみしか展開されなかった。
「っ!?これは?」
「スラスターしか展開されない!?」
『我らはこのような戦いは望まない・・・』
『故に力を貸す事は出来無い』
望まぬ戦いを強いられた二機のラフトクランズは主を守る機能とスラスターのみを展開する事で主を守ろうとしている。
「頼れるのは自分の拳だけって訳か、いや・・・かえってそれがいい」
「最初に喧嘩したあの時も殴り合いだった。決着を付けるには一番だ」
「「うおおおおおおおお!!」」
同時に放った二人の拳はお互いを捉え、倒れそうになる。それでも踏ん張って構えを直す。
[推奨BGM 『X VS ZERO』ロックマンX5より]
「ぐあっ!」
「がはっ!」
二人の戦いが始まり、グ=ランドンもVIP席らしき場所で上から見ており、その顔はまるで娯楽を見ている姿そのもの。
「でああああ!」
「勢いだけで何とでもなると思うなァ!!」
「がはっ!?」
政征の一撃を簡単に避け、雄輔はカウンターの掌底を顎に打ち込んだ。その一撃を受けた政征の視界は歪み、雄輔を認識出来づらくなっている。
「く・・・う・・」
「オラァ!」
「ぐふっ!だが・・俺だって負けられねえんだよぉ!」
腹部に雄輔の拳の一撃をくらい、一瞬怯むが政征は培った感覚で雄輔の頭を掴みヘッドバッドを顔面にくらわせた。
「ぐあああああああ!」
ヘッドバットは拳以上に強力な一撃を相手に打ち込む事が出来る。ましてや政征も格闘家達に鍛えられた身であるためにその一撃は非常に重い。
「ぐ・・真っ当な技で来る訳がねえか」
ヘッドバットを受けた雄輔からは鼻血が出ており、政征も唇から血を流している。
「昔からだろ?俺は喧嘩のやり方しか知らないんだよ」
「ふ・・・だったら起き上がれなくしてやるよ!」
「上等だぁ!」
今では失われた本当の喧嘩という見世物を見せられている観客達は血肉を踊らせ、どちらも応援している。
◇
「なんで・・・なんでアンタ達が戦ってるのよ!?」
二人に呼ばれてコロセウムに来ていたクド=ラは驚きと怒りをサングラスの奥の瞳に宿していた。仇であるグ=ランドンに唆されたのだろう二人の殴り合いは拳に血が着いても止まる事はない。
「アンタ達のどちらが勝っても意味の無い事よ!?もう・・もうやめて!!」
クド=ラの叫びは二人には届かない。むしろ二人はこの戦いが自分達の望んでいた事かもしれないと考えているために止まらない。
「うおおおお!」
政征のパンチが雄輔を捉え、雄輔のパンチも政征を捉えお互いに仰け反る。
「何だ!?そのパンチは!腰が入ってねえぞ!」
「っ!雄輔ええええ!」
「がはっ!は・・・はは、そうだ、そう・・・来なくっちゃよ!」
「はぁ・・はぁ・・まだ、だ!」
フラつきながらも繰り出した二人のパンチはお互いを同時に捉え、倒れた。どちらも起き上がる気配はない。
観客達は声援を送る者もいれば野次を飛ばして戦いを再開させようとする輩まで出てきている。
◇
「興が逸れたわ、始末しろ」
グ=ランドンは興味を無くしたように配下の従士達に取り囲ませ、政征と雄輔に射撃武装の銃口が向けられる。それを見ていたクド=ラだったが自分の機体は地下で整備中であったのを思い出す。
「こんな時に整備中だなんて!」
「撃ち方用意、撃て!」
準騎士の号令で一斉に銃口が並べられ、倒れている二人に狙いを付けると同時に砲撃が一斉に始まった。
爆発による煙が舞い上がり、周りを全て覆い隠す。煙が晴れた後には何もなかった。
「消失確認」
「これで完全にラフトクランズは消滅させたか」
従士達は消失したと考え、撤退していき観客達もコロセウムからゾロゾロと出て行く。そんな中、クド=ラだけがコロセウムに残っていた。
戦いの舞台となり、二人が消えた場所に向かい口を開く。
「いるんでしょ?二人共」
『気付いておられたか』
『流石はクド=ラ殿だな』
音声のようだが、政征と雄輔の声ではなかった。声の正体はリベラとモエニアの意志だ。二人の音声を利用する事にによって言葉を発している。
ISの意志である二人は爆発と同時に二人を守るためにオルゴンクラウドで守っていたのだ。その影響でエネルギーが残り少なくなってしまっていた。
『我らも守るので精一杯だった』
『主達が起きる、よろしく頼みますぞ』
僅かな言葉を残し、ISの意志は再びコアへと戻ると同時に主たる二人が意識を取り戻した。
「うう・・・俺」
「気を失ってた俺達を守ってくれたのか・・・モエニア達が?」
「そうよ!自分の機体に感謝しなさい。それとね」
クド=ラは二人の頬を一発ずつ平手打ちをした。突然の事に二人は驚きを隠せない。
「二人共、何をしてるのよ!騎士としての心得を忘れて、勝手に突っ走って!」
クド=ラは泣きながら政征と雄輔の二人を怒鳴っている。悲しいからではなく怒りで涙を流しているのだ。
「俺達はどうしても!」
「言い訳しないで!まずは基地に帰るわよ!それからラフトクランズも預からせてもらうわ!」
「何!?」
「まずは戦いから離れて自分の心の中を整理しなさい!」
地下へ戻るように促された二人はクド=ラを守るようにして地下へと戻り、待機状態のリベラとモエニアを強制的に預かられてしまった。
その後、二人は自分の行動を思い返し頭を冷やして考えていた。
「なぁ、雄輔。俺達・・・何の為に戦うんだっけ?何の為に剣を手にしたんだっけ?」
「俺に答えられる訳が無いだろう?答えはもう得ているんだから」
「あ・・・」
雄輔の言葉に政征は自分が何故、騎士を志したかを改めて思考する。自分はシャナ=ミアを守るために強くなろうとしていた、しかし実際はシャナ=ミアの事しか頭になく周りの事などこの世界に来てから考えていなかったのだ。
それは雄輔自身もだった。フー=ルーの事だけを考えており、この世界など知ったことではないという考えを持っていた事を反省している。
「騎士を志したのは」
「剣を手にしたのは」
「「自分の手の届く大切な仲間や弱者、愛しい人の為の剣となるためだ!」」
二人の答えは全くの同一であった。全てを守るとは言わない、いや言えない。それだけの力があるとすれば、それこそまさに全知全能だろう。
それでも自分の手の届く範囲で大切な人を守りたいという答えが今の二人の出した結論だ。
「全く、ちゃんとしようとすれば出来るじゃないの」
「クド=ラ」
「でも、しばらくは養生なさいな。アンタ達、外見よりも内面がボロボロなんだから」
そう言ってクド=ラは部屋を出て行った。二人は顔を見合わせると同時に吹き出し、大声で笑い合い始めた。
「キザな事を言ったな俺達」
「ああ、本当にな」
「一線を越える時が近いな」
政征の真剣な表情に雄輔も表情を引き締めた。二人の間には決意を新たにするという事を確認し合っているような雰囲気が流れている。
「背負う覚悟はあるか?愛しい人を手にかけるかも知れないんだ」
「言われるまでもない」
「愚問だったな」
二人は拳をぶつけ合った後に風呂に入って血を流し、クド=ラや他のメンバーに簡単な手当てを受けた後に身体を休める為に就寝した。
ライバル同士の戦いというと、ロックマンXのエックスとゼロの戦いが先に浮かぶ作者です。
更新停滞していて申し訳ありません。次回でこの二人のルートも終わります。
二人にとっての最大の試練が来ます。
ワンオフアビリティーも使います。