Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

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戦いの中で進化

ラウラが仮面の意味を理解する。

以上


マスカレード(ラウラルート最終)

スペースナイツの基地の内部にある運動場らしき場所で、細身の剣を持ったミユキと槍を持ったラウラが稽古をしていた。

 

Dボゥイもミユキの指導役として二人の稽古を見ており、このような稽古をしている理由はミユキにあった。

 

彼女自身がラウラの強さを知って自分を鍛えて欲しいと頼み込んできて、その頼みをラウラは無下に出来なかった為に承諾したのだ。

 

 

ラウラは全員には伝えていないが自分の世界では現役の軍人であり少佐の階級を持っている、指導力も改善されている為にトレーニングに関しては的確な指導者ともなっていた。

 

ミユキ自身もテックセットのダメージによって寝たきりの状態が続き、筋力が弱まってしまっていたが元々アルゴス号の乗組員として必要な宇宙用訓練をパスした程の身体能力がある。

 

それをリハビリも兼ねて少しずつ戻す訓練を行いながら武器の稽古を行っているのだ。

 

「ミユキ!腕で振るな!腰を入れるように振るうんだ!」

 

「はいっ!」

 

「ラウラ!腕が下がって来ているぞ!その程度か!?」

 

「まだまだ!まだやれます!」

 

二人の訓練をDボゥイは厳しく指導している。それはかつて自分が格闘技の師であるゴダードに鍛えられていた時のように。

 

「(まさか、こんな風にミユキを鍛える日が来るとはな・・・)」

 

今のミユキはラウラと互いを高め合おうという気概があった。訓練方法は違っても基本が一緒なのは変わらない。

 

「よし、三十分の休憩の後に二人で手合わせをしてもらうぞ!」

 

「うん、お兄ちゃん!」

 

「分かりました!」

 

二人は隣り合って座ると水分補給の為の飲み物を手にすると喉を潤した後に話を始めた。

 

「ラウラさん、ありがとうございます。私の特訓に付き合ってくれて」

 

「気にするな、私も訓練をしたかったのだ。特に剣に関してのな」

 

「おかげで私も少しだけ強くなれた気がします」

 

「まだだ、そのくらいではDボゥイさんやスペースナイツの皆さんを守れはしないぞ?」

 

「分かってます!ですから手合わせをよろしくお願いします!」

 

ミユキのやる気に後押しされたのかラウラも笑みを浮かべながら高揚してきた気持ちを抑えきれない様子だ。

 

「望むところだ、私は容赦もしなければ手加減もしないぞ?」

 

「ふふ・・・」

 

二人の間にはライバル心が現れ、休憩後に剣による手合わせを体力の限界が来るまで続けた。

 

 

 

 

 

 

 

その一日後、月のラダム母艦ではエビルがブラスター化を終えて、ラダムのカプセルから出て来た。その表情には怒りも憎しみもなく穏やかで何かを悟ったようにも見える。

 

「不思議だ・・・こんなにも素直で穏やかな気持ちになったのは初めてだ。フフ、これもタカヤ兄さんやレーゲンと戦うために・・・ッ!?」

 

「うああああああああ!?ま、まさか!?これが、ブラスター化の副作用なのか!?ぐああああああ!!」

 

シンヤは突如、苦しみだし叫び声を上げている。Dボゥイと同じテッカマンの進化であるブラスター化を成功させたが、その代償として肉体の組織崩壊が始まったのだ。

 

不完全なテッカマンであるブレードとは違い、エビルは完成している完全体のテッカマンだ。完成された物の能力を更に上げようとすればどうなるか?その答えは過負荷である。

 

その余剰な力に器が耐えられなくなり崩壊を始めてしまう。今のエビルは罅割れた器そのもの、ブラスター化した事でその余剰エネルギーに肉体という器が耐えられないのだ。

 

「こ、これほどまでに激しい副作用だったなんて・・・!っ・・!タカヤ兄さん!」

 

シンヤはテッカマン同士の感応を使い、Dボゥイに意志を送り始めた。肉体の組織崩壊が始まった身体では月から地球へ向かう事が出来なくなってしまった為だ。

 

「!シンヤ・・・」

 

「タカヤ兄さん、そろそろ決着を付けよう。それと、もし出来るならテッカマンレーゲンにも伝えて欲しい・・・オービタルリングで待っていると」

 

「ラウラとも戦うつもりなのか!?」

 

「ラウラ?そうか・・それがレーゲンの人間としての名前なんだね?ああ、兄さんと同じ位に決着を付けないといけないからね」

 

シンヤは決着をつけるべき相手である兄のDボゥイ、そしてラウラを連れて仮面舞踏会の会場へ来て欲しいと言ってきている。

 

「待っているよ、兄さん・・・ラウラにもそう伝えてくれるかい」

 

感応が消えると同時にDボゥイは部屋を出ていこうとするが、それをアキとミユキが引き止める。

 

「Dボゥイ?」

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「シンヤだ。テッカマンエビルが言った。オービタルリングに来いと!」

 

「シンヤお兄ちゃんが・・?」

 

「ミユキ、お前は此処に居ろ」

 

「お兄ちゃん!」

 

Dボゥイは部屋を出ていき、オービタルリングへと向かう前にエビルの要望に応えるためラウラのもとへと向かった。

 

「ラウラ」

 

「Dボゥイさん、私に何か?」

 

「一緒にオービタルリングに来てくれ、テッカマンエビルがお前も呼んでいる」

 

「私もですか?エビルはDボゥイさんとの決着を一番望んていたはずなのに」

 

「理由は分からない、とにかく一緒に来てくれ」

 

「分かりました。先に行ってて下さい、その前にチーフに会ってきます」

 

「そうか、わかった」

 

Dボゥイは先にオービタルリングへと向かい、ラウラはフリーマンに出会う為に司令室に向かっていた。

 

「失礼します」

 

「ラウラ!?」

 

「ラウラさん?」

 

「何か用かね、ラウラ」

 

フリーマンが声をかけるとラウラはしっかりとした受け答えで口を開き、自分の望む物を要求した。

 

「宇宙服とミユキの出撃をお願いしたいのです。これは私自身のワガママではありますが」

 

「構わない、止めてもミユキ君は行くつもりだろう。ラウラがいれば抑止にもなる」

 

フリーマンの意外な答えにラウラは驚きを隠せなかった。冷静で合理的な人物だからこそこのようなワガママが通るとは思いもしなかったのだ。

 

「それとラウラ、これを持って行きたまえ」

 

「え?これは!?」

 

フリーマンから手渡された物、それはラウラが奪取しミユキの再フォーマットに使用されたテッカマンアックスのテッククリスタルであった。亀裂が走っており、複数回の使用に耐えられるものでは無い事を物語っている。

 

「テッククリスタル・・・」

 

「そうだ、君の戦いを見守る物としてだ」

 

「宇宙服は用意してある、Dボゥイを頼んだぞ・・・ラウラ」

 

「ラーサ!」

 

ラウラは宇宙服を着込みミユキと共に出撃が可能な場所に向かうとその場に止まり、自分のクリスタルをミユキと共に掲げた。

 

「レーゲン!テックセッター!」

 

「テックセッター!!」

 

二人のテッカマンが同時に現れ、先に激闘を繰り広げているブレードとエビルの所へ急いで向かった。

 

「っ・・・?」

 

向かう途中でラウラはフリーマンから持たされたテッククリスタルから何か違和感を感じていた。気にしなければ気にならない程度の微弱な違和感だが、戦場へ近づけば近づいて行く程にその違和感は強くなってくる。

 

そして、それは起きた。アックスのテッククリスタルがクリスタルフィールド形成しラウラを包み込んだ。

 

「な、何だ!?これは!」

 

「ラウラさん!?」

 

クリスタルフィールドに包まれたラウラことテッカマンレーゲンはその場で動きを止めてしまう。オービタルリングのすぐ近くであり、ブレードとエビルの戦いは少し先で続いている。

 

「これは・・・ミユキが入っていた物と同じ?ッ!うあああ!?」

 

「クリスタルフィールドにレーゲンが取り込まれてる!?」

 

痺れと痛みが同時に起こり、レーゲンは叫び声を上げたがすぐに収まりクリスタルが鼓動を打つように光っている。それはまるで何かをレーゲンに与えているようだ。

 

時間にして20分が経過し、クリスタルフィールドが砕けた。レーゲンの姿に変わった様子は無い、テックセットしたままラウラは目を覚ますと自分が宇宙服を着ていない事に気づいた。

 

「(どういう事だ?ISは宇宙空間では動けないはずだ!?何故だ、何故動ける!?それに呼吸すらも出来る)」

 

テッククリスタルが形成したクリスタルフィールド内部でシュヴァルツェア・レーゲンはテッカマンの特性のデータを送り込まれ、取り込んでいたのだ。

 

その結果。テッカマンが持つ保護機能を得て、ISからよりテッカマンに近い機体となった為、宇宙空間での戦闘が可能となっていた。

 

宇宙空間での戦闘はブレードと同じ30分の時間制限があるものの戦える事は大きい。ラウラはテッククリスタルの元の持ち主であるゴダードに感謝の念を持ちながらミユキと合流した。

 

「すまない、待たせてしまって」

 

「いえ、急ぎましょう!」

 

二人はボルテッカの発射された位置へ全速力で向かった。急がなかればならない焦りがあったが間に合う確信を得ていた。

 

 

 

「ボルテッカァァァー!」

 

「うおおおあああ!」

 

ブレードから発射されたボルテッカはエビルの左肩を抉り、破壊した。腕を奪う事は叶わなかったがそれでもダメージを与えた事には変わりはない。

 

「うおおおおおお!」

 

止めの一撃を加えようと突撃したが、頭部のクリスタルがタイムリミットの三十分を知らせるアラームを鳴らし始めた。

 

「うあっ!?が、ああ!?」

 

「うおおおおお!むっ!?」

 

エビルの突撃を阻む何かが飛来し、テックランサーが握られたエビルの腕にはテックワイヤーが巻き付いており、ブレードを守るように前に二人のテッカマンがいた。

 

「!貴様、レイピア!?生きていたのか!それにレーゲンまでも!」

 

「シンヤお兄ちゃん!もうやめて!」

 

「しつこいぞ!レイピア!!貴様如きが俺と兄さんの間に割って入る事なんて出来ん!!」

 

「それでも私は何度でも割って入る!シンヤお兄ちゃんがラダムとなってタカヤお兄ちゃんを傷つけるから!タカヤお兄ちゃんを守るためなら私だって!」

 

「お前などに何が分かる!!どけ、ミユキィィィ!!」

 

レイピアのテックワイヤーを強引に引きちぎり、レイピアへと迫るがその刃を止めたのはレーゲンであった。

 

「ミユキ、Dボゥイさんを早く安全な場所に!」

 

「わかりました!お兄ちゃん!」

 

「ミユキ・・・?来るなと言ったのに・・・ぐ!」

 

レイピアに支えられ、ブレードはオービタルリングの内部へと撤退していった。それを見たエビルは追撃しようとするがレーゲンに阻まれる。

 

「邪魔をするか!レーゲン!」

 

「エビル、タイムリミット状態のブレードを倒して嬉しいのか?状況的には貴様の方が圧倒的に有利だがな」

 

「何?」

 

「対等の条件で勝ちたい、それが望みだったのではないのか?」

 

「・・・・ふ、良いだろう。タカヤ兄さんに伝えてくれ、決着は一時間後だと。もし、兄さんが来れないなら君の相手をするよ。フハハハ」

 

説得に応じたのかエビルは別の方向からオービタルリングの中へと入っていった。僅かな時間とはいえ休息を取る事が可能になった事は大きい。

 

レーゲンは急いでDボゥイの居る場所へ向かうためにオービタルリングの内部へと向かった。ブレードはテックセットを解除しており、同じくテックセットを解除していたミユキに支えられている。

 

ラウラもテックセットを解除し、Dボゥイへと近づいていく。だが、Dボゥイはエビルとの戦いに向かおうとしていた。

 

「ラウラ、退いてくれ。俺はシンヤと決着を着けなければならないんだ」

 

「・・・・ごめんなさい、Dボゥイさん」

 

ラウラはDボゥイの腹部に拳による重い一撃を加えた。その一撃にDボゥイは膝を付き気を失いかけていた。

 

「ラウラさんっ!?」

 

「ぐ・・・・あ・・・ラウ・・・ラ?何・・を?」

 

「貴方を死なせる訳にいかない、それにエビルとの戦いは私が行かないといけないんです。私はエビルに聞きたいことがある」

 

「ぐ・・・・」

 

延髄に手刀を叩き込まれ、Dボゥイは気を失った。ラウラの表情には固い決意が宿っており、感情を表に出していない。

 

「ミユキ、Dボゥイさんを頼む。テックセットして来たのなら仕方ないがな」

 

「分かりました」

 

 

 

 

約束の一時間が経過し、ラウラはテックセットした状態でエビルを待っていった。数秒後にすぐにエビルが現れ対峙する。

 

「ん?そうかレーゲン、お前が相手か。タカヤ兄さんと決着をつけられないのが残念だが、君も兄さんと匹敵するぐらいの相手だからね!」

 

「行くぞ!エビル!私はお前に聞かなかればならない事がある!」

 

「俺に勝ったら教えてやるよ!レーゲン!」

 

二人はテックランサーを手にし、ぶつかり合う。そのぶつかり合いが戦いの合図となって二人のせめぎあいが始まる。

 

 

[推奨BGM『マスカレード』原曲+スパロボWアレンジ]

 

 

「うおおおおおお!」

 

「させん!」

 

「ちいいいい!」

 

オービタルリングの上で始まった二人の戦いは激しさを増す一方であった。

 

エビルの突撃をレーゲンはワイヤーブレードで牽制し、自らがテックランサーで斬りかかる。それをエビルは受ける真似はせずに横薙ぎの攻撃で反撃した。

 

「ぐあああ!」

 

「ぬぐっ!」

 

互いの装甲を刃で傷つけながらも止まることはない。受けたダメージ、傷の一つ一つが生きている実感を与えているかのように熱を持つ。

 

「はぁ・・・はぁ・・」

 

「はぁ・・は・・」

 

膝をついたエビルへレーゲンは突撃し、それを見たエビルは身体を横に逸らして避け、勢いを殺せなかったレーゲンは両足で踏み込んでブレーキをかけた。

 

「でやあああ!ぬううううう!」

 

突如、エビルから赤い光が溢れ出し、その姿を変えていく。その現象にレーゲンは見覚えがあった。それはブレードが到達した同じ進化した姿へと至る方法だ。

 

「うおおおおお!うあああ!おああああ!ぬあああああ!!」

 

エビルの両肩が大幅に広がり、背中の装甲からは尻尾のような触覚が現れた。更には胸部装甲までもが脱皮するように砕け散った。

 

「エビルがDボゥイさんと同じようにブラスター化したのか!?」

 

レーゲンは驚愕していた。決して高い可能性ではないブラスター化をエビルが成功させていたのに驚きを隠せなかったのだ。

 

「(レーゲン、私に力を!力を貸してくれ!)」

 

力を得る事をラウラは再び願った。ただ力を得るのではない、己の全てをかけてでも、この相手をラダムという呪縛から解放したいという思いからだった。

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『マスカレード・イン・ザ・レイン』更新・発動]

 

「うあああああああああ!!」

 

赤と緑の光が溢れ出し、レーゲンがその光に覆われていく。背から尻尾のような触覚と翼のような物が現れ、更には頭部は鋭角なフォルムへと変わった。

 

「何!?まさか、レーゲンがブラスター化だと!?」

 

「ぬああああああああああああああ!!」

 

両肩のユニットも接続され、大型化しワイヤーブレードは収納されず垂れた状態だ。逆にそれがレーゲンの攻撃性を表しているようにも見える。

 

「ふ、ふふ・・・良いぞ、何でだろうなぁ?今はタカヤ兄さん以上にお前を倒したい!レェェェゲェェェン!!」

 

「あは・・あははは!何でこんなにも笑いを堪えられないんだ!?こんなにも楽しいと思えるんだ!?エビル、私は貴方を越えたい!」

 

二人は刃を交えながら笑いを堪える事が出来ずにいた、高揚状態も関係しているだろうがそれ以上に戦いを楽しみ始めている。

 

繰り出す技やそれによって受ける攻撃の一つ一つが生きている実感と強い相手への敬意、更には倒したいという欲望が溢れ出てしまっていた。

 

「でやああああ!」

 

「はあああっ!」

 

テックランサーのぶつかり合う音と火花が二人を更に滾らせる。唐竹、横薙ぎの斬撃を繰り出し、受け返せば必ず止められるのが逆に嬉しくなってきている。

 

攻撃を受け止めて喜んでしまうというのは戦いにおいては良くない事だが、どうしても嬉しいと感じてしまう。それほどまでにこの戦いが激しくも楽しく、終わってほしくないものだと感じていた。

 

二人は成層圏を飛び回った後、間合いを開いた。その理由はテッカマンである事が関係しており最大の武器で相手を倒す為であった。

 

「これで最後だ!レーゲン!!」

 

「っ!私も負けん!」

 

二人はそれぞれのボルテッカの発射態勢に入った。この一撃がお互いの全力をかけた一撃である事は変わらない。

 

「うおおおおおお!」

 

「ぬああああああ!」

 

チャージされたボルテッカは二人の間に拮抗しているのを表すかのように範囲がぶつかり合っている。

 

「SPYボルテッカァァァー!」

 

「AICボルテッカァァァー!」

 

それぞれのクリスタルが二人の間に現れ、最大出力を表すかのように砕け散る姿が幻影として現れ、砲口からボルテッカが発射される。

 

ブラスターボルテッカに匹敵する二つのボルテッカがぶつかり合い、拮抗する。停止と吸収という性質の違うもの同士が反応し爆発を起こした。

 

「うわああああ!何っ!」

 

「うおおおおお!さらばだ!レーゲェェン!ぬおおおお!!!」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の限界を迎えていたレーゲンはブラスター化状態が解除されており、エビルはブラスター化した状態でテックランサーを手に突撃してきている。

 

「くうう・・・!」

 

「終わりだ!ぐおっ!?」

 

エビルが一瞬だけ動きを止め、手にしていたテックランサーはレーゲンの肩を突き刺し、その隙を狙いレーゲンは腹部に自らが手にしていたテックランサーをエビルに突き立てた。

 

それと同時にエビルとレーゲンはオービタルリングへと落下していき、その内部へと倒れた。

 

「う・・・ぐあああ・・・うう」

 

レーゲンは肩に突き刺さったエビルのテックランサーを引き抜き、自分の隣へ置いた。それ以上に突き立てられた肩の傷の痛みがレーゲンを苦しめていた。

 

「ううう・・・!」

 

「ぬおおお!うおおおおおおお!!!」

 

その横にはレーゲンのテックランサーが突き立てられたままのエビルが叫び声を上げながら迫っていた。

 

「エビル!」

 

しかし、エビルはレーゲンに迫ろうと二歩だけ歩くと倒れテックランサーが押し出された。それと同時にエビルの背中から虫のような生き物が飛び出しテックセットが解除された。

 

「シンヤ・・さん!?」

 

「どうやら、悪い夢を見ていたようだよ・・・。レーゲ・・ン」

 

「シンヤさん、貴方は人の心を取り戻したのですか?」

 

「そういえば・・・君の名前を聞いて・・・無かった・・ね?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・です」

 

テッカマンレーゲン・・・いや、ラウラは初めて相羽シンヤという人物に自分の名前を名乗った。

 

「ラウラ、君に教えないといけないね・・・あれがラダムの本体さ、ラダムは寄生生物なんだ。脳髄だけが高度に進化した知的生命体かもしれない」

 

「っ・・・!コイツを早く取り除ければ貴方を助ける事も!」

 

「無理さ、僕がもうすぐ死ぬからラダムは僕を見捨てたんだ・・・仕方ない事だったんだよ」

 

シンヤは自分に残された時間が少ない事を自覚しており、その為にラウラに伝えなければならない事があった。

 

「ラウラ・・君との戦いは兄さんとの戦いに匹敵するぐらいに素晴らしいものだったよ・・・戦う事を楽しく思えたのは初めてさ・・・」

 

「シンヤさん・・・」

 

「聞いてくれ・・・ラウラ。君は破滅と戦える唯一の・・・テッカマンなんだ・・うああっ!」

 

ラウラはシンヤから伝えられた言葉に仮面の下で驚いていた、破滅という言葉をこの世界でも聞くとは思わなかったからだ。

 

「テッカマンは・・・ラダムが破滅と戦う為に作り出した鎧・・・なのさ・・・」

 

「どういうことですか?」

 

「ラダムは他の惑星へ侵略を行う前に自分の母星で・・・破滅と戦っていたのさ・・・けど、ラダムは見ての通り人間のような肉体を持たない・・・だから、数人のテッカマンをフォーマットする事は出来たが、倒す事は不可能で滅ぼされたんだ」

 

「っ!」

 

テッカマンが作り出された経緯を知ってラウラは驚きしかなかった。自分が破滅と戦えるテッカマンになっているのだと伝えられ、信じる事が出来無い。

 

「君は・・・戻るべき所で破滅と戦う事になる・・・決して負けは許されない・・んだ。うっ!ぐああ!」

 

「もう、喋らないで下さい!」

 

シンヤは自分が伝えるべき事を伝えると最後の力を振り絞ってラウラにある物を差し出した。

 

「これを・・・タカヤ兄さんに渡して・・・くれ・・・月へ行って・・・ケンゴ兄さんを・・・止めてくれと・・伝えて欲しい・・」

 

それは先程まで使われていたテッカマンエビルのテッククリスタルであった。それを兄であるブレードに渡して欲しいという相羽シンヤとしての最後の頼みであった。

 

「分かりました・・・必ずタカヤさんに渡します・・・!」

 

「それから・・・ミユキにも伝えてくれ・・・・すまなかった・・・って・・・ごめんね、兄・・さん」

 

最後の遺言を聞き終えたラウラ、テッカマンレーゲンは周りで動き回っているシンヤに寄生していたラダム虫を踏み潰した。一度では飽き足らず何度も何度も。

 

「こんな、こんな虫の為に!Dボゥイさんは!!ミユキは!!シンヤさんは!!相羽家の皆さんは!!アルゴス号の人達は!!こいつの!こいつの為に!!!!!!」

 

怒りに任せたまま完全にラダム虫の身体を粉々にし、それでもラウラの怒りと悲しみは収まらない。こんな小さな虫の意志で一つの家族が肉親同士で殺し合いをさせられてしまったのだから。

 

それを自分の立場に置き換えて考えていたラウラは思い切り、オービタルリングの天井を仰いで叫んだ。

 

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

テッカマンという名の仮面の下でラウラは涙を堪える事が出来ずに泣いた。かつて、レーゲンのコアの意志に言われていた事が頭をよぎる、仮面の下の涙を拭えなくなるのが二次移行したこの姿(テッカマン)だという事を。

 

それを今、自分の身体で実感していた。涙を拭いたいのに拭えない・・・傷ついてもこの仮面で覆い隠して戦い続ける・・・。それがテッカマンという存在だというのを自覚した。

 

「っ!?これは?急いで届けないと・・・時間がない・・・」

 

ラウラの身体は光に覆われ、消えかかっていた。シンヤの遺言を叶えるためにラウラは急いでDボゥイのもとへ向かった。

 

 

 

 

Dボゥイが目を覚ますとテックセットを解いたミユキが付き添っていたようで手当てがされていた。

 

「ミユキ、ラウラは?」

 

「わからないわ」

 

「そうか、ん?誰か来る!」

 

「Dボゥイさん」

 

二人の前に現れたのはテックセットを解除せずにテッカマンレーゲンの状態のままであるラウラだった。

 

「ラウラ?お前・・・身体が!」

 

「ラウラさん!?」

 

「Dボゥイさん、これを。月でケンゴ兄さんが待っているとシンヤさんからの遺言です。それとミユキにもすまなかったっと」

 

「!!これは、エビルのクリスタル!という事は・・・シンヤは!?」

 

「シンヤお兄ちゃん・・・」

 

ラウラから渡されたエビルのクリスタルを手にしたことでDボゥイは弟が力尽きたという事を理解してしまった。それを看取ってくれたのがラウラだという事も。

 

テッククリスタルを渡したと同時にラウラを覆っている光も強くなっていく。まるで、この世界に留まることは許さないと言われているように。

 

「私の役目は終わってしまったようです・・・Dボゥイさん、ミユキ、スペースナイツの皆さんにも元気でと伝えてください」

 

「ああ、分かった」

 

「ラウラさん、また会えますよね?」

 

「会えるさ、きっと」

 

ミユキとの会話を最後にラウラは光の中へ消えていった。その場所をDボゥイこと、相羽タカヤと相羽ミユキはその場所を見つめ続けていた。

 

 

 

束の研究室のカプセルが開き、ラウラが目を覚ます。元の世界に戻ってきたのだと実感し息を吐いた。

 

「ラウラさん!」

 

「ラウラ!帰ってきたのね!?」

 

「ラウラ、よかった・・・」

 

「これで代表候補生の子達は全員帰還したね。よがっだぁぁぁ!」

 

セシリア、鈴、シャルロット、そして束がラウラの帰還を心から喜び、特に束は嬉し涙を流している。

 

「みんな、ただいま・・・」

 

「うん、お帰り。あれ?ラウラ、その目・・・どうしたの?」

 

「え?」

 

「少し待って、手鏡持ってくるよ」

 

シャルロットが手鏡を渡し、鏡に映った自分の顔を見てラウラ自身も目を見開いた。Dボゥイと似た場所に傷のようなものが右目にあったからだ。

 

「Dボゥイさんの悲しみを少しでも受け止めたからか?」

 

「?ラウラ?」

 

「なんでもない・・・」

 

「はいはーい、いきなりで悪いけどシュヴァルツェア・レーゲンを預からせてねー?」

 

「分かりました」

 

ラウラは待機状態となっているシュヴァルツェア・レーゲンを束に預けると研究室の外へ出る扉へと向かった。

 

「ラウラさん?どこへ行きますの?」

 

「少しだけ、一人にさせてくれ。すぐに戻る」

 

セシリアからかけられた言葉に返事を返し、ラウラは廊下へと出て行った。通路を歩いている途中で外が見える窓の前に立った。

 

「被検体009号も、教官を崇拝し力に溺れていたラウラ・ボーデヴィッヒもあの世界で死んだ!私はテッカマンレーゲンだ!」

 

空を見上げ、自らをテッカマンと宣言するラウラの目には破滅という名の新たな敵との戦いに必ず勝利するという決意が宿っていた。

 

そんなラウラをシャナが見守るように通路の影から見守っていた。




ラウラルート終了、これにてISガールズ全員帰還です。

テッカマンブレードの世界は難しすぎて大変でした。

ラウラの右目にある傷のようなものとはDボゥイの悲しみを少しでも解消した証です。

(特にミユキの件)

気づいた事なのですが全員が一応、総仕上げの世界はそれぞれ宇宙が関連しているんですよね。

次回は政征と雄輔の総仕上げです。ようやくここまでこれた・・・。

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