Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
レイピア生存。
以上
※注意書き
レイピアの生存フラグを立てたルートを前提に生存した状態で書いています。
スパロボJではブラスター化を応用した事になっていますが、応用の仕方を独自解釈にしています。
ミユキの面会へ行こうとメディカル・ルームへと足を運んだラウラだったが、部屋の中からミユキの悲鳴にも似た叫びが上がっていた。
その原因はテックシステムによるもので、フォーマットが完全ではないミユキは身体の組織崩壊がテッカマンとの感応で進行が加速していたのだ。
「ああう!あああう!ああああっ!!」
「っ!」
その声を聞いたラウラはすぐにでも飛び込んでいきたい衝動に駆られたが、医療の知識など怪我に対しての応急処置程度しかない。おまけに医療班によって立ち入り禁止を言い渡されてしまい中に入る事が出来なくなってしまった。
「私は・・何もできないのか?新たな友人が死にそうなほど苦しんでいるというのに!」
戦いでは自分の世界での実戦で無力だという事を感じる事はあった。だが、今の自分は目の前で苦しんでいる友人に対して声すらもかけられない。
出来る事はただ無事を願う事だけ、その現実がラウラ自身が自分を追い込む要因になってしまっていた。
「くっ!」
悔しさともどかしさからラウラは壁を殴った。壁を殴りつけた拳から痛みが伝わり、頭が少しだけ冷静になる。
何をしているのだろうかと自分自身に問いかける。八つ当たりにも等しい行動をしたところでミユキの容態が変わる訳でもない。ただ、無力さを再認識するだけであった。
「ラウラ」
「Dボゥイさん?」
「ミユキを心配してきてくれたのか?」
「ええ」
ラウラは短く答えたが本心はミユキを死なせたくないという思いでいっぱいだ。請われたとはいえど、自分の手で人の命を奪った経験から命の重みを自覚したためだ。
Dボゥイ自身、ラウラが苦しむのをよしとしていない。テッカマン同士だからではなく一人の仲間として自分で自分を追い込んで欲しくない。
自分はラダムであり、テッカマンとなった家族全員を殺さなければならないという重い使命を背負ってしまっている。それ故、抱え込んでしまう事もあるが、フォローをしてくれているのがラウラだとアキから聞かされていた。
妹であるミユキの事も自分では出来なかった厳しい叱咤激励もラウラが代わりに行ってくれた他に、テッククリスタルの入手も彼女のおかげだった。
「すまない、お前にばかり負担をかけさせてしまって」
「え?」
ラウラはキョトンとした表情でDボゥイからの言葉を聞いていた。自分に出来る事を精一杯やっていただけで謝罪されてしまったからだ。
「ラウラ、お前にはいくら感謝しても足りない位だ。ミユキの事を含めてな」
「私は兄妹を離れ離れにさせたくないだけです。私にも姉と兄がいますから・・・」
「初耳だな」
「今、Dボゥイさんだけに明かしましたからね。血の繋がりはありませんが大切な姉と兄なんです」
「そうか・・うっ!?」
Dボゥイは突然、ふらつくと同時に倒れてしまった。額からは汗が浮かんでおり、呼吸も浅く顔色も青ざめている。
「Dボゥイさん!?誰か!誰か来てくれ!!」
ラウラの叫びにアキとノアルが現れ、二人は声をかけながらDボゥイとラウラに近づいた。
「Dボゥイ!」
「一体何があったんだ!?ラウラ!」
「わ、わかりません!私と話していたら急に倒れて!」
「急いで運びましょう!ラウラも手伝って!」
「は、はい!」
幸いにもメディカルルームの近くだった為に、Dボゥイはすぐに第二集中治療室に入れられることになった。
◇
麻酔によってDボゥイは眠っており身体検査が行われた結果、メディカルルームを見下ろせる部屋に居たフリーマン以外の全員が驚愕する事実だった。
「そんな、Dボゥイの身体も」
「ミユキさんと同じ状態に・・・?」
「嘘だろう!?チーフ!」
「残念ながら事実だ」
フリーマンの口から伝えられたのはDボゥイの身体も組織崩壊を起こしており、それが表立って出てきてしまったということだ。
それを聞いたアキを含め全員が驚きを隠せない。Dボゥイがテッカマンとして戦いを続ければ続けるほど命が削られていくのだから。
「だが、彼が助かる可能性があるとすれば一つだ」
「それはなんですか、チーフ!」
アキが声を荒らげながらフリーマンに問い質し、フリーマンは落ち着いた様子でDボゥイの組織崩壊を止める手段とその原因を話し始めた。
「彼の組織崩壊はテッカマンでありながらテッカマンと戦うという生存競争によるもの、加えてDボゥイは不完全なテッカマンだ」
「でも、それだけで組織崩壊は起こらないはずです!それ以外にも原因があるのでしょう!?」
「研究の結果、テッカマンには進化の余地がある事が判明した。恐らくDボゥイの組織崩壊の原因はDボゥイ自身が進化を果たすべき状態であるにも関わらず進化を果たしていないからだろう」
テッカマンの進化こそがDボゥイを助ける唯一の方法だとフリーマンは全員に話している。進化の方法は研究自体で判明しているがそれを話すべきかフリーマンは顔に出さず悩んでいた。
「チーフ」
「Dボゥイさん!?」
Dボゥイはいつの間にか麻酔が覚め、声をかけていた。ラウラが最初に気づき他のメンバーも視線を向ける。
「俺を・・・進化させる事は出来ないのか?俺がもう一度テッカマンとして生まれ変わるために!」
「Dボゥイ、何を!?」
アキの心配をよそにDボゥイは戦う事を選んでいる。自らの命をかけてまで成さねばならない使命があるためだ。
「方法はある。テッカマンの爆発的進化・・・即ち、ブラスター化を行う方法はラウラが入手してくれたテッククリスタルのおかげで研究が飛躍的に進み確立されている。更にはブラスター化の方法を応用すればミユキ君の組織崩壊も治療出来るだろう、しかし」
「何だ!?勿体ぶらずに言ってくれ!」
「君の進化もミユキ君の治療も成功するかは分からない。良くて50パーセントだ」
フリーマンの言葉にDボゥイは言葉を失った。自分の進化も妹の治療も成功確率が50パーセントという低い可能性である事を告げられた故だ。二人が生き残れる可能性が出てきたというのに。
だが、それに対して声を荒らげる者がいた。その正体はラウラだ、ミユキに叱咤激励をしたように全員に激を飛ばしている。
「何故、そこでみんな諦めるような雰囲気になるのだ!『50パーセントしか無い』ではない、『50パーセントも』あると考えれば低くはない可能性のはずだろう!!」
「ラウラ・・・」
ラウラが言っているのは捉え方の問題だ。可能性があるのならばそれに賭けてみる事こそが先へ行く事になるはずだと訴えている。
「チーフ、ラウラの言う通り50パーセントも可能性があるんだ、俺はそれに賭ける!俺は戦い続けなければならないんだ!」
「Dボゥイ・・・」
アキを始めとするスペースナイツの皆が心配をよそにDボゥイは自ら進化する道を選んだ。自分の使命は他の人間にさせてはならないという責任からくるものであると同時に、負担をかけさせまいとする行動でもあった。
◇
二時間後、サポートロボットであるぺガスに増幅エネルギーを送り込む装置が取り付けられ、進化を促進させる準備が完了していた。
「クリスタルに人工的なエネルギーを与え、進化促進を行う。所要時間は三時間、その三時間後にすべての結果が出るだろう」
「三時間後に全てが」
Dボゥイはぺガスを見上げながら覚悟を決めている。そんな中、バーナードと呼ばれた軍人の男がDボゥイに声をかけた。
「坊や、これはお前自身の戦場であり戦いだ。手助けは出来ねえが忘れるんじゃねえぞ?生きて帰って来い!」
「ああ、忘れないさ。必ず生きて戻ってくるさ」
Dボゥイはぺガスの内部へと入り、ブラスター化の準備に入った。それを確認したフリーマンはコンピューターを起動させる。
「クリスタルエネルギー増幅開始」
進化の為のエネルギーが送り込まれ、処置が始まった。これは己自身の死との戦い、これを乗り越えて必ず生きて帰るという約束を果たす為の戦いが始まった。
「あら?ラウラは?」
ミリーの言葉にフリーマンがすぐに答え、ラウラの居所をミリーに教えた。
「ラウラは今、ミユキ君の所だ。彼女の言葉が一番ミユキ君に届くのではないかと思ったゆえ、任務として任せた」
「ミユキさんの所に・・・」
ミリーが意外な答えに驚いている中、ラウラとミユキはメディカルルームの一室で話をしており他愛のない雑談から本題に入るところであった。
「ミユキ、ブラスター化を応用した治療を受けないか?」
「ブラスター化?」
ミユキの疑問にラウラは目を少しだけ閉じると自分を落ち着かせ、意を決した様子で説明を始めた。
「ブラスター化とはテッカマンが進化する事を意味する言葉だ。ただし、成功確率は50パーセント」
「・・・」
「高いとは言えない確率だが治療方法はこの方法しかないとチーフも言っている」
「その治療方法は恐らく再フォーマットと同じですね、私の場合は初期フォーマットを経た後、戦闘フォーマットの最終調整前に不適格になって排除されましたから戦闘フォーマットのやり直しとなるはずです」
ミユキからの言葉にラウラ自身もその推測は当たっていると考えている。治療という名を借りてはいるが、実際は完全なテッカマンになる事に変わりはない。
「もし、タカヤお兄ちゃんがブラスター化に挑戦しているなら私も挑戦します。私もタカヤお兄ちゃんと一緒にいたいから」
「!ミユキ・・・」
ラウラは改めて彼女がDボゥイの妹だという事を再認識した。性別は違っていようとも心の奥底にある決意のあり方はDボゥイそのものだ。
彼女は一度は諦めかけた生きる事を強くラウラに見せている。その決意を見届けたラウラは彼女のへの信頼の証として眼帯を外した。
「金色の瞳?左右で色が違うなんて」
「オッドアイを見るのは初めてか?私は生まれが特殊なんだ」
ラウラは自身の生まれ、黄金の瞳に関する事をミユキに話していた。そんな自分に内心、戸惑っていたがミユキに話すことで彼女の恐怖を少しでも和らげようとしたのだろう。
人工的に生まれた存在である事はラウラ自身も負い目を感じている。名前すらなく、名乗っている名前でさえ認識の為に着けられた名前だ。それでも、一人の人間として、ラウラ・ボーデヴィッヒという存在として生きて来た事は誰にも否定させない。
それを伝えたかったようにラウラの話は終わっていた。
「ラウラさん、私をフリーマンさん達の所へ連れて行ってください」
「何!?」
「再フォーマットを行います。こうして話してきたという事は方法はあるのでしょう?」
ミユキの目には決意が宿っていた。組織崩壊をただ待つのではなく、自分もテッカマンとしてあるならば完全体となって兄と共に戦う事を。
そんなミユキの決意を無駄にしないためにラウラはミユキに肩を貸し、フリーマン達のいる部屋へ共に向かった。
◇
部屋に入ると全員が非常に驚いた様子でラウラとミユキを迎えた。Dボゥイは既にブラスター化処置を開始しており、ぺガスの内部で自分自身と戦っている。
「ミユキさん!?どうしてここに!」
「ラウラ!どうして彼女を連れてきたんだよ!」
「お節介な事をしてるもんだね」
「ミユキさん、早くメディカルルームに戻らないと!」
「なにやってんのよ!?ラウラ!」
「なんで彼女を連れてきてんだよ!」
「・・・・」
アキ、ノアル、バルザック、ミリー、レビン、本田はミユキを連れてきたラウラを一斉に責めたがミユキがそれを止めた。
「良いんです、私が此処に連れてきて欲しいとラウラさんにお願いしたんです」
「ミユキさん、どうして?」
「フリーマンさん、私にもタカヤお兄ちゃんと同じ処置をお願いします!」
「何!?」
ミユキの言葉にフリーマンは珍しく感情を表に出している。それもそのはずだ、彼女は自らブラスター化する事を望んできたのだから。
「ミユキさん、何を!」
「私は再フォーマットを行う事になります。ラウラさんから聞いたブラスター化と同じ成功確率でしょう」
「確かに擬似クリスタルエネルギーで君のクリスタルフィールドのエネルギーを増幅すればできない事はない」
フリーマンの言葉に全員が目を見開いて驚くが、その先の言葉を言わないフリーマンに皆が不安を覚える。
「だが、その為にはテッククリスタルを使わなければならない。ラウラが命懸けで手に入れてきてくれたクリスタルを」
「そ、そんな!」
ミリーが驚くのも無理はない、テッククリスタルはDボゥイが月へ行くために必要不可欠な物だ。それを使うという事は月へ向かうための手段が無くなってしまうのだ。
「私がDボゥイさんなら迷いなく、ミユキさんの為にテッククリスタルを使ってくれと言います」
突然の言葉に全員が聞き入った。ラウラがDボゥイの代わりにメッセージを伝えようと必死に言葉を見つけようとしている。
「ラウラ」
「ミユキもDボゥイさんに負けないくらいの決意を持ってここに来たんです。ですから、再フォーマットの処置をしてあげて下さい」
「・・・・わかった。テッククリスタルは今、ここにある。ミユキ君、君の決意は確かに受け取った。君のテッククリスタルを私に預けてくれるね?」
「はい!」
Dボゥイが処置を受けている隣でミユキは自分のクリスタルフィールドの中へと入った。ラウラが手に入れたアックスのテッククリスタルをコンピューターに入れ、エネルギーを作り出し処置を開始した。
「ううう・・・!ああああっ!!」
クリスタルへエネルギーが送られ再フォーマットが開始される、それに伴う痛みでミユキは叫び声を上げた。それを心配するアキはフリーマンに詰め寄る。
「チーフ!ミユキさんをこれ以上!」
「アキさん、中止させてはダメです!」
それを咎めたのはラウラだ。アキの腕を掴み、フリーマンから引き離した。その力強さは小柄な少女とは思えない程の強さだ。
「ラウラ、貴女だってミユキさんが心配じゃないの!?」
「私だってミユキが心配です!私が冷血な人間だと思っているのですか!?」
「っ!ラウ・・・ラ?」
ラウラの剣幕にアキは怯み、言い返そうとしたがそれを止めた。ラウラの目からは涙が溢れ、頬を伝っていたからだ。ラウラは感情を隠すのが上手いがその奥底ではミユキを心配していた。
「代われるものなら私が代わりたいですよ!でも、これはミユキが自分の意志で決めた事なんです!私達が止める事は出来ません!」
「うあああっ・・あああああああああああ!」
ミユキの叫び声が止み、戦闘フォーマットが始まった。ぺガス内部のDボゥイもクリスタル内部に居るミユキも静かにフォーマットが完了するのを待っているかのように。
そんな時、敵襲を知らせる基地の警報装置が鳴り響いた。監視システムの映像を出し敵を確認するとそこには数百とも言える数のラダム獣が基地に迫って来ている。
「ラダムだ!こんな時に!!」
「バーナード軍曹、作戦の指揮は軍曹にお任せします。よろしいですか?」
「おう、今日はなんとしても坊やとその妹を守り抜かなきゃならねえ!てめえの身体がどうなろうとな!」
バーナードの焚き付けによって全員が一斉に掛け声を上げた。その様子を見てラウラは自分の世界の仲間達を思い返している。みんなが集まれば特訓の時もこうして掛け声を掛け合って気合を入れていた。
初めはなんと馬鹿らしいと思っていたが仲間達と共に自分が高揚している事に気づき、掛け声を楽しんでいる自分がいた。
「よーし、じゃあ此処にいるメンバーでチームを編成する!例え上官でも文句は言わせねえぜ」
「わかってるさ、元軍曹さん」
バーナードが基地内部の構造を映した見取り図をモニターに表示し、作戦の説明を始めた。最初にノアルバルザックの方に視線を向けている。
「まず、ソルテッカマンの兄ちゃん達は外へ出て化物の数をなるだけ減らしてくれ!」
「オーライ、毎度毎度の雑魚掃除ってわけね」
「いつも通りのお仕事だな」
バーナードは説明を終えると今度は本田とレビンの方へと視線を向ける
「本田の旦那とオカマちゃんは俺の部下と基地内に侵入する敵を防げ、場所は二箇所だ。二人一組でチームを組め」
「ちょっとちょっと!ちゃんとレビンって呼んでよ!」
名前を呼ばれなかった事に不満を持ったレビンが不満を漏らしたが、アキがそれを止めた。
「静かにしてレビン、それで私はどこを守ればいいの?」
「私も何処ですか?」
アキとミリーの言葉にバーナードはすぐに答えた。
「嬢ちゃん達は俺と一緒に此処に居ろ、坊やと妹ちゃんを守る最終防衛ラインって訳だ」
「「ラーサ!」」
二人は了解した事を告げる言葉を口にし、バーナードはラウラに視線を向ける。このチームの中でテッカマンと互角に戦える唯一の存在に。
「私はどうすれば良いですか?」
「銀髪の嬢ちゃんは敵のテッカマンが現れた時に真っ先に向かって行って惹きつけて欲しい。坊や達以外でテッカマンに対抗出来るのは銀髪の嬢ちゃんだけだからな」
「了解しました!」
元々、軍属であるラウラは軍での受け答えを熟知している。その為、自分の役割を理解し敬礼によって了解した事を告げた。
「もちろん、フリーマンの旦那にも戦ってもらいますぜ」
軽いノリを見せながらバーナードはライフル銃をフリーマンに投げ渡した。それを受け取ったフリーマンは弾が込められたカードリッジを一度外すとそれを入れ直した。
「こう見えて、射撃の成績はAだった。この銃のように特殊な弾を使った銃を用意してある、好きなタイプの銃を持って行きたまえ」
各々が準備を済ませ、ソルテッカマンの二人はラダム獣との戦闘に入り内部戦闘を任されたメンバーも定位置についた。
「敵のテッカマンが内部に来る可能性があります。それに備えて私が最終防衛ラインの門番を努めます」
「頼んだぞ、ラウラ」
「ラーサ!」
ラウラは相羽兄妹がブラスター化とフォーマット処置を受けている部屋から出て行った。
通路は閉鎖され、閉鎖された通路の前でラウラは小さなテッククリスタルと似た形になってペンダントになっている待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを手にする。
「レーゲン、出来る事ならば私も進化させてくれ。あの二人を守るために!」
シュヴァルツェア・レーゲンへ言葉を紡いだ後に基地内部が大きく揺れた。内部での戦闘が始まったらしく銃声が鳴り響く、その途中で聴こえてくるのは味方の断末魔の声だ。
「来る・・・!」
「ほう?この方角に奴が居る訳か」
防衛部隊を倒しながら足音が聞こえてくる。それはテッカマン特有の足音でゆっくりだが確実に近づいてきていた。
「今度は貴様が相手か?全くアリ共はしつこい」
「テッカマンランス!ここからは私が相手をする!レーゲン!テックセッター!!」
「何!?なぜ私を知っている!」
ラウラが待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを掲げ、キーとなる言葉と共に機体を展開する。ランスはその様子に驚愕しており、それと同時にブレードがいる確信を得ていた。
「テッカマンレーゲン!」
「貴様・・レーゲン!そうか、貴様がイレギュラーだったのか!」
「そうだ!ここから先へは行かせん!」
展開が完了すると同時にレーゲンはテックランサーを手にし、連結させるとランスへ向かって行きテックランサーの応酬を始めた。
斬る事と突く事に特化したランスのテックランサーと左右の両刃によって死角の少ないレーゲンのテックランサーが火花を出しながらぶつかり合う。
「私の目的はブレードだけだ、貴様に興味はない!邪魔をするな!」
「興味がなくとも戦ってもらう!たああああ!」
「おのれええ!」
ランスが反撃の一撃として斬りかかるがレーゲンはそれを軽々と見切って受け返し、腹部を狙い後ろ蹴りを打ち込む。
「ぐおっ!」
「まだまだぁ!(後2分!)」
「ふ、ここまで私を追い込んだことは褒めてやろう。だがここまでだ!」
「何!?」
「くらええええ!」
ランスは肩の砲門部分からテックレーザーを放ち、レーゲンを怯ませると頭を掴み、閉鎖の為の扉を破壊しながら進んでいった。
「ぐあああああああ!!」
最終防衛ラインをランスに突破され、レーゲンはフリーマン達の近くへと投げ飛ばされた。それでもテックランサーを床に突き立て、立ち上がる。
「ま、まだだ!」
「言ったはずだ、私はブレードを倒す以外に興味はないと!」
『貴方にタカヤお兄ちゃんを、お兄ちゃんとその仲間を殺させはしない!』
「な、何だ!?」
ランスが声のした方向へ振り向くとクリスタルフィールドからミユキが飛び出してきた。その手にはテッククリスタルが握られており、ミユキはすぐにそれを掲げた。
「テックセッター!」
「先に終えたのはミユキさん!?」
「テッカマンレイピア!」
その姿は初めて発見された時とほとんど変わらない、変化があるとすれば胸部部分にボルテッカの発射口が追加されている事だ。
「レイピアだと!?不完全体の貴様が生きていたのか、まぁいい。イレギュラーと共に始末するだけだ!」
ランスは嘲る様子でレイピアを見ており、レイピアはレーゲンへと寄り添って肩を貸した。
「ミ、ミユキ!」
「ラウラさん、後一分戦えますか!?」
「言われるまでもない、行くぞ!」
「ええ!」
レーゲンとレイピアはテックランサーとテックソードを手にし、ランスへと向かっていく。その速さは他のテッカマン達には追いつけない程のスピードが出せる位のレベルだ。
レイピアは元々諜報偵察型のテッカマンとしてフォーマットされている。再フォーマットによって戦闘力が追加されたことにより攪乱戦法を取る事が可能になったのだ。
「ぐ!おのれ!貴様等、不完全体如きに!」
「(何だ?この感じ、まるでミユキの力が共鳴してくるような・・・)」
レーゲンは即席のコンビをレイピアと共に組んで時間稼ぎをしている中、不思議な感覚に覆われていた。優しさを失っていないテッカマンである事が影響しているのか、それとも別の要因なのか自分の身体が何かに包まれているような感じがある。
「終わりだ!」
そんな考え事をしている中、ランスが放ってきたテックレーザーが二人を襲い直撃してしまう。
「うああああ!」
「きゃああ!」
「ラウラ!ミユキさん!」
それと同時にぺガスに繋がれていた装置が軽い爆発と共に外れていき、ぺガスが着地する。
「何!?Dボゥイ!」
「危ない!アキさん!」
アキがぺガスへ近づこうとするのをミリーが必死になって止め、フリーマンがぺガスを見ながら呟いた。
「や、やったか!?」
同時にぺガスの内部からテッカマンブレードが現れる、腕組みをした状態でランスを見ている。
「あれは・・・」
「あれが、進化したテッカマンなの!?」
「タカヤお兄ちゃん!!」
「Dボゥイさん!」
「進化したテッカマンだと?バカめ、何一つ変わっていないわ!」
ランスの嘲りの言葉が響く中、ブレードが叫び声を上げ始める。緑色の余剰エネルギーがブレードを包み込んでいく。
「うおおおおおおおお!!」
ブレードはその姿を変えていき、肩の装甲が大型化し、より鋭角的なフォルムと翼のような装甲が現れてくる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
姿を完全に変化させたテッカマンブレードを見て、アキを始めとするスペースナイツのメンバーは驚きを隠せない。
「こ、これが!」
「進化したテッカマン・・・ブラスターテッカマンの姿だ!」
フリーマンの言葉に倒れていたレーゲンはその姿を目に焼き付けようとブレードを見ている。
「ブラスターテッカマンだと!?バ、バカな!我ら以上の完全体が存在するものか!これでもくらえええ!!」
ランスはテックレーザーをブレードへ向けて放ったが爆発で起こった黒煙の中からブレードは突撃し、ランスの首を掴んで地下から地上へ向かっていく。
「あれが・・ブラスターテッカマンの姿・・・」
「お兄ちゃん!」
「ラウラ、ミユキさん!」
「二人共、大丈夫!?」
「Dボゥイさん・・後は・・・頼み・・ます」
ラウラは限界を超えていたらしく気を失い、テックセットが解除されてしまうと同時に倒れてしまった。それを見たスペースナイツのメンバーとレイピアはラウラに声をかける。
「ラウラ!」
「ラウラ!しっかりして!」
「チーフ!ラウラが」
「ラウラさん!!」
その声が聞こえていたのかはわからないが、ラウラは気を失っていてもDボゥイの勝利を信じているように穏やかな表情のままだった。
[推奨BGM『永遠の孤独』スパロボWアレンジ及び歌有り原曲]
「うおおおおおおおお!!」
ブレードはランスを掴んで引き摺っていき、地上を目指している。地上へ抜けた二人のテッカマンを目撃したのはソルテッカマンの二人だった。
「うお!?な、何だ!?」
「あれは、ブレード!」
ランスはブレードを引き離そうともがき続けていた。それでもブレードは手を離そうとはしない。
「は、離せ!ボルテッカァァァ!!」
ブレードの手を振り払いランスは至近距離から最大の必殺技であるボルテッカを放った。
「フッ、いくら進化したとはいえど、この至近距離からのボルテッカならひとたまりも!何ッ!?まさか!」
ランスはブレードを倒したことを確信していた。なにしろボルテッカはテッカマンが誇る最強の殲滅武装だ。その威力はブレードが他のテッカマンに対して放って倒した事で立証されている。
しかしその常識を覆すかのように進化したテッカマン、ブラスターテッカマンブレードは傷一つなくランスに向かって突撃してきた。
「う、うわぁ!」
「クラッシュ!イントルード!」
緑色の光を身に纏い、ブレードはランスに体当たりを仕掛ける。その速さはレイピア以上でランスは回避することができず当たり続けてしまう。
「ばかな、こんな!こんな事があってたまるか!私は完全なテッカマンだ!それをブレードのような不完全体に」
ランスは初めてブレードに対し恐怖を抱いた。今までは互角以上の戦いをしていたはずが、ブレードは自分よりも先のステップへと向かっていたからだ。
その集大成こそがブラスター化であり、もはやエビルと互角だった時の自分では勝てないと根底から思ってしまった。一度でもその状態で恐怖を抱けばその相手に勝てることはない。
一度撤退し、ラダム母艦へ戻る事を考えたランスだったがそれをブレードが許すはずもない。
「逃がすかぁ!!」
肩と腕の装甲が開き、そこから砲門が現れると同時にチャージが開始された。その衝撃で地上や空中に居るいるラダム獣達は次々に蒸発してしまっている。
その危険性を察知したソルテッカマン達はブレードを見上げたまま移動している。
「こりゃあ、ヤバそうだぜ?ノアル!」
「あぶねぇ!急ぐぞ!!」
二人が衝撃波の範囲外へと逃れると同時にチャージが完了し、ブレードは標的を逃すまいとする。
「うおおおおおッ!ボルテッカァァァー!!」
チャージされたボルテッカのエネルギーを象徴するかのようにテッククリスタルが現れ、それが砕けると同時に従来のボルテッカ以上のエネルギーが発射された。
「うわああああああああああああ!!」
ブラスターボルテッカに飲み込まれたランスは数百ともいうべきラダム獣と共に消滅していった。
ブラスターブレードの登場はスパロボでも原作アニメでもカッコイイですよね。
代償がものすごいけど。
レイピアに関しては再フォーマットによる戦闘力追加ということでボルテッカの発射口を追加しました。
そうしないと自爆確定ですので。
さて、いよいよラウラルートも最終局面間近です。マイクロレコーダーの話も出します。
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ブラスター化を果たし、戦う力を取り戻したDボゥイと完全なテッカマンとなることでその命を繋いだミユキ。
たった一人の肉親が生き残ったことに仲間達も喜びを隠せなかった。
そんな中、Dボゥイはアキとラウラと共にある場所へ向かう。
次回
『時の止まった家』
仮面の下の涙を拭え。