Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
シャルロットの涙
以上
マサ=ユキとの戦いの後、アークエンジェルと別れたナデシコは連合軍の策略によって接収させられてしまい、クルー全員がバラバラに逃げ出す事になってしまった。
連合軍の目的はナデシコを始めとする起動兵器の確保であった。元から所属している起動兵器やマジンガーなどの民間協力の戦力を一ヶ所に集めた結果、敵勢力を殲滅する事は出来たがその部隊に反旗を翻される事を恐れ、軍内部に取り込もうとしたのだ。
更にその裏で暗躍している[青き清浄なる世界のために]というスローガンを掲げる過激派団体が表へと出てきていた。
その事態を重く見たミスリルは独自に協力し、ナデシコを奪還。その際、謎の勢力の指揮官の一人であるフー=ルーを撃退して脱出した。
「まさか、フー=ルー先生まで出てくるなんて思わなかったよ」
シャルロットはフー=ルーが戦いに出てきた事に驚きを隠せなかった。
自分の世界では静かに厳しく、優しく導いてくれた恩師だが、この世界では一人の戦士であり戦いの事しか考えていない。
「ボクはフー=ルー先生と戦うのが目的じゃない、義兄さんと義姉さんを止める事が目的だからね」
シャルロットの目には戦意と殺気が宿っており、それを見ていたメルアが少し怯えている。
「シャ、シャルロットさん。なんだか怖いです」
メルアの怯えた声にシャルロットはいつもの通りの雰囲気に戻るとメルアに笑顔を見せた、
「ゴメンね?メルア、少しばかり高揚しちゃって」
「いえ、大丈夫です。シャルロットさん、一緒にお菓子食べませんか?」
「そうだね、じゃあ・・お詫びも兼ねてサプライズをしてあげる」
シャルロットの言葉にメルア首を傾げたが、サプライズと聞いて笑顔を見せている。
「じゃあ、カルヴィナさん達も呼んできますね!」
メルアは急いで他の三人を呼びに行きシャルロットは自室に戻ると着替え始め、数分後にナデシコの食堂に集まった。
「一体何なの?シャルロットのサプライズって聞いたから来たんだけど」
「そうだよ、メルア!ご飯だったからいいけどさ!」
「全く、サプライズって一体何?」
カルヴィナ、テニア、カティアの三人がメルアに連れられて食堂に現れるとタキシードのようなスーツに身を包んでいる人物が一人いた。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。こちらへどうぞ」
それは男装したシャルロットの姿、その姿に四人は驚きを隠せていなかった。それほどまでに男装が似合う女の子など見た事が無い事の証明でもある。
「シャ、シャルロット!?」
「えっ?すごく似合いすぎてて一瞬誰かと思ったよ!」
「シャルさんの男装・・・やっぱり良いですね」
「サプライズってこの事だったのですか?」
「見てみたいって言われてたからね、今日だけ特別だよ」
シャルロットの笑顔に他の四人も笑みを浮かべる。この時だけは戦士でもシャルロットでもなく、執事のシャルルとして接している。そのまま食堂の厨房へと歩いて行くとコーヒーをカップに注ぎ、お盆に乗せて持ってくる。
「お待たせしました、コーヒーです」
シャルロットから提供されるコーヒーを見てカルヴィナは少し苦笑していた。
「様になりすぎてるわよ、よっぽど訓練されたのね」
「アハハ・・・それは言わないで、これでも気にしてるから」
カルヴィナの言葉にシャルロット自身も自虐しているように苦笑している。三人娘は期待に胸を膨らませている様子でシャルロットを見ている。
「あ、あのさ。シャルロット!私にあーんしてくれないかな?」
「畏まりました、テニアお嬢様」
テニアのお願いを承諾したシャルロットはテニアに近づき、用意していたクッキーを手にした。
「テニアお嬢様、口をお開け下さい」
「あ、あーん」
男装しているとはいえど、今のシャルロットは男性と変わらないためテニアは顔を真っ赤にしながら遠慮がちに口を開いた。シャルロットは優しく手にしたクッキーをテニアに食べさせる。
「おいひい、ありがと!シャルロット」
「ふふ、お安い御用ですよ」
「シャルさん、今度は私に紅茶を淹れてください」
「畏まりました、カティアお嬢様」
カティアからの頼みを聞いたシャルロットは厨房に向かい、紅茶の入ったポットとカップを用意しお盆に乗せ持って歩いてくる。その姿ですら本当の執事のようで三人娘は見入っていた。
ポットから紅茶をカップへと注ぎ、ティーソーサーの上にカップとティースプーンを置くとカティアの前へと置いた。
「お待たせしました」
「あ、ありがとうございます」
お嬢様として扱われる事が初めてのカティアはしどろもどろになりながら紅茶を飲み始めた。ストレートのままだったが程よい暖かさと紅茶の渋みがカティアを落ち着かせる。
「はぁ、美味しい」
すっかり落ち着いたカティアはシャルロットに一礼し、笑みを浮かべた。自分のお願い事を聞いてくれたお礼も兼ねていたようで、それに気づいたシャルロットも笑顔で応えた。
「最後は私ですね、シャルロットさん。私は頭を撫でて欲しいです」
「畏まりました、メルアお嬢様」
メルアの頼みごとを聞くために傍へ来るとシャルロットは優しくメルアの頭を撫で始めた。メルアはくすぐったそうに目を閉じるが執事の姿をしたシャルロットを直視できないのが本音である。
「はぁ・・・」
シャルロットが撫でるのを止めるとメルアは少し目が潤んでおり、まるで王子様を見ているかのようにシャルロットを見つめていたが我に返り、頭を下げた。
「ありがとうございました、シャルロットさん」
メルアのお礼を笑顔で応え、シャルロットは自分の席に戻った。執事としてのサプライズを終わらせ一息を入れるためだ。
◇
こうして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、オーブへと到着した。マサ=ユキが最終決戦の地であると伝えた国である。シャルロットは着替えを済ませ、ナデシコと同じ敵前逃亡艦となったアークエンジェルのクルー達とも合流し話し合いを始めた。
その席にはオーブの代表であるウズミ・ナラ・アスハも同席し、世界が二分されている現実を知る事になった。その途中で地球連合軍からオーブへの通告という要求が通達された。
内容はオーブ国の無条件解体と連合軍への加入、更にはナデシコとアークエンジェルが保有する戦力の引渡しであった。
「(これと似たような要求、ボク自身の世界でも見た事がある・・・)」
シャルロットが要求に既知感を感じたのは自分の世界で女尊男卑を掲げるIS委員会の過激派が攻めて来た時があったからだ。
ISは女性の物であり、男が使うことは許されないという考えの下で動いている過激派は男性操縦者の二人を引き渡すように要求してきた。
これを今居る世界で当て嵌めれば全ての兵器は連合軍が扱うべきだと主張している。形は違えどこれは全く同じ事を目の前で行われているのだ。
「どこにでも自分の手元に置いておきたい人や排除したい人っているんだね・・・」
「シャルロット、何か言った?」
「ううん、何でもないよ。カルヴィナさん」
シャルロットは最終決戦の場にいる事で気を貼りすぎている様子で更には自分が育ったデュノア社の事も思い返していた。都合のいい道具として使われ続け、ISのテストパイロットも強引にさせられ八つ当たりのサンドバッグにもされてきた。
思い返しても変える事は出来ない過去だが、それだけシャルロットの中には根深くなっているのだろう。しかし、シャルロット自身は仲間やカルヴィナという新しい支柱を得た為に過去を乗り越えている。それを乗り越えた強さは自分や仲間達と共に積み上げて来た特訓や経験そのものだ。
過去を振り返る事は誰にでもある。しかし、それを立ち止まる理由にしてはいけないという事にシャルロットは自分の世界において自力で気付く事が出来ていた。自分の過ちも大切な事も己で乗り越えていくしかないのだ。
「(アル=ヴァン義兄さんは必ず来る・・・カルヴィナ義姉さんの代わりじゃなくボクが決着を付ける)」
◇
二十四時間後、地球連合軍によるオーブ侵攻が開始された。地球連合軍、その物量はオーブ以外の全ての世界を相手にするようなものだ。その物量に怯む事なくナデシコとアークエンジェルの部隊はオーブを守るために出撃した。
自由の名を持つガンダムを筆頭に連合軍の量産機を戦闘不能に追い込んでいく。それでも次から次へと送り込まれてくる部隊に疲労が蓄積していく。
「自由の名を関する機体、ふふ・・・やっぱりあの二人とは切っても切れない縁なのかもしれないね」
シャルロットはフリーダムガンダムの姿を一瞬だけ見ると連合軍の機体を戦闘不能にしていく。ベルゼルート・リヴァイヴの動きは後ろで戦っているカルヴィナのベルゼルートの動きと鏡合わせのように同じだ。援護も忘れず、カルヴィナが撃ち漏らせばシャルロットがその相手を落とし、シャルロットが撃ち漏らせばカルヴィナが落とす。
二人はまるでテレパシーを使っているかの様にお互いに次で何をするのか分かり合っている。その理由はベルゼルートという名前にある。
ベルゼルート・リヴァイヴは元々、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを強化改修したものでありシャルロット自身の世界でベルゼルートの機体データとオルゴンエクストラクターを追加された。
その際、サイトロンを起動する為のデータを時間短縮のためにベルゼルートからそのままコピーし使った結果、ベルゼルートとのシンクロが可能になっていたのだ。更にはシャルロット自身もカルヴィナを越えようと特訓を重ね続け、異名を継承する為の戦いでカルヴィナのクセを見抜き覚えていた。
だからこそ、鏡合わせの動きが可能となり二人が並んだ時は双子のように抜群のコンビネーションを発揮できるのだ。
「はぁ・・はぁ・・・流石に全世界との戦いは応える・・ね」
連合軍との戦いは徐々にオーブが不利となっていた。質がどれだけ良くとも相手は圧倒的な物量を誇る軍隊である為、数が減っていない感覚に襲われるのだ。
切り札でもあった襲撃、禁忌、災厄の名を関するガンダム達を退け、連合軍を撤退させた。しかし、その機を伺っていたのかのように謎の勢力であるフューリーの機体達が転移して来る。
「・・・・来た」
「灰色のラフトクランズ・・・アル=ヴァン義兄さんだね」
従士の機体を率いる中に、オレンジ色とダークブルーのヴォルレントがラフトクランズを守るように浮かんでいる。ダークブルーのヴォルレントはシャルロットを見つけると同時に個人通信をつなげてきた。
「そこの機体、聞こえるか?」
「ユウ=スケ、だね?何かな」
個人通信であるために他の味方には聞こえていないが両者が動かないために手出しする事も出来ない。
「マサ=ユキはどうなった?解りきってはいるが一応聞いておきたい」
「見ていないけど彼は・・・死んだよ。ボクが戦ったからね」
「そうか、仇を討つなどとは言わない。知りたかっただけだ」
「そう・・・」
ユウ=スケは親友が死んだと聞き、目を閉じた。黙祷と共に自分の中にあった僅かな生存の可能性を消すために。
「(お前は逝けたのか?シャウ=ファンの元へ)」
ユウ=スケは通信を切り、アル=ヴァンが戦闘を開始する号令を発した。フューリーの機体はそれぞれが役目を担っており隙がない。
「カルヴィナさんの邪魔はさせないよ!ダブルシュート!」
「シャルロット、ありがとう!」
カルヴィナがアル=ヴァンの駆るラフトクランズのもとへと行けるようシャルロットは道を切り開いていく。オルゴン・ダガーによる接近戦をさせず、オルゴン・ガンを回避しながら弾幕によって四肢を奪っていく。
従士を退けると同時にオレンジカラーのヴォルレントが立ちふさがった。決してアル=ヴァンには近づけさせない意思が強く現れている。
「てめえのような奴にアル=ヴァン様と戦う資格なんてねえんだよ!俺がぶっ潰してやる!」
「君は何かを成そうとしてるみたいだけど信念の強さではマサ=ユキの方がすごかったよ」
「俺をあんなクズと一緒にするな!俺はアル=ヴァン様の為に戦うんだよ!」
「!今、バカにしたね・・・?命を賭けてボクを導いてくれた人をクズ呼ばわり・・・許さない、君はボクが落とす!」
シャルロットは初めて自分の怒りを表に出した。会話と戦いだけの交流であったとしても、自分自身の命を散らしてまでも導いてくれた相手を馬鹿にされたからだ。
その相手を馬鹿にされるという事は互いに全力で戦った決闘さえも馬鹿にされているのと同義である事だとシャルロットは考えたのだ。
[
「来なよ、そのねじ曲がった考え、撃ち抜いてあげる!」
「はん!やれるもんならやってみな!」
オレンジカラーのヴォルレントとベルゼルート・リヴァイヴの戦闘が始まり、カルヴィナはその隙をみてラフトクランズ・アウルンへと向かっていった。
◇
「そらそら!どうした!」
「く、どうしたの?リヴァイヴ・・・!反応が鈍いよ!?」
放たれたオルゴン・ガンをシャルロットは回避するが、ギリギリといっていい程の成功だったために追撃を仕掛けられていた。
この土壇場でベルゼルート・リヴァイヴの弱点が表立ってきていたのだ。それを表すかのように動きが連合軍と戦っていた時よりも鈍くなっている。
「はっ!そういうことか。その機体、サイトロンを使ってやがるな?上手く動かしていたからわからなかったけどよ」
「っ・・!動力を見破られた?」
「お前もカルヴィナと同じって事か!一人で動かせている事は驚きだったが、ネタが分かったからな!死ねよ!」
ジュア=ムはオルゴン・エクストラクターの出力を上げるとオルゴンキャノンによるロングレンジビームをシャルロットへと放った。
「!うああああああああ!」
動きが鈍くなっていたシャルロットは直撃してしまうが、シャルロット自身はオルゴンによって強化された絶対防御によって守られ無傷だった。
「模造品の模造品はさっさと消えろよ!」
「や、やられる!このままじゃ!」
二発目のロングレンジビームをシャルロットへと放とうとした時、何かが飛来し姿を変えた。
「そこを退けぇ!」
「な、何!?」
突然の声にシャルロットは驚いたが急いでその場を離脱しナデシコへと退避した。
「うおおおおおおお!ボルテッカァァ!」
それと同時に仮面舞踏会に招待された白き仮面の戦士が必殺の一撃を放ってきた。
「マズイ!ジュア=ム!そこから退け!」
「何!?しまった!うああああああああ!」
ユウ=スケの叫びと同時にジュア=ムの駆るオレンジカラーのヴォルレントは光に包まれると機体を大破させられ、撤退した。
「ボルテッカ!?今のはテッカマンか!?」
カルヴィナの言葉にシャルロット以外の全員が驚く、ナデシコ艦内でシャルロットはリヴァイヴを展開したまま応急修理と補給を受けている。
「二次移行したラウラの機体みたいなのが・・・あれ、テッカマンっていうんだ」
シャルロットは驚きながらも焦りを押し殺していた。この修理と補給が終わらなければ出撃が不可能だからだ。
◇
「そこだ!オルゴンクロー!もらった!」
「何!?しまった!」
アル=ヴァンの駆るラフトクランズ・アウルンとカルヴィナの駆るベルゼルートの戦いはアル=ヴァンが押していた。そして今、ベルゼルートはオルゴンクローに捉えられてしまっている。
「うああああああああ!」
「きゃああああああああ!」
シールドクローを展開し、オルゴンクローに捉えられたベルゼルートは地上に叩きつけられ、地に引き摺られる。
遠心力をかけ、空へと投げつけるとオルゴンクラウドの転移を使い、背後に回るとそのままクローで引き裂くようにベルゼルートを地上に叩きつけた。
「うぐああああ!カティア、機体状況は!?」
「機体損傷、レッドゾーン!戦闘は僅かに可能ですがもう一度攻撃を受けたら戦闘不能です!」
「ぐっ!」
「カルヴィナ・・・せめて最後は私の手で苦しまずに逝かせよう!オルゴン・マテリアライゼーション・・・」
ラフトクランズ・アウルンが介錯の意味を込め、ソードライフルをソードモードに切り替えると刀身が形成される。
◇
「間に合えええええ!オルゴンライフル!B・N!同時発射!」
「何!?」
アル=ヴァンはシールドクローで己に向かってきた弾幕を受けきり、ベルゼルートから距離を離した。
倒れているベルゼルートを守るかの様にラフトクランズ・アウルンの前に立ったのはベルゼルート・リヴァイヴ。後一歩の所で間に合い、カルヴィナとカティアを救出した。
「カルヴィナ義姉さん・・・借りるよ」
ベルゼルートのオルゴンライフルを手にし、ラフトクランズ・アウルンの目の前に立つ。応急修理を完了させたとはいえ、この戦いが限界だろうと忠告されている。
「シャルロット・・・アイツは私が!」
「分かってる、けど今の状態では戦えないでしょ?戦いを奪うことになっちゃって・・・ごめんなさい」
「く・・癪だけど譲るしかないようね」
カルヴィナからの通信を切り、アル=ヴァンへと通信を繋ぐ。ラフトクランズ・アウルンもカルヴィナとの激闘で中破に近い状態だ。
「アル=ヴァン・ランクスさん・・・ですよね?カルヴィナさんから聞いてます」
「私の名をカルヴィナから聞いていたのか?」
「はい」
シャルロットはわざと知らない様に装った。この世界のアル=ヴァンもカルヴィナ同様、自分が知る相手ではないからだ。
「長引かせる訳にはいかんのでな、すぐに倒させてもらう!」
「させませんよ、僕だって!負けられない!」
別世界とはいえ義兄との真剣勝負にシャルロットは正面から向かっていった。
「我が業はいずれ時が裁く!今の私には戦いあるのみ!」
ラフトクランズ・アウルンはソードライフルをライフルモードに切り替えると、ガンスピンを交えエネルギー弾を三発、タイミングをずらして放ってきた。
政征や雄輔とも違うアル=ヴァンの射撃にシャルロットは驚くが冷静に回避し、反撃に移る。義姉のベルゼルートのオルゴンライフルと自分のリヴァイヴのオルゴンライフルを両手に構えた。
「行くよ!アル=ヴァンさん!」
リヴァイヴの動きは応急修理と同時にサーボモーターと高性能スラスターを装備し、動きの鈍さを緩和させているがシャルロットの動きに着いていくのがやっとの状態だ。
「オルゴンライフルB!ダブルシュート!」
「ぬう!?この者、カルヴィナと同等の射撃技術を持っているのか!?」
「ボクは貴方もカルヴィナさんも死なせない!だから、二人を止めてみせる!」
リヴァイヴから放たれるオルゴンライフルの射撃とシャルロット自身の技術である『砂漠の逃げ水』が噛み合い、アル=ヴァンを追い込んでいく。
「だが、まだだ!」
アル=ヴァンは本来、剣撃戦闘を最も得意とする。リヴァイヴの動きが僅かに鈍り始めたのをアル=ヴァンは見逃さなかった。
「変幻の剣!受けてみよ!!オルゴン・マテリアライゼーション!」
「え!?」
ソードライフルをソードモードに切り替え、オルゴンソードを構えると接近戦の間合いを取った。
「はああああ!」
「あの二人よりも早い!?うわあああああ!」
ラフトクランズ・アウルンの剣撃を受けたシャルロットは吹き飛ばされてしまい、アル=ヴァンはそれすらも逃さない。
「出よ!オルゴナイト・ミラージュ!」
オルゴナイトの結晶によって形成された三体の分身がリヴァイヴを捕らえ、結晶の中に閉じ込めた。
「せえええええい!」
「あぐああああああ!」
絶対防御によってシャルロットは守られたがリヴァイヴは限界寸前に近くなっている。仮に必殺級の武器があるとしても一撃が限界だろう。
「ぐ・・・う・・・まだ、だよ!アル=ヴァン・・・さん!」
「む!?よかろう、一騎討ちを申し込む前に君の名前を聞いておきたい」
「シャルロット・デュノア・・・!」
「シャルロットか、君に一騎討ちを申し込む!」
「本当ならカルヴィナ義姉さんの役目・・なんだけど、ね。受けて立つよ!」
シャルロットは体勢を整えるとベルゼルート・リヴァイヴに声をかけた。機体が限界寸前、
「リヴァイヴ、後少しでいい!ボクに力を貸して!」
その言葉に呼応するようにリヴァイヴは僅かに輝き、二つのオルゴンライフルにその輝きが宿る。
「参るっ!!うおおおおお!」
「やあああああああ!!」
ラフトクランズ・アウルンとベルゼルート・リヴァイヴは同時に突撃し、ぶつかりあった。
アル=ヴァンはシャルロットの行動に驚きを隠せなかった。肉を斬らせて骨を断つを実践し、オルゴンソードの刺突を傷を負いながらも腋に腕を挟み込んで止めていたからだ。
「なんと!?」
「これ・・が!ボクの全力全開、だああああああああああ!」
「ぬおおおおっ!?」
シャルロットは左手に持ったカルヴィナの駆るベルゼルートのオルゴンライフルをゼロ距離から、エネルギーが尽きるまでラフトクランズ・アウルンに撃ち込み続けた。
オルゴン・クラウドによってパイロットは守られたが、ラフトクランズ・アウルンも大破している。
「(確かに見届けた)」
決闘を見届けたユウ=スケは先に撤退していき、一騎討ちをしたベルゼルート・リヴァイヴとラフトクランズ・アウルンは同時に地上へ落下した。その位置は偶然にもカルヴィナのベルゼルートが倒れている場所であった。
「う・・うう、どうして真実を言わなかったの?アル=ヴァンさん」
ボロボロになりながらも問いかけてくるにシャルロットにアル=ヴァンは、申し訳ない気持ちを乗せるかのように口を開いた。会話の全てが聞こえるようにした上で。
「地球は我らフューリーの約束の地であったのだ・・・計画では地球人類を全て排除するはずだった。だが、私は計画を捨て、人類を愛してしまった」
「約束の地・・・それならどうして!?っ!?」
シャルロットは叫ぼうとした瞬間、自分の身体の異変に気づいた。身体が光り出し、存在が薄くなってきている。
「(アル=ヴァン義兄さんを倒したから!?待って!まだ伝えてない!)」
「シャルロット・デュノア・・・私は我が故郷でヴァウーラと戦い敗れたのだ。だが、今の君ならば」
「アル=ヴァンさん・・・」
「カルヴィナ、済まなかった・・・私は」
「もういいの、今でも貴方は私の全て・・・戦えなかったのは残念だけど、今も愛しているわ。アリー」
「カリン・・・許してくれるのか?」
「言ったでしょう?貴方は私の全てなの、許すも許さないも無いわ」
二人の関係が修復されようとした瞬間、予備機らしき銀色のヴォルレントに乗ったジュア=ムが現れ、ラフトクランズ・アウルンを抱えて上昇しだした。
「それ以上は言わせませぬぞ!」
「君は!?」
「ジュア=ム!貴様、乱心したか!?」
「ご乱心はアル=ヴァン様にこそ!何を血迷われて地球人などに!?」
銀色のヴォルレントはラフトクランズ・アウルンを抱えたまま上昇していく、追いかけようにも二機のベルゼルートは動く事が出来ない。
「ジュア=ム!貴様、何をする!そこからどけえっ!!」
「離せ!この機体はもはや持たぬ、巻き込まれたいか!?」
「離しませぬ!お連れまいらせる!!」
「アル=ヴァン義兄さん!カルヴィナ義姉さんを一人にするつもりなの!?」
「!カルヴィナ・・・!」
アル=ヴァンがカルヴィナへ声をかけると同時に地上から離れた上空で、ヴォルレントを巻き込む形でラフトクランズ・アウルンは爆発を起こした。
「あ・・・アル=ヴァン・・!?アル=ヴァーーーン!!」
「カルヴィナさん・・・」
「い・・嫌あああああああああああっ!」
「そんな・・・」
シャルロットは消える前に急いでカルヴィナのもとへと向かった。自分を覆う輝きは強くなってきており、時間は少なかった。
「カルヴィナさん!」
「シャル・・・ロット?あんた、身体が・・・!?」
「シャルさん!?」
「ボクの役目は終わっちゃったみたいだからね・・・カルヴィナさん、アル=ヴァンさんはきっと生きてる。貴女を残して死ぬ人じゃないから」
シャルロットはこの世界の二人が並んで歩く姿を伝えようとしたが上手く伝える事が出来なかった。
「他の奴なら気休めを言うな!って・・・言いたいけど、あんたの言葉なら信じてみるわ」
「うん・・・じゃあ、またね」
そういってシャルロットは光の中へと消えていった。それを見届けた別世界のカルヴィナは涙を拭わないまま、先程までシャルロットが居た所を見つめていた。
◇
アシュアリー・クロイツェル社の研究室で三つ目のカプセルが開き、シャルロットが目を覚ました。
「帰って来れたんだ・・ボク」
「シャルさん!」
「シャルロット!」
「ああ・・・三人目の生還者だ。良かったよぉ!!」
セシリア、鈴、束の三人が一度に押しかけ、シャルロットの帰還を大いに喜んだ。シャルロット自身は一刻も早く会いたい二人が居た。
「みんな、ありがとう。でもボクは・・・会いたい人がいるんだ」
「(カルちゃんとアルちゃんだね・・・)うん、わかったよ。その前にベルゼルート・リヴァイヴを私に預けてね?」
「はい、分かりました」
待機状態のベルゼルート・リヴァイヴを束に預けると同時に研究室を飛び出し、走った。
◇
会いたい二人がいる部署へと一刻も早くたどり着きたかった。理由はない、ただ会いたいというだけ。
目的の部署に入ると休憩時間なのかカルヴィナとアル=ヴァンはコーヒーをテーブルに置き、談笑していた。
「あら?シャルじゃない、無事だったのね!束から聞いて心配してたのよ!?」
「どうした?シャル、固まってしまって」
「カルヴィナ義姉さん・・・アル=ヴァン義兄さん・・・うあああん!」
シャルロットは泣きながら二人へと飛び込んだ。どんなに気丈に振舞っても、一人の少女である。データ世界での戦いに押しつぶされそうだったのだろう。
「何があったのか知らないけど、今回は許してあげるわ」
「そうだな、さぞかし辛い事があったのだろうからな」
二人はシャルロットを受け止めカルヴィナは背中を、アル=ヴァンは頭を撫でている。義理の妹だとしても大切な家族であり、辛い事があったのなら自分達が受け止める役割をすればいい。
シャルロットは二人の優しさを一身に受けながら、ずっと泣き止む事はなかった。
シャルロットの時だけ字数が多い気がする。
お待たせしてすみません。ようやく書けました、これにてシャルロットのルートも終了です。
残りはラウラと政征・雄輔の三人だけとなりました。
次はラウラのルートです。
もしかしたら、ラウラの戦いが最も辛いものになるやもしれません。
※彼の妹は生存ルートの為、生存出来た過程を辿ります。
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ラウラが飛ばされた世界、そこは寄生生物と地球人の仮面舞踏会が行なわれている世界だった。
そこでラウラは不完全な仮面の戦士に出会い、彼の妹を助ける事に助力する。
次回
[REASON]
仮面の下の涙を拭え!