Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
戦いの紋章は消えない
以上
「東方不敗!今からそこへ向かってやる!」
「待って、ドモンさん!」
「ウハハハハ、威勢がいいな!だが、ワシと戦う前に此奴らを倒して来てみろ!」
ラオタン島に現れたデビルガンダムとマスターアジアだが、マスターアジアが軽く手を挙げると二機のガンダムが現れた。
ネロスガンダムとジョンブルガンダムの二機だ。しかし、その姿を変えていき全くの別の姿となった。
天剣絶刀・ガンダムヘブンズソード、獅王争覇・グランドガンダムの二体。どちらもデビルガンダムの力によって進化したものだ。
「いいわ、相手になってやるわよ!」
「ああ、望む所だ!」
四天王の二体に向かっていこうとした二人を止めるかのように、四つの影がヘブンズソードとグランドの二体を押さえ込んだ。
「ドモン!ここは俺たちに任せろ!」
「ここは私たちが抑えます!」
「チボデー!?ジョルジュ!?」
グランドガンダムを押さえ込んでいるのはマックスターとローズの二機だ。
「鈴!アニキと一緒に行ってくれ!」
「ドモンのサポートを頼む!」
「サイ・サイシーさん!?アルゴさんまで!」
四人はそれぞれ押さえ込んだ敵と共に別の場所へと移動していってしまった。それを見届けた二人は真っ先に上へと向かっていく。
しかし、それを阻もうとしていたのがノーベルガンダムだが乱入してきたもう一機のガンダムが体当たりでノーベルガンダムを押しのけ、海中へと潜っていった。
「今のはライジングガンダム?一体誰が!」
「急ぎましょう!ドモンさん!」
「ああ」
マスターアジアのもとへたどり着くと同時に仕掛けたのは鈴だ。しかしマスターアジアは子供の相手をするかのように受け流してしまう。
「っく!このぉ!」
「未熟者がぁ!」
「きゃああああ!」
マスターガンダムのマスタークロスによって引き寄せられた鈴はそのまま蹴りを受けてしまい、地面に倒れてしまう。
「鈴!」
「隙有りィ!」
今度はゴッドガンダムを引き寄せ、一撃を加える。事実上の二対一だが、そのハンデを感じさせない程、マスターアジアは圧倒的だ。
「ぐはぁああ!」
「どうした?立ち上がる気力を失ったか!?」
「ぐうう、俺はみんなの力を借りてここまで来たんだ!その志を無駄には出来ん!俺は必ずデビルガンダムを倒す!」
「私だって・・負けないわ!」
「まだ寝言をほざきおるか!」
「いや!その粋だ!二人共!!」
突然の声に二人は驚いたが、その声には聞き覚えがあった。時に厳しく、時には導いてくれた大恩人。
「おのれ、シュバルツ!またしても!」
「そうだ!貴様に我が弟をやらせはせん!」
弟という言葉にドモンはやはりという表情を見せ、鈴は逆に驚きを隠せないでいた。
「弟!?それじゃ、やっぱり俺の兄さんなんだ!」
「え、え?どういう事!?シュバルツさんがドモンさんのお兄さん!?」
「二人共、話は後だ!今はデビルガンダムを倒すことが先決だ!マスターは私が相手をする」
マスターガンダムとガンダムシュピーゲルがファイトを始め、シュバルツの一言で鈴は目的を認識し、デビルガンダムのもとへと向かっていく。それと同時にドモンも鈴に続いてデビルガンダムへと向かった。
デビルガンダムはまるで見せつけるようにコクピットを開き、パイロットであるキョウジを表に出した。
DG細胞で身体の欠損は再生されており、機械の触手に絡め取られている姿はまるで植物の根が土から養分を吸い上げているようにも見える。
あまりにも酷い姿に鈴は絶句したが、それ以上に驚きなのがデビルガンダムに取り込まれているキョウジとシュバルツの素顔が全く同じだという事だ。
「どういうことなんだ、これは!?」
「キョウジさんが、二人!?」
キョウジに気を取られているとガンダムヘッドが細かな触手に分裂し、ジャオロンガンダムとゴッドガンダムを締め上げる。
「ぐわああああああああ!」
「きゃあああああああああああ!」
二人はどうにかして触手を振り払おうとするが、四肢を絡め取られていて動くことができない。
「くうう!これじゃシャドウも出せない!」
「ぬうううう!」
「見たか!屍同然の兄の姿を!然るにドモンよ!貴様が新たなデビルガンダムの生体ユニットとなれ!」
「ぐうう、マスターアジアァー!」
マスターアジアの言葉にシュバルツは叫びを上げ、鈴も怒りが沸いたが四肢を絡め取られて動けない状態だ。
「いい加減にしてよ、ねェェェ!」
鈴は使うまいと決めていたオルゴン・クラウドの転移を使い、拘束から抜け出し青竜刀を手にするとドモンを拘束している触手を切り、救出した。
「すまない、助かった!」
「お礼は後でいいですから!襲ってきてますよ!」
ガンダムヘッドの大群は敵味方問わずに襲いかかってきている。鈴はガンダムとしてではなくISとして使ってきた技を使い始めた。
「これが爪龍の力よ!オルゴン・シャドウ!全部受けろォォォ!」
鈴は16体のオルゴン・シャドウを出現させ、オルゴナイトの結晶化した拳をガンダムヘッドへ撃ち込んでいる。
「な、なんだあれは!?このワシも知らんぞ!」
鈴の攻撃にマスターアジアすら驚く事だったが、戦いの中で突如シュバルツが苦しみだし、ドモンが救出に向かいシュバルツを安全な場所に移した。
「兄さん、やっぱり無理だ!早く手当を受けないと!」
「いや、もう大丈夫だ」
「それよりも兄さん、どうして兄さんが二人もいるんだ!?教えてくれ!兄さん!」
「わかった、全てを話そう。私はキョウジであってキョウジではない存在、いわば影・・・」
「影?」
「そうだ。私は鏡に映ったキョウジの影であり、DG細胞の転写複製因子よって作られたキョウジのコピーなのだ」
転写複製因子。それはコンピューターでいうところのコピーデータであり、デビルガンダムというコンピューターの中でプログラムの一部となっているキョウジ自身の人格や記憶などのデータをコピーし移し替え、別の人間という古いコンピューターで稼働させている状態と似ている。
「そ、そんな・・・じゃあ!兄さんがデビルガンダムを奪って全宇宙の征服を企んだっていうのは」
「ネオジャパンの軍によるでっち上げだ」
「ならどうして、最初に出会った時に本当の事を話してくれなかったんだ!?」
「ふ、頭に血が昇り過ぎていたお前に言っても信じるはずがあるまい。だが、私も辛かったぞ!」
「兄さん!アンタは兄さんだ!間違いなく・・・俺の兄さんだぁぁ!!」
裏切られていたと思っていた実の兄の真実を知って、ドモンはその目に涙を浮かべていた。自分を思ってくれている優しさ、家族の暖かさを感じたからだ。
驚愕の真実に話を聞いていた鈴ですら驚きを隠せなかった。軍の企みによってドモンの家族は引き裂かれてしまったのだ。
デビルガンダムは無差別破壊をしており、鈴は風雲再起に乗ったマスターアジアを相手に闘っていた。
「はぁ!はっ!」
「ウアハハハハ!言ったであろう!貴様は未熟だとな!だが、貴様もデビルガンダムのコアとなるだろう!」
「ふざけないで!誰があんなゲテモノなんかに乗るもんか!」
「隙有りィィ!」
「しまっ!きゃああああ!」
「鈴!」
鈴はマスターアジアの操るマスタークロスに捉えられ、身動きが取れなくなってしまう。ドモンも鈴を助けに向かおうとするが無差別攻撃の爆発で向かう事が出来ずにいた。
「う・・まずい、意識が・・・!私の命はキョウジと共にある、もはやこれまでか・・?いや、まだ終われん!」
シュバルツは力無くガンダムシュピーゲルを動かし、マスタークロスに囚われた鈴をシュピーゲルブレードでその布を斬ると同時にデビルガンダムへ突撃していった。
「後少しだけ持ってくれよ、この身体・・・!」
「シュバルツさん!?」
「貴様、何をする気だ!?」
「知れた事!デビルガンダムを食い止めるのよォ!」
「無茶だ!兄さん!」
「黙って見ていろォォォォ!」
ガンダムシュピーゲルはデビルガンダムへ特攻していくかのように必殺技のシュツルム・ウント・ドランクを発動させる。
デビルガンダムはそれを撃退するためにバルカン砲を放つ。デビルガンダムクラスのバルカン砲は従来のガンダムタイプよりも大口径であり、威力は桁違いだ。
「ぐううう!」
シュバルツは苦悶の声をあげるが特攻をやめようとはしない。バルカン砲を弾いていた必殺技も限界を迎え、ガンダムシュピーゲルが蜂の巣にされていく。
それを見たドモンと鈴は全速力でデビルガンダムの上半身へと向かった。
「兄さぁぁぁぁん!」
「シュバルツさぁぁぁん!」
シュバルツはシュピーゲルの爆発前に脱出しており、デビルガンダムのコクピットへ潜り込むと自身のオリジナルであるキョウジの肉体を捉える。
「ぐうう!」
生体エネルギーの伝達が遮られたのかデビルガンダムの動きが止まってしまう。だが、デビルガンダムの意思はシュバルツすらも取り込もうと触手を伸ばし巻き付かせた。
「いかん、デビルガンダムは私まで取り込むつもりだ!」
「ドモン!鈴音!撃て!私と一緒にデビルガンダムを!」
「え!?」
「そんな・・・!」
「早く!私の身体ごとコックピットを吹き飛ばすんだ!」
鈴とドモンはシュバルツから言われた事に戸惑いを見せた。何故なら自分ごとデビルガンダムを吹き飛ばせと言ってきたからだ。
「そ、そんな・・嫌だ!僕には出来ない!!」
「嫌ァァ!!私だって嫌よぉ!」
「甘ったれるな!その手にあるシャッフルの紋章の重さを忘れるなァ!」
「紋章の重さ・・・」
シュバルツは甘えを捨てて自分の使命を全うし目的を見失うなと叫びをあげている。
「それとも、こんなキョウジのような悲劇を繰り返させるつもりか!?」
「うう・・・」
「いや・・いやよ!」
二人は未だに迷いが解けない。ドモンにとっては実の兄、鈴にとっては自分を鍛え直してくれた大恩人だからだ。その中でマスターアジアがドモン達に向かって叫んでいた。
「止めろ!ドモン!鈴音!貴様等、実の兄と恩人をその手で殺めるつもりか!?止めろォォ!!」
「やるんだ!デビルガンダムの呪いから私達を解き放ってくれ!頼む、ドモン!鈴音!デビルガンダムに最後の一撃を!!」
「・・・っわかった!」
「わかりました、シュバルツさん・・・・!」
「鈴、協力・・・して、くれ」
「は・・・・い」
ドモンは懸命に涙を堪え、鈴は既に涙を流し二人は流派東方不敗の最終奥義を放つ体勢に入る。浄化の意味も込められた二つのキング・オブ・ハートの紋章がゴッドガンダムとジャオロンガンダムの前に現れる。
「よせ!デビルガンダムなくして地球の環境は!止めろおおおお!!」
「ぐ・・に・・・兄さん・・・!」
「シュバルツ・・・・さん!うわああああああああああッ!」
「爆熱!」
「爆光!」
「「石破!天驚けェェェん!」」
二体のガンダムの目からは涙が溢れており、二つの石破天驚拳はデビルガンダムのコックピットへと向かっていく。同じ顔をしながら全く異なる二人のキョウジは直撃の瞬間に目を合わせた。
「(すまなかったな、お前に損な役割をさせて・・・)」
「(いや、構わない。これでようやく役目を終えて次に託せるのだからな・・・)」
「兄さん・・・!」
「シュバルツさん・・!」
「「ありがとう・・・ドモン、鈴音・・・」」
「にぃぃぃぃさぁぁぁぁん!!」
「シュバルツさぁぁぁぁん!」
デビルガンダムは上半身を完全に失い、崩れ落ちていった。ドモンと鈴は深い悲しみに包まれており完全に膝を着いている。
鈴にとって恩人を亡き者にしてしまったという事実が自分に重くのしかかっていた、それほど自分がやった事は根深いものとなっている。
悲しみに暮れていたが鈴の身体が少しずつ光に覆われていた。それに気づかないままドモンとマスターアジアの最終決戦が始まり、鈴はその戦いを見届けた。
かつての師匠と弟子の戦いは死力を尽くす激闘であり、誰にも手出しする事は出来ない。
だが、マスターアジアは地球を思うがあまりの行動だったことが明らかになっていく。
「我が身を痛めない勝利が何をもたらす・・・か、深すぎる言葉ね」
ドモンとマスターアジアの一騎打ちは最終奥義の撃ち合いとなった。二人は限界を越えて機体と共に黄金色に輝いた。
「はぁぁぁぁぁ!たああああああ!」
「はあああああ!でいあああああ!」
「行くぞぉ!」
「おおっ!」
「はあああ・・・流派!」
「東方不敗が!」
「最終!」
「奥義ィィィ!!」
身体を覆う光が強まっている鈴はこの戦いを最後まで見届けたい、見届けるまでこの世界から返さないで欲しいと強く願った。
「石!」
「破!」
「「天驚けェェェん!」」
二人の最終奥義は周辺の岩山を吹き飛ばし、ぶつかり合いを始めた。それほどまでに凄まじく眩しい。
「ぐああああっ!」
同じ技を放ったが経験と熟練の差か、ドモンの方がダメージを受けている。
「ウハハハハ!ウハハ!そこまでか!貴様の力などそこまでに過ぎんのか!?それでもキング・オブ・ハートか!?」
「足を踏ん張り、腰を入れんかぁ!そんな事では、悪党であるワシ一人倒せんぞ!この馬鹿弟子がぁ!!」
二人のぶつかり合いに鈴は違和感を感じていた。これではまるで武術の稽古そのもの、マスターアジアが本気ならばドモンは既に倒されてもおかしくはない。
「まさか、マスターアジアさんがドモンさんを鍛えてるの?」
「何をしておる!自ら膝を着くなど勝負を捨てた者のする事ぞぉ!立て、立ってみせい!」
「う、うるさい!今日こそ俺はアンタを越えてみせる!」
強引に立たされていたがドモンが押し返していき、それを見た鈴は声を張り上げていた。
「ドモンさん!越えて!自分の師匠を越えて見せてェェェ!」
「おおおう!石破!天驚!ゴォォォッド!フィンガァァァ!」
鈴の言葉に応えた一撃、石破天驚ゴッドフィンガーがマスターアジアを捉えた。この一撃こそ弟子が師を越えた事を意味するものだった。
「ヒィィト!エェェン!」
「宜しい、今こそ・・・お前は本物のキング・オブ・ハート」
「師匠ぉぉぉぉぉぉぉ!」
マスターガンダムは爆発し、マスターアジアは海岸沿いで横たわっていた。傍にはファイティングスーツ姿のドモンと鈴がおり、少し離れた場所には新シャッフルのメンバーとクルーが立っている。
「う・・・なぁ、ドモン。お前には教えられたよ、人類も自然の一部である事に、ワシはまた、同じ過ちを繰り返す所であった」
「し、師匠・・・」
「ワシをまた、師匠と呼んでくれるのか・・?」
「俺は今の今になって初めて師匠の悲しみを知った、それなのに俺は話を聞こうともしなかった!」
ドモンはマスターアジアの真意を知った事で後悔だけが一気に溢れてきていた。
「マスターアジアさん・・・」
「凰 鈴音か・・・」
鈴が話しかけるとマスターアジアは鈴に視線を向けた。その眼差しは何処か優しげで最後のアドバイスだと言わんばかりだ。
「鈴音よ、良いか?お前の世界の破滅を追い返せるのはお前たちだけだ。心して戦え・・・」
「はい・・!」
「美しいな・・・」
マスターアジアの目からは涙が溢れ出し、それと同時に夜明けの光りが溢れてくる。
「はい、とても美しゅうございます」
「本当に・・・綺麗ですね」
「ならば・・・」
「「「流派!東方不敗は!」」」
「王者の風よ!」
「全新!」
「系列!」
「「「天破!侠乱!」」」
「「「見よ!東方は紅く燃えているゥゥゥ!」」」
マスターアジアは言い終えると同時に息を引き取った。その顔は穏やかで闘っていた相手とは思えないほどだ。
「・・・ドモンさん」
「わかって・・!鈴、お前!?」
鈴の身体はほとんどが光に覆われており、消えかけていた。その姿にドモン以外のシャッフル同盟のメンバーも驚いている。
「私の役目は終わったようです。でも、きっと再会できますから」
「ああ、また拳を交えよう」
「ええ・・・それじゃまた!」
鈴の姿が完全に消え、場に残ったのはISの爪龍と融合していた素体のMFだけだった。
◇
アシュアリー・クロイツェル社の研究室で二つ目のカプセルが開き、鈴が目を覚ました。
「戻って、来れたのね」
起き上がって扉を開けるとそこにはセシリアと束がおり、驚いた様子で近づいてきた。
「鈴さん!」
「二人目の帰還者だね!よかったぁああ!」
二人は鈴の帰還を喜んでいたが鈴自身はとても喜べる心境ではなかった。
「ごめん、今は少しだけ一人にして・・・」
「わかった、その前に爪龍を預からせてね」
「はい」
鈴は待機状態となっている爪龍を束に預け、それと同時に束とセシリアが鈴の右手の輝きに気づいた。
「鈴さん、その紋様は何ですの?」
「え?」
「束さんも気になるねー?何だろう!?」
急いで右手を見るとそこには、キング・オブ・ハートを始めとするシャッフルの紋章が浮かび上がっていた。
「シャッフル同盟の紋章ね・・・あとで説明するから」
鈴は部屋を出ていくと廊下で泣き始めた、堪えられなかった思いを吐き出さんばかりに泣き続けた。
「シュバルツさん、マスターアジアさん・・・うああああああああん!」
今だけは泣かせて欲しいという思いと共に鈴は泣き続け、泣き終えてから研究室へと戻っていった。
鈴ルート、これにて終了です。
次回からはシャルロットのルート、恐らくこんなに長くならないと思います。
自分の義姉が荒れており、更には義兄と戦う事になるシャルロット。
三人娘も登場予定です。