Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

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訓練時代の政征の過去。


以上


一人の一般人から騎士への道(政征の特訓時の過去)

アシュアリー・クロイツェル社の社宅に引越しさせてもらってから、一日が経過し、俺は訓練場所兼ラボである一室にいる。

 

本当にISが起動できたのか?纏う事が出来るかなどを確認するためだ。

 

その為に研究用に使っているラファールを俺は今、纏わせてもらっている。

 

「これがISか、想像するしかなかったけど実際に纏ってみるとギプスされてるみたいな感覚だ」

 

自分の利き手を閉じたり開いたり、屈伸してみたりその場出来る簡単な動きをやってみる。

 

やっぱり、ギプスをされているみたく上手くいかない。今日初めて纏っているのだから当然といえば当然だろう。

 

「それじゃ政征君、訓練を開始するよ?先ずは歩行だ」

 

セルダさんの指示に従い、研究用のラファールを纏った状態で俺は一歩踏み出した。

 

「ふげっ!」

 

踏む出すと同時に前へ転んでしまい、咄嗟に手を床に着いたため大事には至らなかった。

 

「大丈夫かい!?慌てずゆっくりと慣れるまで続けてくれ!」

 

「いててて、歩くだけでも難しいんだな。ぶへっ!おごっ!」

 

一歩、歩く度に俺は転び続けて1時間以上かけてようやくまともな歩行が出来るようになった。

 

「おお、歩けるだけでも楽しいな!」

 

歩く事だけがメインなので周りを歩き続ける。そこから走り出したり急停止したりとの指示があり、それに従った。

 

「次は飛行の訓練だ。危ないかも知れないからナビゲーターを着けるよ」

 

「はい」

 

入口から入ってきたのはヴォルレントを纏っている女性だ。恐らく準騎士クラスの実力を持っている人だろう。

 

「では、飛行訓練を始める。その準騎士の子の指示に従ってくれ」

 

「指示します。飛ぶイメージを持ってゆっくり浮かぶようにして下さい」

 

女性の準騎士さんの指示を聞いて、俺はよくアニメなどで観ていた天使や悪魔など翼があるキャラクターが、翼を羽ばたかせるイメージを持つ。

 

「そうそう、ゆっくりと浮いて下さい」

 

少しずつ足が地面から離れていく感じがしてくる。イメージを高める為に目を閉じていたので、目を開けた瞬間に俺は驚愕した。

 

「うおおおお!飛んでる!!飛んでるよ!俺!!」

 

「落ち着いて下さい、先ずは飛行に慣れる事からです。ゆっくり降りて下さい。慣れてきたら速くしましょう」

 

女準騎士さんは隣で飛行して、俺が天井にぶつからない様にしてくれていたようだ。

 

歩行以上に時間がかかってしまい、2時間半をかけてようやく飛行に慣れ、簡単な旋回くらいは出来るようになっていた。

 

「はい、実践訓練はここまでだ。次は講義だよ」

 

「分かりました」

 

ラファールを解除し、教室となる隣部屋へ移動する。隣には従士の準騎士、騎士候補生らしき男女が5・6人が机に座っていた。

 

俺が入ってきた時に一斉に視線が向けられたが、気にすることなく部屋へ入り席に着く。

 

「皆さん、揃っていますね。それでは講義を始めます」

 

「(うー・・・正直、自分の世界にいた時より勉強が難しい)」

 

講義の教師をしている騎士さんに質問したり、同じく講義を受けている従士さん達に教えてもらいながらなんとかついていけた。

 

「(こんな事なら真面目に勉強しておけばよかった)」

 

正直、俺は自分の世界に居た時も勉強はあまりする方じゃなかった。それでも中辺りの成績を取っていた事もあって、難しいまでも理解は出来ていた。

 

訓練と講義が終わり、社宅に帰っても勉強をした。神様の「寝てはいけないでありんす」という目覚めボイスで目を覚ましつつ、休憩を挟みながら必死になって勉強を続けた。

 

こんなに勉強するのは生まれて初めてだが、本当にキチンと学習するクセを付けておけばよかったと後悔していた。

 

その事は自業自得だし、一から積み上げなきゃならないのはキツいけどやるしかない。

 

「いきなりこの世界に来た時はフューリーになれて浮かれてたけど、考えてみれば誰も知ってる人がいないんだよな」

 

次元を越える前の世界では父親は死に、母親と二人暮らしであった。

 

厳しくも優しく、優しくても厳しかった。父親との反発で勉強しないことが反抗する手段だった。

 

結局は今になって自分に帰ってきたのは知識不足という現実だ。

 

「積み木は崩さなきゃ積み上げられないとはよく言われるけど、本当だな。おっとそろそろ眠らなきゃ」

 

復習を終えるとすぐにベッドへ入り、眠った。

 

 

 

 

翌日、再び実践訓練から始まる。今回はラファールではなく、従士用のリュンピーをISにした物を纏っている。

 

「今日は戦闘訓練だ」

 

女準騎士の方がヴォルレントと纏った姿で闘技場に現れた。その手には既にオルゴンガンが握られている。

 

「回避訓練から始めるぞ?当たらないようにしろ」

 

「え?えええっ!?」

 

ブザーが鳴り、訓練が開始されると同時にオルゴンガンから放たれた一撃に当たってしまった。

 

「うあああああ!?」

 

「訓練中に余計な事を考えているからだ、愚か者!死にたいのか!?」

 

「そ、そう言われても!」

 

立ち上がるが膝が笑ってしまい、全身が震えてくる。これは訓練だが殺し合う場面だったりしたら恐ろしい。

 

「怖い、怖いよ!助けて!!」

 

「セルダ様」

 

「うむ、これも仕方のない事だが彼が自分で克服しなければなるまい」

 

「出してくれよ!助けて!!」

 

女準騎士は容赦なくオルゴンガンを放ってくる。しかし、全て政征の周りを囲むように撃っていた。

 

「うわあああああああああ!!っ!?」

 

その時、特典として眠っていたフューリーの記憶がフラッシュバックする。機体の知識。忠誠、信念、その全てが。

 

「そうか、そうだ。俺は・・・いや、私はマサ=ユキ!マサ=ユキ・フォルティトゥードー!」

 

「どうやら一部が覚醒したようだな」

 

「っ、知識はあっても実戦の感覚が無い・・・これでは」

 

「ようやく一部が目覚めましたね、オルゴンソードを出して下さい」

 

「えっと、こうか?うお!?出た!」

 

フューリーとしての自分と次元を越える前の自分の記憶が混濁しており、驚きと冷静さが同時に出てきている。オルゴンソードを出すと同時に驚きを隠せない。

 

「剣の訓練から始めましょう。行きますよ!」

 

ヴォルレントのオルゴンソードとリュンピーのオルゴンソード

が鍔迫り合いを起こし、火花が散る。

 

無論、加減されてはいるが押されているのは政征の方だ。時間をかけて一部が覚醒した政征と長年戦闘を続けてきた女準騎士とでは、経験が違いすぎるのだ。

 

「ぐううう!」

 

「いやああああ!」

 

「うおおお!?」

 

押し返されて政征のリュンピーは吹き飛び、壁に激突する寸前で踏みとどまった。

 

「く・・・う!?」

 

「そこまでです」

 

切っ先を向けられ、降参を促される。政征はオルゴンソードを収めて両手を上げた。

 

「参った」

 

「剣はここまでとしましょう。次は射撃です」

 

「承知しました」

 

「では、擬似ターゲットを配置する!指示は彼女から受けるように」

 

天井、壁際、あらゆる位置にターゲットが配置され、訓練の準備が整う。

 

「オルゴンガンを領域から出して下さい」

 

「はい」

 

リュンピーが装備しているオルゴンガンを手にすると、女準騎士はオルゴンクラウドでラインを引くようセルダに頼み込む。

 

「このラインからはみ出さずにターゲットを撃って下さい」

 

俺は頷くとオルゴンガンをターゲットに向かって放った。

 

「うわっ!?」

 

射撃の反動で腕が上へ跳ね上がるような感覚に驚く、銃などを撃った事のない人間が起こりうるものだ。

 

「落ち着いて、支えるような感じで重心を取ってください」

 

指示通りに重心を取って再び構え直すと同時に狙いを着けてオルゴンガンを撃つ。

 

反動は来ているが、跳ね上がるのを筋力で堪える。耐えられているが、実際は吹っ飛びそうになっているのだ。

 

「今は反動に慣れる事を優先して下さい」

 

「御意」

 

何度も何度もオルゴンガンを放ち、身体に反動を慣れさせる。痺れのような感覚に根を上げそうになるが、それを耐えて訓練を続ける。

 

「実践はここまでです。講義の方に移ってください」

 

「はい」

 

リュンピーを解除し、講義の部屋へと移る。フューリーとしての記憶が定着したせいか、以前よりは講義を理解出来る。

 

「(それでも出遅れてる事は変わらないから、頑張らないと)」

 

 

 

 

 

そんな生活を3週間続けてきた結果。準騎士の称号を受け、セルダとの特訓権を手にした。

 

「セルダさん、そんな小刀で俺の剣の相手をすると!?」

 

セルダが手にしているのはナイフよりも小さな小刀だ。キーホルダーと言われても遜色がなく、とても剣を受けきれるようなサイズではない。

 

「私は全てにおいて本気は見せるが全力は控えめにしていてね、あいにくこれ以下の刃物は無いのだよ」

 

「ぐっ!禁士長でも加減はしない!」

 

「井の中の蛙、大海を知らずという事を知るが良い」

 

政征は得意とする唐竹のような振り下ろしをセルダへ繰り出すが、セルダは政征の太刀筋を見切り、それを棒の先端同士で押し合いしても動く事がない状態のように、小さな刃の切っ先で止めていた。

 

「う、動かない!?嘘、だろう?幾ら禁士長だからって、こんなにも差が!?」

 

「・・・良い太刀筋だ、それ故に真っ直ぐすぎる」

 

「ぐ!くそおおお!こんなキーホルダーみたいな剣に!」

 

闇雲に近い状態でセルダに刃を繰り出し続けるが避けられたり、受け流され一向に一撃を入れる事が出来ない。

 

「ふん!」

 

「ぐはっ!?」

 

受け流された拍子に延髄に手刀を入れられ、政征は地に叩きつけられる。なんとか立ち上がるが、目の前の景色が歪んで見えてしまっている。

 

「ほう?立ち上がるか?」

 

「負けて・・・たまるか!相手が禁士長でも!でやあああ!」

 

横薙ぎを軽々と避けられ、セルダが政征の右胸に容赦なく刃を突き刺さした。

 

「う・・・・ぐ・・・」

 

「まだ、肺にまでは到達していない。このまま貫かれ死にたいか?」

 

「負けたく・・・ない」

 

刃を引き抜くとセルダはそれを収め、壁にかけてある鞘に収められた剣を引き抜いた。

 

「その信念に騎士の礼儀をもって最高の一撃で応えよう!」

 

「!行きます!」

 

セルダと政征が構えをとり、二人同時に剣技を繰り出し二人の間に僅かな風の乱れが起こると政征が倒れた。

 

「負け・・・た」

 

「今回はここまでだ、キチンと手当しておくように」

 

そう言ってセルダは訓練場を後にし、政征だけが残された。

 

「く・・ううううう!」

 

仰向けになる為に転がると目から涙が溢れ出してきていた。胸の傷が痛むが、それ以上に悔し涙が出てくるのを止められない。

 

「もう、負けは嫌だ!もう二度と負けたくない!うわああああああああああ!!」

 

誰もいない訓練場で政征は大声を上げて泣いた。泣き続けた、今日の敗北を噛み締めるかのように。

 

 

 

その後、政征は人が変わったかのように訓練と勉学に励んだ。女準騎士もその変わりように驚きを隠せなかった。

 

リュンピーでは彼の反応速度に追いつかず、ヴォルレントを使用する事になったがそれでも訓練を怠る事はせずにいた。

 

 

これは彼が入学前に乗り越えた試練の一部である。その彼が一人の騎士として自覚し、伴侶となる者と出会う事になる。




政征はセルダと一度だけ戦って完全敗北をしています。

もちろん手も足も出ずに。

ISが纏えないのなら剣での戦いをしていたというのが真実です。

この戦いがあったからこそオルゴンソードが扱いやすい武器となっています。

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