Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:アマゾンズ

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ラウラがある人物と出会う。

以上


裏側 仮面の下の生きる意志

夏休みとなり、ラウラは制服姿のまま街を歩いていた。

 

「どうすればいい・・どうすれば」

 

臨海学校時に起きた実戦の中で事実、倒したのは兄として慕う政征と師として見ている雄輔の二人だった。

 

初めて出会った時の事を思い出す、ただ妄信的に千冬の強さだけを見ていた自分自身は相手を挑発し倒そうとしていた。

 

だが、それは叶わなかった。理想の強さだけを追い求めていた結果、自分で思考するという事を投げ出していた為に強さだけが正しいと思い込んでいた。

 

その結果、今の自分が出来る事が少ないという事を事実として突き付けられた。

 

「強さとはなんだ・・何が足りないのだ?うわ!?」

 

思考に耽っていると同時に誰かとぶつかってしまった。

 

「ああ、すまない。大丈夫か?」

 

どうやら男性のようでサングラスをかけているが、その奥にある瞳は何か壮絶な事を経験してきたと言わんばかりの鋭さがあった。

 

「え・・あ、大丈夫です」

 

「君はIS学園の生徒か?なにか悩んでいるようだが」

 

男性に指摘された事に驚くが学園の生徒というのは自分の着ている服のせいだと納得できた。しかし、悩みに関しては驚きを隠せていなかった。

 

「ええ・・・自分は何が出来て、何をするべきか解らなくなってしまって」

 

何故、出会ったばかりのこの人物に相談しているのだろうか。ラウラは初めての感情に戸惑っていた。

 

「・・・そうか」

 

男はサングラスを外すと懐から何かを取り出して見せた。

 

「興味があるなら来てくれるか?俺はそこで開発員をしている」

 

それは名刺らしく、受け取って確認するとそこには『スペースナイツ研究所』と書かれていた。

 

「スペースナイツ・・・宇宙の騎士?」

 

「あくまで名義上だ。では、失礼するよ」

 

男性はそのまま歩道を歩いて行ってしまい、見えなくなってしまった。

 

「・・明日、尋ねてみるか」

 

 

 

 

翌日、スペースナイツ研究所にラウラは電話し、そちらへ向かう旨を伝えた。

 

「スペースナイツ研究所・・・一体何の研究を」

 

受付で手続きを済ませ、名刺を見せると待っているように伝えられた。

 

「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」

 

迎えに来てくれたのは女性の職員だった。この女性も名刺を渡してくれた男性同様に何かを目撃してきた目をしていた。

 

「いえ・・・」

 

「初めまして、私は愛紀。ここではISの武装の設計・製作とそのノウハウを活かした作業道具を研究してるの」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒです・・IS学園で学生をしています」

 

「案内するわね。ついてきて」

 

着いてきた先には机と椅子が置いてあり、その先には二本の刃が中心で連結している槍のような武器が置かれていた。

 

「これは?」

 

「これはね、ある象徴よ」

 

「象徴?」

 

「少し長くなるからお茶を用意するわね」

 

亜妃と名乗った女性の職員は一旦部屋を出ると二人分の茶を淹れ、持ってきた。

 

「紅茶は平気かしら?」

 

「大丈夫です」

 

「じゃあ・・お話しましょうか。彼からほんの少しだけ聞かせてあげて欲しいと言われてるから」

 

その女性が語り始めたのはラウラですら、いや普通の人間が聞けば信じる事が出来ないほど悲しく、辛いものだった。

 

「自分が親しかった者を全員・・・命や記憶、肉体を傷つけてまで」

 

「それが彼の宿命だったのよ、狂った運命と言われても仕方ないわ」

 

ラウラは己に置き換えて考え始めた。自分が慕っている姉、兄、副官、そして仲間の全てが敵となり、命を削り、思い出を失ってまで独りで戦う事が出来るだろうかと。

 

「・・・・何もできない、それは今の私と同じです」

 

「自分が何も出来ないと感じるのは仕方ないことよ。私もそうだった」

 

二人は紅茶に口を付けて一息つくとお互いに微笑みあった。

 

「もしよかったら、ウチのISの武装を見ていかないかしら?」

 

「はい」

 

連絡した後、許可が下りたらしくラウラは亜妃と共に研究所の見学を始めた。

 

「此処では全身装甲のISの武装が多いのですね?」

 

「ええ、それと武装に関しては接近戦用と広範囲の粒子ビーム砲が主になるわね」

 

「広範囲の粒子ビーム!?」

 

その言葉を聞いてラウラは心底驚愕した。広範囲の粒子ビームというのは軍レベルに匹敵するものだからだ、それをこの研究所は研究している。その事がラウラにとっては驚きに値することだったからだ。

 

「ただし、一発のみで撃てなくなるから配備されることはないだろうけど」

 

「そうでしたか」

 

しばらく歩き、ある研究室の一室に案内された。そこには何かを加工しているらしく、試作型と思われる武装がいくつも置かれている。

 

「彼が居るわね、話を付けてくるから待っていて」

 

「は、はい」

 

女性の職員は左目の辺りに傷痕がある男性職員と彼の友人らしき男性職員に話をつけていた。

 

話を終えたらしく傷痕がある男性がラウラに近づいてきた。

 

「君は、街でぶつかった時以来だな?」

 

「え?」

 

ラウラは呆気にとられたように男性の顔を見ていた。自分はこの男性を知らない、会った事もないのに相手は自分を知っているからだ。

 

「こうすれば分かるか?」

 

男性がサングラスをかけるとラウラは自分の記憶とその姿が合致した。その様子を見た男性はすぐにサングラスを外し、ポケットにしまった。

 

「あ、あの時の!」

 

「驚かせてすまなかった」

 

「い、いえ」

 

「彼女から話を聞いた、俺の話を聞かせてあげてくれとな」

 

「・・・・」

 

この男性は何かを背負って生きている、それがラウラの抱いた男性に対する印象だった。

 

「ここでは話しにくい、愛紀が話していた部屋でいいか?」

 

「構いません」

 

男性職員の後に着いて行き、女性職員と話した部屋に案内され席に着く。

 

「さて、どこから話そうか」

 

「貴方がどんな人なのか、からで」

 

「そうか・・・どう話せばいいか」

 

男性職員はそう言いながら一つの紅いクリスタルのような物を取り出しラウラに見せた。それは神秘的だが、どこか触れてはいけない禁忌のようなものに感じた。

 

「これは・・・?」

 

「これは弟の形見みたいなものさ。もっとも・・・もう弟はいないが」

 

「話は先ほどの女性から聞きました、大切な人達を手にかけたと」

 

「ああ、そうだ。俺は大切な人達と仮面を身に付けて戦いあった」

 

「何故ですか!?大切な人をその手にかけるなんて!」

 

「『人』だったなら・・・手にかけたりしなかったさ」

 

ラウラの指摘に男性はどこか悲しそうに目を伏せた。それは今でもすぐ思い出せるかのように。

 

「え?」

 

「俺の大切な人達は『人』ではなくなっていた。所謂、生体兵器になっていた」

 

「!!!!!!」

 

生体兵器、それは何かの目的で作られたという事実があり自分と似た産まれ方をしたという事にならなかった。

 

「それは、このような感じですか?」

 

ラウラは自分のしている眼帯を外し、その奥にあった黄金の瞳を男性職員に見せた。

 

生体兵器と聞いて作られた自分と同じではないかとラウラ自身が感じた為であった。

 

「オッドアイ、まさか?」

 

「これはヴォーダン・オージェというものです。私も貴方と似たような感じがしたので」

 

「君からの信頼の証ということか?」

 

「ええ」

 

「そうか、俺も自分の事を話そう。俺も『人』ではなくなっている」

 

「やはりそうでしたか。先程、仮面を付けて戦っていたとおっしゃっていましたが・・?」

 

「その通りだ。二度と引き返せないと決めていた道を突き進んだよ。逃げ出す事もできず、戦いしか自由がなかった」

 

聞けば聞くほどに壮絶だった、愛していたはずの家族を罪という名の仮面で自分を隠しながら倒し続けたのだから。

 

「俺は強くなんてなりたくなかった。できることなら、変わりたくなどなかったんだ」

 

「え!?」

 

強さとは望まなくとも得てしまうもの、学園を離脱した織斑一夏が良い例だろう。

 

だが、目の前の男性は倒すための力を持ちながらもそれを自分自身で否定しており、それがラウラには理解できなかった。

 

「家族を手にかけるなんて誰でもしたくないだろう?」

 

「・・・・っ」

 

この人は夢を見る事も許されず、悲しみを感じる自由さえもなく戦い続けた。自分に何が出来るなんて悩んでいた自分に腹が立ってくる。

 

ラウラは顔を伏せながら唇を噛んで拳を強く握り締めた。

 

「君にはまだ、支えてくれる人達がいるだろう?俺が仲間といるように」

 

「!はい」

 

「自分の中にある想いを忘れない事だ」

 

「(自分の中にある想い・・)」

 

その言葉がラウラの胸に響き渡った、自分が見逃していた存在こそが己を支えてくれているのだと。

 

軍にいる部下達、学園で出会った新しい仲間、血の繋がりがなくとも姉と兄として慕う者。

 

それら全てが自分にあると自覚しラウラは改めて守りたいと誓っていた。

 

そんな思いをラウラの見えない所でシュヴァルツェア・レーゲンが受け止めていた。

 

モノを言わぬISであっても、彼女と共にあったシュヴァルツェア・レーゲンは決して永遠の孤独に迷い込ませる事はしないと誓うかの様に一瞬だけ光った。

 

「長く話してしまったな、着いてきてくれ」

 

「?分かりました」

 

部屋を出て再び研究室に案内される、男性職員は試作されていた中で一本だけ輝きが良い物の前にラウラを連れてきた。

 

「これを君に渡したい。IS用の武装として使えるはずだ」

 

「おいおい、良いのかよ?数ある中でよく加工できたうちの一本だぞ?」

 

「いいんだ、今のこの子には決意があるからな」

 

友人らしき男性職員と話している彼はラウラに渡すことを決めているようだが、逆に説得されて納得したようだ。

 

「これは・・・両刃の槍?」

 

IS用であると聞いた為に自分の相棒であるシュヴァルツェア・レーゲンを腕のみ展開し、それを手に取った。

 

「重い・・軽いはずなのに」

 

「そいつには戦いが染み込んでいるからな、大事に使ってくれ」

 

金髪の男性職員は仕方ないといった様子で肩をすくめていた。

 

ラウラが手にした両刃の槍、それはかつて仮面舞踏会への参加の証とされ、全てを失おうとも戦い抜いた戦士の武器であった。

 

女性職員がラウラの後ろに立ち、二人にへ話しかけていた。

 

「じゃあ、私はこの子を送っていくわ」

 

「ああ、頼む」

 

「連絡は俺がしておくさ」

 

「ありがとうございます・・・この槍、大切に使います」

 

「ああ、強さだけを追い求めるなよ」

 

それを伝えられたラウラはどこかスッキリした様子で研究所を去った。

 

「二人共、アシュアリー・クロイツェル社に連絡を取ってくれ、試作の武装をテストして欲しいと」

 

「わかった、任せておけよ。D」

 

「データは私がまとめて送るわね、お兄ちゃん」

 

 

後にシュヴァルツェア・レーゲンが仮面舞踏会の武装(ドレス)を着ることになるが、それは後の話である。

 




この世界の時間軸はスパロボJのクリア後としています。

生存フラグも立てたルートになっています。

例の寄生生物はすべて駆逐されていますので仮面舞踏会が開催することはありません。

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