Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
フードの女の正体が断片的に判明
以上
雄輔達が出撃していった後の30分後。
「俺は・・」
千冬監視の下、一夏は白式を没収された上、謹慎状態となっていた。
「私は少し出て行くが、変な気を起こすなよ?」
千冬は部屋を出ていき、一夏は再び自分の思考に耽った。
「・・・・」
アイツに向けられる笑顔を認めたくなかった、彼女は自分が姉以外で初めて意識した女性だった。
自分の隣にいて欲しかった、その思いが暴走した結果がこの始末。
「・・・・嫌だ、このままで終わりたくない」
そうつぶやくと、いつの間にかフードを被った一人の女性が入ってきていた。
「今から脱却したいか?」
「!」
「この現状から抜け出したいか?」
「あ、あんたは誰だよ!」
一夏は驚きながらも言葉を紡いだ。この女性の得体の知れない雰囲気に飲まれまいと必死に自分を奮い立たせる。
「名は明かせぬがお前に機会を与えに来た者だ」
「機会、だって?」
「自由の騎士を倒したいのだろう?今のお前からは復讐の炎が見えるぞ」
その言葉に一夏はハッとする。このまま終わりたくないと自分はアイツを倒したいと。
「でも、俺はもう・・・」
「理想など変わるものだ、それともこのまま終わって行くのをただ見ているだけか?」
「!!!」
その一言で一夏の中にあった黒い感情に火が点いた。復讐という言葉がこれほどまでに甘美に感じた事があっただろうか。
「アイツ以上に強くなれるのか?」
「それはお前次第だ。力を与えたところで今のお前では自滅する」
「っ!」
この女性にも自分の弱さを見抜かれていた。
考えを変えなかった事で暴走した事さえも見抜かれているのではと一夏は不安がよぎる。
「共に来るがいい。白き夜で更に照らしたいのなら私が鍛えてやる」
「!!わかった・・アンタに着いていく」
「では、後ほどな」
フードの女性は姿を消し、一夏だけが部屋に残された。
「政征を倒す・・・必ず」
まずはアイツを倒したい、アイツを越えたいそれだけが一夏の中で激しく湧き出ていた。
「くくく・・・欠片を容易く受け入れたか」
フードの女性は没収された待機状態の白式を容易く発見し、その手に握っていた。
「では、次に紅き椿を活けるとしようか」
一夏の前から消えたようにフードの女性は再び姿を消してしまった。
紅き椿を破滅という剣山で活ける為に。
◇
「なぜ、私は勝てない・・・アイツに!!」
最初の出撃から帰還した後、箒は気づかれないよう旅館を飛び出し誰もいない海岸で身を潜め考えていた。
戻れば無断で抜け出した事を咎められ、待機を命じられるだろう。
「なぜだなぜだなぜだなぜだ!!なぜアイツは私に哀れみの目を向けるのだ!おまけに剣を捨てろなどと!!」
彼女は雄輔に対して言われた意味が分かっていなかった、彼はただ剣を捨てろと言っていた訳ではない。
見知らぬ相手でさえ自分と同じ土俵で戦ってくるのが当然だと思っている事。
力を得ればすぐに浮かれきってしまう、この二つの要素を見抜いた上での言葉だった。
しかし、その真意に気づくことはなく自分よりも各下なのだから剣を捨てろと解釈してしまっている。
彼女の内には自分より上の存在など居ないという考えが深く根付いてしまっていた。
「剣を捨てるかは私が決めることだ、アイツの言葉など意味はない!!」
「随分と荒れているようだな?」
「何者だ!?」
後ろから声をかけられ振り返るとそこには先程、一夏と話していたフードの女性が立っていた。
「倒したい相手がいるのだろう?その相手に勝てないままで終わるのか?」
「な・・何をいう!」
「分かりやす過ぎるほどの激情、それを使って倒したくはないか?」
「っ・・」
「それならば私と共に来るがいい。鍛えてやろう」
その言葉はまるで蜜のように甘美だ、だが深く思考できる者ならばその危険性に気づくだろう。
箒はその危険性を敢えて受け入れた。ただ一つ、自分を地に付けた相手を倒したいがために。
「いいだろう・・お前と共に行ってやる」
「ならば、しばらく待っているがいい。もう一人連れてこなければならぬのでな」
フードの女は消え、箒だけがその場に残された。
「ふふふ・・・これで私はまた力を得ることが出来る」
箒の思考は力自体に取り込まれていた、力を示す事でしか己のあり方を確立する事が出来なくなっている。
しかし、それが雄輔が箒に対し、悲しんでいた事でもあるのを箒は気づいていなかった。
◇
千冬が戻る最中、フードの女性が一夏が謹慎されている部屋の前にいるのを目にし警戒しながら声をかけた。
「貴様、何者だ!?」
「織斑千冬か、世界最強ともてはやされながらも導く事を誤る戦乙女よ」
「なっ・・!」
「貴様に他者を導く資格はない。故に白き夜を扱う者は私が導く」
白き夜と聞いて千冬は直ぐに誰なのか気づいた。
「一夏の事か!?行かせんぞ!それと貴様には話を聞かねばならん!!」
フードの女を取り押さえようと千冬は掴みかかろうとする。
「世界最強の栄光を掴んだだけはある、体術には優れているか。だが」
千冬の手を掴み、フードの女はその勢いを利用してそのまま取り押さえるように腕を捻り上げた。
「ぐああ!?は、離せ!」
「身を護る術くらい、私が身につけていないとでも思ったのか?織斑千冬」
フードの女は腕を捻り上げたままゆっくりと千冬に話しかける。
「破滅の一部を垣間見るが良い。織斑千冬」
「な、何!?」
千冬は怒りを宿した目でフードの女を見るが、同時にもう片方の手で頭を掴まれた。
「な、なんだこれは!?」
千冬の中に流れ込むのは数百、数万とも言えるほどの負の感情の流れであった。
あらゆる怒り、憎しみ、嘲り、苦しみ、恐怖、絶望といった負の流れが見せしめを受けている死刑囚のようにぶつけられてくる。
キエロ!シネ!クヤシイ!シニタクナイ!ユルサナイ!オマエダケガ!
その黒い流れに千冬は恐怖し、女が手を離すと同時に崩れ落ちた。
「あ・・嫌だ・・来るな・・見るな・・触るな・・・違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!」
今の千冬は顔を真っ青に染め上げ、汗をかき全身を震わせ自分で自分を抱き締めていた。
その姿に最早ブリュンヒルデと呼ばれた威厳ある姿はなく、一人の女が恐怖に屈した姿だけがあった。
「破滅を受け入れたか、最期の時まで待っているがいい」
千冬に興味を無くした女は部屋へと入り、一夏へと近づく。
「おとなしく待っていたようだな?」
「こんな状態じゃ大人しくしてるしかないだろ?」
「確かに」
女は一夏の拘束を解き、ある物を渡した。一夏にとって唯一の武器であり鎧でもあるそれを。
「こ、これは・・・白式!?」
「それを持ったまま来い」
フードの女は白式を手にした一夏の手を掴み、部屋の窓から外へ出るとそのまま海岸へと向かった。
◇
海岸へ到着し、フードの女はすぐにある人物をすぐに探した。
「待っていたか」
「当然だ、それにしても遅かったのだな?」
海岸の岩場に箒が座っていた。早く自分を連れて行けと言わんばかりだ。
「もう一人、連れて来るのに時間がかかっただけに過ぎぬ」
「もう一人だと?」
「箒!?なんでお前が?」
「一夏!?」
一夏と箒は互いに驚きを隠せない、着いていく事を決めた相手が同じだったのなら尚更だ。
「お前達は倒したい相手がいるのだろう?それを忘れてはいまいな?」
「「!!」」
女からの言葉に二人は黙ってしまう。軽い気持ちで着いていこうとしたのを見破られたのだろう。
「俺は・・アイツを、赤野を倒す!」
「私もだ、青葉雄輔を倒す為に力が必要だ!」
二人に共通しているのは目的の相手を倒すという復讐にも似た感情だ。
その感情によって破滅という名の種子が埋め込まれていることに二人は気づくはずがなかった。
「(せいぜい先駆者となるがいい)」
女にとって二人は自分の目的を果たす為の手駒としか考えていなかった。
彼女の目的はただ一つ、この世界にて女尊男卑の思想を利用し己が動かせる世界とする事。
「なぁ、俺達はどこへ向かえばいい?」
一夏はこれから向かう場所が知りたくなり、女に問いかけた。
自分を鍛えて欲しいがために急かしているのだろう。
「まずはこの座標に二人で先に行くがいい」
女は一夏と箒にある施設の座標を教え、向かうよう告げた。
「行くぞ、一夏」
「ああ」
箒と共にISを展開し、二人は指定された座標へと向かって行った。
その姿を見送った女のフードが突風で取れる。
髪は闇を思わせる黒髪、顔には傷のような黒い模様、釣り上がった目に耳には銀のピアスをしている。
「では、私達は挨拶を兼ねて行こうとしようか・・カロクアラ?」
ISを展開した女は戦闘域へと向かう、己自身に憎しみを向けさせるべき相手に出会うために。
最近、続きが浮かばなくて転がりまくってる作者です。
色々、要因はありますが完結は目指しております。
ルート予告を此処で。
臨海学校後に伸び悩んでいたラウラがある人物に出会います。
出会うのは脳髄の虫に支配された家族と戦った騎士とだけ言っておきます。
雄輔と政征は野生を解放されます。