Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 作:アマゾンズ
鈴の特訓
以上
※補足
鈴の特訓はGガンダムのノリで読んでください。
アシュアリー・クロイツェル社の研究室において、1機のISが完成間近になっていた。
「第四世代の紅椿、これを箒ちゃんに渡せばいい」
束は紅椿を見ながら悩んでいた、今の妹にこの機体を渡して良いのかと。
「箒ちゃんは自分より強い者がいるという現実が見えていない・・・そんな状態でこの機体を渡しても利用されるだけ・・・」
この会社に来る前の自分ならばこんなにも悩まず、すぐにでも渡す決意をしただろう。
だが、今は違う。自分の妹は関係ないと言いながら、自分の意見を押し通す時に自分の名前を使っている。
姉という名の駒になっていると自分自身で気付くことが出来たのだ。
「箒ちゃん、これを渡すのが箒ちゃんとの最後の関係だよ。私は私の使命の為に動くからね」
紅椿の調整を手早く済ませると、セルダ経由出来ている開発の整理を始めた。
「まずは爪龍からだね。この子はあの鈴って子を完全に認めてるし改修にも賛同してる」
改修において参考になったのがクストウェル・ブラキウムの機体データだった。
この機体はアメリカ支部で開発されていたが何者かに破壊されてしまい、残ったのが腕と特徴であるショルダーパーツのみであった。
「完全に素手で殴るタイプの機体にになりそうだけど、あの子から双天牙月っていう青龍刀は外さないでってセルダさん経由で言ってたし・・・」
束はしばらく思考すると閃いたように目を開けた。
「そっか、トンファーの収容部分に収納すればいいんだ!ふふ、となれば後はオルゴンエクストラクターの搭載だね」
コンピュータのキーを叩き、手早く設計図を組み立てていく。ものの数分で設計図が完成し整備課へとデータを送る。
「次は組立の順番をほいっ!っと」
設計の順番を明確にしたデータも先程と同じ整備課へと送信し、次の仕事に取り掛かった。
「次はリヴァイヴのカスタム機の更なる強化かぁ・・・この子って量産前提だから弄るところが無いんだよね・・」
悩んでいると研究室の扉が開き、誰かが入ってきた。
「お疲れ様、束。相変わらず仕事が早いわね」
部屋に入ってきたのはカルヴィナだった。何故か束に懐かれてしまいこうして時折、顔を出すようにしている。
「あ、カルちゃん!ふふふ、この束さんにかかれば設計図なんてあっという間なのさ!」
「有能すぎて怖いくらいよ、コーヒー飲む?」
「あ、飲む飲む!ミルク無しのシュガー多めでね?」
「はいはい」
それでも悪い気はしないらしく。自分と束に頼まれた分のコーヒーを淹れ、持っていく。
「うーん」
「どうしたのよ?はい、コーヒー」
「あ、ありがとね。ほらこの子の」
束はコーヒーを飲みながらディスプレイに映った機体を見せる。
「ああ、シャルの機体ね」
「うん、そうだよ。量産機をカスタムしたものだから、これ以上は弄る場所が無いんだよ」
「そうね、なら・・・私のベルゼルートのデータは使えないかしら?使えるならあの子に使ってあげて欲しいのよ」
「え?」
束は目を見開いて驚いていた。別の機体のデータを使う、どうしてこんな基本的な事に気付かなかったのか。
「今すぐシュミレートしてみるね!!」
シュミレートした結果、リヴァイヴの拡張領域が広がり、更にはベルゼルートに搭載されているサイズのオルゴンエクストラクターを使えば非実体のライフルを装備出来る事が判明した。
「カルちゃん!これいける!!いけるよ!!!」
「興奮しないの、落ち着きなさい。この子の機体はこのプランでやってあげて」
「あいあいさー!それとね、カルちゃん。この装備に関しても意見が欲しいんだ」
興奮が冷めた束は機体ではなく武装の設計データを見せていた。
「これは、ラフトクランズの追加装備かしら?」
「そう!機体データを研究して設計までこぎつけたんだよ!ただ・・・」
束が言葉を濁し、カルヴィナは首を軽く傾げた。
「ただ?」
「この装備、ラフトクランズ専用のビット兵器だからカルちゃんと同じような人か、アルくんみたいな人達しか扱えないんだよ~!」
「それは困ったわね」
「うん、だからどうしようと思って・・・」
カルヴィナはコーヒーを口にしながらしばらく思考すると、思いついたように束に話しかけた。
「それならいっその事、私の生徒達に預けたらどうかしら?」
「カルちゃんの生徒?もしかして!」
「そう、あの二人よ」
カルヴィナが言っているのは男性操縦者の二人だ。事実、ラフトクランズを使いこなしているのはあの二人しかいない。
「そうだね、二人に使ってもらうしかないね。なんとか間に合わせなくちゃ」
表示されている設計図と組立図を送信し、束は次の仕事に取り掛かる。
「これは・・2号機の?」
「うん、イギリスの支部で破壊されちゃったけどね。私が回収をお願いしたんだ」
「これは扱いが難しいわよ?空間把握が出来ていないと味方を巻き込むから」
「一応、開発だけしておくよ。使う機会はあるかもしれないからね」
束は回収されたある機体のアーマーの設計をするため打ち込みに集中し始めた。
◇
同会社のアリーナで鈴はセルダが呼んだ。五人の格闘家に格闘の指導してもらっていた。
「かかってこい!」
「行きます!たああああ!!」
「甘い!」
「あうっ!?」
拳を撃ち込もうとするも、簡単に流され逆に反撃を食らってしまう。
「一撃を与えようとする時には迷うな!迷いは拳に出るぞ!」
「もう一度、お願いします!」
「その粋だ!来いッ!!」
他の格闘家の四人は鈴が向かっていく姿を見守っていた。
彼女の向上心は自分達を初心に返してくれる貴重なものであった。
「あのチャイナガール、よくやるなぁ。アイツにあそこまで食らいついていくなんてよ」
「彼女も強さを身に付けたい理由があるのでしょう。私達にとってもあの姿勢は見習わないといけませんね」
「オイラは自信なくしそうだよ、鈴はオイラが教えた事をすぐ出来るようになっちゃうからさぁ・・・」
「三週間で出来る限りの事はしてやらねばな、そろそろ・・・終わるぞ」
四人の会話が終わると同時に鈴は大の字に倒れ、呼吸を荒くしていた。
「よし、30分の休憩だ。その後に再開するぞ」
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・!あ、ありがと・・ござい・・ま・・した」
そういって先程、鈴と組手をしていた男性は仲間達の近くへと歩いてきた。
「どうだい、ジャパニーズ?あのチャイナガールは」
「ああ、アイツは要領を掴むのが上手い。この三週間で化けるだろうな」
「このままだとオイラ達も危ないかもね」
「ふふ、こうして鍛錬の火を灯してくれた事に感謝しましょう」
「ふ・・・面白くなるな。この特訓は」
◇
「はぁ・・はぁ・・・ごほっ!・・・はぁ・・はぁ」
私は今、動けない。こうして大の字になっているのがやっとだ。
特訓を始めて三日目、これでもかなりマシな方になってきている。
始めの時は楽勝かと思っていたけど見事にそれを打ち砕かれた。
私が持てる格闘の全てをぶつけたのにも関わらず、まるで子供の遊びのように軽くあしらわれてしまった。
拳も、蹴りも、武器も使った。極めつけは訓練機のISまで使ったのに勝てなかった。
私は改めて思った、この人達に食らいつく事が出来れば必ず強くなれると。
それからの私は必死に食らいついていった、倒れようとも止めたくなかったからだ。
ボクサーの人にはフットワークを教えてもらい、パワーファイターの人には忍耐力を培ってもらえるよう頼み込んで特訓し続けた。
一番驚いたのは、故郷の武術で有名な本家本元の少林寺の拳法家がいた事よ!
私はそれを聞いて必死になって教えてもらった。それこそ相手がドン引きするぐらいの勢いで。
フェンシングの世界王者の人には剣の特長、攻め方、守り方を教えてもらった。
私は青龍刀を使っていたが、その人から一本も取ることが出来なかった。
細くて脆そうな剣なのに受け流されたり、先手を読まれたりされたから。
その人に言わせれば。
「貴女の剣は押し込んで斬る為の物です。更に言えば相手が受ける事を前提で振るっています。相手を倒すつもりで振るいなさい」
との事だ。私も知らずにISは競技という認識があったのね。
そして最後に赤いハチマキをした日本人の人、この人は変わった武術を身につけていた。
おまけに「ISの重火器を使っても構わんぞ」と言われ、ISの訓練機を纏った状態で感情的になった私はその人に向かってマシンガンを撃っていた。
その時、目を疑ったわ。マシンガンの弾を全て素手で受け止めたかと思ったら、懐に入られて、拳の弾幕を打ち込まれISが機能停止していたんだもの。
その瞬間、自分を鍛えることを止めたのを海よりも深く反省したわ。
そうして今、私はその五人に鍛えられている。
女だからといって特別扱いはしないと言ってくれた事が何よりも私は嬉しかった。
「鈴、起きろ。特訓の続きだ!」
「はい!」
私はその人がマスターした流派の基本の型を習得しようとしている。
この流派は自然の恵みを受けて生まれた拳法らしく、習得が難しい。
機械が大半の環境で育った私にとって、自然の偉大さを知らなすぎたからだ。
「お前が最も記憶に残っている自然の風景はあるか?それを思い返してみろ」
「私が最も記憶に残っている自然の風景・・」
そう言われて私は目を閉じた。
父さんと母さんとで旅行に行って、船に乗り大きな川を下った時に見えた大きな山・・小さい時にすごいと思った思い出がある。
あれ?川の流れの音・・水の音・・なにか見える・・・一滴の水?
「至ったな、鈴」
「え、今のは・・・」
「明鏡止水、穏やかで澄んだ心の境地だ。自分の中にある力を最大限に引き出す事のできる状態だ」
「私の力を・・最大限に」
「至ったとはいえ、それはお前一人の力じゃない」
その人は厳しくも優しい目で私に話している。
「お前には共に戦う友と相方がいるはずだ、その存在を忘れるな」
「はい!」
返事をした私を見たと同時に構えを取った、どうやら組手をするらしく私も構えを取る。
「今日の総仕上げだ。かかってこい!!」
「行きます!たああああ!」
結果は今日も私の完敗。この三週間のうちに絶対、一撃くらい打ち込んでみせる。
そう、決意して私は気を失った。
◇
そして最終日。私は試験として特訓してもらった5人、1人ずつと戦って一本取る事が合格条件だと言われた。
全員が全力で来たのはいいけど、全身が金色になるなんて聞いてないわよー!?
私は妥協点で何とか4人から合格を貰い、最後の相手はハチマキの人だ。
「行きますよ!」
「来い!」
私は前のように先手をすぐ取る真似はしない、それをやったせいで何度もこの人に負け続けたからだ。
「へぇ、成長したようだな?チャイナガール」
「反省を活かし、このような勝負で先に動けば負けるという事を学んだようですね」
「三週間前とは大違いだね、すぐに飛び出してたのに」
「弱い一撃とはいえ、俺達から一本を取った事は評価すべきだろう」
四人が見ている中で、鈴が攻め手を緩めずに動き続けていた。
「ハイハイハイハイィー!!」
「う、くっ!」
「まだまだぁ!!」
「うおおお!」
拳と脚の応酬が終わった後には、鈴は手刀を頭上で受けたまま腹部に拳の一撃を入れていた。
「ふ・・・合格だ。よくやった」
「・・や・・やった」
鈴の一撃は子供の投げたボールが当たった程度の威力しか無かった。
それでも一撃には変わらず、合格と言われた。
「あ、ありがとうございました!!」
鈴は5人に向き直ると一礼した。自分はボロボロだが、鍛えてくれた事に精一杯の誠意を見せたかったからだ。
「へっ、チャイナガールを見ていたら俺達も鍛え直す事にしたぜ」
「ええ、貴女の直向きさは、私達に初心を思い出させてくれました」
「オイラ達の稽古で身に付いた事を忘れちゃダメだぞ?」
「また機会があれば会おう・・・凰鈴音」
「三週間という短い期間だったが出来る限りの修行はしたつもりだ。これからも怠るんじゃないぞ?」
五人はそれぞれ握手してくれた、右手に何か紋章のような物が見えたけど気のせいよね。
「はい!本当にありがとうございました!!」
ボロボロでもこの三週間が充実していた事を鈴は実感した。
スパロボJのタグがあるから問題ないはず。
機体を修理やら開発していたのは束さんでした。
そりゃあ早いよ、生みの親だもの。
鈴にとってはこの修行の三週間は最高の時間だったのではないかと思います。
フィンガー系はやりませんが、代わりがありますよね?
何せ鈴の機体はブラキウムですから(笑)
セシリア・・・どうしよ。このままだと置いてけぼりくらっちゃうよ。