おいでよ魔導国   作:うぞうむぞう

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彼女に救いが欲しくて書きました。
原作では…厳しいかもしれないと予想してます。




帝国の騎士

 ナザリックでの謁見の後、皇都へ戻ったジルクニフは帝国の内外に対して事実を公表した。すなわち、魔導国より正式にバハルス帝国の皇帝に任命されたこと、魔導国が保有する強大なアンデッドの指揮権を与えられたことだ。

 

 アンデッドは()()()()()()()()()()()()()人間に危害を加えることはない。そのことを国民に理解させなければならなかった。そのため、皇帝自らアンデッドと騎士団を使った合同の軍事パレードを行い、アンデッドが完全に指揮下にあることを知らしめた。

 

 当初、帝国民は属国化による皇帝に対する不信感や街中をアンデッドが闊歩する恐怖に支配されていたが、ジルクニフの指揮で動くアンデッドを見ると熱烈な支持をもって受け入れた――これには理由がある。

 隣接する魔導国、そしてヤルダバオトの脅威が国民に強い不安を与えていたためだ。流動する世界情勢を見極めて迅速に対応した皇帝を称賛するのは自然の流れだろう。

 

 反抗していた四大神殿や一部の貴族も同様だ。魔導王からこれ程の権利を勝ち取り、帝国民の圧倒的な支持に対して、皇帝を貶めよう等と考える者はいなかった――

 

 

 

 

 ジルクニフが領域守護者の地位に就いてから一か月。帝都はようやく本来の落ち着きを取り戻していた。

 帝都アーウィンタールの皇城にある皇帝執務室では連日白熱した議論が交わされ、次々に新たな政策が決められていった。

 その渦中にありながら、ジルクニフは穏やかな眼差しで目の前の喧噪を眺めていた。

 

(平和だな……)

 

 慌ただしくも平穏な日々を過ごしていると、あれは夢であったのかと錯覚することもある。

 だが、ふとしたことで思い出す――完膚なきまでに砕かれた過去の自分を。

 あの絶望こそが自分を成長させたと確信している。だからこそ、あの絶望を生涯忘れないだろう。

 ふと、何気無い仕草で髪を梳き、ゆっくりと視線を手に移す。何も付いていない手を見つめながらジルクニフはほくそ笑んだ。

 

「――……陛下! 陛下! 聞いてました!?」

 

 物思いに耽っていたジルクニフは自分を呼ぶ声に意識を戻す。声を掛けたのは帝国四騎士の一人、『雷光』の異名をもつバジウッドのようだ。その隣にはバジウッドと激しく討論していた秘書官――ロウネ・ヴァミリネンをはじめ、十名ほどの側近たちも困り顔でこちらを見ている。だが、居並ぶ者たちの目に宿る光からは強い意思を感じた。

 

「……そんな大声で呼ぶな。私が口を挟んではお前たちの議論に水を差してしまうと考えて黙っていただけだ」

 

 薄く笑みを浮かべ、全く聞いていなかったことを誤魔化した。

 

「何を仰いますか。陛下の意見に追随するだけの無能など、この場におりません」

 

 ロウネの言葉に周りの者たちも賛同するように頷く。そんなやりとりをする僅かな時間を使って今日の議題を思い出していた。

 

「では私の考えを述べるとしよう。今日の議題は都市国家連合の件だったな――」

 

 現在、バハルス帝国に隣接している国家は――カッツェ平野を挟めば法国や竜王国も入るが――都市国家連合だけだ。当然、魔導国本国は除いている。

 ジルクニフは先の戦争により減った騎士の穴埋めとして都市国家連合との国境にデス・ナイトとソウルイーターを多数配置するよう手配した。これは、帝国がアンデッドの力を自由に使えること――いつでも侵攻できることを都市国家連合に知らしめる意図がある。

 

「――都市国家連合は将来的には併合するつもりだ。だが今は脅すだけで良いだろう。力は効果的に使ってこそ価値がある……無用な血を流しては得られる利益を減らすだけだ」

 

「アンデッドを数体送り込むだけで連合は終わるでしょうね……力の差があり過ぎるというのも困りものですな……」

 

 強者側の発言だ。ジルクニフは鼻で嗤う。

 

「あくまでも『無用な血』だ。必要あれば力を使うことに躊躇いはない」

 

 だが、弱肉強食の理も分からない愚かな者には力の差を思い知らせることも必要だ。居並ぶ者たちはカッツェ平野の大虐殺を思い出したのか表情を曇らせている。

 

「並行していくつかの都市を寝返らせるよう裏から手を回す。ひとつ落ちれば後は簡単だ。大義名分を作りだし飲み込めば良い……人間など容易いものだ」

 

 ジルクニフはどこか遠くを見ながら最後は呟くように言った。

 脳裏によぎるものはアインズ・ウール・ゴウン――魔導王陛下。強大な力をもちながら智謀によりことを進める存在のように、少しでも近づけるように。

 

「では、ヤルダバオトのことですが…………()()()()とのことでしたが、もし襲ってきたならば――」

 

「お前には伝えていなかったか……まあ良い。その時はあの者たちを使う。あの者たちであればヤルダバオトを撃退することは十分可能だと、魔導王陛下のお墨付きだ」

 

 この皇城の守護を任せている五体のシモベ――一体で千ものデス・ナイトすら滅ぼせる者たち……さすがに過剰戦力だ……使いどころがまるで思い浮かばない。部下たちには対ヤルダバオトの切り札と伝えたのだが――

 

(……ヤルダバオトの件、魔導王陛下は"()()()()()()()()"と、仰られた。ならば、()()()()()()なのだろう)

 

 

――生まれ変わったジルクニフは、その程度では驚かなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国四騎士の一人、『重爆』レイナースは悶々とした思いで皇城の中庭を歩いていた。中央には百を超えるアンデッドたちが不動の姿勢で主人の命令を待っている。

 

「はぁ……」

 

 今日、何度目かの溜息をつく。

 溜息の理由は単純だ。周囲の騎士たちでも知っている。魔導国――正確にはアインズ・ウール・ゴウン魔導王――との繋がりが持てない。

 

 自分には何も無い。陛下――ジルクニフ――に力を見込まれ、仕えてからは帝国四騎士と称されてきた。自分の実力を冒険者で表すならば『オリハルコン級』に匹敵するだろう。

 だが、魔導国にとってはその程度、何の価値も無い。目の前にいるデス・ナイト一体にすら全く歯が立たない。そんなデス・ナイトでさえ魔導国ではただの一般兵扱いだ。その上、デス・ナイトは魔導王の力により無限に作成できる。休みなく働くことができる。警備もできる。喧嘩の仲裁も、荷物の運搬、農作業……。

 帝都にアンデッドが配置されて以来、日記に書かれる内容はデス・ナイトのことばかりだ。

 初めてナザリック地下大墳墓を訪れたときはメイドの美しさに嫉妬した。今は有能なデス・ナイトに嫉妬している。

 泥々とした闇が心を蝕んでいく――不快だ。許容できない感情が外に漏れる。

 

「ちっ」

 

 この身に掛けられた呪いが解かれる日まで、この闇は決して晴れることは無いだろう。

 

 

 

 

 日が沈み城内に魔法の光が灯る頃、レイナースは階段を上って見晴らしの良いテラスへ向かっていた。夜の街並みを眺めれば少しは気が晴れるかもしれない、と考えたからだ。

 テラスへ出るとそこには先客がいるのが見えた。さらに近づくと先客が誰なのかが分かって戻ろうとしたが、相手に気づかれた為そのまま歩みを進める。

 気まずさを表情には出さず、無表情を装いながら一礼する。

 

「今日の討論は終わったのですか?」

 

「ああ、決めるべきことは大体終わったな。明日からはゆっくり出来そうだ」

 

「それは……おめでとうございます」

 

 心が全くこもらない形式的な祝辞を述べる。対人関係において百戦錬磨のジルクニフには何の意味も無いことはわかっている。

 

「めでたい、か。お前は全くめでたそうには見えないな」

 

 やはり逆効果だったか。もうこの場を離れたい気分に襲われたとき、ジルクニフが唐突に切り出した。

 

「――魔導国に行きたいか?」

 

 あまりに唐突な質問に驚いて一瞬目を見開くが、すぐに自信なさげに目を伏せた。

 

「……行ったところで、私ごときが何の役に立ちましょう――」

 

「魔導王陛下ならばお前の望みを叶えることは容易いだろうが……対価に差し出せるものが無い、というのだな?」

 

 自分が気にしている核心を突かれ、レイナースは唇を噛み沈黙するしかなった。

 ジルクニフは返答を待っているようだが、レイナースには返せる答えなど持ち合わせていない。

 ジルクニフは眼下に拡がる帝都の夜景に目を向け、暫く眺めていたが溜息をつく。

 

「……エ・ランテルに作られたダンジョンのことを知っているか? 冒険者育成のために作られたとのことだが、未だ踏破したものはいないそうだ」

 

 その噂は聞いたことがある。魔導王が作ったダンジョンにアンデッドを放ち、冒険者に攻略させているというのだが……突然そんな話をしたジルクニフの意図を量りかねる。

 

「――そのダンジョンを踏破したものにはアダマンタイト級冒険者の称号と魔導王陛下の所有される武具が与えられるそうだ。そして、どんな望みも――というわけにはいかないだろうが、呪いを解く程度なら叶えてくださるかもしれんな」

 

 レイナースの心は激しく揺れていた。その話に飛びつきたい……だが、心に引っかかる。遠まわしに自分を放逐すると言っているのではないか? 冒険者として生きろと、そう捉えるのが自然だ。

 レイナースはバジウッドやニンブルと違い、忠義でジルクニフに仕えているわけではない。仕えている理由はたったひとつ――恩義だ。呪いを受けた自分を捨てた家族と婚約者に、復讐する機会を与えてくれたジルクニフに、恩を返すために。

 レイナースは俯きながら言い繕う。

 

「わ、私は陛下に受けた恩を返すまでは――」

 

「ならば、さっさと呪いを解いて戻ってくるが良い。魔導王陛下には話を通しておく」

 

 信じられなかった。忠義もなく、力でも役に立てない自分に対してここまで配慮する価値があるものか。

 しかし――

 

「ああ、そうだ。ついでに暇な奴らも連れていってくれ。ニンブルとバジウッドもな。

 いまや帝国四騎士とは名ばかりで戦力として数えるのは心もとない。今後のため、奴らにも変わってもらわないとな」

 

 ……私にばかり苦悩を……少しは味わえ……と、ぶつぶつ呟きながらジルクニフは悪戯が成功した子供のように笑っていた。

 レイナースはこの様子を見て、ようやく他意は無いと理解できた――悪意はあるようだが。

 だが安心はできない。ジルクニフにとっても今の自分には価値がないことは事実。ただ、自分のやるべき事は決まった。

 

「この呪いから解放された暁には、その時こそ陛下に忠誠を尽くすことを誓いますわ」

 

 

 

 レイナースの眼には強い光が宿り、表情は憑き物が落ちたように清々しかった。

 

 

 





原作でもWebでもアインズ様に完全モブ扱いの四騎士ですが、
レイナースはプリースト、ニンブルはビショップ持ってるので、
バジウッド盾にすれば対アンデッドのバランス良いパーティになりそうですね。
盾といえば…四人目は補充されるのでしょうか。

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