突然だが、みんなは夕日が好きだろうか?
青から茜色に染まった空を見て、通学路を進みながら、ああ、今日も一日頑張った。晩御飯は何にしよう。
なんて考えるこの瞬間が、俺は好きだった。
それは、異世界に転生しても変わらない。
下宿先の窓から夕日が差し込み、雇い主様の綺麗な金色を照らす。
さらさらと風に吹かれて揺れる髪。無駄のない綺麗なスタイルに見惚れそうな美貌。
いつもは自信に満ちたその顔はほんのりとほほを朱に染め、少し色っぽい。
その満ち足りた表情は面倒な仕事が片付いた時の様に穏やかだ。
もう、絵にしたら間違いなく売れるね。まぁ、俺を椅子にしていなければだが。
・・・・ええ、ザイードさんはドーヤが嬉しそうで何よりですよ?
でもさ、俺、一応重傷だからさ?
だから、もうそろそろ、そのおも「は?」・・・・羽毛のように軽い身体を俺の背からどけてくれませんかね?
「あわわわ」
「がんばって~、ザイードさん」
はい、ってなわけでこんにちは。いや、もう夕方だからこんばんはか。
絶賛、人間椅子にされているハサンことザイードです。
いやー、今回の説教は長い。
それだけ心配かけたという事だろう。
ドーヤはツンデレだからね!
「次は、私じゃなくて石がいいみたいね?」
「申し訳ありませんでしたッ!!」
石は無理だから!この状態で流石に石は無理だから!!
必死の懇願が伝わったのかドーヤはそのまま降りてくれた。
た、助かった。
「さて、お仕置きはこれくらいにして」
「ん、帝都から脱出しましょうか」
はい、おふざけモードはこれくらいにして本題に入るとしよう。
今回のクロメ暗殺の失敗に加え、帝都警備隊との派手な大立ち回り。
これだけ帝都で騒ぎを起こしてしまっては暗殺する意味がない。暗殺とは平和な時にやるから効果があるのだ。
常に人が死ぬ戦場で司令官が殺されるのと絶対安全な砦で司令官が殺された時、果たしてどちらがより周りの人間に恐怖と不安に陥れることが出来るか?
勿論、後者だ。
絶対安全な場所がいつ死んでもおかしくない場所に変わった時の恐怖は筆舌に尽くしがたいものだろう。
賢い奴は真っ先に裏切り者を炙りだそうとするだろうがそれは悪手だ。
常に気を張り続ける事は必ずストレスが蓄積され心身ともに駄目にする。
上手く止めれば上出来だが、出来なければどうなるか?
答えは簡単。『自滅』あるのみ。
現在の帝都はそんな状態とは程遠いため、落ち着くまで全員で帝都から離れようというわけだ。
もちろん、残ってもいいのだが『もしも』が無いとは言い切れない。
なら、不安の種は摘み取るのが一番。てなわけで、
「ほれ、ザイードさんの胸に飛び込んできな」
手を広げ二人を待つ。
ドーヤの処置が良かったのか腹部はかすかに痛む程度でなんら行動に問題ない。
姉はゆっくりと此方を労わる様に側に寄り、妹は無邪気に胸に飛び込んでくる。
「おっと、元気がいいな妹。姉も遠慮せずに抱き着いていいぞ」
「えっと、お邪魔します」
妹と同じ様に抱き着いた姉。
俺はそのままゆっくりと二人をお姫様抱っこした。
さて、後はドーヤだが・・・・。
「背中借りるわよ」
乱暴な言葉のわりに優しく背に乗ってきた。
やっぱり、何だかんだでドーヤは人に気遣いが出来る良い奴だ。
「それじゃ、行きますか」
そして、部屋には最初から誰もいなかったかのように四人の姿が消えたのだった。
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