ガールズ&フリート   作:栄人

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試合に向けて頑張ります!……だけど練習でピンチ!

「伝統墨守 百発百中。宗谷流を語る上で欠かせない言葉だ」

ましろは黒板の前に立ち、乗員たちに向けて喋っていた。

今艦内の教室で開かれているのは、これからの練習方針を決めるブリーディングだ。

「その心は?」

納沙幸子が首をかしげ、ましろがそれに答える。

「海戦の基本を忠実に守り、その練度を極限まで高めることで一発の砲弾も外さないようになる。とまあ、こんな意味」

「ほぉ〜」

一同から感心の声が上がった。

「何だか勝てそうな気がするぞな」

「本当だね」

「ただ、宗谷流には大きな弱点がある」

ましろは険しい顔で教室内を見回す。

「海戦の基本を守るがゆえに、相手に動きを読まれやすいということだ。そのため、宗谷流を扱うには先読みされてもなお勝利できる圧倒的練度と武力が必要になる」

「どっちもないね、うち」

身も蓋もない声が上がった。

これこそが宗谷流、ひいては横須賀女子軍艦道が廃れた最大の要因だ。この学校は宗谷流を貫く練度を維持できなかったのである。

「じゃあ今からやっても意味ないじゃん……」

 一気にみんなのテンションが下がる。そんな時、明乃が立ち上がった。

「いいや、そんなこともないよ」

「艦長? でも試合まで二週間しかないのにできるわけないじゃん」

「ううん。基本を抑えることは重要だもん。これから二週間は、自分の仕事に専念しよう。一応メニューを作ってきたから、大変かもしれないけど反復練習を続けるの。そうすれば、何とか形にはなるはずだから!」

 

 そして、横須賀女子の猛特訓が始まった。

 

 航海科。

 航海長知床鈴はなぜかグラウンドの端っこのソフトボール用バッターボックスに立っていた。仁王立ちで。

 ソフト用ヘルメットをかぶり、ほどんど泣いている瞳で見つめる先、マウンドにあるのはこれまたソフト部から借りたバッティングマシン。

「取り舵取り舵面舵取り舵!」

 日焼けした航海科の少女、内田まゆみがそう叫びながらソフトボール(ウレタン製)を次々発射した。

「取り舵取り舵面舵取り舵っ!!」

 鈴は復唱しながらそのボールを左左右左と避ける。

「まだまだ!! 面舵取り舵面舵取り舵取り舵取り舵面舵取り舵っ!」

「ええっ!? 面舵取り舵おもうぎゃっ!!」

 ボールが鈴の顔面に直撃する。

「この練習、効果あるんかいな?」

「さあ?」

 横で見ていた勝田聡子と山下秀子は二人して顔をかしげていた。

 

 野間マチコは停泊中の晴風のマストのてっぺんに立っていた。

「敵艦発見!大型漁船4小型船2 七時の方向 距離二二。南西から北東に航行中。目測七ノット!」

 すぐさま、艦橋の上で電測員、宇田恵が双眼鏡を覗いて確認する。

「ひぃ、ふう、みい……。惜しい! 小型船は3だ!」

「ああ!! まただ! もう一回!」

 マチコが空にほえる。東京湾に入る船を相手に見張りの練習をしているのだ。

「はいはい、付き合ってあげるわよ、マッチ」

 恵もやれやれという風に首を振る。

「にしてもよく見えるわねぇ、あんなの」

 双眼鏡をのぞいてもなお豆粒ぐらいの漁船をとらえるマチコに、1人感心しているのだった。

 

 機関科。

「ぎりぎりまで粘れぇ!!」

 麻侖はヤバげな音を立てている機関を前に愛用の鉢巻きをたたきつけた。

「ちょっとマロン! もう限界よ!」

「もうちょっとだクロちゃん! もうちょっとでこのお転婆娘のちょうどいい出力がわかる気がするんでぃ!」

「そのまえに私たちが蒸し焼きになるよぉ!」

 機関員、若草麗央が叫び、

「ちょっとまじむりぃ!」

「死ぬ! 死んじゃう!!」

「吹き飛んじゃう! バルブ吹き飛んじゃうからぁ!」

 伊勢桜良、駿河瑠奈、広田空の悲鳴が機関室にこだましたのだった。

 

砲雷科。

「戦闘。左砲雷撃戦、方位角右30度」

「装填よぉーし! 射撃準備よぉーし!」

「魚雷発射管全射線発射よぉーいよしっ!」

「攻撃始め! 目標大和艦首!」

「照準点大和艦首! てーっ!!」

「て」

 

「19秒77です! 初めて20秒切りました!」

ストップウォッチを手にした幸子は嬉しそうに飛び上がった。これは、下命からどれだけ早く攻撃を始められるか、という練習だ。

ただ記録を出した当人達はまだ不満なようで、

「ちょっと発射遅くない?」

と、照準担当小笠原光が、発射担当日置順子に指摘し、

「それを言うなら旋回が遅いんだもん」

と、順子も順子で、旋回担当武田美千留のせいにし、

「はぁ? 照準つけるの遅いからじゃん。私だけのせいじゃないし!」

と、光に罪をなすりつける。

狭い射撃指揮所内で三つ巴の争いが繰り広げられようとしたその時、

『ノン、ノン』

砲術長立石志摩が伝声管を通して割って入り、

『みんな、すごくいい』

「砲術長がっ! タマ砲術長が3分節以上の言葉を我々にっ!!」

「しかも褒めてくれた!!」

「よっしゃー! もっと頑張ってもっと砲術長のお声を!!」

このたった一言で、一気団結が深まったのだった。

砲術科。志摩大好きっ娘の巣窟である。

ちなみに水雷科の方は、

「あああーっ!! 本物っ!! 本物の魚雷うーちーたーいーっ!!」

こんな感じで興奮した芽依を

「はいはい、あともう少しでみみちゃんの許可下りるから我慢ねー」

「そうそう。四股踏みの稽古だって大事なんだから」

松永理都子と、姫路果代子の2人がなだめているのだった。

 

主計科。

「私たち、なにやってるのかな」

「マグネット作りだ」

燃え尽きたように給養員、伊良子美柑が言うと、呆れたように衛生長、鏑木美波が返事をした。そう、2人は現在マグネット作りの内職を行っているのだ。

「ダンボール一杯に作っても千円なんて〜」

美柑が嘆きの声を上げた。

「仕方がない。我々の仕事は予算の確保だ。そして私とあなたはこれしかすることができないのだからな」

衛生長の鏑木美波はマグネットを作る手を休まず言う。

「私もバイトの方に行きたかったのに! カレー作りたかったのにっ!!」

美柑は拳をふるって訴えるが、

「諦めろ。アルバイトの募集枠は3つで、お前はそれに落ちたのだから」

「な〜ん〜で〜な〜の〜」

「さあ?」

そもそも12歳で働けない美波は顔も上げずにそういうだけだった。

 

その頃、その「合格した」等松美海、杵崎あかね、ほまれは、

「横須賀海軍カレーチーズトッピングでお待ちのお客様ー!」

「いらっしゃいませ! ご注文をどうぞ」

「申し訳ありませんが、当店では、横須賀カレーサンバのサービスは行っておりません」

横須賀女子学園艦にあるカレー専門店「海軍壱番屋」で働いているのだった。

 

 

そして、多くの者の思いを乗せて、

 

軍艦道全国大会単艦戦、関東地区予選大会が始まる。

 




一応出せるだけの晴風乗員たちを出してみました。
出てこれていない人たちはまた次回ということに……。

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