ガールズ&フリート   作:栄人

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自分も学生時代にこんなことを言われながら部活やってました……。書きながら当時のトラウマがよみがえってきてつらかったです 笑。


目に物見せます!……だけど艦長でピンチ!

誰も何も言わなかった。学校に戻るまでの間、航行に必要な指示以外の声は誰も一言も発しない。

最悪なんて言葉すら生ぬるい、晴風はそんな空気だった。

 

「えーっと、まああれだ。どんな天才も、名人も最初は初心者だった。今からコツコツ頑張れ!」

学校に着くなり、真冬はそう言って、この雰囲気から逃げ出すようにさっさと出港していった。

「……話があります。全員艦の中に戻りなさい」

黙りこくっている晴風乗員に、古庄は険しい顔で言った。

 

全員が艦内の教室の席に着くのを見て、古庄は口を開いた。

「あなた達には失望しました」

古庄の声は嫌に部屋の中に響く。

「宗谷さん」

「はい」

ましろは唇を噛む。

「あなたはこの艦があなた1人の手で動いていると思っていませんか? 日頃のあなたの態度を見ていて、そんな気がしてなりません。宗谷さん、あなた、軍艦道向いていませんよ」

ましろの目に涙が浮かぶ。

古庄の視線はマロンに移る。

「柳原さん。あなたは気に入らないことがあれば職務を放棄するのですか? 駄々っ子は晴風の機関だけて精一杯です。子供っぽいのは見た目だけにしてください」

「くっ……」

マロンは反論しようと口開けたが、

「やめな、マロン」

洋美に抑えられる。

「それに航海科。ろくに航海できない連中を乗せるほどこの艦は余裕がありません。はっきり言って邪魔です。とっとと降りてください」

「うっぐ……。ご、こべんなざぃ……」

鈴が泣きながら謝る。

古庄はこの調子で次々と生徒達に口撃を向けた。そして、

「岬さん」

「……はい」

「あなたはその頭に被っているものがただの布と革の塊だと思っているのですか? それは横須賀女子の歴代司令官が受け継いできた伝統ある帽子です。何千という人間がそれを被ることを夢みて、結局被れないまま引退していきました」

「わかって、います」

「いいえ。あなたの頭はその帽子を綺麗に被ることしか能がありませんよ。それなら学校に住んでるノラ猫にやらせた方がよっぽどマシでしょうね。突っ立ってるだけなら誰でも出来ます。そんなに軍艦道が嫌なら今すぐ辞めてください」

「……っ! そんなことありませんっ!!」

「言い訳は聞きたくありません」

立ち上がった明乃を古庄は無下に切り捨てる。そして、もう一度全員を見回す。

「これからどうするのか、どうしたいのか。全員でよく話し合ってください。それまで練習はしなくて結構です」

古庄は教室を出て行った。ガン、と閉められたドアが静かな艦内に響いた。

 

「ずいぶん言ってくれたわね。さすが鬼の古庄」

教室をでですぐの角のところで校長、宗谷真雪が壁に寄りかかっていた。

「お聞きだったのですか? 校長」

「ええ、古い扉ですから」

真雪が茶目っ気たっぷりに答える。

「でも大丈夫かしら、あの子達」

「ええ。このぐらいで潰れているのなら、軍艦道なんてこれからやっていけません」

「辞めちゃったりとかしない?」

「試合に負けた後、全員が悔しそうにしていました。少なくとも、負けたくないと思えるまでには、軍艦道に思い入れが生まれているようです。それに、ほら」

古庄が教室を目で刺すと、中から

『なんたってやんでぃ!! あのおばさんがぁぁー!!』

麻侖の怒り狂った声が聞こえてきた。

「あの子達なら、きっと乗り越えますよ」

「でも、それじゃあなたが悪者みたいに・・・・・・」

真雪は顔を曇らしたが、古庄は笑って答えた。

「私1人が悪者になってチームが勝てるなら、喜んでそうしますよ」

 

 

「聞いたかクロっ!? あんのやろ、アタシのこと子供っぽいって、あんこんちくしょう!!」

興奮冷めやらぬ麻侖はガンガン机を叩き江戸っ子口調で怒鳴り散らしている。

「マジなんなの、あいつ。ホント腹たつんだけど」

「コッチの事情も察せって話よね〜。だから彼氏できないのよ」

「100パームカついた! 確かに72パーぐらいこっちが悪いけど」

古庄の悪口大会である。

一方「向いていない」と言われたましろは

「向いて、いない……。私、軍艦道、向いてない……は、ははははは」

魂がフワフワ漏れ出ている。

「うわぁぁぁぁ、私のせいだぁぁー! 私が取り舵と面舵もわからないバカでマヌケでクズだからだぁぁぁ!」

「ノン、ノン」

「大丈夫だって、タマもそう言ってるしさ」

「そうですよ! 一緒に命タマとってやりましょーや!」

鈴はとうとう泣き崩れ、芽衣と志摩、幸子に慰められていた。

麻侖は机の上立ち上がると吠えた。

「おいおいおーい!! 古庄教官にあそこまで言われていいのかー!?」

「いいや! 駄目!」

「ひと泡吹かせましょう!」

何人かが合いの手を打つ。

「てやんでえ!目に物見せてやろーじゃねえか! 絶対勝つぞ! 次の大会!!」

「「「おー!!」」」

「向いて、ない、ははっ……」

ましろは未だ立ち直れていなかった。

そして明乃はただ一人、

「…………」

 苦しそうな顔をして、うつむいていたままだった。


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