ガールズ&フリート   作:栄人

5 / 18
練習試合です!……だけど弁天でピンチ!

 練習試合当日。

「本日、天気晴朗なれど波高し」

 見張り員野間マチコが呟く。

 雲一つない快晴だった。場所は房総半島の沖。晴風と猿島、そして黒い船体のブルマー艦「弁天」が停泊していた。

「我が後輩諸君! 今日は精一杯頑張ろうではないか!」

 晴風甲板に立つ弁天艦長、宗谷真冬はがはがはと大笑いして言った。黒いマントに黒い制服。ハッキリ言って変だった。

「あの人、宗谷さんのお姉さん?」

「へぇー、ブルマーなんだ」

「でもちょっと変わってない?」

 ひそひそ話がましろの耳にも入ってくる。

「ああ、もう……。なんでこっちのほうが……」

 ましろは恥ずかしさに震えていた。どうせなら一番上の普通にかっこよく、普通に凛々しいほうの姉が来てくれればよかったのに、と思うが、現実は変えられない。

「おーましろ! 今日はガンバローな―! 真霜ねーさんがましろに会いたいって言って写真抱きしめてチューしてたぞ! たまには電話してやれー」

「もう! 恥さらすなら自分だけにして! 嘘ついて真霜姉さんまで巻き込まないでぇぇ!!」

 こうして、横須賀女子海洋学校とブルーマーメイド有志艦との練習試合が幕明けた。

 

 単艦戦は20キロ四方に設定された試合海域に双方が対角線上に配置され、審判艦の号令により試合開始。射程に接近して砲撃戦を始める、というものだ。

 ちなみに今回、弁天はハンデとして、主力装備である噴進魚雷を使用しないことになっている。

「で、結局どうしますか? 艦長。作戦は結局考えられていませんが……」

 艦橋に戻り、何とか冷静さを取り戻したましろは艦長の明乃に尋ねた。

 昨夜、作戦会議は結局艦橋vs機関室vs会計vs水雷科&砲雷科vs航海科vs主計科という大内乱に発展し、殴り合い寸前で強制お開きとなったのだ。作戦なんぞまるで決まらず深まったのは互いの溝のみ。

 そんなわけで晴風艦内は今、雰囲気最悪であった。

 明乃はしばらく考えて言う。

「と、とりあえず弁天を探して、出会ったら丁字戦法をとって砲撃を始めよう、宗谷さん」

「艦長ー? ていじせんぽーって何?」

 芽衣が首をかしげる。

「座学でやっただろう! 海戦の基本的な戦法だ!」

 ましろが眉をひそめた。明乃が苦笑しながら説明する。

「敵艦の正面に対して自艦を横向きに着けて、使える方の数に差をつける戦法だよ」

「なるほど! そしたら魚雷発射管も砲塔も全部使えるしね」

「ウィ」

 芽衣と志摩が感心して頷いた。

「単艦戦はまさに索敵が勝負です。先に敵を発見し、先に発砲したほうが勝機を得ます」

 幸子がしたり顔で説明した直後、

『弁天発見! 10時の方向! 距離20!!』

 見張り員野間マチコの声が響いた。

「来た!」

 ましろは指示を仰ごうと明乃を見る。だが明乃は、

「…………」

 青い顔で黙ったままだった。

「艦長!」

 ましろがもう一度鋭く言うと、明乃ははじかれたようにハッとして叫ぶ。

「ほ、砲撃よぉーいっ!」

 だが、先手は弁天がとる。

『弁天発砲!』

「回避! おもかーじ一杯!!」

「お、面舵ってどっちだっけ!!??」

「あほっ! 落ち着け! 知床さん!」

 泣きながら一人混乱している鈴にましろが怒鳴ったが、それをかき消す爆発と振動に襲われた。

『右舷甲板着弾!』

『一部区画浸水掃討ダメージッス!』

 被害報告も済まぬ間に、

『こちら電索! 通常魚雷来ます!』

『魚雷航跡確認! 3発!』

 次々あげられる報告を前に恐慌状態になる艦橋。

「え、撃っていい? 撃っちゃった方がいい?」

「回避が先だろう! とにかく舵輪回せぇぇ!!」

「ひぃぃぃぃ」

 だが魚雷は二発命中した。その上むちゃくちゃに回避したせいで、船腹をさらしてしまう。

『機関損傷!』

『浸水区域止まりませーん』

「艦長!! どうしますか!」 

「え、えっと、その……。とにかく回避運動。それから砲撃準』

 言い切らないうちに、弁天から放たれた何発もの砲弾が晴風を襲う。そして、

「あれ?」

 ブレーカーが落ちたように、晴風はその機能を止めた。

「……負けだ」

 ましろが脱力する。

 晴風は白旗を掲げていた。

「砲撃戦開始から、・・・・・・1分と4秒です」

 幸子の声が、すっかり静かになった艦橋に響いた。

 

----------------------

 

 横須賀宇佐マリーン学園。

 この学校は自由と自主、平等を校訓として掲げている。そして己の実力のみがすべてを決める、完全実力主義の学校でもあった。

 その学校で500人以上の生徒が所属する軍艦道部部長はかなりの実力者だ。そして当代部長、ミス・プレシデントこと尾浜場 楽(おばまば らく)は生徒会長をも兼任する、まさに学園最高権力者だった。

「hei、プレシデント、横須賀女子軍艦道に関するdateだよ」

「ご苦労、ミス・マンハッタン」

 プレシデントは礼を言うと、コーヒーをすすった。副部長のミス・マンハッタン(本名、久利都 ひらり)はそのままプレシデントの机の上に座る。

 ここは軍艦道部の部室。通称パールハーバー。学園艦艦橋の埠頭を一望できるところにある、白を基調とした豪華な一室だ。艦長以上の、アメリカ海軍士官服を模した幹部服を着た者しか立ち入ることができない。

プレシデントは資料をパラパラとめくり、小さく噴き出した。

「まったく、やつらが何をしだすかと思えば、まさかこんなしょうもないことだったなんてね」

「ほんと、二流のshipに三流のsailors 。楽勝だね」

 マンハッタンが相槌を打って、プレシデントに聞く。

「で、どうする? プレちゃん。確か一か月後の地区大会、一枠ここと当るよね?」」

「プレちゃんはやめなさい」

 艦隊戦は出場校が少ない分、登録すれば即全国大会へ行ける。しかし単艦戦はそうではない。各地方に出場枠が定められており、それを登録艦数が越す場合は地区大会が開かれるのだ。

 宇佐マリーン軍艦道部は創部以来関東地区の出場枠を独占しており、それは宇佐マリーン生徒の誇りでもあった。

「はーあ。あんな弱小と当るなら、校内戦のほうがよっぽど身なるってのに」

「言葉を慎みなさい、マンハッタン。一瞬の油断が、一生の後悔を生むのよ」

「Sorry,mam。で、どうするの? 徹底的につぶす?」

「……それも趣味が悪いわね。せっかくの同好の士。仲間は多いほうがいいわ。……ミス・ロッキーに任せましょう」

 プレシデントはミス・ロッキーの、今年入学した知名もえかの写真をマンハッタンに渡した。

「Oh,it's interestingね、プレちゃん。幼馴染対決じゃん」

「だからプレちゃんはやめて」

 




登場人物の紹介
宗谷真冬・・・・・・ブルーマーメイド艦、弁天の艦長で、ブルマー軍艦道の司令官でもある。ましろの姉。10人中7人が変人というが残り二人がかっこいいといい、後の一人が熱狂的信者になるという謎のカリスマを持つ。シスコン。

尾浜場楽……宇佐マリーン軍艦道最高司令官にして生徒会長。コードネームはミス・プレシデント。正直このコードネームはどうかと思っている。和食が好き。

久利都ひらり……宇佐マリーン軍艦道副司令。お調子者だがいろいろな面で部長を支える。コードネームはミス・マンハッタン。帰国子女で会話に英語が混じる。プレシデントとは昔からの知り合い。

 なお宇佐マリーンの上記二人が作中本名で呼ばれることは基本ない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。