ガールズ&フリート   作:栄人

4 / 18
このお話では晴風乗員総じてかなりのロースペックとなっております。


早速練習です!……だけどみんなバラバラでピンチ!

横須賀女子海洋学校軍艦道部は活動を再開させた。

古庄が部内幹部を決めた結果、艦長(部長)は岬明乃。副官に宗谷ましろが任ぜられることとなった。

ましろと仲の良かった黒木洋美は機関科だ。ちなみに彼女はましろが艦長出ないことに1人憤っていたが、明乃が軍艦道経験者であることを知りしぶしぶ矛を収めている。

 

 

とまあ、そんなわけで練習をはじめたのだが……。

「機関どうしたぁっ!?」

もはや何度目とも知れぬ機関停止にましろはいらだちを爆発させ伝声管に叫んだ。

『うるせぇ! 聞きゃわかるじゃねぇか、止まったんでぇ!』

自分も十分うるさい機関長、柳原麻侖の怒鳴り声が帰ってくる。ここまでくると、もはや売り言葉に買い言葉だ。

「ええい! 何度止めたら気がすむんだっ! ちゃんと仕事しろっ!」

『ああっ? こっちがさぼってるって言ってんのか!? だったらもうやんねぇ! ほんとに一切仕事しねえからな!』

『ちょっとマロン! 宗谷さんに言い過ぎよ!』

『うるせえ! もう知-らねっ!」

 もうしっちゃかめっちゃかである。

 しかも混乱はここだけにとどまらない。

 

「あのさ、昨日の演習で何発撃ったの?」

 主計科会計長、等松美海に追い詰められているのは水雷長西崎芽衣と、砲雷長立石志摩だ。二人は艦橋窓際にじりじりと後ずさりする。

「えっと、魚雷は7発……」

「…………………」

「あ、タマは50発って」

 ぼそぼそっとつぶやく志摩の言葉を通訳する芽衣。だがそれは単に、美海の血管をぶった切ることなるだけだった。

「何それ! 100パー信じらんないんだけど! あれ一発いくらかかるか知ってるの!?」

「え? さあ……」

「砲弾1ダース五千円! あんたが昨日撃った分だけで約2万833円! 魚雷は一本500円だから3500円! うちの部費は今月五万円でやりくりしなきゃいけないの! この調子で言ったら来週に使い切るからね!100パーセントの確率で!」

 次々と繰り出される数字を前に思わず耳をふさぐ砲雷・水雷コンビ。

その様子を見て、記録員、納沙幸子が苦笑いを浮かべる。

「『たまに撃つ、弾がないのが、玉にきず』って感じですねえ」

 予算不足もまた深刻な問題だった。莫大な経営赤字を抱える学校からの補助など、カモメの涙程度しかない。部員から徴収する部費と、OGから募ったカンパ、連盟からの補助金でぎりぎりの運営をしていた。

「あと次は! 機関科か! あいつら燃料代いくらかさむと思ってんのよ!」

 美海は部費ノート片手に艦橋を飛び出し、現在絶賛戦争中の機関室に突撃していった。

 等松美海。金銭関係に妥協はない。

 

「ぜ、前方から商船接近!」

 美海が去ってすぐに、航海長、知床鈴が悲鳴を上げた。

「え、えっと、とりーかーじ」

 明乃が自信なさげに言うと、鈴も

「と、とりーかーじ」

 おんなじように復唱する。

 なんとなく、見ていて不安になる操舵だった。思い切りがない。

「演習海域まであと十五分です」

 幸子がタブレット端末を見て報告するが

『え? こっちの計測やとあと四十分になっとるぞな』

 海図とにらめっこしていた航海員勝田聡子が伝声管越しにそう伝える。

「あれー? どこか間違ったんですかね?」

「ぞなー?」

 

「晴風、停止しました」

「みたいね」

 晴風の後ろについていた教官船「猿島」の艦橋にいた古庄は大きな、そりゃもう大きなため息を吐いた。晴風艦内の惨状は無線を通じてリアルタイムで古庄の耳にがんがん響いているのだ。

「ほんとに大丈夫かしらねぇ」

 古庄の目は、広い広い大海原の水平線を見つめていた。その眼には生気がこもっていなかった。

 

「練習試合を行います」

 練習後のミーティングで、古庄はさっそくそう告げた。

「練習試合ですか?」

 明乃が首を傾げた。

「ええ。軍艦道の上達にはやはり実戦が一番。そこで今回は、私のつてを使って現役のブルーマーメイドの方にご足労願うことになりました」

「「「おおー」」」

 ブルーマーメイドはいうなれば海の保安官だ。そして、軍艦道社会人チームとして海上自衛隊と肩を並べるほどの軍艦道の強豪でもある。

「しかし……、今の我々にブルーマーメイドチームにかなう実力があるとは思えませんが」

 ましろが手を上げていった。

「ええ。確かにいま、このチームにはそんな実力はありません。しかし試合を通じて軍艦道の楽しさを知ってもらおうと思ったのです。また、現役の選手たちを見て、立ち振る舞いを学んでもらいたいのです」

「おおおー! じゃあブルマーが撃ってるの見れるんだ!」

 芽衣が顔を赤く上気させる。

 横須賀女子は船員を育てるための学校だ。昔、軍艦道強豪校だった時代は、練習航海も軍艦で行っていた。だが予算削減に伴って、燃費と操作性の良い商船に変えられてしまった。ので、実際に軍艦に乗ったことがある生徒も、発砲したことがある生徒も今までいなかったのだ。

「試合は明日行います。しっかり作戦を立ててください」

「「「はい!」」」

大きな返事が響いた。




登場人物の紹介
等松美海……会計長。本編で野間マチコに憧れてたあいつである。部費の取り立てに関しては「地獄の徴税人」「鬼の会計」の異名を持つ。

勝田聡子……松山出身愛媛っ子。ぞなぞなほけほけ娘である。ただ愛媛県民は乗り物の操縦時に性格が変わるといわれており(某県民性漫画参照)この子がどうなるかはいまだ不明である。

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。