ガルパンのキャラは基本出てこない予定です。
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軍艦道始めます!……だけど学校がピンチ!
「横須賀女子海洋学校ですが、事実上貴校の廃校が決定しました」
春。新入生もいくらか学校に慣れ、校舎に子供たちの声が響く横須賀女子海洋学校。
そこの校長、宗谷真雪は頭を抱えていた。原因は目の前に置かれた一枚の書類と、たった今言われた一言。。
「まさか……、そんな……」
真雪は呻く。
『横須賀女子海洋学校と横須賀宇佐マリーン学園の統合計画について』
書類には、そんな文字が躍っていた。
「何とか撤回できないのでしょうか?」
真雪は目の前の男、文科省の担当者に懇願する。
「横須賀女子の生徒数は減少の一途を辿っています。にも関わらず、保有する艦船の維持に莫大な費用がかかっている。我々が推し進める学園艦削減の対象に十分当てはまります」
「しかし、うちは100年以上の歴史が」
「歴史は関係ありません」
担当者は冷たく言い切る。
「ともかく、経営で大きな赤字を出しているこの学校を存続させる理由はないのです」
「……学校経営を黒字化すればよいのですか?」
真雪が低い声で言った。
「そうですね。そうしていただけるのならば、考え直しますよ」
担当者は鼻で笑う。
「……3年、時間をください。それまでに生徒数を増やし、再びこの学校を蘇らせてみせます」
「そんなことできるんですか? 10年以上赤字経営が続いているここに」
「やってみせます」
真雪は担当者を見ていなかった。その瞳が注がれているのは、彼の背後、校長室の奥の棚に飾られている一つの古いトロフィー。
『軍艦道全国大会優勝 横須賀女子海洋学校』
トロフィーの台座には、そう刻印されていた。
軍艦道。
茶道、華道、戦車道と並ぶ女性の嗜みだ。古くはヨーロッパのバイキング、日本の倭寇に由縁するとも言われ、坂本龍馬の妻、お龍の手で近代武道として確立。現代では世界中でスポーツとしても楽しまれている。
そのルールは戦車道とほとんど変わらない。
横須賀女子海洋学校は軍艦道の名門として、昔は日本五大校の一つに数えられていた。
事情が変わったのは十数年間ほど前。大企業、宇佐財閥が出資する私立学校「横須賀宇佐マリーン学園」が横須賀女子のすぐ近くに設立されたのだ。
豪華で最新の設備と自由な校風で生徒数をどんどん伸ばし、反比例するように横須賀女子の生徒は減っていった。
軍艦道でも、マリーン学園が台頭。弱体化していった横須賀女子軍艦道部は部員数減少で休部に追い込まれてしまった。
そして今日、文科省は横須賀女子を事実上廃校にし、マリーン学園と統合させる計画を通達したのだった。
「どうなさるおつもりですか? 校長」
文科省の担当者が退出するのと入れ替わりに入ってきたのは、教員の古庄だ。
「あら? 聞いてたの?」
「古い扉ですからね、嫌でも聞こえます」
古庄はわざとらしく肩をすくめた。どうやら聞き耳を立てていたらしい。
「しかし校長、3年で生徒数を増やすなんて、そんなこと」
「出来るわ」
真雪はキッパリと言い切る。そして一枚の新聞記事を取り出した。
「茨城で実際にあった事例よ」
ちらりと読んだ古庄は
「これですかぁ?」
胡散臭げな声を出した。
「あら? 知らないの?」
「しってますよ。知ってますけどうちじゃ無理でしょう。よっぽど珍しいから新聞に乗るぐらいですし」
「他所が出来るならうちでも出来るはずよ! 早速臨時の全校集会を開くわ! 古庄教官、準備を!」
真雪はハツラツと指示を飛ばして、校長室を飛び出した。
「……流石、即断即決・猪突猛進、宗谷流家元宗谷真雪」
静かになった校長室で、古庄は風のごとく出ていった真雪の二つ名(本人に知られてはいけない方)をぼそりと呟いた。
『大洗女子学園の奇跡! 戦車道が学校を救う』という見出しの記事が、ふわりと床に落ちた。
宗谷ましろは不幸である。
大体こういうのは本人の悲観だったりするのだが、彼女に関しては身内友人、さらには初対面の人間にさえ同情されるという深刻なレベルだ。
話題の行列に並べば目の前で売り切れ。学校行事はいつも雨。下ろした服はすぐに汚れ、授業参観はなぜか必ず変わり者の次女が来て悪目立ちするという、某ラノベ主人公をかくやという勢いの不幸っぷりである。
そんなましろは今年、解答欄を間違えるという不運に見舞われながらも、念願の横須賀女子海洋学校に入学を果たした。
ましろには夢があった。
今となっては没落した横須賀女子の軍艦道を復活させ、宗谷家が考案した流派、宗谷流の名を再び全国に轟かせるという夢が。
だかそれも、
『我が横須賀女子海洋学校は廃校の危機にあります』
臨時で開かれた全校集会で粉々に砕かれそうになったのだった。
「宗谷さん!? 宗谷さーん!!」
「はっ!?」
あんまりにあんまりな発表で一瞬意識が飛んだましろ。隣に立っている黒木洋美が心配そうに彼女を支えている。
ましろは目をぱちくりとさせ、茫然と呟いた。
「え、今廃校って……」
「ええ。ほんとうみたいね、宗谷さん。わざわざ校長先生が言うんだもの」
突然のことに周りもざわざわとざわついている。
『静かに!!』
真雪がマイク越しに叫んだ。キーンという音割れで、みんな黙り込む。
『私は! この伝統ある学校をなくしたくはありません! そこで、ある約束をしました。こののち3年で学校経営を黒字化すれば廃校を免除してもらうと!』
「「「はあ……」」」
どう反応すればよいのかわからない生徒たちは曖昧な相槌を打つ。
『そしてっ! 私はある秘策を打つことしました!』
大きく手を振る真雪。その姿はさながら独裁者のようだ。
『横須賀女子軍艦道を復活させっ! 全国優勝させるのですっ!』
「「「はあっ!?」」」
今度は、本気で訳が分からないという返事だった。
曰く、茨城のとある学校は戦車道で注目を集め廃校を免れた。ならうちも軍艦道で再び栄光を掴んで注目を浴び、生徒数回復、寄付金アップからの黒字回復を目指そうではないか! という実に単純、安直な計画らしい。
「……うまくいくのか?」
あまりに非現実的な話に顔を引くつかせるましろ。
「……さあ?」
普段ましろに追従する洋美もさすがに首を傾げた。
それにこの計画にはいくつか重大な問題がある。一つは、
『残念ながら、本校軍艦道は休止状態にあります。そこで! 選択授業の一つとして軍艦道過程を復活、履修者は軍艦道部を結成し入部してもらいます! 履修希望者は集会後ここに残ってください!』
まず人がいないこと。
自動化によって戦艦から駆逐艦まで1隻30人ほどの人数がいれば事足りるが、それすらも集まらないからこそ休止状態にあるのである。人数を集めるのが難しいのが、軍艦道が戦車道に比べマイナーな理由の一つだ。
だが、ましろの胸中には少しずつ希望の灯がともり始めていた。
『横須賀女子で軍艦道をする』
昔からの彼女の夢だった。
だが横須賀女子の軍艦道が休止していることは知っていたので、その夢も半ば諦めていた。それに今回、学校が後押しで、叶いそうなのだ。初めて、運が自分に味方してくれた気がした。
だが、ましろは己の不運レベルを見誤っていたのだった。
登場人物の紹介
宗谷真雪・・・・・・横須賀女子海洋学校の校長。「来島の巴御前」と称される軍艦道の天才で、宗谷流家元。だが「即断即決・猪突猛進」と陰口を叩けれるほど思い付きであれこれやっちゃう人でもある。
古庄薫……軍艦道部の教官。校長によく振り回される。横須賀女子出身で、学校の黄金時代を支えていた。独身である。彼氏もいない。