厨房に入った俺は絶句した。そこにいたのは、神父服を着た男が中華鍋を振るう姿だった。
いや、それも異様な状況かもしれない。それ以上に目に映ったのは、中華鍋に入っている真っ赤なナニカだ。
あ・・・・・・アレは何だ?遠くから離れてても俺にはわかる。絶対に碌なモノでは無い。
「む、すまないが厨房には入らないでもらおう。今は私の神聖な領域なのだ。出来上がるまでしばし待つがいい」
「え?あ、ハイ」
いや、もう何も語るまい。
数分後、俺達の夕食はこの神父服の男が作った真っ赤な料理が置かれていた。
ちなみに馬鹿後輩にはせめてもの情けで天津飯になっていた。こいつ、さりげなく頼んでいたな。
改めて、俺は目の前に置かれた真っ赤なナニカを凝視する。そして止めた。目が痛くなってきた。
見た目でもう辛い。ぐつぐつと地獄のマグマのように煮えたぎり、俺を引き込もうとしている幻覚を見た。
向かいに座る神父を見る。神父は全く同じものをハフハフしながら無我夢中でソレを食べていた。え?マジで食い物なの?
でもって、コレはなんなの?
匂いは・・・・・・刺激しか感じない。赤を除けば見た目は麻婆豆腐だ。そう、見た目を除けばな。
「ハフハフ・・・・・んぐ。―――食わんのか?」
「―――いただきます」
もう、覚悟を決めた。逆らってはいけないオーラをこの神父は放っている。
レンゲを手に持ち、ゆっくりと麻婆をすくって口に入れた
「――――っ!?っーーーー!!?」
辛っ!?ものすごく辛い!?く、口の中が辛さで満たされていく!?
ふんだんに使われた香辛料と煮えたぎった熱が俺の舌を焼いていく。辛さの刺激が脳天を一気に貫いていく。
だが、しかしっ!それ以上に・・・・・・美味い。
意外かもしれないが、この極限まで極められた辛さの中に全ての旨みが凝縮されている!
理性では辛い(カライ)、辛い(ツライ)、もう止めろと叫んでいる。なのにも関わらず俺のレンゲの手は止まらない。
もっと、もっとこの旨みを味わいたい。この辛いのか痛いのか熱いのかわからなく感覚がたまらなく良い!
「せ、せんぱい?ちょっとせんぱい?!」
「はふはふっ・・・・・あふあふっ・・・・んぐ。―――食うか?」
「いや、食べませんよ!?」
そうか・・・・・美味いのに
「ふっ、よろこべ少年―――おかわりはいくらでもある」
「ああ―――おかわりだ!」
感謝しよう。麻婆は至高の料理だと教えてくれたことをな。
しかし馬鹿後輩よ。なぜ、畏怖の目で俺を見る?
◇
とまあ、衝撃の麻婆というちょっとした出来事はあったが別段と問題は無かった。
でだ。
「アンタが馬鹿後輩が召喚したサーヴァントでいいんだよな?」
「うむ。まあ、私自信は英雄でも無ければ偉人でもない。【セイギノミカタ】に敗れ去った外道と言ったところだ」
反英霊・・・・・・ってわけでもなさそうだな。どう見ても胡散臭い神父だ。目に関しては俺と同類かもしれんが。
「で、馬鹿後輩。なにが失敗なんだ?俺には成功した風に見えるが?俺に麻婆を食わせてくれたし」
「え?だって、過去の英霊じゃないんですよ?失敗じゃないですかー」
ああ、そういうことか。
「ちなみに神父を召喚した触媒は?」
「そこらへんにあったレンゲです」
おい、そんなもので召喚するんじゃねーよ。
「さて、私はこうしてサーヴァントとして召喚されたわけだが・・・・・・何をすればいい?今の私は、その少女の令呪によって縛られている」
「えー?考えてませんよー」
だと思った。あ、そうだ
「なあ。俺の所有している空店舗があるんだが、そこで料理店を開いてみないか?」
「ほう?神父であるこの私がか?」
「ああ。正直、アンタの麻婆に惚れたからだ」
でもって、あの麻婆を広めたい
「ふっ、いいだろう。主に仕える身ではあるが、麻婆を広めるのもまた一興か。少年、名は何という?」
「俺は比企谷八幡、半人前の魔法使いだ」
「比企谷八幡か。その名、覚えておこう。私は言峰綺礼。元聖堂教会の神父だ」
なんとなくだか、俺はこの神父と気が合う気がした。
「・・・・・・何というか、合わせてはいけない人達を合わせた気がしますね」
後日、神父に与えた店舗【中華料理泰山】は有名となっていた。人気のメニューはやはり至高の麻婆だ。ちなみに俺も常連だ。
余談だが、馬鹿後輩も勇気を出して食べようとしたが、一口でノックダウンした。情けないな。
今日も千葉は平和です
◇
おまけ
言峰神父のクラスはサーヴァント。どこぞの虎と同じです。