となりの相模さん   作:ぶーちゃん☆

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ハッピーバレンタイーン♪

読者さまに嘘なんて吐いた事のない“公約を守る作者でお馴染み”のぶーちゃん☆が、きっちりとお約束通りバレンタインに下を上げにきましたよ?





【特別編】バレンタインと相模さん 下

 

 食事が終わると、そこは途端にまどろみの空間へと様変わりする。なんか眠いにゃー、朦朧として意識が飛んじゃいそうだにゃー。

 てかぶっちゃけ、この後どうすればいいのか分からず、困惑で頭がくらくらしてるだけだったりする。

 

 本日俺は、以前図らずも約束してしまったことを果たすべく、こうして相模家へと馳せ参じた。

 だからどんなに落ち着かなかろうが照れ臭かろうが、目的を果たすという目標が目の前にあったからこそなんとか耐えられた。

 

 だが今の状況はどうだ。

 本日の目的──相模の手作りドリアを美味しく頂く──を達成した今、俺にはこの場所に留まる理由がない。

 にも関わらず、なぜ俺は未だに帰れないの? 俺の目的は相模の手作りドリアを美味しく頂くのであって、決して相模を美味しく頂くではないのよ?

 なのになんで相模家のリビングでソファーに座ってテレ東アニメ観てるんだってばよ。相模をソファーの隣にはべらせて……

 

「へー、ウチ普段アニメとか全っ然観ないんだけど、けっこー面白いんだー」

 

「……」

 

 やめてぇ! あんまり興奮して動かないでぇ!

 キミがちょっと動くたびに、キミの髪から制服から体から、ほわんと甘くイイ匂いが漂ってくるんだよぅ……

 てか近い。確かに隣の方が落ち着くとかおかしなこと口走っちゃいましたけども、このちっちゃめのラブソファーで隣に座るのはさすがに近いですってば。

 

 

 食後のティータイムを、俺の好きそうなアニメでも観て過ごそうよと、こいつは食事が終わった途端に俺をリビングへと誘い込んだ。べ、別にアニメなんて好きじゃないんだからね! 普通の高校生よりはちょっと多めに観てるくらいなんだから!

 食い終わったら片付けだけしてすぐ帰ろうと思ってたところに間髪入れずのソレだったから、呆気に取られた俺は拒む事も抵抗する事も帰る事も出来ず、あっさりとリビングへと連行された。

 

 相模はテレビを点けて俺を強引に座らせると、コレ観て待っているようにと強く言い聞かせ、キッチンから紅茶を持ってきて今に至る。

 

 温かい紅茶が注がれたカップを両手で持ち、テレビ画面に集中している相模を横目に見て思う。

 

 

 ──こいつ、最近の相模にしては珍しく強引じゃね?──

 

 

 と。

 

 正直な話、俺はこんな状況に陥るかもしれないという覚悟がどこかにあった。

 

 食事が終わる→じゃあ帰るわ→え……? もう帰んの……? 

 

 という、いつもの抗い難い卑怯なルーティーンに阻まれ、なかなか帰してもらえないかも……という覚悟は確かにあったのだが、こんな形で足止めされるのはちょっと予想外だ。

 

 どうしたのだろうか……ともう一度横目を向けると、相模は相も変わらずテレビに釘付け。そんなにアニメが面白いの?

 

「……」

 

 いや違った……ここに来てまさかの面倒くさいやつだった……アニメに集中してんのかと思ったら、実は全然集中してなかった。

 これはアレだよぅ……なんか俺に用事があるんだけど、言いづらくてこちらの様子をもじもじ窺いながらそわそわしてる例のアレだよぅ……

 こいつ、テレビを観るフリして実は超そわそわしてやがった。

 

 こうなってしまうと、俺には手の打ちようがない。

 無視して帰っちゃうか、黙って相模が口を開くのを待つかの二択しかないのだが、前者を選ぶと心が傷んでしまうのでもちろん出来ません。なんならどんな顔をするのか想像しただけの今でさえ心が張り裂けちゃいそうまである。飼い馴らされすぎだろ。

 

 ──ああ、めんどくせぇなぁ……

 

 そう思いながら、小説の文字列だけを追うかの如く、心ここに在らずでただ画面を見つめる事およそ一時間。長いな!

 ついについに、ようやく相模が動きを見せたのだ。

 

「……ん! んん! あ、あー、……けふんけふんっ」

 

 なんだそれ可愛いな。

 わざと咳払いをして自身に注目を集めようとするこの行為。

 なんだかとても見慣れた光景ではあるのだが、どこぞの熊男のげふんけぷこんおこぽーんとはエラい違いだ。

 

「……どうした。のど飴でも欲しいのか?」

 

 そんなわきゃ無いんだけど、ここは一応咳払いに触れといてあげる優しい八幡です。

 

「飴!? ほ、欲しい! ……って、ち、違うから! い、今はそういうんじゃなくってぇ……」

 

 ……び、びっくりした。なにこの子、ほんの冗談で言っただけなのに、なぜにそこまで過剰に飴に反応したのん? どんだけ飴に飢えてるのかしらん? まぁ確かにこいつ飴が好きだったけど。

 

「そ、そのー……」

 

 訝しい視線を不躾に送っていると、相模はまたももじもじしはじめる。

 ……おい、ようやく動き出したんだから、またスタート地点に戻らないでくれよ? こっからまた一時間テレビの前で待機はさすがにキツいっす。

 

 そんな願いを知ってか知らずか、相模は決してこちらを向かないように真正面を見据えながらも、唇を尖らせこっちをチラリあっちをチラリと目を泳がせつつ、なにやらソファーの肘掛けと自分の身体の間の隙間をガサゴソと弄り始めた。

 ふむ。どうやらスタート地点に戻ることは無さそうで一安心なんだけど、こいつなにしてんの? 自分とソファーの間になんか詰まってんの?

 

 すると相模はくるりとこちらを向いてきゅっと目を瞑ると、すーはーすーはー呼吸を整える。別に目を瞑ったからといって、これはまさかキス待ち!? とか期待なんか一切していない。してないったらしてない。

 

 そして……

 

「……は、はいコレ! あ、あんたにあげる……っ」

 

 なんと自分とソファーの間から、ピンクのリボンでとても可愛くラッピングされたひとつの包みを取り出したのだ。

 そしてこいつはその包みを俺の胸元にとんと押し付けてきた。

 

「……は? え? な、なにこれ」

 

 てかいつの間にそんなところにこんなの仕込んであったの? 紅茶と一緒に持ってきて、ソファーに座る時にこっそり背中に隠してたのだろうか?

 

「そっ……そのっ……あ、明日……学校休み……だから……っ」

 

 これはなにかと訊ねたのに、返ってきた答えがこれである。Qに対してのAが成立してなくね?

 

 

「…………あ」

 

 

 え、えっと………マジで? いやいやいやいや……そんなわけねぇだろ。だって相模だぞ? あの相模が俺と一緒に聖ヴァレンティヌスの処刑された日を祝うとか、そんなの有り得ないだろうが……

 

 

 ──有り得ない……か。

 

 確かに有り得ないよな、ちょっと前までの俺とこいつの関係だったら。学校一の嫌われ者な俺と、そんな俺を蔑み忌み嫌う相模。

 でも今はどうだろうか。本当に有り得ないと断言出来るのか? ……答えは否だ。有り得ないなんて事は有り得ない。

 少なくとも今の俺と相模の間には、なんて言ったらいいのかは分からんけども、なんつーか……よく分からん変な絆くらいはあるように感じている。

 

 毎日の生活のなか、決して必要以上の会話なんかはしなくとも、嫌々ながらも毎日隣で教科書見せて毎日のように飴を貰う。たまに隣で弁当食って、そしてこうして家に呼ばれて手料理だって振る舞われるのだ。

 これでなんの関係性も無い、なんの絆も無いだなんて言ったら、こいつに……いや、こいつにも俺自身にも、とても失礼な事のように思う。

 そしてこいつからのこの思いがけない贈り物を『貰う義理が無い』『貰えるはずが無い』だなんて勝手に否定するのも、また失礼だ。

 

「その……なんだ」

 

 だから俺は、「なんで俺に?」などと余計な言葉を口にするのはやめておこう。

 こんな捻くれ者の俺にだって、人様に迷惑をかけないという矜持がある。ならば渡す事を一時間も躊躇い、それでもこんなにも弱々しく情けない顔を向けて、震える手で頑張って渡してくれた相模の気持ちくらいは、素直に受け取ろう。

 

「さ、サンキューな……」

 

「っ……! うん!」

 

 

 素直に受け取った俺に一瞬驚いた表情を浮かべながらも、次の瞬間にはぱぁっと花を咲かせた相模南の素の笑顔に、俺は柄にもなく胸がぽかぽかと温かくなるのを感じるのだった。

 

 

× × ×

 

 

 リビングは今や嬉し恥ずかし桃色空間へと変貌していた。

 相模からバレンタインの贈り物を手渡されてからというもの、お互い相手に視線を向ける事もなく、ただただ時間ばかりが過ぎていく。

 この空間に響くのは、先程まではまったく聞こえていなかったはずのカチコチカチコチ喧しい時計の音と、もはや誰の注目も浴びていない、テレビの騒がしい音だけ。

 

 ふぇぇ……この空気どうしたらいいのん? 俺からなにか話し掛けなきゃならないのん? マジかよ難易度高すぎんだろ。でもこのままじゃ埒が開かないのもまた事実。

 ではこちらから一体どんな話題を提供するべきか考えた時、ふとひとつの考えが舞い降りてきた。

 

 ──そういやコレって、なにチョコと考えればいいんだ?

 

 と。

 

 噂によるとバレンタインチョコには様々な種類があると聞く。本命チョコは語らずもがな、友チョコ義理チョコ自分チョコ。

 ではいま俺の手に大事そうに抱えられているこの包みは、一体どれに区分されているのだろうか。

 

 本命チョコ……うん、無いな。自分チョコ……いやいや俺さがみんじゃねーし。

 ではやはり友チョコか義理チョコが相応しい区分なのだろうが、……うん、そういや俺と相模って友達なのだろうか? 友達って、お互いにこう……「俺とお前友達なー!」みたいな宣言とかって必要なのかな? 悲しい事に友達が出来た事がないから、ぼっちの人にはそれが分からんのですよ!

 

 するとこれはやはり義理チョコってのが妥当な線だろう。てか考えるまでもなく義理だろ。だって相模はあの日、サイゼで俺にこう言ったのだから。

 

 ウチの大切なおとなりさん……と。

 

「……」

 

 いやいや今更だけど大切なおとなりさんってなんだよ。どんなカテゴリーに入んだよそれ。

 

 ……でもアレだ。確かに意味は分からんが、これは相模に話題を提供するという目的においては、なかなかのナイスチョイスでは無かろうか?

 これならばこの照れ臭い空気を一気に打破し、いつも通り軽く憎まれ口を叩きつつも苦笑し合えること請け合いである。

 

「そ、そういや……だな」

 

「ふぇ……!?」

 

 なんだよふぇって。可愛いなおい。

 

「こ、コレってアレか? 義理チョコならぬ、隣人チョコとでもいうヤツか?」

 

 ……隣人チョコ。この日、また新しいバレンタインの形が生まれてしまった。これは流行る! 流行んねーよ。

 

 しかしどうよ相模。この話題の振り方はなかなかのものだろう。

 いくら義理チョコとはいえ、あの相模が俺にチョコを渡したという照れ臭さからこんなにもむず痒い空気が漂ってしまっていたが、これならばこの義理チョコ騒動も笑い話で済ませられるだろうよ。

 ほれ、早くしろ。「ぷっ、なによ隣人チョコって。あんたマジでバッカじゃないのw」って俺を蔑む返しからおしゃべりを開始してくれりゃいいんだよ相模! そしたらこの嬉し恥ずかし桃色空間は一発で打破されるんだ!

 さぁ、ばっちこーい!

 

 

 

 

 ──だがしかし、残念ながらそこには俺の望む答えは返って来なかった……

 

「……えと、そのぉ」

 

 俺からの問いに、一瞬だけほんの少しの哀しみを滲ませた困惑の表情を浮かべた相模。

 しかし、その目にはすぐさま力が宿る。「……んっ!」小さくガッツポーズを取って自身を鼓舞し、じっと俺を見つめてくる。近い近い。だからこのソファーじゃ見つめ合うには近すぎィ!

 

「そ、それっ、ぎ、義理チョコでも隣人チョコでもないから!」

 

 ……な、なんと相模は…………隣人チョコには一切のツッコミが無かった……!

 いや驚くのはそこじゃなくて。

 

「こっ、これはそのっ……! ほ、ほん」

 

 お、おい、ちょっと待て……! なんだよこの、さっきまでのむず痒い桃色空間なんて目じゃないくらいの変な空気……!

 え、嘘だろ? さ、相模が俺に……ほ、本め……

 

「本……っ……くぅっ! ほ、ホントは友チョコだから!」

 

 デスヨネー。

 

 

 

 やだ! 僕もう穴掘ってくりゅぅ! これだから嫌なんですよ! なんで期待しちゃってんだよ、バカ! ボケナス! 八幡!

 

 

 

 とまぁ冗談はここまでだ!(白目)

 

 もちろん当然の如く本命だなんてちっともこれっぽっちも万が一にも思ってなかった俺は冷静に頭の回転をスタートさせる。

 

 ……友達、か。

 

 本当は少しだけ期待していた。俺と相模って、最近友達みたいじゃね? って。だからもしかしたら相模は俺の事を友達と思ってくれているのではなかろうか……って。

 でもこいつ言ってたから。比企谷はおとなりさんだからって。だから俺も淡い期待はしないようにしていた。相模が俺を友達と思ってくれてるわけないだろう、と。

 

 そんな相模がこうして直接友チョコをくれたのだ。正直、嬉しくないはずはない。嬉しくないはずは無いのに、俺はまた余計な事を考えてしまう。

 本当に俺を友達と思ってくれているのか? こんなに簡単に信用してしまってもいいのか?

 

「……あ、っと、その……ごめん! 勝手に友達扱いしちゃって! ウチと友達なんて、嫌……だよね」

 

 そんな、あれこれと色んな事を考えていたら、相模はまたもや不安そうに顔を強ばらせ、シュンと俯いてしまった。

 どうやら俺は、難しい顔をしてしまっていたらしい。こんな時でさえ無駄に相手の言葉の裏を探ってしまう、俺の自己保身から来るしょーもない悪い癖だ。

 

「……すまん、別に嫌とか、そういうんじゃなくてだな……なにせあの相模が俺に友チョコってのが意外すぎて、ん、まぁ驚いてる、な。だってお前、あくまでもお隣さんって言ってたし」

 

 相模は、別に嫌なわけではないという俺の言葉に少しだけ安心したのか、強ばらせていた顔を上げ、

 

「それは、ね……? そのー……」

 

 あはは〜と頬をかりこりしながら、相模はなんとも言いづらそうに苦笑する。

 

「ほら、あとひと月ちょっとしたら、ウチらって三年になんじゃん?」

 

「おう、そうだな」

 

「そしたらさ、ウチと比企谷、違うクラスになっちゃうかも知んないし──」

 

「……おう」

 

「仮に同じクラスになれたとしたって……もうお隣さんになる確率なんて、天文学的なレベルで無いじゃない……?」

 

 ……さすがにそれが天文学的な数字かどうかまでは分からんけど、でも確かにたまたままた同じクラスになって、そしてたまたままた隣の席になる確率なんて、ほぼ無いに等しいだろう。

 なんか今の生活──こいつが隣の席に居るという事が当たり前になりすぎてて、そんなこと考えてもいなかったな。

 

「……そこでウチは思ったわけ。あ、このままじゃあとひと月ちょっとで、ウチと比企谷って完全な無関係になっちゃうじゃん……って。……それはちょっと、嫌……だなって」

 

「そ、そうか」

 

 なんだこれ。また妙にムズムズしてきちゃったんだけど。

 無関係になるのが嫌とか、どうしようなんか超恥ずかしい!

 

「だからっ……ちょっと、関係を一歩だけでも進ませたいなって……お、思いましゅた」

 

「……そうですか」

 

 あまりの照れ臭さに、向かい合いながらもお互い顔を合わせられない。これだったらさっき勢いでチョコ貰った時の方がよっぽどマシだったわ。

 すると……相模は俺の手に抱えられていた包みをガサリと強引に奪いとった。

 えぇ……? まさかの没収? 人生初の肉親以外からのチョコがぁ!

 

 

「あのっ、比企谷!」

 

「ひゃい」

 

 相模は両手で持った包みを、再度俺に向けてびしぃっと突き出す。

 

「もっかいやり直し! 順番逆になっちゃったけど……と、とりあえずウチとまずは友達になって下さい! う、受け取って貰えますか……っ?」

 

 “とりあえず”とか“まずは”とか気になる要素はたっぷりなのだが、相模はそう叫んで深く頭を下げた。その顔は、またも茹でダコのように赤く紅く染まっている。

 そんなに何度も何度も真っ赤になれるなんて、キミはタコのフレンズなんだね! すごーい! あ、これ友達申告されてるから、同じように赤くなっているであろう俺もタコのフレンズになっちゃうんだね! たのしーい!

 

 

「……ま、まぁ、その……なんだ」

 

 そんな新しく仲間入りしたタコのフレンズたる俺は、相も変わらず頭をがしがしそっぽを向いて、バレンタインの贈り物をぶっきらぼうに取り返すのだった。

 アレだ……俺は一度貰った物は、なにがあろうと手放さない主義なんだよ……

 

「よ、よろしくおにがしまっしゅ……」

 

 

 

 比企谷八幡十七歳。

 友達居ない歴が年齢と一緒だった俺が、十七回目のバレンタイン前日に初めての友達が出来ました。

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆オマケ☆

 

 

 

「あのっ、ホワイトデーのお返しの件なんだけど……」

 

「……え、もうお返しの話……?」

 

 やだこの子ったらちょっと現金すぎやしませんかね。もしかしてお返しの為に友達になったのかな? 何倍返しをご注文でしょうか。

 

「……飴が……いい、なー。て、てか、飴以外ならお返しなんて要らないまである!」

 

 飴……?

 び、びっくりした。どんな金銭的要求が来るのかと思ってたら飴なんかでいいのん?

 

「は? なんで飴なんだよ……ま、まさか飴じゃなくてアメジストじゃねーだろな……何十倍返しすりゃ許してくれんだよ」

 

「別に宝石なんか要求してないから! あ、飴でいい。飴がいい。……言っとくけど、定番だからってクッキーとかマシュマロは論外だから! ……普通のでもなんでもいいから……!」

 

 なんでクッキーとマシュマロは駄目なんだよ美味いだろ。

 でもそういやこいつ、さっきもやけに飴に食い付いてたっけ。どんだけ飴ラブなんだお前。

 

「だからなんで飴なんだよ」

 

「べ、別にいいでしょ! てかホラ、飴はウチのエネルギー源だって言ったじゃん! 授業中とか勉強中とか、脳の活性化……? とかの為に、よく舐めてんだっての……」

 

「……ほーん」

 

 教科書はあんだけ忘れるくせに、脳の活性化の為に糖分補給は忘れないとか、目的の方向性が間違ってませんかね。

 

「だから飴ね、飴。飴ちょうだい」

 

 はぁ〜……ま、何倍返しを要求されんのかと思ってたから、ただの飴玉で済むならこちらとしても万々歳だし、そんなんで喜んでくれるんならそれでいいか。このままだと飴がゲシュタルトしちゃいそうだし。

 

「……わぁったよ。じゃあ飴やっから」

 

「マジで!? やっっ………………たぁぁ!」

 

「……」

 

 

 おいおい、こいつ本日一番の大喜びなんだけどなにこれ? 飴くらい自分でいくらでも買えんだろうに。

 

「約束だからね! 楽しみにしてるからね!」

 

「……お、おう」

 

 

 飴ごときでのあまりの剣幕に軽くドン引きしつつも、初めて出来た友達の心底嬉しそうな真っ赤な笑顔に、俺もついつい赤くなって微笑んでしまうのでした。

 

 

☆おしまい☆

 





持ち前のヘタレさを活かして土壇場で本命と言えなくとも、お返しにはちゃっかり飴を要求する辺りがさすが我らがさがみん(*^_ ’)
ちなみにホワイトデーのお返しの意味を知らない方はLet'sググれ☆


それにしても単に『雨(アメ)の日のお弁当』というネタをやりたいが為に、安直に適当に八幡に『飴(アメ)』をあげるという設定を作ったのに、まさかそれがバレンタインネタに繋がるとは……!
……計算通り!(大嘘)



というわけで、お隣さんから友達に昇格した今回を持ちまして、この『となりの相模さん』もついに完結を迎えました!
とはいえまた気が向いた時にでも突発的な更新がなきにしもあらずですので、またサガラーの皆様とこうしてお会い出来たら幸いですノシノシ


さがみんよ、永遠なれっ




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