ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
二年生初めての週末。私はダフネと共に図書館に来ていた。
本当は今日、お兄様のシーカーとしての初練習を見に行きたかったのだけど、お兄様が選抜試験の時と同様許しては下さらなかったのだ。試合では私の周囲に教師陣が沢山いるが、今回のようなただの練習では、私に何かあった時に誰も対応できない可能性があるというのがお兄様の言だった。
そこまで言われてしまえば、私としても我を通すわけにはいかない。お兄様に不安をかけたくはない上、ましてやそんな不安をかけてしまえばお兄様の練習の妨げになってしまう。それでは本末転倒なので、これ以上私が我儘を言うわけにはいかなかったのだ。
「ダリア、私は『闇の魔術に対する防衛術』に関する本を探してくるよ。……あの授業じゃ
「私は『魔法薬学』の本を探してきます。スネイプ先生の授業で少し勉強不足な部分がありましたので」
去年から分かっていたことだが、スネイプ先生の授業は非常に密度の高い授業だ。授業で作る魔法薬自体は、学年相応のものを行っている。でも、先生の講義、作業の合間合間に挟まれる助言、指導、そして叱咤にはとてつもなく高度な知識が散りばめられている。一見そうは見えないが、スネイプ先生は皆に平等に高度な知識を振りまこうとしていた。
あの毎回とんでもない失敗をするグリフィンドールのロングボトムにさえ、口は非常に悪いが、実に的を射た指導をし、そして教科書に書かれている以上の知識を口にされている。尤も口が悪すぎるため、ロングボトムは勿論、他の誰もそんなことに気づきはしないだろう。
でも、私には先生の言葉一つ一つが非常に有益かつ未知の知識に溢れているように思えた。今やホグワーツの授業の中で、私が最も楽しいと思えるのは『魔法薬学』だった。
おかしな話だ。私がホグワーツに来て最も学びたかったものは『闇の魔術に対する防衛術』だったのはずなのに。
あれ程楽しみにしていたというのに、実際に入学してみれば『闇の魔術に対する防衛術』の教師は、二年連続でまともどころかお荷物にしかならないようなボンクラ教師だった。この学校から学ぶことを私は半ばあきらめつつある。来年こそまともであると信じたいが、東洋では『二度あることは三度ある』というらしい。来年駄目だったらすっぱり諦めるしかない。
思考が脱線し、なんだか暗い気持ちになっている私にダフネが声をかける。
「そっか。じゃあ、ここで待ち合わせにして探しに行こっか?」
「そうですね。ではダフネ、また後で」
そう言って私達はお互いの本を探しに一旦別れた。
目当ての本は中々見つからなかった。
スネイプ先生の話は時々高度すぎるため、単純に先生のおっしゃっていた内容を探すにも、図書館では中々見つからないことが多いのだ。
「ここにもないとすると、もしかして禁書棚の方ですかね」
でも、それは図書館で普通の本だけを探せばということだ。
本自体が何かしらの危険をはらんでいる場合もあるにはあるが、多くの場合、本に書かれている内容が学生にとって危険なものと判断された本は、厳重にカギをかけられた図書館の一角に保管されている。それが禁書棚だ。
学生にとって危険と判断される基準は様々だが、その中でも『魔法薬学』は結構な頻度でこの禁書棚に分別されるケースがある。
おそらくそれは魔法薬学という学問が、どんなに一般的なもので、どんなに簡単に作る薬品であれども、一歩間違えればとんでもない劇薬に変わってしまうという性質を持っているからだろう。だからスネイプ先生はあれだけ口を酸っぱく注意するし、そして少しでも扱いが危険で、尚且つ学生が作るような魔法薬ではないと判断されると、このようにすぐに禁書棚に分類されていくのだ。
「禁書棚ですか……。仕方ありませんね、今度スネイプ先生にお願いしましょうかね」
禁書棚の本を読むには先生の誰かのサインが必要になる。生徒は何れかの先生に何を読みたいか、それを何故読みたいかなどを説明して、それを先生が納得したらサインをもらうことができる。しかし、
「まあ、駄目ならばまた忍び込めばいいわけですし」
サインは残念なことに一年生の間ではもらえないことになっていた。そのため、私は時々『目くらましの術』を使うことで禁書に忍び込み、サインなしで禁書を度々読んでいた。二年生になった今では合法的にサインをもらうことが出来るので、露見する可能性がある今までのやり方は控えるつもりだ。でも、どうしても必要なら今まで通りやるつもりでもあった。
今回はそれ程急いでいたわけではない。後日ゆっくりスネイプ先生にサインをもらえば良いと思い、手持無沙汰ではあるが、そろそろ時間も経ってきたのでダフネとの待ち合わせ場所に戻ろうとした。
しかし、その帰り道の途中……私の視界の端に、あの忌々しい赤毛が映りこんでしまった。
そちらに目を向けると、今年入学したウィーズリー家の末娘、ジネブラ・ウィーズリーが何冊かの本を抱えて歩いている。
体調でも悪いのか。少しやつれたような表情をしている彼女は、若干覚束ない足取りで本棚の間を歩いている。
彼女を見ていると、私の思考は暗いものに変わっていた。私の家族との時間を奪われた怒りが湧き上がってくる。
無意識のうちに、私はポケットから自分の杖を取り出す。
ああ、ウィーズリーが憎い。私の家族との時間を奪ったあいつが憎い。そんな奴らが愛してやまない末娘を……
ダフネ視点
「ダリア、遅いな~」
目的の本を見つけ出し、待ち合わせの場所に戻ってきても、ダリアの姿はまだなかった。まだ本が見つからないのだろうと思っていたが、いつまで経ってもダリアは中々戻ってこない。
私はダリアを待っているうちに、なんだか不安な気持ちになってきていた。
最近のダリアは少し様子がおかしい。二年が始まってから、彼女にはどことなく余裕がなさそうなのだ。
去年に比べてダリアの表情の浮き沈みが非常に激しい。私がダリアの表情を読むのが上手くなっただけかとも思ったが、ドラコに確認してみてもどうやらここ最近ダリアに余裕がなさそうだと言っていた。
そして、ウィーズリーの末っ子に対するあの視線。
ダリアは気が付いていない様子だったけど、彼女を見つめるダリアの瞳は、いつもの綺麗な薄い金色ではなく、血のような赤に変化しているのだ。
私にはその紅い瞳から、彼女が時折見せるあの残酷な笑顔と同じものを感じられた。
まるで『何か』を殺すことに抵抗も罪悪感も感じていないような、そんな残酷な瞳……。
あの瞳を思い出し、私はなんだかいてもたってもいられなくなった。
何だか彼女がこのままいなくなってしまうのではないか、そんな不安な気持ちになってしまったのだ。
多分本を探すのに手間取っているだけだろうとは思うが、一応探しに行こう。
そう思い、ダリアがいるであろう『魔法薬学』の本のコーナーに来てみれば、案の定ダリアはそこにいた。少し遠いが、あの綺麗な白銀の髪を見間違えるはずがない。
遠目に見える彼女の姿を見て安心する。ああ、ダリアがいなくなるなんてあるわけないのに、私は馬鹿馬鹿しいことを不安がってしまった。そう思いながらダリアに近づく。
「ダリ、」
でも、彼女はに近づくと、私は激しい違和感に襲われた。
彼女はいつもの雰囲気ではなかった。まるでピクシーを殺している時のような……。
何故こんな所で!? ピクシーなんてこんな所にいないはずなのに!?
そう思いできるだけ急いでダリアのもとに走る。マダム・ピンスに気が付かれる可能性があるが、そんなこと言っていられない。
そして、彼女のもとに急いでいると、ダリアは何故かあの真っ赤な瞳をして杖を構え始めるのが見えた。
杖の先に視線を向けると、ピクシーなどではなく、ウィーズリーの見事な赤毛が見えた。
彼女は、まぎれもなく『人間』にその杖を向けていたのだ。
「ダリア、駄目だよ!」
私は今にも呪文を唱えそうな彼女の杖腕に飛びついた。
ダリアにそんなこと絶対にさせられない。
「あ、ああ、ダフネ。どうかしましたか?」
でも、私の焦りとは裏腹に、ダリアは今自分が何をしようとしていたか全く気付いていないかのように私に聞いてきた。彼女は純粋に、私が突然飛びついたことに驚いた様子だった。
ピクシーの時もそうだったが、どうやら自分自身が今どんな顔をしているか、そして自分が何をしているか分かっていない様子だった。
私はダリアが優しい人間だと知っている。なのに、彼女は一体どうしてしまったというのだろうか。
「どうかしたのじゃないよ。あまりにも遅いから探しに来たんだよ?」
私は内心の焦りと不安を、なるべくダリアに見せないようにしながら話しかける。
そして、私は慎重にダリアに尋ねた。
「それより……ダリア、あなた今何をしようとしたの?」
「何って、それは、」
彼女は私の言葉で、初めて自分の今の体勢に気付いたようだった。
ダリアの顔を見ると、その瞳はいつもの金色に戻っており、その瞳には先ほどまでの冷たさはなく、ただ自分への困惑と恐怖だけが映っていた。
ダリアはまぎれもなく自分自身に恐怖していた。まるで知りたくもなかった自分の一面を知ってしまったかのように。
正直なところ、私は去年のハロウィーンの時、ピクシーを殺していた時、そして今さっきの表情をしているダリアのことが怖かった。殺すという行為に、罪悪感を全く覚えていないかのようなその表情が、まるで同じ人間ではないように感じられて怖かったのだ。
でも、今のダリアの姿を見ていると、私がそんなダリアを怖がってはいけないと思った。
だって、私なんかより、ダリア自身が一番自分に怖がっていたから。
私がダリアを怖がってしまえば、一体誰が彼女を助けてあげられるというのか。
誰が彼女と一緒にいてあげられるというのか。
そんな時に彼女についてあげなくては、私は絶対にダリアの友達になることなどできない。
かつて私が救われたように、今度は私が手を伸ばす番だ。
ダリア視点
ダフネに言われて初めて自分が何をしようとしていたかに気が付く。
構えられた私の杖。そしてそれが向けられているのは……。
「あ、あぁ……。わ、私は何を……」
私は今、一体何を考えていたのだろうか?
いや、何を考えていたかなど、今の体勢を見れば簡単に想像がつく。
それはまぎれもなく、去年から味わう感覚だった。あの禁じられた森で感じた時の感覚。始めはただの怒りだったのに、それが段々と興奮に変わり、そして気が付いた時には『殺人』ということに対する罪悪感や抵抗が一切なくなっていた。
まるで殺人という行為が、私にとって
私を激しい恐怖感が襲う。
私はクリスマスに見た鏡を思い出してしまった。鏡を見てから、私を何度も夢の中で苦しめ続ける、あの光景を。
あの残酷な笑みを浮かべる私自身を。私の心の奥にある、本当の望みを。
私はダフネが近くにいるというのに、自分がやろうとしていたことに対する恐怖で、そんな彼女に自分を隠す余裕などなくなっていた。まるで自分が自分ではなくなっていくかのような感覚。でも、私が一番恐怖したのは、思い返してみれば、私は確かに彼女を殺すことを想像して……
振るえる体でダフネに縋りつく。
「も、もしかして、わ、私は彼女をこ、」
「ダリア! 落ち着いて!」
ダフネが声を上げて、私の言葉を遮った。彼女の声には、私に対する恐れや否定はなく、ただただ私に対する信頼と親愛があった。
「落ち着いて、ダリア。あなたはそんなこと絶対にしないよ」
ダフネはそう私に断言する。
「で、でも私は今、
「おほん!」
私の動揺の声を遮ったのは、ダフネではなく、マダム・ピンスだった。
この図書館の主である彼女は、そのハゲタカのような目でこちらをじっとにらんでいた。どうやら私たちの立てる音が気に障ってこちらに来たらしい。
「あなた達! これ以上騒ぐようならここからたたき出しますよ! ミス・マルフォイ! あなたはもっとおとなしい子だと、本を大切にする子だと思っていたのですけども、どうやら違ったみたいですね!」
「す、すみません」
ダフネが慌てたように返事をした。
私はまだ返事をするほどの余裕はなかった。
「次はたたき出しますからね!」
そう言って、マダム・ピンスは肩を怒らせながら歩き去っていった。
残されたのは、なんとも言えない空気になった私とダフネだけだった。
「ちょ、ちょっと騒ぎすぎたみたいだね。とにかく落ち着いて、ダリア。ほら、深呼吸しよ?」
そうマダム・ピンスの去った方を恐る恐る見ながら、ダフネが言った。
私はダフネに言われるまま深呼吸をする。すると先程までの恐怖は薄らぎ、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
「お、お見苦しい所を……」
「大丈夫だよ。それより落ち着いた?」
「え、ええ。い、今のはどうか忘れてください」
取り乱してしまったが、ダフネにこれ以上頼るわけにはいかない。だって私は、
私という
「……うん、わかった」
ダフネは非常に不服そうな表情をしていたが、一応頷いてくれた。
私はホっと息を吐いた。
「それにしても……」
そう言ってダフネの視線を追うと、相変わらずフラフラと歩くジネブラ・ウィーズリーの姿があった。やはり相当体調が悪いのか、こちらがこんなに騒いだにも関わらず気付いていないらしい。未だに覚束ない足取りで本棚の間を歩いている。
「あの子、相当体調が悪いみたいだね。どうしたんだろ」
「……さあ?」
先程まで感じていた殺意はないが、なんで私がウィーズリーの娘なんか心配しなくてはいけないのかと思う。
そう思いながら視線を向けると、ジネブラ・ウィーズリーが、丁度床に倒れているところだった。
ジニー視点
私は最近体調が悪くて仕方がない。
最初は慣れない環境に疲れているのかなと思っていたが、体調は良くなることはない。寧ろ日に日に悪くなっていく。まるで自分の体力を
そして、まだホグワーツに入って一週間だというのに、遂に私は倒れてしまったらしい。
図書館で本を探していたと思っていたら、気が付いた時には医務室のベッドで横になっていた。
「こ、ここは?」
「ああ、気が付きましたか。ミス・ウィーズリー、あなた図書室で倒れていたのですよ?」
すぐ近くで作業をしていたマダム・ポンフリーが私に返す。
「まったく、倒れるまで医務室に来なかったのですか? ミス・マルフォイとミス・グリーングラスがいたから何とかなったものを! 彼女たちがあなたをここまで運んでくれたのですよ?」
「マ、マルフォイ!?」
それは両親から、ひいては兄さん達からよく聞く名前だった。勿論すべてが悪評だったけど。
マルフォイ家についてパパはよく、
『闇の陣営についていた悪い魔法使いの一族』
として話していた。今の家長であるルシウス・マルフォイもそうだけど、その妻であるナルシッサ・マルフォイ、そしてその息子、娘も悪い魔法使いだと言っていた。
兄さん達は、その中でも特に子供のことを話していた。
息子のドラコ・マルフォイがいかに嫌な奴であるか、そしてその妹のダリア・マルフォイがいかに冷たく、そして恐ろしい奴であるかを。
実際、入学前に書店でマルフォイ家の人間を見たとき、パパや兄達が教えてくれた通りだと思った。
ルシウス・マルフォイは、なんだか偉そうな態度でパパたちを馬鹿にするし、ドラコ・マルフォイは、ハリーに対してひたすら嫌味を言っていた。
そしてダリア・マルフォイは……ただただ怖かった。
綺麗な白銀の髪、そして真っ白な肌の顔はうらやましい程の美人ではあったけど、その表情はどこまでも無表情で冷たかった。その薄い金色の瞳に見つめられた時、私はただ怖かった。まるで同じ人間ではなく、どこか物をみるようなその視線が、ただ怖かった。
実際そう感じる人は私だけではなかった。
グリフィンドールに組み分けされ、一年生の間で噂になったのはまずダリア・マルフォイについてだった。
何だかスリザリンの上級生にとても綺麗だけど怖い人がいる、そんな話だった。
他の一年生が上級生に聞いてみたところ、
それはスリザリン生の中で最も警戒すべき奴だから気をつけろ
とのことだった。
そう話す上級生もどこか怯えたような様子だった。
そんな人が私をここまで運んだ。正直全く信じられないようなことだった。
「ほ、本当にマルフォイがここまで?」
「そうですよ? ほら、あなたも目が覚めたなら、お礼くらいいいなさい」
そう言ってマダム・ポンフリーが指した先には、スリザリンの制服を身に着けた生徒が二人いた。ちょうど医務室のドアの方向に歩き始めていた様子だった彼女たちは、マダム・ポンフリーの声でこちらを振り返っていた。
一人は初めて見るスリザリン生だったけど、もう一人は確かに書店で初めて見た、ダリア・マルフォイその人だった。
「ほ、本当にあなた達が運んでくれたの!?」
私は思わずそう尋ねた。すると相変わらず無表情の彼女は、
「……まあ、成り行きですけども。目の前で倒れたので。仕方なく。それに、どちらかというとダフネがあなたを運んでいましたよ。魔法で」
そうちょっとぶっきらぼうに返してきた。横にいるスリザリン生はその返事を苦笑いしながら聞いている。
「……一応、お礼だけは言っておくわ。……ありがとう」
「……別に構いませんよ。ああ、それと、私はあなたが抱えていた本を運んだだけです。そこに置いてあります」
そう言ってマルフォイはベッドの横にある本の山を指さし、医務室から出て行った。見てみると、確かにそれは私の抱えていた本だった。
その中に、私の大事にしている『日記帳』もあった。山の一番上に置いてある。
よかった。
あれはパパたちが私のホグワーツ入学祝いに、こっそり書店で買ってくれたものだ。書店から帰ってきた時、古本の山の中にこれは入っていた。おそらく、パパ
「まったく、こんなになるまで放っておいて! 今薬を持ってきますから、絶対に飲むんですよ!」
そう言って彼女が持ってきた薬は『元気爆発薬』というもので、効果は確かにあったが、副作用で耳から煙がでるのが難点だった。
煙を出しながら談話室に戻ると、皆私の家族譲りの赤毛もあるのか、
「まるで山火事みたいだ」
と言って笑い転げていた。その中にハリーもいて、笑い転がりこそしていなかったが、少し笑いを我慢しているような微妙な顔をしていた。
私はそんな恥ずかしい気持ちを、今日も日記に『相談』することにした。
『ねえ、リドル。私、ハリーに嫌われてしまったかな?』
日記にそう書き込むとすぐに返事が返ってきた。
『どうしてそう思うんだい?』
『私、さっきハリーに恥ずかしい姿を見られてしまったの。元気爆発薬で耳から煙が出てる姿。皆私の赤毛を見て、山火事みたいだって笑ってたわ。ハリーもきっとそう思ってるのよ』
私はいつものように、『リドル』が私を慰めてくれると思った。
私はこの日記を見つけてから、ことあるごとに彼に相談していた。兄さん達のこと、勉強のこと、家のこと、そして大好きなハリーのこと。
だからいつものように、そんなことはない、ハリーは偉大な人間だから、そんなことないさ……と慰めてくれると思った。
でも、今回の返事は違った。
『元気爆発薬? ジニー、君は体調でも悪いのかい?』
それは予想とは違ったけど、確かに私を心配する内容だった。
『ええ。ここのところ何だか疲れやすいの』
『そうか、それは
『うん。何か大きな病気じゃなければいいんだけど。さっきも図書室で倒れてしまったし。そういえば、私を医務室まで運んでくれたの、誰だと思う?』
『わからないな。一体誰なんだい?』
『ダリア・マルフォイよ。前も書いたことあるよね? 以前書店で会った怖い人よ』
そう返すと、私と日記帳の間に奇妙な沈黙が流れたような気がした。いつもはすぐに来る返事が中々こない。
『ねえ、リド、』
『もしかして、そのダリア・マルフォイという子が、僕を運んだのかい?』
私が文字を書き終わる前に、彼の文字が日記に浮き上がってきた。
『ええ。もう一人スリザリン生がいたけど、本を運んだのはマルフォイだと言っていたわ』
『……マルフォイってことは、彼女は純血の魔法使いだよね?』
彼がなんでそんなこと聞くか分からなかった。
『え? マルフォイって純血主義の家でしょう? ならそうじゃなかいな? どっちでもいいけど』
『そうだよね。そのはずなんだけど。でも、あれは……。彼女は一体
『どういう意味?』
私はリドルの言っていることの意味が解らなかった。
『僕は日記に触れるものの、
『リドルってそんなことが出来たの?』
『ごめんね、黙ってて。でも、
私は今までなんでも聞いてくれていた友達を手放したくなくて、慌てて返事をした。
『ううん、怖くないよ。だって、リドルは私の悩みを真剣に聞いてくれた。だからあなたは友達よ。ちっとも怖くなんかないわ』
『そうか、それはよかった。そう言ってもらえて安心だよ。で、話の続きなんだけど、彼女が触れた時、まるで無機物が触れているような感覚だったんだよ』
『でも、彼女すっごい無表情だけど、一応生きた人間よ?』
『そうだね。僕も集中してみれば、確かに魂のようなものを少しは感じることができたんだけど、あれって本当に魂なのか分からなくて。でも、』
そう書かれたきり、またしばらくリドルの返事がなくなった。
『リドル? どうかしたの?』
私の書き込みで、ようやく返事が書き込まれた。
『なんだか無機物のような魂だったけど、でも、どこか、ひどく懐かしいものも感じたんだ』