ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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一年の終わり

 ダリア視点

 

学年度末パーティー。今大広間はグリーンとシルバーの旗で彩られている。スリザリンが7年連続で寮対抗杯に優勝したのだ。発表こそまだだが、結果など大広間前にある砂時計を見れば一目瞭然だ。

つまり、スリザリンの()()だった。

スリザリン生はもう分かりきった結果ではあるが、校長の口からその事実が告げられるのをソワソワしながら待っている。一年生たちは初めて味わう優勝を。そして上級生達は、今年も味わえる勝利を今か今かと待っていた。

 

そして、スリザリンの待ち望んだ時がやってきた。

 

「また一年が過ぎた!」

 

ダンブルドアが立ち上がり、生徒全員に聞こえるように声を張り上げる。

 

「一同、ご馳走にかぶりつく前に、老いぼれの戯言をお聞き願おう。一年が過ぎ、君達の頭も以前に比べて少しでも何かが詰まっていればいいのじゃが……。新学年を迎える前に君達の頭がきれいさっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」

 

そこで一度言葉を切る。

 

「その前にここで寮対抗の表彰を行うとしよう。点数は次の通りじゃ。4位グリフィンドール、306点。3位ハッフルパフ、352点。2位レイブンクロー、426点。そして一位スリザリン、596点」

 

スリザリンのテーブルが爆発した。全員が嵐のような歓声をあげ、足、そして手に持つゴブレットを鳴らす。6年間スリザリンは勝ち続けていた。だが、ここまで圧倒的な勝利を飾ったのは初めてだった。

それも、

 

「やったね! ダリア! スリザリンの優勝だよ! これもあなたのおかげよ! ダリアがたくさん頑張ってくれたからよ!」

 

そう、私は114点という全校生徒の中でも圧倒的な点数を叩きだしていたのだ。

しかも私がテストの少し前から授業をしたのがよかったのか、上下学年問わず皆成績が上がり、最後にそれなりの好成績を獲得していた。

 

「ありがとうございます、ダフネ。でも。優勝できたのは皆さんが頑張ったからです」

 

謙遜してはいたが、内心とてもうれしかった。人目がなかったらガッツポーズくらいしていたかもしれない。

それが私の無表情の上からでも分かるのか、

 

「よかったね! ダリア!」

 

ダフネは私の顔を見ながら微笑んでいた。

正直、最初は寮対抗杯などに興味はなかった。でも、

 

「やったぞ! ダリア! これで父上達にいい報告ができる!」

 

そう言って喜ぶお兄様を見て、そしてお父様達に最高の土産話ができると思うと、とてもうれしく思うのだった。

私を含め多少の温度差はあれど、等しく皆スリザリン生は自らの勝利を喜んでいた。

 

()()()()()()

 

「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかしつい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」

 

スリザリン生はまだ少し嬉しそうにしながら、ダンブルドアの言葉に耳を傾ける。

この期に及んで点数を増やしたところで結果は変わりはしない。皆そう思っている様子だった。

だけど、私はかすかな胸騒ぎを感じていた。

 

「駆け込みの点数をいくつか与える。えーと、そうそう……まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君。この何年間かホグワーツで見る事の出来なかったような最高のチェス・ゲーム見せてくれた事を称え、グリフィンドールに70点を与える」

 

グリフィンドールの席から歓声が上がった。スリザリンはその歓声を聞きながら面白くなさそうにしていた。だが、まだ表情に余裕がある。一番嫌いな寮が点数を得たから面白くないとはいえ、自分たちの勝利が揺らぐわけではない。

そんな中、私だけは気づいていた。いや、気づいてしまった。

何故ウィーズリーが点数を貰ったかを。クィレルが賢者の石を盗もうとした夜、それを防いだのはポッターだけではなく、グレンジャー、そしてロナルド・ウィーズリーだと聞いている。その時のことを指した点数だとすると、これで終わるはずがないのだ。

 

「次に……ハーマイオニー・グレンジャー嬢に。……火に囲まれながら冷静な論理を用いて対処した事を称え、グリフィンドールに70点を与える」

 

さらに鳴り響くグリフィンドールの歓声の中、ようやくスリザリン生たちは校長の意図に気付く。お兄様も気づいたのか、少し顔が青ざめている。ダフネもどこか不安そうな顔をしていた。

 

「三番目は……ハリー・ポッター君」

 

部屋中が静まり返った。もはや校長の意図は明白だった。

 

「その完璧な精神力と並外れた勇気を称え、グリフィンドールに150点を与える」

 

グリフィンドールの点数は現在596点。スリザリンと同点だ。

それでもダンブルドアは止まらない。スリザリン以外の寮が騒ぐのを、手をあげ静かにした後、

 

「勇気にもいろいろある。敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。しかし味方の友人に向かっていくのも同じくらい勇気が必要じゃ。そこでわしはネビル・ロングボトム君に10点を与えたい」

 

今度こそ最初とは違い、スリザリン以外の全ての寮が爆発した。

私以外のスリザリン生たちは、皆悔しそうに顔を歪めている。中には涙を流している者さえいた。

あの()()()()は、喜ぶ他の寮を微笑ましそうにみながら、

 

「したがって、飾りをちょいと変えねばならんのう」

 

そう手を叩くと、今までグリーンの垂れ幕だったものが、全て真紅に変わっていった。

 

「グリフィンドールが優勝じゃ!」

 

学年末パーティー。始まる前とは違い、優勝したグリフィンドールだけではなく、レイブンクローとハッフルパフも嬉しそうな顔をしながら食事をしている。

時折こちらを、

 

「ざまあみろ」

 

とでも言うかのようにチラチラ見てくる視線を感じた。

一方、スリザリンのテーブルは非常に暗かった。皆俯き、もそもそと食事をとっている。当然だ。あんな風に、スリザリン生の努力、尊厳、そして誇りが踏みにじられたのだから。

ポッター達が偉大なことをした。それは誰もが認めるところだ。でも、であればこそ、何故、このタイミングで点数を与えるのだろうか。

別に彼らがことを成し遂げたタイミングでも良かったはずだ。一週間近く時間はあったのだ。その間に点数を与えることだってできたはずなのだ。

 

なのにこのタイミングを選んだ。勝ったと思っていたスリザリンが赤っ恥をかくのを分かっていて。勝利したと思っていただけに、受けるであろうショックは大きいと分かっていて。

 

それに点数の入れ方も妙だ。

まるでスリザリンにちょうど追いつき、そして最後にとどめを刺すようなやり方。

スリザリン生をよほど()()()()()()()()、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だが、理由などどうでもいい。

 

私は右隣を見る。

お兄様がまるで金縛りにあったかのように、青ざめた顔で硬直されている。

お可哀想に。勝ったと思っていたのに、そこから一気に、しかも大勢の目の前でその勝利を貶められたのだ。ショックを受けて当然だ。この勝利を土産話に、お父様達を喜ばせれると思っていたのに……それももう幻でしかない。

 

そして、私は左隣を見る。

ダフネは……泣いていた。

 

「ごめんなさい、ダリア……。あなたの頑張りを無駄にしてしまった! 私がもっと点数を取っていたら! あんなにダリアは頑張ってくれていたのに! こんなのってないよ! どうしてあんなに頑張っていたダリアを踏みにじるようなことを! ポッター達が凄いことをやったのは分かるよ! だけど、こんなタイミングでなくても!」

 

思えば、これは私が見た初めてのダフネの涙だった。

私はダフネの嗚咽交じりに絞りだされる声を聴きながら、彼女にそっと手を伸ばし……止めた。

 

こんなにもこの子は、私のことを親しく思ってくれているのに……私は、どこまでも臆病だった。彼女が離れていくのが怖かった。彼女を()()()()()()()()()()怖かった。だから私は手を伸ばさなかった。伸ばせなかった。伸ばしてはいけなかった。いつものように。こんな化け物である私が、彼女に触れてはいけない。

彼女にこれ以上好かれないために、私が彼女を好きにならないために……。

ダフネに伸ばしかけた手を強く握る。

私はスリザリンの優勝など正直どうでもよかった。だけど、お兄様たちの喜ぶ顔がうれしかった。その笑顔こそが私の一番欲しかったものだった。それなのに……。

大切なお兄様の絶望した表情。そしてダフネの涙。これらを見た私の中には、少しではあったが、だけど確実に、ダンブルドアに対する()()()が生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンブルドア視点

 

グリフィンドールの友人達と喜びを分かち合っておるハリーを見やる。顔立ちは父親そっくりじゃが、目だけは母親そっくりの緑色をしている。今、彼の目には喜びが満ちている様子じゃった。

 

予言によれば、あの子は選ばれしものじゃ。トムを倒す力を持つ者。

おそらく、その力とは『愛』じゃろう。トムは持っておらず、彼は持っているもの。

それを育み、いずれヴォルデモートと真に対峙した時に、彼が自信をもって動けるようにするため……ワシは彼のいるグリフィンドールを()()()勝たせることにした。

それに……。目を伏せ考える。

まだ確証はない。じゃが、もしも今立てている仮説が正しければ、ヴォルデモートを殺すためにはハリーが死なねばならんかもしれん。

まだ証拠は揃っておらんし、揃ってほしくもないが、もしそれが正しかったと考えると……。

伏せていた視線を再びハリーに向ける。

 

今だけは。ヴォルデモートが復活していない今だけは、彼に少しでも幸福に過ごさせてやりたかった。

 

グリフィンドールだけではなく、レイブンクローやハッフルパフまで大喜びしているのを微笑ましく眺める。今ハリーはその騒ぎの渦中で、グリフィンドールを勝利に導いた最大の功労者として周りから称賛されている様子じゃった。

 

しかし、いくら未来のためとはいえ、スリザリンの子達には悪いことをしてしまったのう。

喜びを爆発させている三寮から目を外し、スリザリンの席に目を向ける。

やはりというべきか、最初とは打って変わり皆落ち込んだ様子じゃった。うつむく生徒を少しだけ申し訳なく見ていると、ふと一人だけ俯かず、それどころかこちらをじっと見つめている生徒と目が合った。

 

その瞬間、わしは背筋が凍りついたような気がした。

 

わしが最も警戒する、白銀の髪を持つ少女の目が()()見えたのだ。

 

あれはトムと同じ!

そう思い目を凝らそうとしたのじゃが、こちらを見ていたのは一瞬だったようじゃ。もうこちらを見ておらず、彼女の目の色を確認することはできなかった。

 

見間違いに違いない。彼女はマルフォイ家の子供じゃ。純血とはいえ、トムのゴーント家とは関係ない家じゃ。そんなことがあるはずがない……。

 

そう自分に言い聞かせようとしたが、先程見た光景がどうしても頭から消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

試験の結果が発表された。成績の貼り出された掲示板の前で、

 

「当然のことだけどダリアがやっぱり一番だね」

 

「当たり前だ。ダリアだしな」

 

ダフネとお兄様は私の成績を見ながらそんな会話をしている。

寮杯こそもっていかれたが、試験の成績に関しては私は他を圧倒していた。学年の2位グレンジャーも成績で他を圧倒していたようで、100点満点のテストで100点以上を叩きだしていたが、私はさらに上の点数を出しており、全ての科目で彼女を抑え学年一位に輝いていた。

 

「ダフネも好成績ではないですか」

 

そう、ダフネはグレンジャーにこそ及ばなかったが、学年三位になっていた。

 

「えへへ。ダリアには及ばないけどね」

 

彼女の他にも、私が勉強を教えたメンバーはことごとく上位に入り込んでおり、試験成績においては他寮を圧倒していた。

 

「お兄様もおめでとうございます」

 

「ああ。でも、これぐらいは当然だ」

 

お兄様も10位と非常にいい成績を残している。お兄様も口ではああ言っているが、内心非常に嬉しそうだった。

普通なら両親に喜ばれる成績。そう、()()()()()()

私は気づいていた。おそらく成績こそよかったが、グレンジャーのようなマグル生まれの子供に全成績で負けたことで、お父様はおそらく不機嫌になられるだろうことを。

 

相手が悪いですし、何よりお兄様も頑張っていたことを知っているので、帰ったらフォローしますか。

そう帰ったときのことを考えていた。

 

余談だが、パーキンソンとブルストロードもそこそこの成績でパスしていた。

クラッブとゴイルは()()()()()()成績がよく、下ギリギリでパスしていた。

 

荷物を詰め込み、ホグワーツを後にする。これから長い夏休みを迎えるのだ。

 

「ねえ、ダリア。夏休みさ、手紙送ってもいい?」

 

ホグワーツからの帰り道、汽車に乗る前に()()()()()()()は発生したが、おおむね順調な帰り道だ。早くお父様とお母さまに会いたいなと思っていると、同じコンパートメントにいたダフネが唐突にそう切り出した。

 

「……別に構いませんよ」

 

まあ、それくらいは構わないだろう。

 

「やった! 帰ったらすぐに送るね! 毎日!」

 

「それはやめてください」

 

何がうれしいのか、そっかそっかと言っているダフネの顔を眺める。

寮杯発表の後、ダフネはやはりひどく落ち込んでいる様子だったが、次の日にはもうケロっとしていた。でも、私の目にはまだ無理をしているように見えていた。

 

よかった。今はもう大丈夫そうですね。

 

心の底から嬉しそうなダフネの顔を見ながら、安心すると同時に少しだけ胸が痛かった。

 

「じゃあ、ダリア! また夏休み後に! 手紙は書くから!」

 

「ええ。あなたも夏休みを楽しんでください」

 

汽車がキングズ・クロス駅に着き、ダフネと別れた。彼女は私たちが見えなくなるまでずっと振り返っては、手を振っていた。

 

「ダリア、僕たちも行こうか」

 

「はい。お兄様」

 

ダフネが歩いて行った方向とは逆に、私たち兄妹は歩いていく。その先には、私の愛する、私が絶対に失いたくない家族が待っていた。

 

「おかえり。ダリア、ドラコ」

 

「おかえりなさい」

 

寮対抗で優勝こそ逃したが、話したいことは山ほどある。でも大丈夫だ。夏休みは長い。これからいくらでもお話する時間はあるのだ。

 

「ただいま帰りました」

 

私の表情筋が少しだけ動いている気がした。


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