ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
クリスマス当日。目が覚めるとベッドの足元にちょっとした山ができていた。
ホグワーツに入るまで、私の交友関係はお世辞にも広いとは言えなかった。勿論今も親しいといえる関係の人間など家族以外に存在しない。パーティーにもあまり出席しなかった私には、そもそもホグワーツに入るまで、知り合いといえる人物などいなかったのだ。いても豚二匹だ。結果、私はクリスマスにプレゼントをもらっていたのは、家族と二匹からだけだった。お父様がおっしゃるには、私と親交を持ちたいと思っている家が毎年プレゼントを大量に送ってきていたみたいなのだが、お父様が私に届く前に回収していたようだった。一度しか見たことない私と必死に親交を持とうとしているような家だ。何が入っているかわかったものではなかったのだろう。実際媚薬が入っている時もあったらしい。
そんな私のベッドには、今年は大量のプレゼントが置かれている。ざっと確認してみると、どうやらスリザリン寮生のほとんどの人間が私にプレゼントを送ってきていた。私は他の寮生どころか、同じスリザリンの生徒からも学年を問わず恐れられている節があった。だから今年もあまりプレゼントは増えないだろうと思っていたのだが、どうやらそう単純な話でもないらしい。家の意向なのか、個人的に私と交友を持ちたいのかはわからないが、今年は寮生からということでお父様はこれらを排除しなかった。寮に戻ったとき、プレゼントは捨てましたと言えば、私の交友関係に影響すると考えておられるのだろう。
とりあえず、朝食までまだ時間がある。一番大切な家族からのプレゼントだけでも開こうと思い、私は山をあさる。
家族の分は比較的表層にあったためすぐ見つかった。
お父様からは新しい闇の魔術に関する本だった。前々から読みたいと思っていたものだったので大変うれしい。
次に見つけたお母様からは髪飾りだった。私はあまり光物に興味がある方ではなかったが、そんな私にも、金の土台に色鮮やかな宝石が散りばめられた髪飾りはとてもきれいに思えた。せっかくお母様が送ってくださったのだ。朝食の席にはこれを付けていこうと思う。
そしてお兄様からは高級お菓子の詰め合わせだった。色とりどりのお菓子は、どれもとてもおいしそうで今すぐにでも食べたかったが、まだ朝食前だ。今はまだ食べるわけにはいかない。
私は家族からプレゼントを貰うたびに、とても幸せな気持ちになる。私がどれだけ愛されているかを改めて実感するからだ。今年も例にもれず、一しきり幸せな気持ちに浸った。
少しして、そろそろ朝食の時間だと気付く。残りは後で確認しよう。そう、他の
だが、山の一番上に『ダフネ・グリーングラス』と書いた箱があることに、私は気付いた。それをじっとみつめていたが、頭を振って思考を止める。
彼女は私の
そう思い再び山をどかそうとするのだが、どうしても出来なかった。
私は思い悩んだ末、ダフネのものだけベッドの上に置き、他のプレゼントを部屋の端に移動させた。
私はクリスマス休暇中、家から一歩も出ず、ひたすら家族と同じ時間を過ごした。
お兄様とチェスをしたり、一緒に書庫で本を読んだ。お母様と一緒にお茶を飲み、一緒におしゃべりをした。お父様と学校でのたわいない話をし、魔法の訓練をしてもらった。
ホグワーツに入学したことで、久しく味わえなかった家族との大切な時間。
だが、それも再び終わる時間がやってきた。
「では、ダリア、ドラコ。あちらでもしっかりやるんだぞ」
「はい。お父様」
「体調を崩さないようにするのよ」
「はい。お母様」
ホグワーツ行特急前。私とお兄様は、お父様達とまたしばしの別れを告げる。
「あと半年近くあるとはいえ、学年末試験に向けてしっかり勉強するのだぞ。お前は純血なのだ。穢れた血などに負けることは許されん」
「はい。お父様」
「いや、ダリア。
「……はい。父上」
お兄様は嘘の報告をしていたが、お父様にはもう分かっているのかもしれない。
お父様はホグワーツの理事だ。よく考えれば、ホグワーツ内での成績を知っていてもおかしくはないかもと思った。
「そろそろ出発の時間ですね。では、お父様、お母様、行ってまいります」
「いってらっしゃい。体には気を付けるのよ」
お母様達に抱きしめられた後、私たちは汽車に乗り込む。
そして、再びお兄様以外の家族がいない、気の抜けない時間が始まった。
「ダリア! こっちこっち!」
汽車の中でコンパートメントを探していると、ダフネが私を手招きしていた。どうやら場所をとっていてくれたらしい。私とお兄様は、途中で合流したクラッブとゴイルと共に、ダフネのいたコンパートメントに入とうとするが、中にはパーキンソンとブルストロードがいたので全員は入ることができなかった。
「僕たちは違うコンパートメントを使うよ。たぶんノットとザビニがコンパートメントをとっているだろうしね」
「はい。わかりました。お兄様、また後程」
お兄様と別れるのは嫌だが、男の子どうしだけという時間も欲しいだろう。私は内心泣く泣くお兄様と別れ、ダフネのコンパートメントに入る。
「あら、ドラコは?」
「こちらでは少し手狭になるので、セオドールとブレーズのところに行かれました」
「そう……」
私の隣に座っていたパーキンソンは、私の答えにがっかりした様子だった。
するとダフネが興奮した様子で話しかけてくる。
「ダリア! 一週間ぶり! 私のプレゼントもう使ってくれているのね!」
ダフネからのプレゼントは、蛇の形をしたネクタイピンだった。お母様からの物ほど高級ではなかったが、さすが純血貴族。非常にきれいなものを贈ってくれた。
「はい。とてもきれいだったので、さっそく使わせていただいています」
「よかった! 気に入ってもらえて! ダリアもプレゼントありがとうね! 私もさっそく使ってるよ」
そう言ってダフネは、花の刺繍の施されたハンカチを取り出した。
私は家族以外に、いつもお兄様を取り巻いているメンバー、そしてダフネにもプレゼントを送っていた。
ダフネにはハンカチをプレゼントしていたのだ。
「肌触りもすごくいいし、この刺繍もすごくきれいだね! ありがとうね!」
「いえいえ、お気に召したのならよかったです。何しろ家族以外にプレゼントを贈ったのは初めてなもので」
最後だけ小声でつぶやいたのだが、ダフネにはしっかりと聞こえてしまったらしい。
ものすごくいい笑顔をしてこっちを見ていた。
4人でしばらくクリスマス休暇の話をしていたのだが、突然コンパートメントの扉がノックされる。
なんだろうと思っていると、グレンジャーが外からのぞき込んでいた。
「なによ、あんた」
パーキンソンが真っ先にグレンジャーに噛みつく。ブルストロードも声には出さないが、まるで汚物でも見る目をしている。
ダフネだけは、なんでこの部屋にきたのか疑問だという様子だ。
「あ、あの。私、マルフォイさんに聞きたいことがあって……」
今は彼女を止めるグリフィンドール生がいない。この機会を逃すまいと思ったのだろうか、いつもは私の周りにスリザリン生がいれば話しかけてこないが、今日はそれを押してでも聞きたいことがあるのだろう。
「なんであんたなんかと話さないといけないのよ!」
別にあなたと話したいと言ってはいないのだが……。
正直このまま放っておいてもよかったのだが、グレンジャーは明らかに歓迎されてない中でも意志は固いのか、てこでも入口から動こうとしない。
はぁ、とため息をついてから
「わかりました。では外で話しましょうか」
そう言って自ら率先して外に出る。出る時パーキンソンとブルストロードが何か言いたそうにしていたが無視した。
「それで、何を聞きたいのですか?」
おっかなびっくりな様子で私につづいているグレンジャーに話しかけるのだが、
「ここでは話せないの。こっちにきてくれる?」
そう言って、彼女はどこかに歩き出した。
話を聞くと言った以上、ついていかなければならない。
グレンジャーについて歩いていくと、一つのコンパートメントにたどり着いた。
外には二人の女の子が立っており、ネクタイが赤色のことから、彼女と同じグリフィンドール生だとわかった。
彼女達はグレンジャーが私を連れてきたのに驚いた様子だった。ちらちら私の方に、まるで怖がっているような視線を投げてくる。
「ね、ねぇ、ハーマイオニー。聞きたいことがある相手って、まさかダリア・マルフォイなの……?」
「そうよ」
「ま、まさか、彼女と二人っきりになるの?」
「そうよ。ごめんなさいね。ちょっと人には聞かれたくない話なの」
「で、でも……」
そう言って再び私をちらちら見だす二人。少しの間、彼女を私と二人っきりにして大丈夫かと悩んでいる様子だったが、ようやく決心がついたのか
「いい、ハーマイオニーに何かしてみなさい! 絶対に許さないんだから!」
そう私に言い放って、彼女たちはどこかに歩いて行ったのだった。
許すも許さないも、私は何もグレンジャーにするつもりはない上、よしんば何かあったとしても、彼女が私に何かできるとは思えないのだが……。
グレンジャーは私が気を悪くしたと思ったのか、青ざめた顔をして、
「ご、ごめんなさい。気を悪くしてしまったよね、」
「いえ、構いません。
そう言って示されたコンパートメントに入る。
おそらく、ここはグレンジャーとさっきの子たちが使っていたのだろう。でも、グレンジャーの頼みで少しの間、彼女たちに外してもらった。そういうことなのだろう。
「それで、先ほども言いましたが、聞きたいこととはなんです? 誰にも聞かれたくないというお話なのでしょう? こんなところまで連れてきたのですから」
「そ、そうね」
グレンジャーはここまで来ても、まだどこか尋ねるべきか悩んでいる様子だったが……ついに意を決したように、
「ねぇ、マルフォイさん。この前のクィディッチ試合でのことなんだけど」
予想もしていなかった質問を投げつけてきたのだった。
「クィディッチの試合ですか? スリザリン対グリフィンドールの?」
「ええ、そうよ。あの時、あなた、ハリーの箒に呪いをかけてたの?」
この子はいったい何を言っているのだろう。
「わ、わたしはそんなことしてないと思っているのよ! でも、ロンがあなたがやっているのを見たって言うのよ。ずっとハリーの方を見て、ぶつぶつつぶやいていたって。彼の見間違いのはずなんだけど、私、どうしてもあなたの口からききたくて……」
どうやら、彼女は私がやっていたことを見ていたわけではないらしい。それに考えれば勘違いするのは当然かもしれない。というのも、呪いをかける動作と解呪する動作は非常に似ているので、遠目だと判断するのは難しいのだ。私はスネイプ先生の比較的近くにいたので分かったが、彼女達の座っていたであろう場所から私が解呪していると判断するのは難しかっただろう。
「いえ、私はポッターの呪いを解呪しておりました」
すると私の答えを待ってましたとばかりに、グレンジャーは飛びつく。
「そうなの! やっぱりあなたが呪いなんてかけるわけがないと思っていたのよ! ありがとう! ハリーを助けてくれたのね!」
私の答えがなぜかうれしかったのか、グレンジャーは小躍りしている。
だが、間違いは正さねば。
「いえ、別に助けようとしたわけではありません。まあ、結果的に彼が助かったといえるかもしれませんが」
「え? どういうこと?」
「私はスネイプ先生のお手伝いをしただけです。あの日は大変お世話になっていたので」
「スネイプ先生の!? 先生はハリーに呪いをかけていたんでしょ!?」
どうやら、スネイプ先生まで勘違いされていたらしい。まあ、こちらも客観的に見て、先生は非常に犯人面だ。いつもいじめられているグリフィンドールからしたら、もっとそう見えることだろう。
「いえ、スネイプ先生は解呪をしていましたよ。私はそれを見て手伝おうと思っただけです」
「で、でも、あの動きは呪いをかけるものだったわよ」
「グリフィンドールの席は教員席から遠いですからね、勘違いするのもうなずけます。呪いをかけるのと、解呪は非常に似た動作ですので」
「……私、呪いをかける動作しか知らなかった」
「それも仕方がないかもしれません。普通の教科書には載っていませんし。むしろそこまで勉強していることの方が驚きました。やはりあなたは優秀な魔女ですね」
私の言葉がうれしかったのだろう。グレンジャーは顔を真っ赤にして、再び小躍りしそうになっている。
やってしまった。彼女になつかれるわけにはいかないのに……。
発言を後悔しつつ、今度は私の方からグレンジャーに尋ねる。
「聞きたいことというのは、それだけですか? それなら戻らせていただきたいのですが」
そろそろ結構な時間がたった。ダフネも心配していることだろう。
「あ、あと一つだけ聞きたいことがあるの。ニコラス・フラメルって知ってる?」
ニコラス・フラメル? どうして錬金術師のことなどを? 別に今学ぶことではないと思うのだが。
「ニコラス・フラメルは、賢者の石を造った錬金術師ですね。それがどうかなさったのですか?」
私の答えを聞いてグレンジャーはハッとしていた。どうやら度忘れしていた記憶だったのだろう。
「どこかで見た名前だと思ったら、そうだったのね……。ありがとう、マルフォイさん。やっと思いだすことができたわ。ちょっと引っかかっていたのが気になってね。特に意味はないの」
「そうですか、それはよかった。では、私はこれで」
これでもまだ何か言いたそうなグレンジャーを無視して、今度こそ部屋から出る。
後ろから、
「ありがとう!」
と大声で言われたが、それも無視しておいた。
やっと解放された私は、ダフネのいるコンパートメントに戻る。だが、戻ってみると、中のメンバーが変わっていた。パーキンソンとブルストロードの代わりに、クラッブとゴイルが座っていた。
「あら、どうしたのですかお二人とも」
「なんかうちの二人に追い出されて来たんだってさ」
ダフネがクラッブとゴイルの代わりにこたえる。
私がいない間に、彼女たちはお兄様に取り入りに行ったのだろう。そして体積的にも邪魔なこの二人が送られてきたのだろう。
この二人にしても、お兄様より私に取り入りたいみたいだから、そこそこ嬉しそうな様子であったので、まあ、彼らにとってもよかったのだろう。
私とダフネは狭い思いをしないといけないが。
私は今日何度目かのため息をつきながら、コンパートメントの扉を閉めた。
ハーマイオニー視点
マルフォイさんの無実を確認した私は、さっそくこのことをハリーとロンに話した。
私は喜々として話すのだけど、彼らはそんな私を信じられないという目で見ていた。
「おいおいハーマイオニー。君正気か? なんで本人に聞いちゃうかな」
「だって私は彼女がやったとは思えないもの! むしろ彼女は呪いを解いてたと言ってたわ!」
「そりゃそう言うだろうさ。犯人が自分のことを犯人っていう所みたことあるかい?」
そこに今まで黙っていたハリーも参戦する。
「僕もロンの言うとおりだと思うよ。それに彼女はスネイプを手伝っていたって言ったんだろう? だったらスネイプと同じ動作をしていたというのは間違いないんだ」
「でも、それは、」
「少なくとも、スネイプの方は呪いをかけてたのは間違いないんだろ? 君が火をつけた瞬間呪いは終わったんだから」
確かにそうなのだ。私はあの時スネイプ先生の呪文を妨害した。それが解呪だったのなら、ハリーへの呪いが止まった理由がわからない。
「ハーマイオニー、君、あいつに騙されてるよ」
私はそう言うロンの話を聞いて、もう何が本当のことで、何が間違っているのかわからなくなってきた。
確かに彼女自身に聞いた私は軽率だったと思う。でも、私はどうしても彼女のことを信じたかったのだ。だからいつもならそんなことしないのに、理性より感情で動いてしまったのだ。
結果、彼女の話と、今まで分かっていた事実に食い違いが出てしまった。
ハリーとロンは、マルフォイさんが嘘をついていて、スネイプ先生とグルだったと判断しているみたいだが、私はもうよくわからなくなってしまった。
私には、何か重要なことを