ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
12月半ばになり、ホグワーツもすっかり深い雪に覆われていた。皆温まろうと暖炉の前に集まりながら、クリスマスの話ばかりしている。皆クリスマスプレゼントが気になって仕方がない様子だった。
かくいう私もクリスマスは楽しみであった。
私はプレゼント自体には大して興味がなかったし、家族から貰える物ならば、別にそれが何であれ嬉しかった。そんなことよりも、ようやく家族に会える。それが私には楽しみで仕方がなかったのだ。
クリスマス休暇まで後二日。これさえ乗り切れば家族に会える。
ここ最近大きな心配事があるせいか、若干ホームシック気味な私は皆がプレゼントの話をしているのを横目に、そっとため息をつくのだった。
午前の授業も終わり、昼食をとりに大広間に向かう。
だが大広間の前には非常に邪魔な位置に森の番人が、大きな木を持って立っていた。
周りにはポッター、ウィーズリー、そしてグレンジャーもおり、4人で立ち話をしている。大方クリスマスツリー用に運んでいたところ、彼が仲良くしている三人組と出くわし、そのまま立ち話にしゃれこんでいるのだろう。……もう少し場所を考えてほしい。これでは大広間に入れないではないか。
横にいたお兄様もそう思ったのか、
「すみませんが、そこをどいてもらえませんかね?」
そう厭味ったらしく言った。
「マルフォ、」
森の番人だけは木に隠れてわからないが、グリフィンドールの三人組はお兄様をにらみつけようとし、そこで私がすぐ横にいることに気が付いて口を閉じた。
最近このようなことがよく起こった。
この三人組はここ最近私をみかけるなり、急に警戒したような視線を向けてくるのだ。前からグリフィンドール生から嫌われてはいたのだが、このようにあからさまに警戒されるというのは初めてだった。まるで私から目を離したら襲われる。そう言いたげな視線だった。
といっても、グレンジャーだけは違った。
警戒しているというより、戸惑いながら、何か私に聞きたそうにしている。彼女だけはそんな視線を投げかけてきていた。
実際何か聞こうと近づいてくる時はあったのだが、その度にポッターとウィーズリーに引き戻されていた。
一体何を警戒しているのかは知らないが、私にはグレンジャーが話しかけてくる前に引き戻すという対応は、実のところ
私はハロウィーンが終わってから、ずっとグレンジャーを避けているのだ。
あれから彼女は私と会う度に、私にあの時の礼を言おうとしていた。あの時あれだけ嫌われそうなことを言ったのに、どうやら彼女にはそれが伝わらなかったらしい。目をキラキラさせながら近づいてくるのだが、私がお兄様達、スリザリンのメンバーと一緒にいるのに気づいて、そのままとぼとぼ帰っていくのが散見された。
私としてもこれ以上彼女になつかれるのも困る。だから彼女と出会いそうな所ではいつも他のスリザリンのメンバーと一緒にいるように心がけていた。だが、これからはそんなことしなくとも、グリフィンドール生が勝手に私のもとに来るのを止めてくれるらしい。
警戒しながら私を見る二人と、どこか戸惑ったような雰囲気を醸し出すグレンジャー。私はそんな彼らを見て、安堵しつつ、心のどこかで寂しく思ってしまっていたのだった。
「……ふん。こんな所で突っ立ていていいのかい、ウィーズリー? 君は小遣い稼ぎだろう。君にとってはハグリッドの小屋だって宮殿みたいなものだろうからね。しっかり稼いで君の家族に送らなくちゃな」
彼らが私に向ける視線が気に食わないのか、最近のお兄様はいつにもまして彼らに突っかかる。私は全く気にしていないのだが、優しいお兄様にはそれが我慢できないらしい。
そんなお兄様の挑発を受け、ウィーズリーが飛びかかろうとした瞬間、スネイプ先生がやってきて、グリフィンドールのみを減点した。そして森の番人の横をすり抜け、大広間に入っていく先生について、私たちスリザリン生も大広間に入った。
「まったく、一体なんであいつらはあんな目でダリアを見るんだ?」
「さあ……。彼らに何かしたというわけではないのですが……」
そこまで話して、ふとお兄様が私に耳打ちしてくる。
「……まさかばれた、ということはないよな」
「それはあり得ません。そもそも、彼らと接点すらありませんもの」
心配そうに小声で問いかけてくるお兄様にそう返す。
彼らが秘密を知った可能性はないだろう。何しろ接点がない。共に多くの時間を過ごすスリザリン生にも露見した様子はないのだ。これで彼らの方が私のことに気付いたということはないだろう。
ただ、ダフネだけは妙な節があった。時々もしやばれているのでは? と思わせる様な対応をとる時があるのだ。
だが、それは私の勘違いであろう。その証拠に、彼女は私から
でも、気がかりがもう一人だけ、
「だが、ダンブルドアが……」
手紙のことを相談して以来、お兄様はひどく心配性になっていた。
「ええ。ですがまだばれたと決まったわけではありません」
これこそが、最近私を悩ませる大きな心配事だった。
クィディッチの夜に、私の枕元にあった手紙。
聞きたいことがあると書かれてはいたが、何を聞きたいのかなど一切の内容が書かれていなかったため、私は内心非常に焦っていた。
校長とも接点は全くないとはいえ、相手は20世紀最も偉大だと言われた魔法使いだ。決して油断はできない。
それにこの学校の校長でもある。
私の手袋の効果、日に当たれない体。そしてもし、お兄様の元に定期的に送られてくるお菓子の中に、
まさか荷物の中身まで見ているとは思えないが、校長という立場上、そういうことをしていないとは断言できない。私たちマルフォイ家は元闇の陣営。それを口実に荷物を検めているかもと心配になってしまうのだった。
内心心配で仕方がないのだが、それを悟られるわけにはいかない。あの校長は何を考えているのか分からない。
現にあの手紙を出してきてから、私をどこか観察している節があった。
生徒が大広間で食事をとる時間と、教師が食事をとる時間は同じだ。そのため朝食をとりにいくと、教員も前で食事をとっている光景をよく目にする。
その時、私はよくダンブルドアからの視線を感じるのだ。
おそらく彼は私が何かしらのことを隠していると考え、ゆさぶりをかけることで、私の反応を見ているのだろう。
だが、それは逆に彼が完璧な証拠を掴んでいるわけではないことも表わしていた。
そうでなければこんな猶予期間があり、尚且つこんな視線を送ってくることなどありえない。
何に気付いたのかは知らないが、それがなんであれ、証拠がないのであればまだやりようはある。
私は、スリザリンらしくなすべきことをなすだけだ。
そう自分に言い聞かせながら、不安な内心をひた隠すのであった。
そしてとうとう帰省前日の夜。
相当心配であったのか、行かないことをお兄様が再度提案してきたが、ここは行く以外の選択肢がない。何を校長が知ったのかを知らない状態の方がよっぽど恐ろしい。
それに行かなければ、隠し事をしていることを認めたことになってしまう。
私は手紙に書いてあった通り、カエルチョコレートを
校長室の前には大きなガーゴイル像が建っていた。
普通の扉があるものだとばかり思っていたのだが、どうやら校長室は他の職員の部屋とは違うらしい。
ガーゴイル像の周りを調べてみるも、やはりドアらしきものは見当たらない。ということは、このガーゴイルこそドアであり、これに合言葉を言わないと入れないということだ。
だが生憎校長室の合言葉など知らない。訝しみながら手紙を読み返すと、気になる一文が書いてあった。
『最近わしはカエルチョコレートが好きじゃ』
校長室の場所は知っていても、普段一年生が通るような場所ではない。そのため校長室の入り口のことをさっぱり知らず、この一文がいつものとち狂った一言であると思っていたのだが、
「カエルチョコレート」
先程までうんともすんとも言わなかったガーゴイルの像が横に飛びのき、像の後ろの壁が開き、壁の裏に階段が現れた。
確かに他の教員と違い、校長室には学校に関わる重要な書類などもあるだろう。そのため合言葉があるのは当たり前だと、冷静に考えればわかるようなことに思いつかなかった自分を恥じながら、今しがた現れた階段を登っていく。
階段を登るとグリフォンをかたどったノック用の金具がついた扉があった。
私は一度深呼吸をし、扉を叩く。
「校長先生。ダリア・マルフォイです」
すると扉が音もなく開いた。中に入れということだろう。
中に入るとそこは、おかしな小さな物音で満ち溢れた、円形の部屋だった。
奇妙な道具が立ち並び、様々な音を出している。中には燃える様な紅い羽根を持つ不死鳥などもいた。壁には歴代の校長の写真がかかっており、中では皆すやすやと眠っている。一部狸寝入りのものもいるが。
そんな奇妙なものの中で、とりわけ大きな鏡が部屋の隅に置いてある。
そしてその鏡の横に、私を今日呼び出したダンブルドア校長その人が立っていた。
「こんばんわ、ダリア。今日はすまんのう。こんな夜遅くに呼び出してしもうて」
「いえ、校長先生」
そう言いながら校長に近づいていくと、校長の横に置いてあった私の姿が鏡に映ってゆく。
私が映りこんだ瞬間、鏡に映りこむ景色が真っ赤に、まるで
ずいぶんスプラッタなものを見せる鏡だなと思いながら、私は校長に話しかける。
「これ、カエルチョコレートです。合言葉だとは思わず、持ってきてしまいました。よろしければどうぞ」
「おお! 勘違いさせてすまなかったのう! じゃが、これは本当にわしの好物での! ありがたくいただくよ」
そう言ってカエルチョコレートを食べだす。中に入っているカードはダンブルドアのカードだった。それを残念そうに眺めている校長。
「わしがわしのカードに当たるとは……。昔からこういうものに運がなくてのう。ほれ、百味ビーンズというものがあるじゃろう? わしはあれも非常に引きが悪くてのう。昔ゲロ味を引いてしまってから、あまり好きではないのじゃよ」
「はあ」
内容は下らないことを話しているが、目はじっとこちらを観察するように見ている。ダンブルドアも。そしておそらく、私も。
茶番はこれくらいでいいだろう。そろそろ本題に入ろう。
「それで、私に聞きたいこととは一体なんでしょう?」
「そうじゃったのう。 君にいくつか聞きたいことがあってのう」
今までの表情だけは好々爺だったものが、真剣な表情に変わる。
「ダリアよ。ハロウィーンにトロールが入り込んだことは知っておるの?」
「はい。存じています」
「そのトロールなんじゃがのう。どんな状態で見つかったかしっておるかの?」
「ポッター達が倒したとしか聞いておりませんが?」
トロールが死んでいたとするのは外聞が悪かったのだろう。おそらく、ポッター達にもかん口令が敷かれ、校内ではただポッター達が倒した、それだけしか伝わっていない。
おそらくトロールが死んでいるのを知っているのは、私、ポッター達三人組、そして先生たちだけだ。
そしてその場にいなかったことになっている私は、そのことを
ダンブルドアはそう答える私をじっと見つめた後、
「そうか、これは秘密なのじゃが、トロールは実は死んでいたのじゃよ。しかも『死の呪文』によって。ダリアよ。優秀な君なら知っておるのじゃろう?」
「ええ。勿論存じています。でもまさかポッター達が使えるとは思いませんが?」
罪を擦り付けてもよかったのだが、おそらく彼らではないことくらい当にわかっているのだろう。何より、私を庇ってくれたグレンジャーに罪を擦り付ける様な発言をするのが、どこか気が引けたのだ。
「そうじゃ。ハリー達ではない。わしはのう、ダリア。誰か他のものがあの場にいたのではないかと思っておる」
そこで言葉を切り、私を再びじっと見て口を開く。
「ダリア、何か知っておることはないか?」
「何故、私に?」
「いや、君は今や学内一の秀才じゃ。しかもスリザリンは現場と寮が近い。何か知っておるかもと思ってのう」
「いいえ、全く知りません」
ダンブルドアはきっぱりと言う私の無表情をしばらく眺めていたが、ボロを一切出さないと思ったのか次の質問に移る。
「そうか……。では次の質問なのじゃが、その手袋。それは魔法のかかったものだそうじゃな。その魔法の効果を教えてほしいのじゃよ。わしもこの学校の校長じゃからのう。念のためとはいえ、安全なものであるか確認したいのじゃよ」
「これは私の魔法力を抑えるものです。私は力が強すぎるのか、これがないと力が暴走してしまうのです」
暗にこれを今外したくないむねを伝える。しかしこれは別にそこまで聞きたいことではなかったらしく、そうかと頷いただけだった。
ここに来るまでは内心ばれたのではとひやひやしていたが、別に来てみたら
どちらもばれて多少の迷惑になるが、
少し安心していると、ダンブルドアが私の隣に移動し、鏡の中で私に並ぶ。
相変わらず鏡の中の景色は、そこら中が血に染まった内装を映していた。
「ダリアよ。最後の質問じゃ。君には、この鏡に何が見える?」
そう私に問いかけるダンブルドアの瞳を、鏡越しにみやる。
そこには今までで一番真剣な目をした校長の姿があった。
その瞳に背筋がぞっとさせながら、私は答えにたどり着く。
今までのはただの
だが分からない。何故鏡に映る姿などを聞くのだろうか。
この鏡はただスプラッタな光景を映すだけではないのか?
この鏡には一体何が映りこむのだろうか?
校長の目的はなんなのどうか?
「……。いいえ。校長先生。私の姿が映っているだけです」
何を映すものか分からない以上、私は無難に答えるしかない。これを正直に答えることは、とても危険なことのような気がした。
校長は私の瞳を鏡越しにじっと見つめてくる。
すると私の中に、何か得体のしれないものが入ろうとしてきた。
開心術だ!
そう気が付いた私は、即座に心を閉じる。
どうやら私の中をのぞけなかったのか、ダンブルドアはすぐ私の中から出て行く。
「この学校では生徒に開心術をかけるのですか?」
「すまんかったのう。どうしても本当か確かめたかったのじゃ。……しかし、その年で閉心術まで使えるとは」
ダンブルドアは心底驚いたという様子だった。少なくとも表情だけは。
「それで……そこまでして知りたかった、この鏡は一体何を映すのです?」
再び私をじっと見つめた後、あきらめたのかダンブルドアは、
「……この鏡はのう、ダリア。心の奥底にある、一番強い『のぞみ』を映すのじゃよ」
そう言った。
私は驚きながら鏡を見る。
やはりそこには、あたりが血で染まった校長室が映っていた。
こんなものが私であるはずがない。いや、あっていいはずがない。
なのに、どうして私は、どこかこの光景に、
ダンブルドア視点
「……一番強い『のぞみ』ですか」
「そうじゃ、じゃからのうダリアよ。この世で一番幸せなものには、この鏡は普通の鏡になるのじゃよ」
ダリア・マルフォイはいつもの無表情で鏡を見ている。
先程彼女が言った答えはおそらく嘘じゃろう。じゃが、わしには彼女が本当は何を見ているか、その表情から読み取ることができなかった。
彼女が優秀なのは知っていた。じゃが閉心術まで使いこなすとは予想外じゃった。おそらく、これで彼女が見た本当の光景を知ることは出来んじゃろう。
それに彼女に今後警戒されてしまう。
じゃが、隠すということは、やはり何かやましいものが見えたと考えることもできる。
こんなことを考えるのは、教師として失格である自覚はあった。
じゃが、彼女の雰囲気が、あのヴォルデモートを思い起こさせるこの冷たさが、わしの考えをどうしても悪い方向に導いていた。
彼女はしばらく鏡をじっと見つめていた。そしてポツリと、
「そうです。私は世界で一番幸せ者です。だから何も見えるわけがないではないですか」
どこか自分に言い聞かせるように、彼女はつぶやいたのだった。
そう話す彼女は、やはりどこかトムに似ていた。
「もう夜遅い。今日はすまんかったのう。気を付けて帰るのじゃよ」
「はい。では失礼します」
そう言ってダリア・マルフォイが部屋から出ていこうとする。
しかし彼女が部屋から出る直前。
「のう、ダリア。最後に年寄りのたわごとを聞いてくれるかのう。なに、ただのつぶやきじゃ。すぐに終わる」
彼女はわしの言葉で立ち止まった。じゃが、こちらを振り返りはしなかった。
やはり嫌われてしまったのう
そう思いながらワシは宣言通りにつぶやく。
余計なことだとはわかっておった。じゃが、過去トムを導けなかった罪悪感から、わしにはどうしても言わずにおれなかった。
「昔、ある生徒がおった。誰よりも優秀な生徒で、皆から慕われていた。じゃが彼は、間違った道に進んでしもうた。誰も彼の残虐さに気付かず、結果恐ろしい災厄をおこしてしもうたのじゃ」
「……私もその人のようになると?」
「そうとは言わん。じゃが、君は彼と非常に似通ったところがある。彼は間違ったものを選んでしまった。ダリアよ。わしは自分がほんとうに何者かを示すのは、そのものの選択じゃと思っておる。どうかそのことを覚えておいてくれ」
「……ええ、覚えておきます」
そして彼女は今度こそ帰って行ってしまった。
彼女が閉心術まで使えるのは誤算じゃった。
これで彼女に警戒心をもたれてしもうた。
これからさらに彼女の監視は難しくなってしまうじゃろう。
「これからが心配じゃのう」
一人になった校長室で、わしはそう小さく呟くのであった。
ダリア視点
『自分がほんとうに何者かを示すのは、そのものの選択』
暗い廊下の中、先程のダンブルドアの言葉を思い返す。
それはそうだろう。普通の人間であれば。
でも、私は……。私は再び鏡に映った自分を思い出す。
血で真っ赤に染まった部屋。その真ん中で、鏡に映る私は……真っ黒な自分の杖をいじりながら、ぞっとするような笑みを浮かべていた
あれが何を意味しているのか分からない。いや、
私の願いがあんなものであるはずがない。私の願いはただ一つ。家族を守ることだけだ。
だというのに、なんであんなものが映ってしまったのか?
あれこそが、私の本質だとでもいうのか?
私には、選択すらできないのではないか?
考えても答えは出ない。はたから見れば、さぞ覚束ない足取りをしていることだろう。
暗い廊下を歩き、地下まで降りる。そしてやっとスリザリンの寮にたどり着き中に入る。夜ももう遅い。談話室には誰もいなかった。
お兄様以外は。
「ダリア!」
私の秘密にかかわることだ、おそらくダフネは部屋に帰ってもらったのだろう。
お兄様一人、談話室で私の帰りを待っていてくださったのだ。
「大丈夫だったか? ダリア?」
心配そうに私に尋ねてくるお兄様に、
「ええ、私のことはばれてはいませんでした。どうやらトロールの件で私を疑っているみたいです」
私は隠し事をした。
「そうか……。それより、すごく疲れているみたいだな。もう寝るか?」
「……いえ、少しだけ、そこのソファーに座ってお話ししませんか?」
やはり気が弱くなってしまっている。いつもはそんなことしないのに、今はお兄様に甘えたくなる。
お兄様と共にソファーに座る。
今は冬。火の消えた談話室は寒く、そして静かだった。
遠い昔、私たちが子供だった頃、雪の降る庭で話したことを思い出す。
あの頃は遠く、でもあの時立てた誓いは変わらない。でも結局私は……あの頃と一切変わらず、ただ人を殺すためだけの人形なのかもしれなかった。
私は今まで、私自身は決して、誰かを傷つけたいと思っていないと思っていた。
でもその認識を、あの鏡は否定した。
もしかして、私は本当は人を……。
「ダリア……お前、泣いているのか?」
お兄様の戸惑ったような声で気付く。
確かに私の目からは涙がこぼれ落ちていた。
「すみません……。見苦しくて」
そう目をこするのだが、一向に涙が止まらない
「あれ? おかしいな。なんで」
これ以上お兄様に甘えてはいけない。お兄様は寒い中、こんな場所で一人で待っていてくださったのだ。
これ以上、お兄様をここにとどめてはいけない。ここに一緒に座ってもらっただけで、私は十分甘えた。
だが私の思いに反して、涙は一向に止まらなかった。
すると一向に涙が止まらず困惑する私の頭を、お兄様はそっと抱きしめてくださる。
「今日は何があったか聞かない。話したくなければ話さなくてもいい。だが、これだけは覚えていてくれ。僕は、どんなことがあろうと、ダリアの味方だ」
その言葉で、私はいよいよ涙が止まらなくなり、お兄様にしがみついてわんわん泣いた。そんな私をお兄様は、ずっと抱きしめてくださっていた。
私はお兄様に縋りつきながら思う。
ああ、なんて美しい人の家族に私はなったのだろう。
なのに何故私はこんなにも……