ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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スラグホーン(前編)

 

 ダリア視点

 

世界は変わった。全てが『闇の帝王』の望み通りに変わりつつある。

しかし、それでもホグワーツでの生活は表面上変わることはない。少なくともあの老害が無事な間は。

 

「最初の授業は何?」

 

「私は『薬草学』よ。『O・W・L』での『闇の魔術に対する防衛術』評価はPだったから」

 

「……散々な結果ね」

 

近くの席から実に平和な会話が漏れ聞こえてくる。私達の学年から『O・W・L』での成績によって授業の選択が変わる。成績が悪ければそもそも授業を受講することすら出来なくなる。だからこそ多くの生徒が成績について話し合っていた。彼等にとって世界の変化より目の前の授業の方が大切なのだろう。ホグワーツ内に限れば表面上平和な証拠だ。

そして()()()()()に、私とダフネ、そしてお兄様にとって、彼等の細やかな悩みは無縁のモノだった。三人とも授業を受けるのに問題ない成績であり、今までと同じ授業を選択するだけだ。唯一の変更点はお兄様とダフネが『魔法生物飼育学』の受講を取りやめたことくらいだろう。教員が元々あの森番である以上、続けて受講する意味もない。つまり、私達はホグワーツでの細やかな悩みに煩わされることなく、残念ながらホグワーツ外のことを考える他なかった。

 

「最初の授業はスネイプ先生ですか。まさか『闇の魔術に対する防衛術』を担当するなんて。悪いわけではないですが、正直意外です」

 

「……この変更に何か意味があると思うか、ダリア?」

 

「……さて、どうでしょうね。寧ろ気になるのはスラグホーン先生です。あの人は『あの方』から探すように指示されていました。そんな人物が魔法薬学のスネイプ先生を押しのけてまでホグワーツに保護されたわけです。スラグホーン先生にこそ、あの老害の意図があると考える方が自然でしょう」

 

お兄様との会話だと言うのに、何故私はこの様に神経をとがらせなければならないのだろうか。ただ新しい教員の人事配置の会話。だと言うのに、私はお兄様に与えていい内容を頭の中で吟味している。全く情報を渡さないわけにはいかないが、お兄様の計画に有益な情報を与えるわけにもいかない。こんなことを考えている自分自身がより一層嫌いになるばかりだ。

そんな私達の様子に気が付いたのか、ダフネが慌てたように声を上げる。

 

「で、でも、これで授業が有意義な時間になることは変わりないよね。スネイプ先生なら下手な授業はしないはずだよ」

 

「えぇ、そうですね。それだけが救いでしょうか」

 

しかしそこで会話は途切れてしまう。何もかもが嚙み合わない。お兄様やダフネと共にいる時間こそ、私にとって幸福な時間だ。その事実に些かの変わりはない。であるのに、どうしても去年までとの違いに寂しさを感じてしまうのだ。別にホグワーツで気が抜ける瞬間などありはしなかった。ただその中でも、お兄様達との時間だけは特別だった。それが不可逆的に多少の寂しさを感じる時間に変わってしまい、その上残り時間すらも短い。どんなに長くとも1年。任務が失敗しても成功しても、私とお兄様はこの学校を去らねばならない。ホグワーツでの表面上でも平和な時間は確実に終わるのだ。

暗い空気が漂う中、私は校長席の方に視線を向ける。一瞬だけ視線が交差した気もするが、老害は即座に視線を逸らし食事に集中していた。本当にあいつは何を考えて私に招待状を出したのだろう。どこか臆病ささえ感じさせる態度だが、奴は曲りなりにも『今世紀最高の魔法使い』と称された人間。あのゲラート・グリンデルバルドを倒した魔法使いでもある。何か目的があるに違いない。どんな目的があるにしろ奴を殺さなければならないことに変わりはないが、注意しているに越したことはない。

 

どんな物を見せるつもりかは知らないが、絶対にあの老害を私自身の手で殺す。

 

いつもは動かない頬の筋肉が動くのを感じながら、私は老害の方を見つめ続ける。同時にそんな私を、ダフネとお兄様は不安げに見つめているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

今までの『闇の魔術に対する防衛術』の先生で真面だった人は少ない。ルーピン先生と、強いて挙げるならばムーディ先生くらいだろう。尤もムーディ先生の中身は『死喰い人』だったわけだけど、教師としてだけならば真面な部類だった。その他は論外な奴ばかりだ。クィレルは何を話しているか分からない上、やはり『死喰い人』。ロックハートはペテン師。そして去年のアンブリッジは魔法省の人間とはいえ、ほぼ『死喰い人』のようなものだった。碌な奴がいない。特にアンブリッジは最低であり、もうあいつよりも酷い教師など存在しないとさえ思っていた。

……いたのだけど、

 

「ふむ。思いの外多くの生徒が残っている。正直驚いている。諸君らが今まで受けてきた授業は、どれもこれも授業と言える代物ではなかった。だが、それでもO・W・Lで多少は真面な点を取ったからこそ、諸君らはこの授業を受けることを許可されたわけだ。それは相応の実力が諸君らに備わっていると所作と言えよう。無論運よく……偶々合格点を取っただけの者が多数だろうがね」

 

その最低レベルが早くも更新されると、僕は最初の授業で確信せざるを得なかった。

目の前では僕にワザとらしく視線を向けるスネイプ。明らかに僕を挑発している。僕の『闇の魔術に対する防衛術』がO評価……つまり最優秀評価だったにも関わらずだ。

僕が睨み返すと、スネイプは鼻で笑いながら続けた。

 

「『闇の魔術』は多種多様、千変万化、流動的にして永遠なるもの。それと戦うとなれば、生半可な術では太刀打ち出来ん。先程諸君らに実力が備わっていると言ったが、それは所詮他の盆暗に比べればというものだ。偶々この科目で良い点を取ったとしても、それは試験の上だけのもの。他の科目……そう、例えば『魔法薬学』においてギリギリの成績だったような者に習得できるはずがないのだ。……そう思わんかね、ポッター。まさか『選ばし者』と持て囃されたところで、それ相応の実力が君にあると勘違いしたわけではなかろうな。実に運が良い事だ。君の成績であれば、吾輩は『魔法薬学』の受講を許可しなかっただろう。実に惜しい事。この授業で君が醜態を晒さないことを祈らずにおれん」

 

怒りの声を上げなかった自分を褒めて欲しい。何故いきなりこんなことを言われなくてはならないのだろう。

分かることは、こいつはやはり僕の敵であるということ。一度として信用したことは無いが、改めて思う。ダンブルドアがこいつのことを信用するのは間違っている。こいつがヴォルデモートやダリア・マルフォイの仲間であることは間違いない。ドラコ・マルフォイとも何かしらの繋がりがあるに違いない。何せこいつは常々マルフォイ兄妹を贔屓していた。こんな男がドラコの何かしらの目的を知らないとはとても思えなかった。

こいつは今でこそ念願の『闇の魔術に対する防衛術』を担当して喜んでいるのだろうけど、喜んでいられるのも今だけだ。何せこの科目は誰も一年以上続けられない。ならばこいつも今年でいなくなるということだ。必ず僕がこいつの尻尾を掴み、僕自身の手で追い出してやる。

僕はそんな決意を胸に、ただスネイプを睨み返す。スネイプは僕が睨み返すものの何も言い返さないことに満足したのか、そのまま周囲に視線を向けた。

 

「さて、いつまでも『選ばれし者』とやらに構ってはおれん。今日諸君達に習得してもらうのは『無言呪文』だ。知っておる者もいるはずだ。特に……ミス・マルフォイ。君はポッターとは違い、全ての科目でO評価であった。何より昔から君は使いこなしていたと記憶している。ならば答えられるはずだな?」

 

「……はい。『無言呪文』はその名の通り、呪文を実際に唱えることなく放つことです。実際に口にするよりも集中力こそ必要ですが、これにより相手に何の呪文かを悟られない利点があります」

 

「実に簡潔でありながら、本質を捉えている。スリザリンに10点を与えよう」

 

僕の大っ嫌いな『魔法薬学』の授業が、そのままこの授業に代わっている。ダリア・マルフォイへの過剰な贔屓。そして、

 

「ミス・マルフォイの答えの通りだ。呪文を声高に唱えることなく魔法を使えば、それだけで驚きという要素の利点を得る。言うまでもなく、全ての魔法使いが使えるわけではない。集中力と意志力。このどちらもが必要だ。残念なことに……吾輩はこのどちらをも持ち合わせておらん生徒を知っている」

 

事ある毎に繰り返される僕への嫌味。

改めてアンブリッジ以上に嫌な教師が担当になったと実感せざるを得ない。唯一アンブリッジより優れていた点は、この後杖を使った実践が行われたことくらいだろう。

 

「悲劇的だ……そう、悲劇としか言いようがない。無言呪文を習得出来たのが、ミス・マルフォイを除けばミス・グリーングラスのみとは。特にポッター……何と言う様だ。まるで集中できておらん。……去年から何も進歩しておらんぞ。これでは閉心術を習得できんはずだ」

 

尤もそんな唯一の利点すら凌駕するマイナス点しかないのだけど。結局授業はほとんどスリザリン生への贔屓と、僕への嫌味に終始したのだった。グリフィンドールで唯一『無言呪文』が出来たハーマイオニーは完全に無視されている。

当然授業が終わった瞬間、僕らグリフィンドール生は一斉に廊下に逃げ出し、そのままありとあらゆる不満をぶちまけた。

 

「遂に『闇の魔術に対する防衛術』の担当になったと思ったらこれだよ! やっぱりスリザリン贔屓のままだよ!」

 

「しかも『無言呪文』だって!? こんなこと出来る魔法使いは大人にだって少ないぞ!」

 

次々とグリフィンドール生が声を上げる中、僕も溜まりこんだ怒りを吐き出していた。

 

「あの『閉心術』の時と同じだ! あんな風に嫌味ばかり言われて、それでも集中なんて出来るかい!? これじゃ『魔法薬学』の時と同じだよ! なんで僕ばっかりこんな目に遭わないといけないんだ! そもそもダンブルドアがあいつを担当に選んだことがおかしいんだ! あいつに『防衛術』を教えさせるなんて! あいつは元々『闇の魔術』を使う側だったんだぞ! それこそ校長は内部に注意しろと言ってたじゃないか!?」

 

正直我慢していた分、許される限りいつまでも文句を垂れ流していたかった。何度スネイプに反論してやろうと思ったことか。

しかし、隣でジッと教室の方を見つめていたハーマイオニーは違う意見を持っている様子だった。

 

「……()()()()()()()()()()()()。何かあったのかしら。いえ……今考えても仕方がないわね。それとハリー。不満なのは分かるけど、スネイプ先生が仰っていたことは全てが全て間違いではないわ。言葉は悪いけど、先生が言いたいことはDAで貴方が言っていたことと同じよ。付け刃の知識ではどうにもならない。結局はその時の勇気と集中力が大事ってこと。それは貴方が言っていたことと同じはずよ。貴方はとても大切なことを言っていた。本人にそのつもりは無いでしょうけど、スネイプ先生はそれを証明したのよ」

 

前半は小声だったため何を言っていたかは分からないけど、後半の言葉は僕を黙らせるには十分だった。

スネイプを褒めるのはどうかと思うけど、僕の言葉を覚えてくれていることも分かったからだ。反論したくとも出来るはずがない。僕はそのまま黙り込み、ハーマイオニーの続く言葉を聞くしかなかった。

 

「それより、次の授業は『魔法薬学』よ。これも私達全員が受けることが出来るわね。スネイプ先生の合格基準は無効になったから、ハリーとロンにも受講資格があるはずよ。二人共直ぐに準備するべきだわ」

 

「え? 僕等も『魔法薬学』に行くのかい? で、でも僕ら教科書すら準備していないんだぜ? それに実は僕、今年クィディッチの、」

 

「言い訳無用! 『魔法薬学』は将来のためになる分野よ! 担任が代わったのなら尚更好都合でしょう!? ほら、さっさと準備するのよ! 古い教科書ならば教室にもあるはず。駄目なら特別に貸してあげてもいいわ!」

 

最後にはロンの言葉を遮り、僕等の背中を叩き始めるハーマイオニー。あまりに強硬な態度に僕とロンは渋々従うしかない。実際、新しい教員はスラグホーン先生だ。授業に出席していた方がダンブルドアの期待にも応えられるだろう。というより、参加する他に方法が無い。乗り気はしないが、先生と親交を持てるかどうかが今後の戦いを左右すると言われれば、僕は黙って従う他ないのだ。

僕は尚心の中で燻る不満を感じながらも、ハーマイオニーに黙って背中を押されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

「……ミス・マルフォイ。残りたまえ。君に少し話がある」

 

「ダリア、私も残ろ、」

 

「すみません、ダフネ。……お兄様もです。先に行って下さい。私も先生と話がありますので」

 

ホグワーツ新学期初日だというのに、本当に嫌になる。私を心配するダフネやお兄様を外に追いやりながら、私は今朝と同じ思考を繰り返す。

本当に何もかもが噛み合わない。ダフネやお兄様。そして……スネイプ先生とも。

今もそうだ。ダフネとお兄様が私のことを心配してくれているのは分かっている。スネイプ先生がこのタイミングで話しかけてくるなど、少しでも裏の事情を知っていればただの教師と生徒の会話でないことは分かる。特にスネイプ先生は、お兄様の暗殺計画の補佐をするとの話だ。

 

『決してダンブルドアに手を出してはいけない。それは貴方達がすべきことではない。大丈夫。代わりにことを成してくれる人はいる。だから……貴方達はただホグワーツでの生活を楽しめばいいのよ』

 

キングスクロス駅でお母様は明言こそ避けていたが、ホグワーツで事を為せる人間などそう多くはない。条件に該当するのはスネイプ先生のみ。人払いした上で話す内容など容易に想像がついた。だからこそ私はいくらスネイプ先生と言えども警戒せねばならず、尚且つお兄様達を遠ざけざるを得なかったのだ。

唯一不可解な点は、

 

「……さて、ミス・マルフォイ。お互い多忙の身だ。その上、君は実に優秀な生徒でもある。説明などなくとも、要件のみ手短に話せば君は理解できるはずだ」

 

何故お兄様ではなく、私を名指しで残したのかということだ。あくまで暗殺計画の主体はお兄様。私が老害の暗殺を企てているのは、別に『闇の帝王』の命令があるからではない。お兄様に殺人など犯させず、尚且つ家族を少しでも守るため。そこに『闇の帝王』の意思など関係ない。だというのに、スネイプ先生は私を指名した。先生が二重スパイであることもあり、私は警戒感を更に高めていた。しかし先生はそんな私に頓着することなく、本当に要件から始める。

 

「先日吾輩の下に君の母親が訪ねてきた。彼女の姉であるベラトリックス・レストレンジと共にな。そこで彼女は吾輩にとあることを求めた。……吾輩が君の兄の計画を手助けすることを。優秀な君であれば、その事実に気が付いておるはずだ」

 

「……えぇ、勿論です」

 

私の考えに先生も気が付いているのだろう。

 

「吾輩がこうして話しかけたことで、より確信に変わったと言ったところか。吾輩が『闇の帝王』の命を受けこうして今もホグワーツに潜伏していると、君は以前から知っていた。ならば君がこの学校における唯一補佐出来る人間であると思い至らぬはずがない。だが、今はそれが本題ではない。君の母親は、更に吾輩に願った。……君が兄の代わりに、あのダンブルドアを殺害することがないようにとな」

 

そしてようやく疑問が解消された。成程、お母様はそんなことまでスネイプ先生に頼んでいたのか。

実にお母様らしい。お母様はやはりどこまでも優しく、私を変わらずただの人間扱いして下さる。私は人間ではなく、ただの()()であるというのに。

 

「……吾輩は昔、ルシウス・マルフォイに世話になったことがある。出来る限りその子供達の面倒を見るつもりだ。だからこそ、吾輩は君の母と『破れぬ誓い』を立てた。マルフォイ家の子供達に危険が及ばぬよう守ること。……君達が無用な争いに巻き込まれぬようにすることを」

 

スネイプ先生の言葉は続き、最後に私の瞳を見下ろしながら締めくくられる。

 

「よって、兄想いである君は不安であろうが、黙って様子を見ておるのだ。これは君の兄が命じられた任務であり、同時に吾輩の任務でもある。君に入り込む余地はない。一年間大人しくしていること。これが吾輩の伝えたかったことだ。質問が無ければ以上となるが?」

 

先生の言いたいことは分かった。

無論先生が全てを話しているとは思えない。特に『破れぬ誓い』に関して、何か重要な情報を隠している気がする。ただ私とお兄様を守るだけであれば、このような仰々しいことを言う必要が無いのだから。お母様に確認しようにも、お母様が正直に話してくれるとは思えない。ならば今気にすべきことは別の事だろう。

私をこの暗殺計画から遠ざける理由。自惚れになるが、お兄様よりは私の方が老害の暗殺に成功する可能性が高い。元々私は暗殺計画に関わっていないが、その上でこうやって態々釘を刺すことには必ず意味があるはず。本当にスネイプ先生がなりふり構わず老害を殺すつもりなら、私を利用しない手はない。

考えられる可能性としては、単純に私とお兄様のことを心配して下さったから。この要素は間違いなくあるだろう。これまでのホグワーツでの生活で、私は散々スネイプ先生のお世話になった。些か偏屈な方ではあるが、確かにいつも私に気を配って下さった。それが表面的なモノでしかなかったとは思えない。その上、先生は『死喰い人』でありながら、()()()()()をしっかりと理解しておられる。それこそ間違いなく、私が先生のことを二重スパイと疑う程に。先生がただの()()()()()()『死喰い人』であるはずがない。ならば一応子供である私を殺人などという行為から遠ざけようとするのは極当たり前のことだ。

だが、それだけが理由であると思える程、私は普通の子供でも、ましてや人間ですらない。

他にも意図があるはずなのだ。先生はこれは自分の任務でもあると言った。それは一体どういう意味なのか。本当にお兄様の代わりにダンブルドアを殺すつもりなのか。そんなことはあり得ない。ならばもっと別の意味が。

尤も、この疑問をここで馬鹿正直に先生に尋ねたところで答えてくれるはずもない。だからこそ、様々な可能性を考慮した末に、

 

「一つだけ質問が。昨日大変興味深い手紙を()()()()頂きましたが……先生の先程の言葉も、()()()()()()()ですか?」

 

先生と同様、相手が予期していなかっただろう質問を投げかけることにしたのだった。

スネイプ先生は私の目的に気が付いていた。ならば老害にも気付かれているはず。つまり奴は私の殺意に気が付いた上で、私を誘っているのだ。最初から分かっていたことであるが、スネイプ先生の言葉でより一層確信に変わった。この際スネイプ先生の意図などどうでも良い事だ。結論は何一つ変わらない。私がダンブルドアを殺す。それ以外の結末などあってはならないのだから。

だからこそ、私は単刀直入に先生の背後にいるであろう老害のことを尋ねる。どこまで私の考えが正しかったかを確かめるために。

そして私の思惑通り、先生は一瞬瞳を見開いた後、即座に無表情に戻り応えた。

 

「……全てが全て校長の指示通りではない。吾輩とてあの老人に渡す情報は選別している。だが、校長は知っての通り『今世紀最高の魔法使い』。吾輩の情報が無くとも、ある程度ドラコ・マルフォイの動向は察しておられる」

 

僅かに動揺したとはいえ、流石はスネイプ先生。今の言葉で私がスネイプ先生のことも警戒していると察したのだろう。だが、それだけでも十分な情報だった。

今手に入る、欲していた情報は全て手に入れた。やはりあの老害は私の殺意に気が付いている。先生の反応はそういうものだ。となれば、老害と会う時の心構えも変わってくる。

やはり一筋縄にはいかない。ただでさえ厄介な相手が、更に私のことをより一層警戒している。心してかからねば。

 

「そうですか。ありがとうございます。確かに先生からのご忠告は聞きました。では、私はこれで」

 

スネイプ先生の言ではないが、私も無駄な時間を過ごすつもりはない。これでスネイプ先生に私が先生にも警戒心を抱いていることは伝わってしまった。今更のことではあるが、これで先生も私に下手に情報を与えようとはされないだろう。

私は先生に頭を下げ、そのまま先生の言葉を待つことなく出口に向かう。しかし、私の背に先生の独り言のような言葉が投げつけられたのだった。

 

「……今の君には信じられぬだろうが、校長からの手紙はただ君を警戒しての物ではない。吾輩は常々感じていた。校長と君はあまりにもお互いを知らぬ、と。実に珍しいことに、校長は今年吾輩の言葉を聞き入れた。少しでもよい。少しだけ、校長の言葉に耳を傾けるのだ。それは君の糧になるはずだ」

 

僅かに足を止める私に先生は最後、

 

「それと最後に……スラグホーンの授業で君は不当な扱いを受けるだろう。君は特別扱いなど求めぬだろうが、気分をあまり害さぬことだ」

 

それだけ言い放ち、振り返ってもこちらに視線を合わせることはなかった。


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