ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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ホグワーツ初めての授業

 

 ダリア視点

 

目が覚めると、そこは見慣れない天井だった。

 

ああ、そういえば、もうここはホグワーツでしたね。

 

そう考えながら、私はゆっくりとした動作でベッドから半身を起こす。

昨日はやはりそれなりに疲れていたのだろう。ぐっすり寝てしまい、少しいつもより遅い時間に目が覚めてしまった。

だがおかげですっかり疲れはとれている。

 

「おはよう……ダリア」

 

ほぼ同時に目が覚めてしまったのか、ダフネも隣で眠たそうに瞼をこすっているのが見えた。

 

「おはようございます、ダフネ。まだ時間はたっぷりあるのに、早いですね」

 

「うん、今日はホグワーツ初日だからね。楽しみで目が覚めちゃった」

 

実のところ、私もそれなりに授業を楽しみにしている。

私が一年生で学べることはほとんどないだろう。だが、お父様やお兄様としか勉強をしたことがない私としては、他の同年代の子供と机を並べるというのは非常に新鮮で、大変興味深いことだったのだ。

私たちが起きて、制服の準備をしていると、

 

「もう朝……?」

 

そう呻きながら、パーキンソンとブルストロードがベットから這い出してきた。

 

「ええ、そろそろ準備を始めた方がいい時間ですね、今日は初めての授業ですし、朝食をとる時間はあった方がいいでしょう」

 

ノロノロと眠たそうに準備をする二人をしり目に、ダフネが話しかけてくる。

 

「ねえ、ダリアはどの授業を楽しみにしてる?」

 

「そうですね、どの授業も楽しみですが、特に闇の魔術に対する防衛術ですかね。ダフネはどうなのですか?」

 

「私もダリアと同じだよ。なんかかっこいいし!」

 

そう言って目をキラキラさせている彼女を見ながら、

やはりとても元気な子ですね

と、昨日思っていたことを再確認するのだった。

 

パーキンソンとブルストロードが準備を終え、同じ部屋の皆で談話室に降りる。

そこにはお兄様、そしてクラッブとゴイル、その他にも二人の男の子がいた。

一人は痩身で寡黙そうな男の子、もう一人は黒人で、なんだか軽そうな雰囲気の子だ。

 

「おはようございます。お兄様」

 

「ああ、ダリア。よく眠れたか?」

 

「ええ、ベッドがよかったのか、ぐっすりと」

 

そう挨拶しあっていると、

 

「マルフォイ……」

 

そうお兄様の横にいた二人が何かせっついている。

 

「ああ、分かっている。ダリア、こっちは僕らと同じ聖28一族のセオドール・ノット。そしてこっちは、家格は劣るが、同じ純血のブレーズ・ザビニだ。二人とも僕と同じ部屋でね」

 

「そうなのですか。初めまして、ノットさん、ザビニさん。私はダリア・マルフォイといいます。以後お見知りおきを。くれぐれも()()()()よろしくお願いいたしますね」

 

私の最後の言葉に気付かなかった様子で、二人は続ける。

 

「こちらこそよろしくお願いします。俺のことはセオドールと」

 

「……ええ、私のこともダリアとお呼びください」

 

「俺のこともブレーズとお願いします」

 

「わかりましたわ、ブレーズ。……あなたもダリアと呼んでください」

 

そう挨拶をかわす私たち。

だが……私は二人とそこまでよろしくするつもりはない。

理由は二人の目だった。

セオドールは聖28一族だけあり、私の噂のことを聞いているのだろう。

その証拠に、お兄様は()()()()()と呼んでいるのに、私にはファーストネームを呼ばせ、私を()()()と呼ぶことが出来るように仕組んでいる。マルフォイ家に近づくだけならばお兄様でもよかったのに、彼は私に優先して近づいている。それはおそらく、親に私に優先して近づけとでも言われたからなのだろう。私を見る目もどこか媚び、探るようなものだった。

性格は寡黙そうなのにご苦労なことだ。

もう一人のブレーズの方は、私が純血だからというより私自身を狙っているような眼をしていることから、家に言われたというより純粋に私を狙っているような気がする。

 

そんな二人にお父様たちから戴いた『ダリア』という名を呼ばれるのも不愉快なのだが、ファーストネームを言われた以上、私もそうするほかない。ここで波風を立ててしまったら、それこそマルフォイ家、そしてお兄様の迷惑になってしまう。ここは我慢するしかない。

 

そう思っていると、私の横で先ほどの二人と同じように、私に期待を籠った視線を向けてくる二人がいた。パーキンソンとブルストロード。ダフネはどうでもよさそうに談話室の中を見回していた。

正直無視してもよかったのだが、これらにも波風を立てるわけにはいかない。私も一応お兄様に紹介する。

 

「お兄様。こちらは同じく私と同じ部屋の、パンジー・パーキンソン、ミリセント・ブルストロード。そしてこっちがダフネ・グリーングラスです。皆同じ聖28一族です」

 

「ああ、そうか。よろしく三人とも」

 

「よ、よろしく。あのドラコと呼んでもいい?」

 

「ああ、構わない。三人とも、僕のことはドラコでいい」

 

わたしとは真逆の状況になってしまったようだ。

そんな中、ダフネだけは無邪気によろしくと言っていた。

 

9人という大所帯で大広間に向かう。

挨拶で時間を少々取られてしまい、朝食をとる時間が少なくなってしまったが、まだ急げば十分に時間があるだろう。

そう思って少しだけ急いで向かっていたのだが、大広間を目前に、同じく朝食を取ろうとやってきていたグリフィンドール生、ハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリーがいたことで雲行きが怪しくなってしまった。

 

「おや、ポッターとウィーズリーじゃないか。ポッター、君はそんな連中と付き合うべきじゃなかった。直それがわかるよ。まあ、それが分かった時にはもう遅いだろうけどね。それとウィーズリー、君も朝食かい?それなら君の家にもぜひ送ってあげるといい。君の家ではさぞごちそうになることだろうからね」

 

「だまれマルフォイ!」

 

お兄様の言葉を皮切りに、お兄様率いる()()と二人の罵り合いが始まる。

 

……お兄様はこの二人が絡むと途端に年相応になるらしい。

だが、同年代の男の子をクラッブとゴイルしか知らなかったお兄様は、反抗してくる同年代というのが新鮮なのだろう。だからこうやって突っかかっていく。

私の前では大人ぶろうとするお兄様が、彼らの前では年相応の子供になる。お兄様はまだ11歳なのだ。子供っぽいところがあって当然だ。

しかし、これではいけない。将来的にマルフォイ家を継ぐのなら、お父様のようにこの手の輩ともそれなりに上手く付き合う必要がある。

昨日今日できた取り巻きを見ても、クラッブ、ゴイルは勿論、パーキンソン、ブルストロードも参戦し、セオドールとブレーズは参戦しないものの、どこか面白そうに見ている。とりあえず止める気はないことは間違いなかった。

私が割って入るタイミングを測りながら、お兄様たちを観察していると、

 

「ダリア、朝食の時間が無くなっちゃうよ」

 

そう、私と傍観を決め込んでいたダフネが私に告げる。

 

「ええ、そうですね」

 

そのことに私も気づき、お兄様を窘める意味を含めて、現在盛大に罵り合っている渦中に身を乗り出す。

 

「な、なんだよマルフォイ妹! なんか用かよ!」

 

喧嘩腰に私に噛みついてくるウィーズリーを無視して、

 

「お兄様、朝食の時間が無くなってしまいますよ」

 

「あ、ああ、そうだな。ふん、お前ら、僕に逆らって、後で後悔することになるからな!」

 

そう言って歩き出すお兄様に、皆ついて歩き始める。

後でお説教ですかね。

 

ふと視線を感じ振り返ると、忌々しそうにこちらを見ている二人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

今日はホグワーツの初日だというのについてない。

ロンと二人で朝食に向かっていると、突然スリザリンの集団がやってきて、

 

「おや、ポッターとウィーズリーじゃないか。ポッター、君はそんな連中と付き合うべきじゃなかった。直それがわかるよ。まあ、それが分かった時にはもう遅いだろうけどね。それとウィーズリー、君も朝食かい?それなら君の家にもぜひ送ってあげるといい。君の家ではさぞごちそうになることだろうからね」

 

そう集団の中心にいたドラコ・マルフォイが喧嘩をうってきたのだ。

ロンは顔を真っ赤にしながら、

 

「だまれマルフォイ!」

 

と応酬し、スリザリンとの罵り合いが始まる。

 

ロンの言ってた通りだった。なんでこいつらスリザリンはこんなに嫌な奴らばかりなのだろうか。

 

そう思っていると、突然、ドラコの方に真っ白な女の子が近づいてくる。

その子、ダリア・マルフォイが、初めて見た時同様の冷たい空気を振りまきながらこちらに近づいてきたのだ。

 

「な、なんだよマルフォイ妹! なんか用かよ!」

 

ロンがそう、彼女に感じるかすかな恐怖を振り払うように叫ぶが、彼女はこちらを一瞥もすることなくマルフォイに告げる。

 

「お兄様、朝食の時間が無くなってしまいますよ」

 

「あ、ああ、そうだな。ふん、お前ら、僕に逆らって、後で後悔することになるからな!」

 

捨て台詞を吐いて去っていくマルフォイに、ダリア・マルフォイが続き、その後に付き従うように……まるで召使のように、他のスリザリン生がつづく。

一人だけ、ダリア・マルフォイの隣を笑顔で歩くスリザリン生もいたけど……彼らが真面な集団でないことは間違いなかった。

 

「まったく、ほんとスリザリン生は嫌なやつらだよな! 特にあのマルフォイ兄妹! 兄妹そろって嫌な性格してるぜ!」

 

そういうロンと彼らの背中を見ていると、ふとダリア・マルフォイが振り返る。

その目は、どこまでも冷たい薄い金色をしていた。

 

やはりその目は以前同様、僕らを人としてすら見ていない冷たさを湛えているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

朝食を食べながらお兄様に言う。

 

「お兄様、彼らと仲良くしろとは言いませんが、あのように突っかかっていくのはどうかと。お兄様は将来マルフォイ家を背負って立つのです。あの手の連中とも表面上は冷静に付き合わなければいけません。お父様だって、あのウィーズリー家と表面上は冷静に付き合っておいでですよ? まあ、会えば嫌味の一つくらいはしておられるみたいですが……それでもいきなり喧嘩を売るようなことはないはずですよ」

 

「気を付ける……」

 

お兄様にも一応御自覚はあるらしい。

お父様もいつもはクールに対応しているのだが、時折顔に青あざをつけて帰ってこられることがある。なんでも冷静になり切れず、いい大人が殴り合いの喧嘩をしたらしい。

ここら辺は血のつながった親子だなと微笑ましくも思った。

 

少しハプニングもあったが、何とか朝食を食べることができほっとしていると、スリザリンの寮監と思しき育ちすぎた蝙蝠のような男が、授業予定の紙をスリザリン一年生に配っていた。

 

「あれが父上のおっしゃっていたセブルス・スネイプ教授かな?」

 

「ええ、スリザリンのテーブルに予定を配っているということは、おそらくそうなのでしょう」

 

そう話し合っているうちに、どんどん彼は私たちに近づいてくる。

 

「お前たちはルシウス・マルフォイ氏の息子と娘か?」

 

「はい、そうです」

 

「ルシウスから聞いている。何かあれば吾輩を頼るがいい」

 

そう私たちに短く言い残し、授業予定を手渡すと次の生徒に予定を渡しに行ってしまった。

 

「いい教授そうだな」

 

「ええ、そうですね」

 

無邪気に喜ぶ兄をみながら、私は少し彼を警戒していた。

一瞬ではあるが、私の手袋を見て警戒した様子だったのだ。

 

表情自体はうまくごまかしていた。だが、視線だけはごまかせない。

その視線は偶然とは言えないほど長い一瞬の時間、確かに私の手袋に注がれていた。

 

いくらお父様のお友達とはいえ、やはりあまり気を抜かない方がよさそうですね。

私の正体を悟られないように、適度な距離を保つ必要がありそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブルス視点

 

入学式の後、吾輩は校長室に呼び出されていた。

 

「ハリーはどうじゃったかの?」

 

「忌々しいあのジェームズ・ポッターそっくりでしたね」

 

ふんっ、と返事をすると、

 

「じゃが、目はリリーそっくりじゃった。じゃろう?」

 

ダンブルドアが答えに困ることを言ってきたのだった。

……ダンブルドアは時折こんな答えに困ることを言ってくる。

そういう校長にだんまりしていると、

 

「そういえば、ミス・マルフォイはおぬしの寮に入ったのう」

 

「ええ、そのようですね」

 

先ほどの、全校生徒と教師に強烈な印象を植え付けた新入生のことを思い出す。

 

その生徒は、その年にして美しいといえる容姿と、どこまでも冷たい表情をしていた。

 

正直、全くルシウスに似ていなかった。

彼、そして彼の妻ナルシッサの特徴を、なに一つもってはいなかった。

一体、あの子はなんなのだろうか。まあ、あれだけ娘の自慢を私にするのだ。純血主義の奴が、どこの馬の骨ともわからぬ子供を自分の娘にするはずがないだろうから……奴の娘ではあるのだろう。

そう思っていると、

 

「あの子のつけている手袋。あれは闇の魔術がかけられておる」

 

そういう校長に吾輩は僅かに気を引き締める。

 

「闇の魔術ですか?」

 

「そうじゃ。効果までは分からんがのう。それにあのオーラじゃ。クィレルも監視せねばならぬ君に負担をかけてしまうが、彼女のことも注意深く見るのじゃ。スリザリンに入った以上、セブルスが一番彼女を見れるからのう」

 

「……承知しました」

 

そう了承し、校長室を後にした。

 

ルシウスとは吾輩が学生の頃からの付き合いだ。彼はスリザリン寮の先輩で、当時色々と問題を抱えていた吾輩の面倒を見てくれた人物だ。

彼との関係は良好だ。仲が良いと言ってもいい。本人の前では口が裂けても言わないが。

そんな彼の娘を疑うのは非常に心苦しいが、持っているものが闇の魔術の道具である以上、寮監としては警戒はせねばならない。

あれほど娘を愛している様子だったのだ、杞憂だとは思うが。

 

なんにせよ、昔からの友人の子供たちなのだ。少しは気にしてみるか。

 

そう思いながら、自室のある地下へ歩いてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

勝手に動く階段、隠し通路、隠し部屋、いたずら好きのピーブズなどといった、様々な仕掛けが新入生を襲う。そのため新入生の多くは授業ギリギリの時間に教室につく、もしくは遅刻する者が大半なのだが、スリザリンにはあまりそんな生徒は存在していなかった。

その理由はスリザリン特有の結束力だ。他の寮と違い、純血というくくりでまとまっているものが多いスリザリン寮は、他の寮と違って皆大体同じ方向を向いており、そのためか他の寮より結束力が生まれやすいのだ。

その上今年を制すれば寮杯7年ということもあり、新入生に徹底してホグワーツの注意事項を伝えていたのだった。

 

初めてのホグワーツの授業は、妖精の魔法の授業だった。

担当の教員は、フィリウス・フリットウィック先生。非常に小柄な先生で、どうやらゴブリンの血を引いているらしい。

ゴブリンも吸血鬼と同じで亜人なのだが、ゴブリンは昔魔法族と色々あったことや、今は銀行を運営して魔法界に貢献していることから、ゴブリン自体には杖を使用する権利がなくても、血を引いているだけなら問題にはならないのだろう。

まったくうらやましいことだ。

 

「さて、新入生のみなさん! 私が妖精の魔法を教えるフィリウス・フリットウィックです!」

 

先生はそう机の上に積み上げられた本の上に立ちながら自己紹介をされる。

 

「妖精の魔法は三年生で君たちの習いだす、呪文学の入門です! この授業では魔法を実践で行っていきますので、皆さん楽しく魔法を学んでいきましょう!」

 

授業の内容は私からしたら非常に初歩的で、内容自体は復習にもならないようなものだったが、授業は分かりやすく、そして面白いなど、大変生徒たちのことを考えている素晴らしい授業だった。

私は一発で呪文を成功させた上、それが()()()()だったので先生は大変驚き、そして大変うれしそうにしながら点数と飴をくれた。

 

そしていくつかの授業で、はじめに、そして完璧にそれらの授業の課題を成功させ、スリザリンの点数を増やし続け数日。

 

そんなある日、ついにその日がやってきた。

 

それはホグワーツ最初の週の木曜日。

私は正直、この学校に来て一番楽しみにしていた授業が『闇の魔術に対する防衛術』だった。

 

闇の魔術を愛する自分としては、その対抗手段も研究内容の一環であり、さぞ初歩的ながらも勉強になることだろうと思い、非常に()()()()()()()()

 

そう、()()()()()()()()。この時までは。

 

最初に違和感を覚えたのは、闇の魔術を教える教室のある廊下だった。

何か強烈な異臭がするのだ。

私のいつもの無表情が明らかな不快な顔になったことに、一緒にいたお兄様達が気づく。

 

「ダ、ダリア? どうしたの? すごい顔してるけど」

 

最初にダフネが心配そうに尋ねてくる。

 

「いえ、なんだかここ、ひどく匂いますので」

 

「そ、そう。確かにちょっと変な匂いはするけど」

 

そう言いながら教室に近づくのだが、匂いはさらにひどいものになってゆく。

 

「ダリア、大丈夫か?」

 

お兄様もその匂いが強まったことにより、匂いの正体に気付く。

心配そうに話しかけてくるお兄様に、

 

「……はい、大丈夫です。お兄様……」

 

そうお兄様に心配をかけまいと返事をするのだが、正直、頭がクラクラしそうな程匂う。

なお心配そうにこちらを見ているお兄様をしり目に、教室のドアを開ける。

そこにはこのひどい匂いを垂れ流す、ターバンをかぶった男が立っていた。

 

「や、やあ、い、一年生のみ、みなさんですね。せ、席につ、ついてくれ、くれますか?」

 

そうひどくどもりながら、臭い教師が一年生たちを席に促す。

 

「わ、わたしは、こ、この授業をた、担当します、クィ、クィリナス・クィレルと、い、いいます」

 

そう自己紹介をするのだが、私は正直それどころではない。

鼻で息をせず、口で息をすることでごまかしているが……それでもまだ臭いものは臭い。

 

何故こいつはこんな匂いを垂れ流しているのだろうか。

 

「ダ、ダリア・マル、マルフォイさん。な、なにかありましたか?」

 

入学式からの無表情が消えひたすら不快そうにしている私に、そう怯えながら先生が話かけてくる。そんな彼に、

 

「では一つだけ。なぜ、()()()()()()()をさせているのですか?」

 

私はひたすら臭いを我慢しながら尋ねた。

そう鼻声で問いかける私に、ヒーっと叫んでから、

 

「わ、わたしは、く、黒い森で、吸血鬼に、あ、会いまして、そこで……」

 

青い顔をして、そこから先は怖くて言えないとでもいうような態度をとるのだった。

 

授業である以上、私はこれに出席しなければいけない。お父様に言おうかとも思ったが、そもそも教師の任命権は校長にあって、理事にはない。ターバンをはずさせようにも、ただ臭いという理由では無理だろう。詳しく説明したら、私の秘密の方が露見しかねない。

 

ダフネとお兄様が心底不快そうな表情をしている私に心配そうな視線を送ってくるが、それに心配ないとジェスチャーで返す。

 

 

 

 

こうして、私の一番楽しみにしていた授業は、一番楽しくない、拷問の時間に変わったのだった。

 


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