ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ハーマイオニー視点
「シリウスが……シリウスが攫われた! あいつに! ヴォルデモートに! ぼ、僕、今すぐ助けに行かなくちゃ!」
ようやく全ての科目が終わったOWL。勿論全てが全て完璧なはずもなく、私自身でも後から気が付いてしまったミスがいくらでもある。それはある程度仕方がないことは分かっているのだけど、この試験が一生に関わると思えば、心底穏やかでいられるはずもなかった。
でも……目の前で突然叫び始めたハリーの言葉を聞いた瞬間、流石に試験のことばかり考えていられなくなったのだった。
今も人目をはばからず大声を上げるハリーの言葉を受け、私は急速に冷える思考を巡らせる。
シリウスが攫われた? 一体どういうことなの? 彼は『不死鳥の騎士団』本部……グリモールド・プレイスにいるはず。彼は未だに指名手配中のため外に出ることは許されておらず、尚且つ本部は魔法によって守られている。なのに何故彼が攫われたりしたの?
そこまで私は考えた後、ようやく今私がすべきことに気が付く。
ハリーの言っていることが事実かどうかは、今考えるべきことではない。ハリーがどうやってその情報を知り得たかは今更のことだ。私が今すべきことは、この大勢の注目が集まる場所から一刻でも早くハリーを遠ざけること。
恐慌状態の今のハリーなら、どんな機密情報を叫んでもおかしくはない。少なくともシリウスの情報が既に機密情報なのだから。
そのことに思い至った私は即座にハリーの口を塞ぎ、そのまま周りの視線から逃れるために近くの空き教室に入る。鈍感なロンも流石に今のハリーと私の鬼気迫る空気に気圧されたのか、黙って私達の後に続いていた。
ここでなら少なくとも話の内容を誰かに聞かれることはない。ハリーが大声を上げた現場を見られはしたけど、あの場には幸い『高等尋問官親衛隊』はいなかった。なら致命的な失態にはならないはず。私はそこでようやく人心地つき、ハリーに続きを促す。
「ハ、ハーマイオニー! 何するん、」
「ハリーこそ、あんな人目のある所でシリウスの名前を出すなんて! 彼は指名手配中なのよ! もしアンブリッジの耳にでも入れば、取り返しのつかないことになるわ! ……でも、今それを言っても仕方ないわね。ハリー、それでシリウスがどうしたの?」
「そ、そうだ、シリウスが……シリウスがヴォルデモートに捕まった! あいつに拷問を受けてるんだ! 僕、今さっき
目の前のハリーは再び叫び、頭を掻きむしり始める。よく見れば膝は震え、声もどこか震えたものだった。
挙句の果てに、
「場所は……そうだ、あいつは『神秘部』にいるって言ってた。そこがどこか……ううん、そんなことは今は後回しだ。と、とにかく僕は今すぐ助けに行かないと! ハーマイオニー、それにロン! ど、どうやったらそこに行けると思う!?」
そんなことを言い出すのだから、もはや冷静な思考が出来る余地はハリーに残ってはいないのだろう。
……だからこそ、ハリーの剣幕に私の思考は逆に冷静なものになっていくようだった。先程までただOWLのことばかり考えていたのが嘘のようだ。突然の事態に思考が完全に追い付いているとは言い難いけど、それでも現在の違和感に気が付くことは出来ている。
ダリアのことで、私は散々予想不可能且つ、突然の事態に対処を迫られてきた。今まで自分の行動が成功した例なんて一度だってないけれど、不測の事態にはある程度耐性が出来つつあるのかもしれない。
私は完全に冷静さを失っているハリーに、なるべく冷静さを意識しながら尋ねた。
「ハリー、まずは状況を整理させて。私達は今しがた試験を終えたばかりで碌に状況を理解していないの。シリウスが『例のあの人』に捕まった。それはまた夢で見た光景なの?」
「そ、そうだよ、だから僕、」
「そう、それはいいわ。で、どうしてそこが『神秘部』って場所だと分かったの?」
「そ、それも今見たからだよ! あいつがシリウスを拷問する時、ここは『神秘部』だって
そこまで話して、私は何とはなしに違和感の正体に気付く。
要するに……何か簡単すぎる気がしたのだ。ハリーの夢はいつだって唐突で、私達には到底理解できるものではなかった。全てを理解できていたのは、それこそ全ての事情を知っているであろうダンブルドアだけ。なのに今回は、全てがお膳立てされたかのように単純明快だった。
偶然であり、幸運だったと言えばそれまでだけど、それにしては違和感がありすぎる。
まるで……誘導されているかのような強烈な違和感を覚えてしまう。
それに一度違和感を感じてしまえば、更に様々な疑問が浮かんでくる。そもそも何故シリウスは捕まったのだろう? 彼の性格上、遂に我慢できずに外に出たところを捕まったと考えれば辻褄があうけれど……そこまで簡単に捕まるだろうか。彼は『動物もどき』。外に出るにも変身するくらいの判断力はあるはず。それがこうも易々と捕まってしまうのは違和感がある。
そして場所。ハリーは『神秘部』と言っていたけど、それは私の記憶が正しければ魔法省の一部所だ。『死喰い人』が魔法省の中で何か探しているのは、グリモールド・プレイスで盗み聞いた騎士団内での会話で何とはなしに気が付いている。でも、それにしたってこうも簡単にその詳細な場所まで掴めてしまったのはどうなのだろうか。
ハリーも含めて『神秘部』について今まで知り得たメンバーはいない。最初から知っていたのは『不死鳥の騎士団』の正式な団員のみ。なのにここにきて突然、それも夢なんていう曖昧な根拠で知った。
これで違和感を感じない方がどうしている。私はダリアに関わる多くのことで、ただ思いや感情だけで動いても良い結果にならないことを学んだ。私は常に考え続けなくてはならない。どんなに考えても正しい結果に辿り着けるとは限らない。でも、それでも考えることを止めてはならない。それが失敗続きな私にも残された最後の意地だった。
尤もそんな私の最後の意地も……今のハリーの前では無意味だったけれど。
「まずは落ち着きましょう。貴方の言葉にはいくつもおかしな点があるわ。まず、」
「おかしな点!? おかしなだって!? ハーマイオニー、君は今の状況を理解してない! 確かに僕の夢はおかしいことだらけさ! 何故僕がこんな夢を見たのか分からない! ダンブルドアは閉心術が必要って言ったけど、理由は最後まで言ってくれなかった! でも僕の夢はいつだって真実だった! 僕の夢のお陰でウィーズリーおじさんは助かったんだ! あのままではおじさんは死んでた! 今回も同じだ! それも今回はシリウスが! 僕の唯一家族と言える人が、今この瞬間も危険な状態なんだ! それを君はおかしな点と言ってるんだ! 僕等はこんな風に悠長に話し合っている場合ではないのに!」
捲し立てるような言葉。しかもウィーズリーさんに言及したことで、今まで戸惑うだけだったロンまで納得した表情を浮かべ始めている。私の反論でより一層ハリーは興奮してしまった。
私にもハリーの気持ちは分かる。ハリーが今見たのは、自分の名付け親の危機だ。今一緒に暮らしている家族と馴染めていない中、彼だけがハリーの家族であるのは間違いない。そんな彼が危機に瀕して……それも拷問にかけられようとしているのだ。冷静でいられるはずがない。
でもそれが分かっていても、私は考えることを止めずにはいられない。シリウスが捕まったという危機感以上に、私はどうしようもなく違和感を覚えてしまっているのだ。
このまま勢いに任せれば、間違いなく私達は後悔することになる。そんな気がして仕方が無かった。
このままでは私がどれ程反対しても、私を置いてハリーが暴走しかねない。だから私はこのままここで真偽を議論しても逆効果だと判断し、せめて時間稼ぎと方向転換を図ることにした。
「……分かったわ。でも、私達がすべきなのは、まず『不死鳥の騎士団』の誰かに連絡することよ。そうすればシリウスの安否を確認することも出来るわ。もし捕まっていたとしても、彼らがまず対処することが出来る。ダンブルドアとハグリッドは今はいない。いるのはマクゴナガル先生と……スネイプ先生ね。まずは彼等のどちらかに連絡しましょう」
「……分かった。ならマクゴナガル先生の所に行こう。スネイプに言っても取り合ってくれない。それに僕がまた夢を見たと言ったら……あいつは何だかんだ言って無駄な時間を使うと思う。だから今すぐマクゴナガル先生に会いに行こう!」
流石に冷静さを失っていたハリーも、私の提案には聞くべきところがあると判断してくれたらしい。酷く焦っているのは変わらなくても、現状取れる最良の手を選んでくれた。
私達は空き教室を出て、マクゴナガル先生がいるであろう教員室に向かって走り始める。
ハリーの夢が罠であれ真実であれ、私達だけで事態を判断していいはずもなく、解決するための力もない。だからこれが私達に出来る最大限のことなのだ。後はマクゴナガル先生が判断してくださるはず。もしかしたら未だ逃亡中のダンブルドアに連絡を取ってくれるかもしれない。最悪でも騎士団の誰かには知らせて下さるはず。
その上でハリーの夢が真実であるかが分かるのだ。
だから私達はまず……一刻も早くマクゴナガル先生の下へ。
なのに……
「マ、マクゴナガル先生! 先生に知らせなくちゃ、」
「あらあら。どうしたのです、そんな風に慌てて。それに……知らせなくては? あらあら、一体何を知らせるつもりなのかしら?」
教員室にはマクゴナガル先生と共に、あのアンブリッジもいたのだった。
ネビル視点
「アンブリッジが一緒なら、マクゴナガル先生に相談するのは絶対に無理だよ! 無理やり引き離そうにも、僕等が先生に話したいことがあると知られてしまった! あの女が先生から離れるはずがない!」
「だからスネイプ先生に、」
「論外だ! あいつに話しても鼻で笑われるだけだ! これ以上時間を無駄にするわけにはいかないんだ! 他の先生にも
僕が大声で議論しているハリー達を見つけたのは偶然のことだった。OWLがようやく終わった後、僕は解放感のまま城の中を歩き回っていた時……突然廊下に口論をする声が響き渡ったのだ。しかもそれは僕がよく知った人達のもの。何となく皆の様に外に出る気持ちも湧かず、ただ気の向くまま……いや、
僕が声のしている方向に向かうと、やはり思った通りの人物達がいた。酷く興奮した様子のハリー、どこか戸惑った様子のハーマイオニーとロン。
「それでもまずは相談なり、情報集めをするべきだわ! 行くのは最後の手段よ!」
「でもだからって、」
「ちょっと皆、ど、どうしたんだい? そんな大声出して」
だから僕は三人に話しかける。この三人が口論しているということは、それはきっと重大な事に対してなのだろう。でも今の三人の様子からあまり口論がいい方向に行っているとは思えなかった。僕が加わった所で役に立つとは思えないけど、せめて興奮した……どこか苦しそうなハリーの相談に乗るくらいなら出来るはずだ。
尤も僕の行動がただの余計なお節介になる可能性もある。事実僕が話しかけたことで、三人は一斉に困惑した態度になってしまったのだ。
「ネ、ネビル。い、いつから聞いていたの?」
「いや、何も聞いてないよ? で、でも皆が困ってそうだったから、僕も力になれればと思って……。ぼ、僕なんかじゃ役立たずだとは思うけど」
ハーマイオニーの質問に答えても、三人はどこか浮かない顔で視線を交わしあっている。でもやはり重大な困りごとだったらしく、ハリーがどこか渋々と言わんばかりの態度で話し始めた。
「いや、ネビル。ありがとう。実は僕ら……いや、僕は直ぐに行かないといけない所があって。僕の大切な人があいつに……ヴォルデモートに捕まってしまったんだ! だから助けに行きたいけど、その前にマクゴナガル先生に相談しないといけないと思って……。でもマクゴナガル先生の傍にアンブリッジがいて、他の先生の近くにも
聞いた瞬間、何故彼らが僕に話そうか悩んでいたのか分かった。どうしてそんなことになっているのか分からない上、どうやってそのことをハリーが知り得たかも分からない。でもハリーが焦っているのは確かだし、ハリーが突拍子がなくても真実を言っていたことは何度もある。クリスマスの時が当にそうだった。なら今僕がすべきはハリーに疑問を投げかけることではない。そんなことはハーマイオニーが散々したはず。なら僕はただハリーのことを信じるべきだ。ハリーも僕を信用して話してくれた。こんな何も出来ない僕のことをだ。なら僕もその信頼に応えなくてはいけない。
「ネビル、これには事情があって……つまり、」
「いいよ、ハーマイオニー。説明している時間は無いんだよね? で、僕には何が出来るかな? 僕が出来ることだったら協力するよ」
ハーマイオニーが気を利かせてくれるけど、僕はただハリーを見つめながら応える。
「驚いたわ。……本当に変わったわね、ネビル。これもダフネのお陰かしら」
それに対してハーマイオニーも何か小声で呟いていたけど、すぐに気を取り直して続けるのだった。
「ネビルも加わってくれたことで、出来ることは少し増えたわね。本当はまず先生に話してからと思ったけど、こうなれば仕方がないわ。まずネビルはDAメンバー……そうね、ルーナとジニーを探してくれる? ルーナは事情を覚えている一人だし、ジニーはハリーに家族を救われたことがある。だから彼女達ならすんなり協力してくれるはず。今は事情を知っている人が一人でも欲しいわ」
一呼吸置いた後、更に彼女は続ける。
「彼女達に声をかけ終えたら……そうね、アンブリッジを見張っておいてくれないかしら。それでマクゴナガル先生からあの女が離れたら、先生に伝えて。シリウ……本部の人、そう本部の人が捕まったって。至急確認して欲しいと伝えてくれるかしら?」
「うん、分かった。それくらいなら僕にも出来そうだよ。それで君達はどうするの?」
「……私達は別の方法で確認を取ることにするわ。フクロウでは時間がかかるから……何か他に方法が? 本部と連絡……いいえ、確認だけでいいはずよ。でも方法が……いいえ、そうだわ。確かハリーが以前、対抗試合の時、
そのまま考え込み始めてしまったハーマイオニー。何だか時間がかかりそうだ。尋ねたのは僕だけど、もう彼女は僕の方を見ずに考え込んでいる。だから僕は、
「じゃ、じゃあ、僕は先に行くよ!」
「あ、ありがとう、ネビル! こんなこと突然頼んだのに、」
「いいよ、ハリー。そのためのDAだったんだから! 僕も君の役に立ちたいんだ!」
そのまま彼等と別れ、僕は即座に大広間に走る。ジニーはともかく、ルーナがどこにいるか見当もつかない。でも幸いもう少しで食事の時間でもある。可能性が高いとすれば大広間だろう。ジニーは大広間が駄目なら談話室だ。だからまずはルーナを捕まえるため、僕は大広間に向かって走り始めたのだ。
今ハリーに何が起こっているのか正直よく分かっていない。ハリーの大切な人が誰なのかも、三人は明言をさけていた気もする。それでも今大変なことが起こっているのだけは確かなのだ。新聞でも城の外で事件が起こっているのは知っていたけど、今この瞬間、遂に僕等の身近に事件が起こったのだ。
『例のあの人』……闇の帝王によって。僕のパパとママを拷問した『死喰い人』によって。
僕は臆病で無能な人間だ。でも僕にだって戦わなくてはならない時くらいわかる。そのためのDAであり、そして今こそ戦うべき時が来たのだ。ならば今は事情を考えている場合ではなく、ただ行動を起こすべきだ。
だからまずは大広間に向かって走る。ハーマイオニーの指示を実行するために。
その行動が無駄になるとも知らずに……。
ダフネ視点
OWLが終わった直後、談話室には今『高等尋問官親衛隊』のメンバーが全員集められていた。
他の生徒は誰一人としていない。いるのはただ親衛隊のメンバーのみ。他の生徒は皆、それこそ下級生も含めてどこかに逃げてしまった。親衛隊メンバーも、
「そ、それで、どうして私達はここに集められたの? 折角OWLが終わったのに、どうして私達は談話室に集められているのかしら?」
勇気があるのか、もしくは蛮勇の塊なのか分からないパンジーしか言葉を発していない。声を出したパンジーですら、顔を恐怖に引きつらせている。
それもそうだろう。何故なら、今彼女達の目の前で一人ソファーに座るダリアは……肌で感じられる程冷たい空気を醸し出していたから。
それこそピクシーを殺しつくした時と同じくらい張り詰めた空気を垂れ流している。しかも今まで閉じていた目を開けた時、
「っ! ダ、ダリア、わ、私そんなつもりで、」
「単刀直入に言います。貴女達にやってもらいたいことがあるのです」
ダリアの目は、まるで血の様な赤色に染まっていたのだ。
彼女の目を見た瞬間、ダリアの隣にいるドラコと私以外のメンバーは全員体をこわばらせる。表情こそいつもの無表情ではあるけど、その空気は怒り狂った時のダリアと相違ないものだった。
ダリアは親衛隊員に冷たい視線を向けながら続ける。
「私が貴女達にお願いするのは極々簡単なことです。今から一人一人が教員を監視するのです。方法は問いません。試験のことで質問する、ただ傍にいる。どのような方法でも構いません。ただポッターが……いえ、グリフィンドール生の誰かが教師と接触するのを妨害してください。そしてもし彼らが接触した場合、直ぐに私に知らせる。貴女達にお願いしたいのはただそれだけです」
何の脈絡もなく、ただただ突然の命令に親衛隊メンバーは困惑している様子だった。しかしそれでも疑問を差し挟まないのは、偏に今目の前のダリアの空気が反論を許さないものだからだろう。反論しようものならどんな呪いをかけられる分からない程の冷たい空気だ。無論私はダリアがそんなことをしないと知っている。でもそんな私でも、簡単には口をはさめない程の緊張感だった。
「これは……そう、命令。親衛隊隊長からの命令と受け取っていただいて構いません。もしこれに、」
「わ、分かったわ! か、監視すればいいのよね! やるわよ! い、今すぐに!」
だからこそパンジー達は疑問を口にするでもなく、まるで逃げるように談話室から走り出していった。今の彼女達であればダリアの命令に忠実に従うことだろう。たとえそれがどんなに要領を得ないものであったとしても。
談話室に残されたのはダリアとドラコ、そして私のみ。ここでようやく私は口をはさむ機会を得た。冷たい空気であっても、私はダリアのことを信じている。でもパンジー達がいては聞くことは出来ない。でも今しがた彼女達はいなくなった。残ったのは、ダリアが本当に信じてくれている人間のみ。ならば今ここで私は尋ねなくてはいけない。
それがどんなに過酷な現実であったとしても。
「ダリア……OWLが終わった後、
正直聞きたいことは他にも山程あった。何故あのような命令を? どうしてそんな
でも結局私が口にしたのは、本当に聞くことのみだった。
ダリアの様子が変わったのは、それこそOWL直後のこと。ダリアは
ダリアは普通の人間とは違う。口が裂けてもそんなことを言うつもりはないが、身体面だけを見れば決して平凡な物とは言い難い。吸血鬼と闇の帝王の血を混ぜた体。その精神は普通の女の子のものだと私は知っているけど、体のことを考えるとどんな可笑しな起こってもおかしくはない。だからこそ、私は単刀直入にダリアが今不安に思っているだろうことを尋ねたのだ。何もないというのに倒れ、尚且つその後に豹変することなんてあり得ない。
ダリアは確かにあの瞬間、倒れた瞬間に何かを知り得たのだ。ダリアがここまで余裕を無くさなければならない何かを。
だから私はまずそれを尋ねた。ダリアを独りなんかにしない。OWLが終わった解放感などどうでもいい。私にとって優先すべきはダリア以外の何物でもない。私がどんなに愚か者で無能な存在であったとしても、この気持ちだけは決して間違えたりしない。
でも……結局ダリアの答えは、
「……別に大したことは。ただ……私は今必要なことを為すべきと考えただけのことです。大丈夫です。何があっても、私が必ず貴女達のことを守ります」
そんな何もかもを隠したものでしかなかった。
「ダリア、それじゃあ答えになってないよ……。約束したでしょう? もう隠し事は、」
「いいえ、知らない方がいいこともあるのです。知れば貴女は……私と同じ立場になってしまう。だから貴女とお兄様はここにいて下さい。……私はもう行きます。時間が無いので」
そしてそのままダリアも談話室を出て行こうとする。当然私もドラコも彼女に続いた。
ダリアの答えに納得できるはずがない。今のダリアはどう考えてもおかしい。最近はいつだって張り詰めていたけど、今は特に雰囲気がおかしかった。
何かが……今この瞬間も、決定的な何かが起こったのだ。ダリアの様子からそれがうかがい知れた。
今これ以上ダリアに事情を聴いたとしても、頑固なダリアが答えてくれるとは思えない。余裕のないダリアの時間を余計に奪うだけになるだろう。でも、それでもダリアを一人にする選択肢などない。
しかもダリアは後ろに続く私達を一瞥し、溜息を一つ吐いたものの、そのまま談話室の出口を目指し歩き続ける。もはや私達を説得する時間すら惜しいということなのだろう。
私はダリアの背中を見つめる。その同年代からすれば少し小さく思えるようになった背中を。
小さいながら、どこまでも大きく重いモノを背負わされている背中を……。
何が起こったのかは分からない。私達に出来るのは、今現在においては結局のところダリアについていくことだけだ。でも、いつかは必ず……。
私は絶対にダリアを裏切らない。
私はダリアの背中を見つめながら、そう改めて心に誓うのだった。
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