ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
チョウ視点
私は決して特別なんかではない。
マリエッタは私のことを
自分自身の容姿が優れていることは自覚している。自惚れていると言われたらそこまでだけど、私の長所を態々貶めるつもりはない。
でも私が本当に自信を持てるのはそれだけ。成績も上位に入っているけど、それは陰で努力しているから。それも本当の天才には遠く及ばない。
そう……私は彼女、ダリア・マルフォイの存在を知って、自分の器の程度を自覚したのだ。
本物の特別とは一体何
私がまだ二年生の時。私がまだ自分を特別な存在だと信じて疑っていなかった時。私は学年で一番の成績で、容姿も他の子と比べて優れていた。今当時の私を振り返れば、ハッキリ言って増長していたと思う。けれどそれを外に出さない努力をしていたし……それ故に内心更に増長しきっていた。成績、容姿、そして性格がいい私。こんな生徒は他にはいない。それが私の自身に対する評価だった。一年生の時から私のホグワーツ生活は絶好調。レイブンクローどころか、他の寮生も私に一目置いてくれている。自分が特別な存在だと信じて疑っていなかった。マリエッタには悪いけれど、内心最初は彼女のことを友人だとは思っていなかった。ただ私の周りを彩るモノの一つ。笑顔と優しい言葉一つで簡単に手に入る人達。そんな人達に囲まれている私のホグワーツ生活は、これからも変わらず素晴らしいものだと信じていたのだ。
しかしその評価を一瞬で打ち砕く存在が現れることになる。それも二年生の始めも始め。新入生組み分け時のことだった。
あの時のことは今でも鮮明に覚えている。と言うより、あの場にいた人間なら忘れることなど出来ないだろう。
前に歩み始めた瞬間、大広間中の視線を一身に集める存在感。冷たく、まるで私達のことなんてそこら辺の石ころくらいにしか思っていない無機質な瞳と表情。それなのに目を離せない程美しい顔立ち。
同じ人間とは到底思えない程、その場にいるだけで空気を変えてしまう
それが私が……いえ、大広間中の人間がダリア・マルフォイに抱いた感想だった。だからこそ理解したのだ……本当に特別な人間というのは彼女の様な人のことで、決して私ではないのだと。正直なところ、あの『生き残った男の子』よりも強烈な印象を植え付けられたと思う。それがいいか悪いかはともかく、その場の注目を一身に集める存在感。私はあそこまで突き抜けた存在ではない。
そして学年が上がる度に、彼女への第一印象は決して間違ったものではなかったと証明されるのだ。一年生の時は容姿と成績で、二年生の時は『継承者』として。否が応でも学校中の生徒がダリア・マルフォイの名前を耳にし、彼女が二年生の時に至っては全員が恐怖のどん底に陥っていた。それこそ彼女の名前を聞かない日なんて無かった。
私は心のどこかで理解した。私は特別なんかではないのだと。
特別という名の
私の中にあった自信はいつの間にか砕け散っていた。
尤もそんな現実を理解しても、私は直ぐにはそれを認めることは出来なかった。
ダリア・マルフォイは確かに特別な人間だと思う。でも、それは決していい意味ではない。その場にいるだけで他者に不安と恐怖を与える。それこそ私が4年生に遭遇した『
私は彼女とは違い、
特別な人間のガールフレンドになれば、私も特別になれる。彼に恋するのではなく、恋に恋していた。心の中のどこかで、彼をただの道具としか見ていなかった。
そう今になれば、当時の私を振り返って自覚できる。でも当時の私は真剣に彼に恋していると思っていた。
ハリーにはとても申し訳ないけど、私は自分自身に思い込ませていた。彼の特別性を間接的とはいえ手に入れれば、今度こそ私も特別な存在になれるのだと。
本当に愚かだったと思う。
でも当時の私は真剣だった。本当の意味で他者を思いやることなど出来てなどいなかった。私は成績、容姿はともかく……性格は特別とは遥かに遠く及ばないものだった。
あぁ、だから当然だったのだろう。私の歪みが一人の男子生徒を
私が彼を……セドリック・ディゴリーを殺したのだ。
私はハリーのことが好きだった。いえ、好きだと信じ込んでいた。そんな中でも、自身に向けられた好意には気付いていた。それも一人だけではない。特別であるダリア・マルフォイと違い、私は万人が理解で出来る範疇の人間だ。その時点で特別などではないのだろうけど……だから彼女と違い、私は異性から純粋にモテていた。そんな私に惹かれている中の一人がセドリック・ディゴリー。私に好意を抱く多くの生徒の中で……ハリーを除けば一番特別に近かった男子生徒。
容姿も成績も優れており、尚且つホグワーツ代表選手として選ばれるほど勇敢な男子生徒。
自惚れでなければ、そんな彼は私のことを好きでいてくれた。数いる生徒の中から、彼は私をダンスパートナーに誘ってくれた。彼は私のことを好きでいてくれて、その上行動までしてくれたのだ。
揺らがなかったと言えば嘘になる。彼のことが好きだったかと言えば違うと思う。でも、ストレートに行動を移されれば思うことがないはずがない。彼は代表選手であり、ダンスパートナーに誘えば誰でも応じたはず。それこそあのダリア・マルフォイだって頷いたかもしれない。それなのに、彼は私を選んでくれた。それはどんな告白よりも嬉しいことだった。
……しかし私は結局彼の好意を知っておきながら明確な答えを出さず、ただ放置して彼の反応を楽しむだけだった。それを不誠実だとも思わず、ただ彼の気持ちを弄んでいたのだ。
代表選手にダンスに誘われた私。彼の大切な人として人質に取られた私。彼のことなんて全く見ていない。ただ彼を通して理想の自分を見ているだけ。
私はどうしようもなく愚かで……醜い人間でしかなかった。
セドリック・ディゴリーが殺されてしまったのは私のせいだ。直接的に何かしたわけではないけど、もし私が彼にしっかり向き合っていれば、彼の運命は変わっていたかもしれない。集中力、思考力。私が彼の足を引っ張っていたかもしれないのだ。私の存在がなければ……彼は僅かな運命の変化で、もしかしたら生き残っていたかもしれない。
これが自意識過剰な考えだとも分かっている。他人からしたら、それこそ悲劇のヒロイン気取りかと思われることだろう。でも彼がいなくなった時。唐突にそれこそ永遠に会えない存在になった時、私は無視し続けていた僅かな罪悪感を直視せざるを得ず……結果そういった『
彼が殺されても、自分は関係ないと言えるだけ厚顔無恥であれば……何も悩まずにいたのかもしれない。そんな人間には決してなりたくないけれど。
だから当然、ハリーに
私の記憶に残っているのは、ハリーが作った『ダンブルドア軍団』最初の集会に行った時の記憶のみ。セドリックが殺されても、ハリーへの恋心は残っていた。でも彼と付き合い始めた記憶は全くない。ハリーはクリスマスから付き合っていると言われたけど、彼の言葉を聞いても困惑は増すばかりだった。
ハリーの言葉で何が正しくて何が間違っているか分からなくなるばかり。ただでさえ記憶にない出来事を語られて混乱するのに、その出来事があまりにも恥知らずなもので……正直身の毛がよだつ思いだった。
私はどんな心境でハリーと付き合っていたのだろうか。流石にセドリックへの罪悪感を完全に忘れ、ただ恋にうつつを抜かしていたとは思いたくない。
……でもハリーの話で、同時にこうも思ったのだ。
あぁ、これでハリーに対する
困惑と自己嫌悪を感じると同時に、どこか安心している自分がいることに驚く。
それも、
『私が言えたことではないですが……貴女はもっと友人を大切にすべきです。愚かなごっこ遊びではなく、貴女は身近な人をこそ大切にすべきです』
数日前にあのダリア・マルフォイに言われた言葉を思い出しながら。
彼女に突然話しかけられた時は恐怖しか感じなかった。けど、何故かハリーの言葉を聞いてから、私の心に棘の様に刺さり続けている。
あの冷たい瞳に何もかもを見透かされている気がした。ハリーとの記憶こそ失ったままだったけど、私はセドリックが殺されてから感じ続けていた罪悪感を思い出し……そしてようやく理解したのだ。
結局のところ、自分自身を誤魔化すのはもう限界だったのだ。特別な何かになりたくて、ハリーやセドリックに惹かれても……私自身が特別になれるわけではない。私は結局のところ、どこにでもいる普通の女の子なのだ。
特別とは一体何であるかようやく理解する。ハリーとセドリック、そしてダリア・マルフォイ。彼らにあって私にないもの。それを私はようやく理解した。
特別な人間は、常に特別であるが故に刺激的で冒険的で……非日常的な死と隣り合っている。『生き残った男の子』であるハリー、継承者であるダリア・マルフォイ。そして殺されてしまったセドリック。彼らはいつだって事件の中心におり、それ故死の身近にいる。訳も分からず流されている私とは違う。
私には……自分や誰かの死と向き合う覚悟などありはしなかったのだ。注目ばかり集めることに必死で、自然と注目される人達の本質を理解しようともしていなかったのだ。
困惑や自己嫌悪、そして全てが終わってしまったことに対する僅かな諦観と安心感。
『貴女はもっと友人を大切にすべきです』
私は何度もダリア・マルフォイの言葉を思い出しながら考える。
あぁ、本当に彼女の言う通りだ。セドリックが殺される要因を作ったのに、それを自覚しながらハリーに惹かれ、最後までみっともなく執着した。そしてその歪みが結局色々なものを犠牲にしてしまった。ハリーの心を弄び……私の一番の友人であるマリエッタを巻き込んでしまった。
思い返せばマリエッタは最初から『ダンブルドア軍団』に参加することに否定的だった。彼女はハリーのことを嫌悪していた。私を騙しているとすら思っていた節がある。そんな彼女を私が無理やりDAに参加させたのだ。自分が一人で参加するのが寂しいばかりに……彼女は私が罪悪感で頭がおかしくなりそうな時にも離れずにいてくれた、本当に大切な親友だというのに。特別でない私を、最後まで特別な友人、親友として見てくれていたのに。
記憶を失くしたことで、私はようやく恋という悪夢から覚めることが出来た。
ハリーの記憶が正しいか正しくないかなんて、今となってはもうどうでもいい。この恋がもう元通りにはならないことくらい、私にだって分かる。いえ、元通りにしてはいけない。私の中では始まってもいない恋人生活は、いつの間にか終わりを告げていた。残されたのは、ダリア・マルフォイに強制的に与えられた抑圧された、でも限りなく平凡に近い日常。これに安心感を覚えた時点で、私の特別性なんてたかが知れているのだ。
私は少しばかり顔と成績がいいだけの、どこにでもいる女子生徒。そう私は思い知らさせてしまった。心の底から理解させられてしまった。
罪悪感でしか自分と向き合えなかった私はこれからどうするべきなのだろう。決まっている。特別ではなく、平凡に生きるしかない。それこそ特別な人とではなく、こんな私を最後まで見捨てないでくれていた親友と。私にはそうして生きることしか出来ないのだから。
だから……
「チョウ? どうしたの、ルーニーなんて見つめて。ほら、早く大広間に行くわよ」
「え、えぇ。そうね、マリエッタ」
私はいつの間にか消えた非日常と決別し、それでも罪悪感だけは捨てないようにしがなら日常を過ごす。
ハリーの言う通り『例のあの人』は復活したのだろう。でもそれと戦うことを口実に、本当に大切だった日常を捨て、特別になるための手段にしてはいけないのだ。私は今更ながらそれを理解した。
私は自分自身にそう言い聞かせ、隣を歩くマリエッタに応える。
今まで振り返りもしなかった日常、私にとっての本当の幸福を大切にするために。
……この罪悪感を、セドリックの死を決して無意味にしないために。
マクゴナガル視点
私にとってダリア・マルフォイという生徒は……実に判断に悩まされる少女だった。
組み分けの印象こそ強烈だったものの、それはあくまで第一印象に過ぎない。教師である私がそれで生徒を判断することは許されない。事実一年生の頃の彼女に対する評価は悪いものではなかった。第一印象は強烈そのものであり、表情こそ常に冷たい無表情であったが……授業に臨む態度は常に真摯であり、教員に対しても謙虚だった。
無論グリフィンドールの寮監として、スリザリン生に学年一位を取られているのは面白いものではない。ですがそれ以上に、私が見てきた中で最も優秀な学生であることに、教師としての嬉しさも感じていたのだ。
しかし……その評価は残念なことに、次の年に完全に逆転することになる。
スリザリンの継承者。生徒達が彼女をそう疑い始めた時、私は初めその疑いに懐疑的であった。確かに彼女はスリザリン生であり、表情もいつも冷たいものだ。家柄も悪い意味で有名なマルフォイ家。生徒達が短絡的に疑っても仕方がない。
しかし私はそれだけの理由で彼女を疑うのは勿論否定的だった。無論全く疑念を抱かなかったと言えば嘘になる。しかし彼女が犯人に相応しいという理由のみで疑えば、それはもはや教師とは言えないだろう。彼女は表情こそ冷たいものだが、同時に真面目な生徒であることを私は知っている。私が最初から彼女を疑うなど許されない。
……しかし私の内心とは関係なく、実際には私はミス・マルフォイを半ば監視せねばならなかった。
理由は単純明快なもの。彼女のことを生徒だけではなく、あの『今世紀最高の魔法使い』であるアルバス・ダンブルドアが疑っていたから。
アルバスの行動に疑問を持ったことがないかと言えば嘘になる。最初は到底理解できないと思えたこともある。ただ私がどんなに疑問を持とうとも、最後にはいつも彼の方が正しかった。それこそ『例のあの人』が学生だった頃、彼を最初から疑っていたのはアルバスのみだったとも聞いている。アルバスは言っていた。
『彼女とトムは実に似ておる。皆、決してあの子から目を離さんでくれ。あの子がこれ以上闇に落ちぬように』
犯人であると明言こそしなかったが、あれは明らかに彼女を疑っての発言だった。『今世紀最高の魔法使い』が疑うミス・マルフォイが果たして完全に疑いなしと言えるだろうか。理性では否定したくとも、今までの経験からアルバスの言葉を否定することなど私には出来なかったのだ。
だからこそ、私は内心はともかくミス・マルフォイを監視する任に当たった。それは私だけではない。他の教員達も同様。それこそ最もアルバスに反発していたセブルスも含めて。私達にはアルバスの実績を覆す程の自信はありはしなかったのだ。
そして結局、私達は今回もアルバスの
ポッターが事件を解決し、今年起こった出来事の凡その事情は明らかになった。……唯一ミス・マルフォイに関する真相以外は。事件が進むにつれ、彼女が犯人に相応しいという理由だけではなく、
一年生の頃、真摯で謙虚な生徒と評価していた。しかし2年生が上がる頃には……私もアルバスと同じく、彼女のことを危険な生徒と評価するようになっていた。
教師でありながら、生徒の危険性に気付けなかった罪悪感や恐怖。おそらくかつて『例のあの人』を教えていた教員もこのような気分だったのだろう。優秀で真面目な生徒と評価していた生徒が、実は危険極まりない人間だったと知った時。彼等もこのような気持ちになったに違いない。
そしてそれからのダリア・マルフォイは、度々その危険性を示す事件を起こすようになる。『闇の魔術に対する防衛術』最終試験において『死の呪文』を使用。教員と大勢の生徒達に闇の魔術を使用。秘密の部屋事件以降、もはや隠す気がなくなったとしか思えない。
更に去年の終わり、またもやポッターが彼女に関しての重大な証言をした。彼女は学生でありながら、既に『例のあの人』に一目置かれている、と。
……正直なところ、私は彼女に恐怖すら感じつつある。彼女はまだ学生の身。私などより遥かに若く、それこそ10代半ばでしかない。そうであるはずなのに、私はその少女に恐怖感を覚えるのだ。
この先彼女はどのような道に進むのだろうか。いつ『例のあの人』が彼女に注目したかは不明だが、何故注目しているかはハッキリしている。家柄、実力、そして何よりその危険な精神性。他人を笑顔で傷つけるような人間こそ、『例のあの人』は欲している。彼女はおそらく、この先恐ろしい『死喰い人』になることだろう。それも今まで対峙してきたどの『死喰い人』より強力な。
彼女に一体何人の仲間が殺されることになるか考えると、私は恐ろしくて仕方がなかった。
だからこそ
「……愚かなことを。私は教師。生徒を導くのが仕事。そうですね……アルバス」
自身に与えられた教員室。その中で私は一人呟く。つい浮かぶ危険な考えを頭を振って追い出し、ここにはいない人間に一人語り掛ける。
私は何を弱気になっているというのか。確かにミス・マルフォイは危険な生徒だ。それこそ『例のあの人』の再来とすら言える。
しかし彼女はまだ学生なのだ。まだ未来は確定しておらず、このホグワーツでこの先も多くのことを学んでいく。
まだ可能性が僅かながら存在しているはず。
ならば私が導かなくてどうする。アルバスも言っていたではないか。
『彼女にはまだ
彼はそれこそ最初から彼女の危険性に気づいてたが、それでも彼は彼女のことを信じようとしている。彼女を正しい道に導くことを諦めていない。
たとえそのアルバス・ダンブルドアが追放され、今やこの学校を支配しているのがドローレスやミス・マルフォイであったとしても。それでも彼の信じた行いを、私も教師である以上否定するわけにはいかないのだ。
私は椅子から立ち上がり、机の上に置いていた生徒達の資料を持ち上げる。授業が終わり、今からの時間はほとんどの生徒にとって楽しい自由時間。しかし今年の5年生、
彼等自身のこれからの未来を、少しでも輝かしいもの、悔いのないものにするために。
……しかし、やはりふと考えてしまうのだ。
私が今から相談を受けるのはグリフィンドールの生徒のみ。スリザリン生の……彼女の相談を受けるのは、スリザリンの寮監であるセブルスだ。だから私が彼女のことを直接知るわけではないが……一体彼女はどのような未来を語るのだろうか。
せめて彼女が語る未来が……せめて口で語る未来だけは、決して
私にはそう願うことしか出来なかった。
ダンブルドア視点
「このような所にも……。この調子ではまだまだあるじゃろうのぅ。時間がいくらあっても足りぬ」
鬱蒼とした森の中。今ワシの目の前には、ぽつりと一軒の屋敷が建っておった。
足元もおぼつかない闇の中に溶け込むように、黒を基調とした屋敷。人が離れて数年経っておるのか、外壁にはいくつも穴が開いておる。ようやく見つけ出したヴォルデモートの隠れ家の一つじゃが、この様子では外れと考えざるを得ぬ。無論本人がここにおるとは思っておらん。奴は今『死喰い人』の屋敷のどれかに隠れ潜んで居る。外に出たとしても、それは敵側の人間が居る場所じゃろう。今奴がやっておるのは勢力拡大。このような人が居らぬ場所ではない。
じゃがここまで打ち捨てられた場所じゃと、到底
未だ確証を得られたわけではないが、奴の不死性の原因。ワシの予想が正しければ、それは
尤も、ここが違うじゃろうからと言って、何も調べずに立ち去ることも出来ぬ。ここが奴の昔使っておった隠れ場の一つであることに変わりはない。イギリス中を探す中で、ようやくその一つを見つけたのじゃ。どんな僅かな手掛かりであれ、今のワシには貴重なものじゃ。
「愚痴をこぼしても始まらぬか。さて、フォークス。行くとするかのぅ」
ワシはここでただ立ち尽くし時間を無駄にせぬよう、フォークスを肩に乗せ屋敷に踏み込む。暗い闇の中でも、フォークスは僅かに温かな光を放っておる。ワシの足元を照らしてくれておるのじゃろぅ。ワシは彼を一撫でし、中の様子を注意深く見渡した。
中はやはり所々崩れており、廊下の向こうには数多くある部屋があった。しかしそのどれもがただの空き部屋であり、何一つ、それこそ家具すら存在しておらんかった。人がおらずとも、そもそも人が生活しておった面影すらない。当然ヴォルデモートの秘密に繋がる証拠もない。
唯一つ……廊下の奥に見える、地下への階段を除けば。
空き部屋の全てを確認した後、ワシは唯一何かが隠されておるじゃろう階段を目指す。そしてその予想は正しく、階段を下りれば怪しげな液が入った鍋や、何に使うのかもわからないような器具が所狭しと並べられておった。どれも最後に使われてから随分経った様子じゃが、それ等が真面な物でないことは十分理解できる。怪しげな液などもはや腐って詳細こそ分からぬが、元が合法的な物ではないことは確かじゃ。匂いから何かしらの血液が混じっておったとワシには分かる。
そして何より部屋の中で一際目立つのが……一か所だけぽっかりと空いた空間に置かれた、
何もないと思われた屋敷の中にあった地下への階段。そしてその先に置いてある闇の魔術に関する器具や、謎のガラスケース。怪しさ満点じゃ。
ワシは先程まで以上に集中し、それらの物を丁寧に観察する。ガラスケースは一部が割れ、今は中に何も入っておらん。じゃがやはり周りにある器具から考えると、ここで造られておった物が
調べて分かったのはこれくらいじゃ。他の物はワシにも見当もつかぬ物ばかり。改めてヴォルデモートの脅威を実感する結果となってしもうた。戦闘ではワシの方が
労力に対し、得られたのは空恐ろしい実感のみ。割に合ったとは到底言えぬ。じゃがやらぬわけにはいかぬ労力。ここは何かしらの闇の実験がなされた痕跡はあるが、例の物が隠されてはおらん。どのような形であるかは分からぬが、アレはここに置いてあるような物ではないじゃろぅ。それが分かったことで良しとせねばならん。
「やはりここも外れじゃ。次からは奴の生い立ちに関係の深い場所に絞るとするかのぅ。奴が子供の頃のことを誇っているとは思えんが、虱潰しよりましやもしれんぬ」
ワシは最後にもう一度巨大なガラスケースを調べた後、いつの間にか肩から離れておったフォークスに話しかける。
じゃが、
「フォークス? どうしたのじゃ、その髪を見つめて。……その髪に何かあるのか?」
フォークスは数瞬ワシには応えず、ただジッと先程調べた白銀の髪を見つめておった。
どこか
しかしそれも数秒のこと。直ぐに彼は何でもないと言わんばかりに首を振り、再度ワシの肩に舞い戻る。今の態度からその髪に何もないとは思えぬが、最近のフォークスはワシの質問にも拒絶を示すことが時折あった。これ以上尋ねたとしても無意味じゃろう。それに何度見ても、それはただの髪にしか見えぬ。闇の魔術に使う材料の一つじゃろう。
ワシはフォークスを肩に乗せ歩きながら益体のないことを考える。何となくその白銀の髪を見て、
今頃ダリアはどうしておるのじゃろうか。ワシがホグワーツから追放されれば、城の中で彼女を止めることが出来る人間はいなくなる。それこそ名目上の新校長であるドローレスすら、あの子のことを止めることは出来ぬ。セブルスは役目の関係上、下手に彼女と関わることも出来ぬ。
ワシが居らぬ間、彼女がこれ以上闇に落ちず……他の生徒達も安全に過ごしてくれておればよいのじゃが。
そんな自分でも信じておらぬ未来を願わずにおれんかった。