ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ネビル視点
世間では今、そして何より新聞ですら、今ハリーとダンブルドアの言っていることは嘘だと言っている。
『例のあの人』が帰ってきたなんてあり得ない。あの人は死んだのだ。もう僕らがあの人の影に怯える必要はない。皆の恐怖を煽る嘘を吐く二人はとんでもない危険人物なのだと。
でも僕の意見は違う。というより、僕のおばあちゃんの意見は違った。
おばあちゃんは常々言っていた。
『闇の帝王が死んだはずがない。あの人はただ隠れているだけ。簡単に死ぬなら誰もあんなに苦しい思いはしなかった。いつか必ず帰ってくる。あの恐ろしい時代は決して終わったわけじゃない。その時になって、ネビル。お前は自分の両親に恥じない働きをしなければいけないよ!』
僕は連日のように新聞に書かれていることをもう信じてはいなかった。『例のあの人』はいつ帰ってきてもおかしくはなかったのだ。なら今帰ってきたとしても嘘だなんて言い切ることは出来ない。
それに何より……4年以上ハリーと一緒にいて、彼が嘘を吐く人間でないことを僕は知っている。ハリーはとても僕と同学年の生徒とは思えない程凄い生徒だ。それにいつだって誠実で、こんな鈍間な僕にだって優しい人間だ。とても大切な友人なのだ。だから冗談で『例のあの人』が帰ってきたなんて言う人間だなんて思えない。
でも僕がどんなことを内心で考えていようとも、世間は決して『例のあの人』の復活を認めようとはしなかった。
鈍感な僕にだって分かる。皆はアンブリッジ先生のことを嫌っていても、決してあの人の繰り返す主張が間違っているとは思っていない。外の世界は安全で、僕らは何一つ実践的なことをしなくてもいい。心配すべきは『
僕等は本当は備えなくてはいけないんだ。決してアンブリッジ先生の言いなりになんてなってはいけない。学校の外は一見平和に見えても、実際は陰で大きな闇が既に蠢いている。僕等はそれらと戦うために、決して努力を怠ってはいけないのだ。
世間はハリーのことを嘘つき呼ばわりしているけど、僕はずっとそんな風に考えていたのだった。
……だからこそ、
『ネビル、お願いがあるの。私達、今『闇の魔術に対する防衛術』を自習する集会を作ろうとしているのだけど……貴方にも参加してほしいの。教師役はハリーにやってもらう予定よ。ネビル。貴方はハリーが嘘を吐いているなんて思っていないのでしょう? だからお願い! 少しでも多い人に参加してほしいの! ハリーにちゃんと味方がいると知ってもらうために! ……ヴォ、ヴォルデモートと戦うために!』
ハーマイオニーに声をかけられた時、僕は本当に嬉しかったのだ。僕はこんな愚図な人間であるのに真っ先に声をかけてくれたことが。こんな無力な僕でもハリーのために……友人のために出来ることがあるのだということが。
そしてそんなことを考えているのは僕だけではなかった。実際にハーマイオニーに指定された場所に集まった時、そこには大勢の生徒が集まっていた。それもグリフィンドール生だけではない。ハッフルパフにレイブンクロー。グリフィンドール生以外の生徒も大勢集まっていた。大勢の生徒が寮関係なく、どこか戸惑った表情を浮かべているハリーのことを好意的に見つめている。彼らの瞳には今学校に満ちている、彼を嘘つきと軽蔑する視線などありはしなかった。
勿論ここに集まったのは僕達のような考え方をしている人ばかりではない。僕のようにハーマイオニーに信頼してもらって声をかけられた生徒だけではなく、ここにはハリーの話をただ聞くためだけに集まった人も何人かいた。流石にグリフィンドール生にはそんな人はいなかったけど、僕が気付いただけでレイブンクローのブロンド髪の女子生徒や、ハッフルパフの男子生徒の一人がハリーを馬鹿にした表情を浮かべているのが見えていた。……ここにいるのはハーマイオニーに直接声をかけられたメンバーと、そんな彼等が誘った生徒達。今の学校の状況を考えると、多少こういった視線を投げかける生徒が入り込んでも仕方がないだろう。それにこういった人達に考えを改めてもらうことも目的の一つなのだから文句は言えない。実際グリフィンドール生の何人かはそんな彼らの視線に気づきながらも、多少不快感を表情で示すだけで何も言ってはいなかった。
でも多少の問題はあったとしても、概ね雰囲気は良好ということに変わりない。。
これならきっと上手くいく。ハリーは凄い人だから、彼なら多少の問題なんて軽々クリアする。そう僕は今いるメンバーを見渡しながら思っていたのだ。
……そう、この場に突然、
「よかった! 貴女のことを待っていたの! 本当に来てくれて嬉しいわ!」
「……ハーマイオニー。別に……来たくて来たわけではないよ。こんな天気だし……早く終わらせて帰らせて。あの子が城で待ってるんだから」
他の生徒と違い、あからさまにハリーに対する侮蔑を一切隠そうともしない生徒が現れるまでは。
突然の冷たい声音に振り返ると、そこには一人の女生徒が立っていた。
この学校で誰もが知っているダリア・マルフォイ一番の取り巻き。金色の髪に、パッチリとした大きな瞳。そんな特徴を持つダフネ・グリーングラスがパブの扉の前に。
唐突に現れた彼女は、一瞬ハーマイオニーには朗らかな表情を浮かべたものの、すぐにハリーや集まった僕等に敵意の籠った視線を投げかけていたのだ。
それは明らかにハリーから何かを教えてもらおうとも、それどころか彼の話を聞こうと思ってここに来た態度でもなかった。どう考えてもアンブリッジかダリア・マルフォイのスパイとしか思えない。
ここまであからさまな態度……そして何より本来ならここに来るはずも、ましてや呼ばれるはずのない人物の登場に、ハリーのために集まった皆が流石にいきり立ち始める。フレッドとジョージなどは特に拒絶反応が激しく、どこか怯えた表情でダフネ・グリーングラスを見つめるジニーを庇うように立ちながら大声を上げた。
「おいおい、なんでこんな所にスリザリンが来るんだ? ここはお前みたいな奴が来るところじゃないぜ? それにお前は……ダリア・マルフォイの
そしてそんなジョージの言葉に続き多くのグリフィンドール生のみならず、他の寮生もが声高に続ける。
「そうだ! ここはお前が来ていいような所じゃない! 出て行け!」
「出て行けよ! まさかダリア・マルフォイのスパイのつもりか!? 僕らは
先程まであった穏かな空気は完全に霧散している。しかしそんな非難の大声の中、
「待って! 皆は彼女と……ダリアのことを誤解しているわ! 彼女のことは私が呼んだの! だから彼女がここに来たのは間違いではないわ!」
当の集会を呼び掛けたハーマイオニーだけはダフネ・グリーングラスのことを庇うようなことを言い始めたのだった。
突然の意味不明な言葉に驚く僕等に、彼女はグリーングラスを庇うように立ち位置を変えながら続けた。
「ハ、ハーマイオニーが呼んだ? 正気か!? そいつはスリザリンだぞ! それもあのダリア・マルフォイの仲間だ! それをなんで、」
「彼女は大丈夫よ!
ハーマイオニーがグリーングラスを呼んだという事実に僕らは誰も頭が追いついていなかった。……スリザリン生とも本来なら仲良くしなければいけない。これは僕にだって分かる。ホグワーツの中で争っていては、それこそ『例のあの人』の思うつぼ。おばあちゃんからも『あの人』はそういった人同士の不和を利用するのに長けていたと聞いたことがある。
でも現実にそれは不可能であることも確かなのだ。僕はスリザリン生のことが怖い。彼らはいつだって僕のことをいじめてくるし、何より『死喰い人』の両親を持ち……敵陣営に
だからこそ、僕らはハーマイオニーが何故こんな意味不明なことを言いだすのか理解出来なかった。特にダフネ・グリーングラスは、そのスリザリン生の中でも一番危険なダリア・マルフォイといつも一緒にいる。頭のいいハーマイオニーならそんなこと分かっているだろうに、何故こんなことを。
「……それで、ハーマイオニー。私はあまり歓迎されていないみたいだけど、帰ってもいいのかな? 私としては貴女に帰った方がいいと言われた方が、ここに行けと言ったダリアにも言い訳が立つのだけど」
「ご、ごめんなさい、ダフネ。無理をして来てくれたのにこんなことになって。で、でも折角来たのだから、もう少しだけここにいてくれないかしら? せめて話だけでも……お願い」
「はぁ……なるべく早くしてよね」
唖然とする僕らを放置して、ハーマイオニーの言葉を受けダフネ・グリーングラスはパブの中に入ってくる。そしてあろうことか、丁度席の空いていた僕と、どこか夢見た表情を浮かべるレイブンクロー生の間に腰を下ろしたのだった。
……そう、何故か彼女に横に座られた瞬間、
『……貴方はグリフィンドールなんだから、もう少し堂々とした方がいいよ。折角ハーマイオニーと同じ寮に選ばれたんだから』
『う、うん。……君は何だか他のスリザリン生とは違うんだね。ご、ごめん……。いきなりこんなこと言って……。ぼ、僕……何を言っているんだろう』
『……そんなこと私が聞きたいよ』
去年の第二の試練の直前。図書館でした彼女との一瞬の会話。あまりに沢山の衝撃的な出来事があったため、もはや忘却の彼方に追いやられていた……たった数分の出来事のことを思い出す僕の隣に。
そう言えばあの時会話した彼女は……他のスリザリン生とは全く違っていたな。
そう僕はチラチラと横に座るグリーングラスの顔を見ながら、そんなことを心のどこかで思い出していた。
ダフネ視点
歓迎されていない。
それはこのパブに入った瞬間から、どころかここに呼ばれた時から既に気付いていた。今こうしてロングボトムとレイブンクロー生の間に座っていても、周りからは痛い程鋭い視線を寄こされているのを肌で感じられる。敵意の籠っていない瞳で私を見ているのはハーマイオニーと……横に座る夢心地のレイブンクロー生くらいのものだろう。最初に声を上げたウィーズリー兄弟に至っては、もはや殺意と言ってもいい程の視線を投げかけていた。
……でもそれも当然だと思う。彼等からすれば何故私がここに現れたかすら理解出来ないのだろうから。今こうして私が席に着くのを黙って見ているのだって、ハーマイオニーの言葉に彼らの低能な脳ミソがついて来れてないからに過ぎない。もはや私は彼等に何の期待もしていない。
それに何より……私も私で彼らのことが大っ嫌いであるのだ。それを隠すつもりはないのだから、彼らは彼等で私に敵意を向けてくることに文句を言うつもりはない。何故私が彼等に媚びなければならないのだろうか。ここに来たのだって、ダリアにここに行ってと言われたからに過ぎない。勿論来たくなんてなかった。いくらハーマイオニーからの誘いとはいえ、何故ダリアから離れた時間を過ごさねばならないのか。しかも目的はポッターから『闇の魔術に対する防衛術』を学ぶなんて意味不明な物。ダリアに教わった方が何百倍もいいに決まってる。
なのに猛反対する私にダリアは言うのだ。
『ダフネ。お願いです。私も貴女とはなるべく離れたくない。……でも駄目なのです、今のままでは。このまま何もしなければ……私は
いつになくどこか弱弱しい声音で続けられるお願い。でも表情はどこか決意に満ちたものを浮かべたダリア。
あんな表情されては、どんなに嫌でも来るしかないではないか。
ダリアが考えていることを正確に理解することは出来ない。おそらく私に
別に去年までのように正直に話してくれないわけではないのだけど、ダリア本人も手探りに行動している様子だから正確なことを説明することも出来ないのだ。ただマルフォイ家と……私を守るために、何かしなければと必死になっているに過ぎない。それなのにここでダリアの願いを断れば……それこそダリアの悩みを増やすばかりになってしまう。
彼女は今年になっていつも夜うなされている。寝言で、
『お父様、お母様……お兄様。ダフネ……。絶対に……絶対に守ります。だから……』
そんなことを言うのだ。彼女の心の余裕は今年完全になくなっている。いつも横で寝ている私が心配しないはずがない。
だから今はダリアの心の平穏のためにも、彼女の言う通りに行動してあげた方がいい。たとえ嫌々であっても、私が少しの間我慢すれば済む話なのだ。ダリアも言っていた。ただ私はこの集会に参加するだけでいいと。これが終わればすぐにダリアの下に帰ろう。それまで数分我慢するだけで事足りる。だから今はただ我慢するのだ。
たとえ周りから不愉快極まりない視線を投げつけられようとも。ただ理解していないだけとはいえ、ハーマイオニーの言葉のお陰で現状誰も私に直接的に非難を浴びせることだけはなくなった。私がスリザリン生とはいえ、別に自分達自身が悪いことをしているわけではない以上、今はただ警戒するだけでいいとでも思っているのだろう。敵意こそ収まっていないが、それも目をつぶっていれば何の関係もない。まだ我慢できる程度のことだ。
……でもやはり、
「え~と、どこまで話したかしら。その、つまり。私が言いたいのは、直接私が声をかけた人には言ったけれど、私達は学ぶべきだと思うの。あのアンブリッジが教えているようなクズは何の役にも立たなくて……もっと実践的なことを私達は学ぶべきなの。それは寮が何処かなんて関係ないわ。私達は決してアンブリッジの言う通りに……ただ何も戦う手段を知らない状態であっていいはずがないの。だから、」
「何故だい? 君は先程から頻りに戦う手段だとか、団結しなければいけないとか言っているけど、どうしてそう思ったんだい?」
この時間が不愉快極まりないことに変わりないけれど。
ハーマイオニーの演説を遮り、ハッフルパフの生徒が声を上げる。尋ねるにしては酷く馬鹿にした声音。質問の体をしているけど、その嘲りの表情から彼がハーマイオニーの答えを予想していることは間違いない。どうやらハーマイオニーが呼びかけた集団には……そもそも
本当に不愉快な時間だ。別にどんな人間がこの会に集まっているかなど興味もないが、何故かそんな愚か者と私が
「それは勿論……『例のあの人』が戻ってきたからよ。私達は『例のあの人』に立ち向かうためにも、」
「あの人が戻ってきた証拠がどこにあるんだい? そう言ってるのはダンブルドアと、そこにいるポッターだけじゃないか。それもポッターがそう言ってるから、ダンブルドアもそう信じているだけだ」
「まったく、
「ザカリアス・スミス」
ウィーズリーの言葉にハッフルパフ生は短く名乗った後、愚か者の分際で私にまで侮蔑の視線を送りながら続けた。
「ダリア・マルフォイの取り巻きなんかと一緒にされたくないけど、
……実に鼻持ちならない奴もいたものだと思った。発言すればするほど、今まで私に向いていた敵意の視線が……得意顔で話し続ける
そしてただ聞いているだけの私ですら苛立つのだ。私の苛立ちはそもそも得意顔で話すハッフルパフ生に対する物と、そんな彼と私を一緒くたにする連中に対しての物であるのだが……直接馬鹿にされているポッターに比べれば微々たるものだろう。ただでさえポッターは忍耐強い人間ではない。ポッターはたちまち顔を真っ赤にし、得意顔のザカリアス・スミスと
「ちょっと待って! この会はそういったことを聞くためでは、」
「いいよ、ハーマイオニー。僕が直接話す。どうしてこんな所に、こんなに多くの人が集まったのか不思議だったんだ。しかもダフネ・グリーングラスまで。でもこれでようやく分かった。何故『例のあの人』が戻ってきたかだって? それこそ何故僕がお前らにそんなことを一々説明しないといけないんだ。僕はただあいつの復活するところを……セドリックを殺すところを見たんだ! それ以外に何の説明をしろって言うんだ!? 最初から信じる気のない奴らに話すだけ無駄さ。もし『あの人』がどんな風に人を殺すか知りたくて来たのなら、すぐにここを出て行った方がいい。僕は絶対に話さない。……あの時のことを、僕は思い出したくもない! セドリックの死を、君達の娯楽になんかするつもりはない!」
ただでさえ私の登場で険悪になっていた空気が更に凍り付いてくようだった。
私は何のためにここに来たのだっけ? 少なくともこんな空気を味わうためでないことだけは確かだ。ダリア……今頃談話室で何をしているんだろう。ドラコも残ると言っていたけど、ちゃんと兄妹水入らずの時間を過ごせてるかな?
しかしそんな現実逃避な思考をしていると、今度は違った人間がこの凍った空気を変えるために……これまた違う意味で不愉快な質問を始める。ザカリアス・スミスとは違い、ポッターに比較的好意的な視線を投げていたハッフルパフ生の一人が声を上げた。
「そ、そうだね。ぼ、僕達は別に『例のあの人』の話をしに来たわけではないんだ。僕等はただ今年の『
「……うん、そうだけど」
「しかも有体の守護霊をだろう!? それは凄いことだよ!」
苛立った表情を浮かべていたポッターも、先程とは打って変わった好意的な質問に戸惑っている。そんな中、今までの空気を変えようとポッター信者達が次々と声を上げ始めた。
「それだけじゃないぜ! なんたってハリーは二年生の時、あのバジリスクを倒したんだからな! ……それも
「二年生の時だけじゃない! 一年生の時だってそうだ! ハリーは『賢者の石』を守ったんだ! 一年生の頃のことだぜ!」
「去年のことも忘れちゃ駄目よ! 彼はあの三校対抗試合を戦ったのよ! しかも最終的には優勝! 他の代表選手より年下なのに!」
「そ、それはそうなんだけど……」
私はどうやらどうあっても不愉快な時間を送らねばならない運命らしい。レイブンクローの女生徒の言葉に、僅かに得意顔を浮かべるポッターの顔面を殴り飛ばしてやりたかった。
ポッターに教えを乞うという段階である程度予想していたけれど、ここまであからさまだと腹が立って仕方がない。
一年生の頃のことはまだ理解出来る。ポッターが『賢者の石』を守ったのは事実だ。それに関して特に文句を言うつもりはない。でもそれ以外のことは駄目だ。
二年生の頃バジリスクを倒した? あれだけダリアを苦しめておきながら、よくもそんなことが言えたものだ。ダリアの犠牲の上に成り立った冒険譚などゴミみたいなものだ。そもそもダリアを黒幕とする認識自体がナンセンスだ。
去年三校対抗試合で優勝した? どこをどう考えればそう思うのだろうか。確かに生き残ったのはポッターだろうが、本当に優勝者として讃えられるべきはセドリック・ディゴリーの方だ。ダリアが肩入れしていた生徒なのだから間違いない。彼を優勝者として扱わないなど、それこそ死んだセドリック・ディゴリーへの……そして彼の死を未だに悲しみ続けるダリアへの冒涜だ。
それはポッターが得意顔から一転、気を取り直したように続けても変わらない。
「聞いてくれ。別に謙遜しているわけじゃないんだけど……僕が今までやってこれたのは全部誰かに助けてもらったからなんだ。ここにいるハーマイオニーにロン、それにダンブルドア。色んな人達が助けてくれたからこそ出来た。僕一人の力で出来たことなんて、」
「謙遜するなよ! 去年のドラゴンは君一人の力だろう!」
「あの時の飛行……本当に凄かったわ!」
放っておけばいつまでも称賛は続きそうだ。いよいよ何故私がここにいるのかよく分からなくなってくる。少なくともこんな風にポッターへの空虚な称賛を聞きに来たわけではないことは確かだ。
ハーマイオニーもそのことに気が付いたのだろう。どんどん不機嫌になる私の顔を一瞬見た後、慌てたように大声を上げた。
「そろそろ話を前に進めるわよ! ハリーに教えてもらうことに同意してくれているのは分かったから!」
そしてザカリアス・スミスや何人かの生徒……私を含めた何人か以外全員が頷いているのを確認し続ける。
「反対の人もいるみたいだけど、少なくとも『闇の魔術に対する防衛術』を自習することに反対する人はいないわね。納得できない人も、ハリー程実績を残してきた生徒がいないことは分かっているでしょう? 今日は顔合わせのために集まってもらったの。何か問題あればその都度協議するから、まずは次に集まる場所と時間を考えましょう。今日はそれで解散にしましょう」
ここにきてようやく会に終わりが見えてきた。議論に参加する気はないが、後は他の連中が勝手に話し合って終わる。少なくともこれ以上『あの人』が帰って来たかどうかの下らない議論や、ポッターへの称賛を聞かずに済みそうだ。
早くダリアの下に帰りたいな……。
そう思い私は目を閉じ、この会が終わる瞬間をジッと待つことにしたのだった。
……そう突然、
「ちょっと待ってくれ。次の場所について話し合う? その前に話すべきことが……追い出すべき人間がいるじゃないか!」
最初に収まっていたはずの議論が蒸し返されるまでは。
鋭い声音に目を開けると、ハッフルパフ生の一人が私を指さしている。先程ポッターに頻りに好意的な声を上げていた一人だ。彼はハーマイオニーの制止に構わず続ける。
「アーニー! 先程も言ったでしょう!? 彼女は私が、」
「いいや、いくらこの会の発起人の言葉でも、こればかりは僕には納得できない! 確かにこの会は合法だ! 別に何も咎められることはない! だからこそ先程は君の言葉通り黙っていたが……今度ばかりは言わせてもらうよ。皆の気持ちを代弁してね! グリーングラスの前で場所と時間を決める!? そんな馬鹿な話があるかい!? この女はスリザリンだ! それもあのダリア・マルフォイの取り巻きだ! 一番のね! そんな人間がこの場に参加しているだけでも我慢の限界なのに、どうしていよいよハリーに教えてもらう場所まで教えないといけないんだい!? それではいつかアンブリッジにも僕らが何を学んでいるかまで詳細に伝わってしまうじゃないか!」
見渡せばほぼ全員が彼の意見に賛成しているのか、私が何か言うのを敵意の籠った瞳で見つめている。
どうやらただ座っているだけでは、流石にこの会をただ乗り切ることは出来ないらしかった。