ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ハリー視点
第二の試練も何とか切り抜けることが出来た。今の所僕の成績は二位。断トツの一位であるセドリックに続き、僕は何とか二位の位置につけている。他の代表選手とは違い年齢も実力も足りていない中、よくここまで戦えているとさえ言えるだろう。正直自分で自分を褒めてやりたい。
しかしいつまでもそんな安心した心持でいるわけにもいかない。最初の試練と第二の試練の間には長い準備期間があったけど、どうやら最後の試練にはそれもないらしい。
最後の試練が終わって数日後、急にクィディッチ競技場に呼ばれたかと思えば、
「皆集まったな。では今
以前まで存在していなかった巨大な生け垣の目の前で、
どうやら今回もクラウチ氏の代理を務めているらしい彼は、やはりどこか誇らし気な様子で続けた。
「障害物はハグリッドが育てた色々な生き物を置く。それに他の教師陣が仕掛けた色々な呪いも。これらは代表選手に選ばれた君達にも越えるのは中々厳しいものになるだろう。心してかかってほしい。油断すれば怪我では済まないかもしれない。勿論安全対策を講じてはいるが、それも絶対ではない。決して油断しないように。最後に迷路に入る順番は今までの成績で決める。一番はセドリック・ディゴリー、君だ。そして二番がハリー、三番がビクトール・クラム。最後にフラー・デラクールに入ってもらう。何か質問は?」
パーシーの声に誰も応えなかった。皆やる気に満ちた表情で生け垣の方を見つめている。どうやら今までの試練の中で一番単純明快な内容であり、尚且つ誰にでも優勝の可能性が残っていることに興奮しているのだろう。
……そんな中で僕だけは、この試練の内容の恐ろしさに戦慄して声を上げられなかっただけだったが。
ハグリッドの育てた生き物?
そんな生き物が安全なはずがない。間違いなくあの『尻尾爆発スクリュート』が紛れ込む。あの巨大な化け物に暗い迷路内で出会ったら僕は卒倒してしまうだろう。それに他の生き物だって真面であるはずがない。正直ハグリッドの前科を考えると寧ろ今までの中で一番危険な試練であるようにさえ思えた。いくら今回の試練でダリア・マルフォイがセドリックの助けにならないであろうとも、僕自身も危険であることに変わりはない。
しかしそんな僕の不安に頓着することなく、パーシーは僕らから質問がないことに満足したのか一つ頷くと、
「よろしい! 質問がなければ城に戻りなさい! 試練まであまり間がないからね、体調はしっかり整えておくように!」
一仕事終えたと言わんばかりの様子で解散の号令をかけたのだった。
フラーとセドリックはまだもう少し迷路を見るつもりなのか、城には戻らず生け垣の周りを歩き始める。城に戻ろうとするのは僕と、
「ちょっと話したいんだけど、いいですか?」
「あ、あぁ、いいよ」
クラムだけだ。城に向かって歩いている最中、今まであまり話したことない人間から話しかけられたことに驚く僕に彼は続ける。
「ヴぉく、君に聞きたいことがあるんだ。……君と
ロンやシリウスの意見に完全に納得したわけではないけれど、クラムは一応ダームストラングの生徒、つまりカルカロフの生徒だ。寧ろいまやダリア・マルフォイと繋がりのあるらしいセドリックの方が警戒対象と言えるだろう。しかしクラムの方も一応警戒しておくに越したことはない。そう僕は思い身構えていたのだけど……思いのほか拍子抜けした話題に僅かに脱力してしまう。
僕はこちらを真剣に見つめているクラムに微笑みながら答えた。
「ハーマイオニーはただの友達だよ。彼女が僕の話をするのも、それは彼女と僕が友達だからさ。あんな嘘っぱちな記事を信じなくてもいいよ」
何だか彼を警戒していたのが馬鹿らしく思えてしまう。こちらを疑わし気に睨む彼は、どこからどう見ても恋に悩む同世代の人間でしかない。そこに闇の魔術を学ぶダームストラング生だとか、世界的に有名なシーカー選手などという肩書を僕は微塵も感じなかったのだ。
そしてそんな僕の思いが通じたのか、クラムも硬い表情を引っ込めながら答える。
「……そうか。良かった。ならいいんだ。君は嘘を言っているようには見えない。あ、そう言えば。ヴぉくは君が飛んでいるのを見ました。君は飛ぶのが上手いな。ヴぉくもあんな状況で飛べと言われたら、あんなに上手く飛べないかもしれない」
彼の言葉にもはや僕の中の警戒心は完全に消し飛ぶ。あの世界的シーカー選手が、僕のことをまるで同等のライバルのように扱ってくれている。それが僕には嬉しくて仕方がなかった。
……しかし、
「……あぁ、ウェーザビー、この仕事を任せたよ。……私は家族と大事な用があってね。……だからどうか。ダンブルドアに……ダンブルドアに」
木陰から突然飛び出してきた人影によって僕らの会話は遮られることになる。
最初僕は彼が一体誰なのか分からなかった。何日も旅をしてきたかのようにローブは破れ、所々に血が滲んでいる。顔は傷だらけで無精髭が伸び、いたる所に汚れがこびり付いている。しかも何か虚空に向かってブツブツと呟き、瞳の焦点も全くあっていないのかフラフラ歩いている。
どう考えても怪しい人物の登場に警戒する僕の横で、クラムがポツリと呟く。
「この人……審査員の一人でヴぁないのか? 確か……クラウチとかいう」
その言葉に僕もようやく彼の正体に気が付いた。
そうだ。以前見た時と違い、あまりに恰好はみすぼらしいものに変わっているけれど、この人は間違いなく本来審査員であるはずの……それこそ本来なら今日も最後の試練について説明するはずだったクラウチ氏だ。
何故彼がこんな所で、こんな変わり果てた姿で……。
でもいつまでもそんな疑問を抱えて立ち尽くしているわけにもいかない。明らかに正気でない様子のクラウチ氏が、
「会わなければ……会わなければならない。ダンブルドアに……。ダンブルドアに会って伝えるのだ……奴が……
更に異常なことを口走り始めたのだから。
ダンブルドア視点
「ではカルカロフは……ダリアに庇護を求めるために、彼女と接触しようとしておる。そうお主は言うのじゃな、セブルス」
「はい。正確には彼女を通してマルフォイ家にでしょう。実に愚かな考えですが、今の奴は闇の帝王の恐怖に正常な思考を失っている。生き延びるためならどんなに意地汚いことでもするでしょう。……奴が多くの『死喰い人』を売り渡した時と同じように。まったくどこまでも愚かで下劣な男です」
ワシとセブルスしかおらぬ校長室。ワシは彼の報告を聞き、カルカロフの目的についてある程度の確信を得る。
カルカロフはヴォルデモートの復活によりその立場を非常に危ういものにしており、本人もその自覚を持っておる。じゃからこそこの魔法界で最も安全と言われるホグワーツに逃げ込む目的で三大魔法学校対抗試合を受け入れ、そして、
『お、お前は……い、いや、あ、貴女はミス・マルフォイの友人なのか、いや、なのですか?』
明らかにただの生徒であるはずのダリアに取り入ろうとしておるのじゃろう。
クリスマス・パーティーの時。カルカロフはミス・グレンジャーに話しかけようとしておった。思い出すのはいやに丁寧な口調。それまで彼女を邪険にしておったにも関わらず。……本来であれば彼女は奴が最も軽蔑する『マグル生まれ』であるにも関わらず。
それは紛れもなく、奴がダリアに是が非でも取り入ろうとしている証拠に他ならなかった。
本来ハリーの友達であるべきはずのミス・グレンジャーが何故ダリアと交友関係を持っておるのかは未だに分からぬ。じゃが思い返せば一昨年の『秘密の部屋』事件が解決した時も、彼女はダリアのことを常に庇おうとしておった。リーマスといい、ミス・グレンジャーといい、よく分からぬ所で時折ダリアを庇う人間が現れる。ワシがダリアの全ての面を見つめておるとは言わん。じゃがそれでも、彼女の今までの行動を考えればどうしてあそこまで擁護しようと思うのか、ワシにはそれがよく分からんかった。特にミス・グレンジャーは『マグル生まれ』ということでダリアに冷遇されておるじゃろうに何故……。
しかし今はそんな取り留めのないことを考えておる場合ではない。
ワシはそこで一度思考を切り替え、ワシ同様深刻な表情を浮かべたセブルスに応えた。
「ふむ、そうじゃな。ワシもお主の意見に賛成じゃ。じゃがそうなると……やはり今回のハリーの件に、カルカロフは
「……えぇ、残念なことに。奴が首謀者であった方が話は簡単だったのですが……これで我々はいよいよ敵の尻尾を掴めていないことになります」
頭の痛くなるような話じゃった。カルカロフがダリアを通してマルフォイ家に取り入ろうとする。それはつまり奴がまだヴォルデモートの下で生き残る手段を確立できておらん、奴が今回の件に関わっておらんということじゃ。もし奴がヴォルデモートの指示でハリーの名前をゴブレットに入れたのなら、そんな回りくどいことを態々する必要などない。寧ろ奴のことじゃ。周りに吹聴せんばかりに傲慢な態度を取ることじゃろう。それこそダリアに対してさえも。
それがどうじゃ。人目も気にならん程取り乱した様子でセブルスに相談を持ち掛け、一女子生徒であるはずのダリアや、彼女のことを
そしてそれは同時に……今回の件において現状容疑者が一人もいないことも意味しておった。
唯一疑うことが出来るのは、年齢が達していないにも関わらず何かしらの手段で『年齢線』を越えたダリアのみじゃが、それはワシの直感が
何より彼女が行ったにしては大きな証拠が残りすぎておる。彼女が名前を入れたのなら、そもそも彼女はアラスターの前で『年齢線』を越えて見せる必要性すらない。それは逆に彼女がやっておらん証拠じゃとワシには思えた。
勿論そうワシが考えると読んでのダリアの策略である可能性も否定しきれん。じゃがそれを差し引いても……彼女はハリーの試合での行動に一切の興味を示しておらんかった。
第一の試練と第二の試練。ワシは試合の最中、なるべくダリアに気付かれぬように彼女を観察しておった。じゃがそんな中、彼女は試練を観戦しに来たことが奇跡じゃと思える程、選手たちの行動に対して興味を持っておらん様子じゃった。
結果ワシはもうすぐ最後の試練が行われるにも関わらず、未だに容疑者らしい者を特定できずにおった。現状ワシに出来ることはあまりにも少ない。出来ることと言えば、アラスターによりハリーの周りに注意を払うよう指示を出すことくらいのものじゃ。それは何も打つ手がないのと同じことじゃ。
このままでは全てがヴォルデモートの……トムの思い通りにことが進んでしまうことじゃろう。
何か……僅かなものでも切欠さえあればこの流れを変えれるかもしれんのに。そう、何か切欠が、
「ダ……ドア先生! 話たい……が! クラ……」
「……何か外が騒がしいですな。この声は……ポッターか。まったくあの小僧は……。父親に似て騒々しいことこの上ない。ましてや校長室の中にまで声が響くほど騒ぐなど。校長、吾輩が行って黙らせて、」
「よい、セブルス。その必要はない。それにセブルス、偏見でものを言うでない。ハリーはまだ未熟な部分があるとはいえ、意味もなく廊下で騒ぎ立てるような生徒ではない。何かしらワシに用事があるのじゃろう。それも緊急性の高いのぅ」
ありさえすれば。
セブルスと今後の話し合いをしようとした時、突然校長室の外からくぐもった声が聞こえてくる。どうやらここに入る合言葉が分からぬハリーが校長室の前で必死に大声を上げておるようじゃった。
ワシは微かに聞こえてくる彼の声が切羽詰まったものであることに気付くと、急ぎ校長室の外に出る。背後からセブルスの不満げな視線を感じるが、今はそんなことに頓着している場合ではない。
そしてその認識は、
「ハリー、何事かね?」
「ダ、ダンブルドア先生! 良かった! ク、クラウチさんがいるんです! 競技場から城に戻ろうとした時にあの人が急に現れて! あの人が言っていました! ダンブルドアに伝えなくてはって! ヴォ、ヴォルデモートが戻ってくるって!」
「……あのクラウチが!? いや、今はそんなことを聞いている場合ではないのぅ。すぐに案内するのじゃ! セブルスはマクゴナガル先生とアラスターをすぐに呼ぶのじゃ!」
どうやら間違っておらんかったらしい。
ワシはセブルスに指示を飛ばすと、駆け出すハリーと並びながら尋ねる。
「クラウチ氏はどのような様子じゃった?」
「……あの人は普通じゃありませんでした。何だか自分がどこにいるのかも分からない様子で、フラフラしながらずっと可笑しなことを言っていました。でもヴォルデモートのことを話す時だけはしっかりしていて……。だから僕、はやく先生を呼ばないといけないと思って。今彼のことはクラムに見てもらっています! 丁度彼と一緒にいたものだから……」
「成程のう。ハリー、君の判断は正しい。ようワシに知らせてくれた」
突然のハリーからもたらされた情報を頭の中で整理する。
三大魔法学校対抗試合を宣言してから一度も姿を現さなかったクラウチ。ただの体調不良であり、指示自体は代理のパーシー・ウィーズリーに届いていると聞いておったため問題視しておらんかったが、どうやらワシの認識は甘かったようじゃ。しかもハリーの説明してくれた状況が確かならば、彼はもしや今までヴォルデモートに……。
自身の思慮の甘さに辟易しそうになる。ハリーのことに頭が一杯になるあまり、このような違和感に気付かぬとは。
じゃがこれは好機でもある。クラウチがもし今までヴォルデモートに囚われており、今も『服従の呪文』に掛っている状態であるのなら、彼は奴の計画を知っておる可能性がある。ならば彼から事情を聞けば、自ずと奴の計画を破綻させることも可能になるじゃろう。
これはまさにようやく訪れた逆転の好機の様にワシには思えた。
……じゃが、
「ク、クラム! ど、どうしたんだ!? そ、それにクラウチさんは!? ここにいたはずなのに!」
ハリーに案内された先にはクラウチの姿はなく、ただビクトール・クラムが横たわっているのみじゃった。
地面に大の字に倒れておるミスター・クラム。ワシは彼が『失神術』に掛っておると瞬時に判断し、即座に反対呪文で彼の目を覚ます。そして倒れた時に頭を打ったのか、青ざめた表情で頭を抱える彼に尋ねた。
「ミスター・クラム、大丈夫かね? そして今しがた起きたところ申し訳ないのじゃが、何があったか話してはくれんかのう? 一体誰にやられたのじゃ? そしてお主とおったはずのクラウチ氏はどこに消えたのじゃ?」
彼の答えは、
「ヴぉ、ヴぉくも何が何だか……。ヴォくはハリー・ポッターに言われた通り、彼を見張っていて……。そうしたら、突然赤い閃光が飛んできました。それからは何も……」
ワシの期待通りの物ではなかったが。
どうやらワシは……再び好機を逃してしまったらしかった。
???視点
一時はどうなるかと思ったが、何とか危機を乗り越えることが出来た。
本当に運が良かったとしか言いようがない。もし最後の試練でポッターを勝たせるために、念のためにと迷路を下見に行っていなければ。もしその帰り道に、偶然ビクトール・クラムと
何が欠けていても、闇の帝王の……俺の計画は破綻していただろう。
俺は自室の洗面台で傷だらけの自身の顔を洗いながら今後のことについて考える。
あぁ、今後のことを考えるだけで笑いが漏れてくる。いや、無理やり笑顔を
「くくく……ふははは! もうすぐだ……もうすぐでやっと」
全ては順調だ。ポッターが現在二位という不甲斐ない位置にいるとはいえ、最後の試練は迷路。今までの試練とは違い、いくらでも他の代表選手を妨害する手段がある。
そして一位であるセドリック・ディゴリーを支援している人間にもようやく目星をつけられた。
あの
奴が何を考えてセドリック・ディゴリーと通じているのかは分からないが、奴の行動は確実にこの計画の邪魔になっている。ポッターが優勝しなければいけない中、別の代表選手を支援するなど言語道断だ。流石に邪魔しようと
これで最後の詰めをしっかり行いさえすれば、セドリック・ディゴリーが誤って優勝する可能性を潰し、闇の帝王は確実に復活、そしてあの得体のしれない小娘を追い落とすことも出来る。
俺はこの試練が終わった後、誰もが望む闇の帝王の右腕にただ一人上り詰めることが出来るのだ。誰もが望みながら、決して手には入れられなかった至高の座へ。
「あぁ、最高だ! こんなに気分がいいのは久しぶりだ! ふははは!」
もう俺の邪魔をするものは何もない。俺は今日全ての問題を処理できた。俺はもう完全な自由だ。
そう、俺を今まで縛り付けていた父親も、もう
実にあっけない最期だった。あの愚かな父には相応しい。あれだけ威張り倒していたのが嘘のような、どこまでも惨めで孤独な最期。自分が今まで支配してきた息子の手であっけなく。これも闇の帝王に逆らったからだ。闇の帝王の『服従の呪文』に大人しく従っておけばいいものを愚かにも抵抗し、あまつさえダンブルドアに計画を伝えようとするから。どこまでも独善的で、どこまでも愚か。実に奴に相応しい最期だ。
だから俺は今最高に幸せな気分だ。あぁ、本当に最高の気分だ。最高の気分の
だから、
「はははは! ははッ……はは……うぅぅ……ふぐ……」
俺は今……
何故だ。顔をいくら洗っても、目からとめどなく冷たい物が流れ落ちる。どう考えても俺は今幸せの絶頂期であるはずなのに、俺は何故……こんなにもあの男の死を悲しいと思っているのだろう。
幸せなことを考えようとしても、後から後から奴の死の直前の顔が思い浮かぶ。
ビクトール・クラムを失神させ、奴に杖を向けた時、
『本当に……自慢の息子だよ。……よくここまで出来た息子を妻は生んでくれた。ここまで育ててくれた……。本当に……素晴らしい家族
奴は『服従の呪文』にかかっている中、俺に向かってそんな今まで見せたことのない
今まで俺に向けたこともないような……そんな笑顔を。
何を今更と思った。心に響くものなど何もない。あの男が俺を愛したことなんて一度もないのだ。あの男との思い出は、
『お前はこの私と同じ名前……名誉ある聖28一族であるクラウチ家を受け継いだのだ。お前はその名に恥じない男にならなければならない』
そんな冷たい言葉しかないはず。
だからこれはただの命乞いだ。混濁した意識の中で叩き出した、僅かでも生き残る可能性を上げるための見苦しい足掻きだ。
そう判断した俺は怒り……奴を
『アバダケダブラ!』
目の前で笑顔のまま崩れ落ちる父親。そしてその死体を急いで近くの草むらに埋め、俺は急いでその場を後にしたあと、何食わぬ顔で、
『ダンブルドア! くそ、この脚め! 何やら騒ぎがあったと聞いたのでな! 何があった!?』
辺りを見回すポッターとダンブルドアに話しかけたのだった。
計画始まって以来の最大危機であったが、これで全ては元通り。ダンブルドアは再び闇の帝王の計画を見抜く好機を失い、俺は邪魔で仕方がなかった父親を排除出来た。この過程のどこにも問題などあるはずがない。寧ろ喜ばしいことばかりだ。
なのに何故……俺はこの結果を少しも嬉しいと思えていないのだろう。
何故あの時何も感じなかったはずの父親の顔が……こんなにも苦しいものに思えてしまっているのだろう。
湧き上がり続けるあり得ない感情を拭い去るため、俺は必死に洗面台で自身の顔を洗い続ける。
そしてこれから始まる幸福と栄光で頭を一杯にしようと必死に考える。しかしいくら考えても、
『愛している……息子よ』
俺の頭の中から、あの死を目前にした瞬間の父の顔が消えることはなかった。
挙句の果てに小さい頃。それこそ俺が本当に幼かった頃、まだ父親が俺に優しかった時の記憶ばかりが蘇ってくる。
いつも優しかった母さんがいて、そんな母さんの横でいつも誇らしげに……優し気な表情で俺を見つめている父さんの顔を。
「うぅぅ……
だがどんなに嘆いても、もうこの世に父さんはいない。俺は今まで自分を縛り続けていたと
だから奴を殺した時俺に残されたのは決して自由などではなく……闇の帝王と共に