ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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家族との再会

 ハーマイオニー視点

 

グリフィンドール談話室の中はお祭り騒ぎを通り越し、もはや無法地帯と言って差し支えない様相を呈していた。

山のようなケーキやバタービールが所狭しと並んでおり、あちこちで本来なら談話室で使わないはずの花火が破裂している。大事になっていないのは偏に魔法のおかげだと思う。

挙句の果てにはただでさえ人が多い部屋の中で、大きな旗を振り回している生徒までいる始末。ファイアボルトでホーンテールの頭上を飛び回るハリーの絵から、頭に火がついたセドリック・ディゴリーの絵まで様々な絵が描かれていて見ていて飽きないけれど、正直邪魔で仕方がない。

でも……それでも、そんな窮屈な思いを我慢してでも、談話室の中で笑顔で居座る自分がいることも確かだった。

たとえ狭くても、たとえ騒々しくても談話室を出て行こうと思う程気になることはない。だって今この談話室でされているお祭り騒ぎは、

 

「ハリー万歳! グリフィンドール万歳!」

 

「流石はハリーだぞ! 最年少で代表選手に選ばれただけはある!」

 

第一の課題で優秀な成績を残したハリーのために催されているものなのだから。

皆口々にハリーを賛美する声を上げている。つい数時間前までハリーと喧嘩をしていたロンも、今ではハリーと肩を組み合って宴会に参加していた。ハリーもハリーで今ではあれ程思い悩んでいたのが嘘のような明るい表情を浮かべていた。

私は僅かに苦笑しながら周りの騒動を眺める。まだまだハリーの命の危機が去ったわけではない。それこそあと二つも試練が残っている。でも今は友達のあれだけ暗かった表情も明るくなり、ロンとの仲も元通りになったことがたまらなく嬉しかったのだ。

私が微笑ましく眺めている間にも周りの興奮はエスカレートしていく。そして遂にはハリーの勝ち取った卵に言及するに至っていた。

リー・ジョーダンが、ハリーがテーブルに置いておいた金の卵を持ち上げ、手で重さを測りながら言う。

 

「これは重いぞ! 一体何がこの中に入ってるんだ!? ほら、ハリー! 開けてみろよ! 中に何があるか見てみようぜ! 上手くいけば第二の課題の内容も分かるさ!」

 

「うん、いいね! 開けてみようか!」

 

そしてハリーもハリーで煽てに乗せられるように卵を受け取り、卵の周りについている溝に爪を立ててこじ開ける。

……中身は空っぽだった。中身など何もない。でも卵の様子に変化が何もないわけでもなく、

 

「な、なんだこれ! 黙らせろ! ハリー! 早く閉じてくれ!」

 

突然大きなキーキー声のような、まるで咽び泣くような音が部屋中に響き渡ったのだ。

あまりに不快な騒音に耳を塞ぎ、ハリーも急いで卵を閉じる。音が鳴りやんだ瞬間、皆が次々と声を上げ始めた。

 

「今の一体なんだ!?」

 

「バンシー妖怪の声みたいだったな。もしかしたら次の課題はバンシー妖怪か!?」

 

「いや、誰かが拷問された声だったぞ! 君は『磔の呪文』と戦わないといけないんだ!」

 

「馬鹿、あの呪文は違法だぞ」

 

次々に発せられる数々の憶測。でもあまり納得できるような意見が飛び出すことはない。私もまったく思い浮かばないため人のことは言えないけど、どれも的外れな憶測にしか思えなかった。

それを皆も分かっているのか、しばらくすると誰も卵の話をしなくなり、遂には部屋中に溢れるお菓子の方に興味が移っていく。

卵を獲得したハリー自身が、この大量のお菓子を運んできたフレッドに尋ねる。

 

……そしてそれこそが、何気ない会話ではあったものの、

 

「よくいつもこんなにお菓子を大量に持って来れるね……。どこから調達しているの?」

 

「あれ? 前も言ったが、まだ厨房を見つけてないのか? 地図に書いてあるはずだぜ。果物が盛ってある器の絵の裏さ。梨をくすぐれば中に入れる。今度行ってみるといいぜ! 屋敷しもべが何でも用意してくれるはずさ! 頼めば雄牛の丸焼きだって出してくれるさ」

 

私が……()()()()()求めてやまない情報の一つだったのだ。

 

『そう言えばハーマイオニーには言っていなかったね。実はドビー……今はこのホグワーツで働いているみたいなんだよ』

 

唐突に白イタチ事件直前にダフネが言っていたことを思い出す。

情報を手に入れた瞬間、私はもうこの宴が何のために行われているのかも忘れて、ただこの情報を一刻でも早く親友に伝えなくてはと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

ドラゴンを使った試練が終わったのはつい昨日のこと。

学校内、それこそ他寮と敵対するスリザリンでさえも興奮冷めやらない様子だ。あちこちで昨日の試合についての熱い討論が繰り広げられている。

しかし私にとってはそんな興奮などどうでもよく、未だ次の課題に関する情報がお父様から届いていない現状においては、私のするべきことは何もないなとどこか他人事に思っていた。お父様がクリスマスまでには情報を仕入れると手紙を送ってくださったため、それまではのんびりできる。後はクリスマスに注文しておいたプレゼントが届くのを待つだけだ。そう思っていた……のだが、

 

「ダリア、ダフネ! 一緒に来て! 来なきゃダメ! やっと……私、やっと見つけたの!」

 

興奮しきった様子のグレンジャーさんが朝食の席に突然突撃して来たことで、私の平穏な時間は僅か半日足らずで終わりを告げたのだった。

……前回私達を誘うのに何かしらの手段を講じるはずになっていたと思うのだが、今の彼女は興奮のあまりそんなことも忘れているらしい。

当然周りにいるパーキンソン達は声を荒げて立ち上がり始める。

 

「またあんた! ちょっと、なんであんたみたいな『穢れた血』がダリアとダフネに用があるのよ! どっか行きなさいよ、汚らわしい!」

 

「黙ってなさいよ、パーキンソン! 私は今急いでるのよ! 私が用があるのはダリアとダフネだけ! 貴女なんてお呼びでないわ!」

 

「な、なんですって!?」

 

朝から騒々しいことこの上ない。不幸中の幸いは今この場にグレンジャーさんのお目付け役であるポッター達が居ないことくらいだろう。彼らが居たらこれ以上にややこしいことになっていたに違いない。

彼等を置いてくる思考が残っていたのなら、何故こんな後先考えない行動に出たのだろうか。

何をそこまで興奮しているかは分からないが、この場では彼女に応えない方がいいなと考え、そっと後で倉庫に来るよう伝えようとする。しかし、

 

「そうだ、パーキンソンなんてどうでもいいのよ! ダリア! 厨房を……()()()を見つけたわ! だから早く来て!」

 

「え!? 厨房の場所が分かったの!? 早く行こう、ダリア!」

 

次に発せられた言葉によって、私は今ここで行動せねばならなくなったのだ。

 

グレンジャーさんが口にしたのは……私が一度捨ててしまった()()の名前だったから。

 

ドビーの名前が出た瞬間、私は気付いた時には既に立ち上がっており、もはや後ろから聞こえてくるパーキンソン達の声を気にすることもない。

ただ無言でグレンジャーさんに先を促す。

 

「なっ! どうしたの、ダリア、ダフネ! どうしてそんな奴について行くのよ!?」

 

「ごめん、パンジー! また後でね! ドラコ、後はお願い!」

 

「……あぁ。そちらもダフネ、お前に任せる。()()()()()()()()()()()

 

「勿論!」

 

そしてやはり気が付いた時には、息を切らしながら先導するグレンジャーさんについて廊下を駆け抜けていた。

突然もたらされた情報に、ようやく後から感情と思考が付いてきて中々考えが纏まらない。

私はドビーを見捨ててしまった。たとえあのままマルフォイ家にいればドビーの身の安全が保障できなかったためだとはいえ、私が家族である彼を見捨ててしまったことに変わりはない。私にはもうドビーの家族である資格などない。

でもこうして無意識に走っているということは、私はまだ彼に未練がある……彼と会いたくて仕方がないと思っていることに違いないのだ。

事実私は彼と会いたいと思っていた。今の様に食事を作ってもらうだけではない。以前の様に彼と一緒にいたい、彼の頭を撫でてあげたい。……彼の声を聞きたい。

 

一度見捨てたにも関わらず、私はもう一度彼と以前のような家族に戻りたくて仕方がなかったのだ。

 

なんて厚顔無恥な思考だろうか。ドビーは確かにここに残り、今までの様に私に食事を作り続けてくれている。しかしそれが一概に私のことを許してくれたと言っていいことなのだろうか。

こんな風に会いに行って、寧ろ彼に不快な思いをさせないだろうか。

こんな私が……今以上のことを望んで果たして許されるのだろうか。

 

しかしそんな後悔にも似た感情を覚えながらも、私は最後まで走り続け、

 

「ここよ! ここのはずよ! この絵の裏に厨房があるはずなの!」

 

「ここが……」

 

遂にグレンジャーさんの言う厨房がある場所に辿り着いたのだった。

そこは意外にもスリザリン寮のある地下階にあった。もっとも地下牢に続く陰気な場所とは違い、明々と松明に照らされた廊下ではあったが。

松明に照らされた空間の中、一つだけぽつねんと一枚の絵がかかっている。主に食べ物が描かれた楽し気な絵。

その絵の中にある、巨大な銀の器に盛られた梨をグレンジャーさんはくすぐる。すると突然梨が大きなドア取っ手に変わり、それを引くと絵の向こうに更に廊下が現れた。

扉を開いた後、ようやく一息ついた様子のグレンジャーさんが言う。

 

「よかったわ。ここであっているみたいね。フレッドからの情報だったから、正直本当か少し疑っていたの。でもこの様子だと大丈夫そうね。ほら、ダリア。貴女から入って。ドビーと会うなら、貴女から入らなくちゃ」

 

……しかし私はそんな彼女の言葉に反して、扉の前から中々動くことが出来なかった。

ここまで来て……それこそ言葉もなく走ってきたくせに、いざ扉を潜る段になって怖くなってしまったのだ。ドビーに会いたいという気持ちより、ドビーに許されていないかもしれない……ドビーを見捨ててしまったという事実に向き合うのが怖くて仕方がない。

そもそも私はどんな言葉をドビーにかければよいのだろうか。

自己嫌悪に塗れた思考が止まることはない。

 

「ど、どうしたの、ダリア?」

 

「……」

 

扉を前にして急に動かなくなった私に、グレンジャーさんが訝し気な表情で尋ねてくる。しかしそれでも私の体が動くことはない。

……そんな時、やはり私の背中を押してくれるのは、

 

「大丈夫だよ、ダリア。貴女は心配性な所があるだけ、多分ドビーはとっくの昔に許してくれてる……ううん、それどころか貴女のことを恨んですらいないよ。ドビーだってダリアと会いたいと思ってくれているはずだよ。ほら、中に入ろう?」

 

私の傍にそっと寄り添ってくれていたダフネだった。

底抜けに明るい言葉に振り返ると、ダフネが私を安心させる笑みを浮かべながらそっと私の背中を押す。

 

「で、ですが、ダフネ……。ドビーは、」

 

「いいからいいから。さぁ、私を信じて……。大丈夫。どんなことがあっても、私が傍に居るから」

 

そしてやはり戸惑う私の背中を、今度は物理的に押しながら歩き始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

『……あぁ。そちらもダフネ、お前に任せる。()()()()()()()()()()()

 

ドラコに言われるまでもなかった。

ダリアの考えそうなことは私だって分かっている。一体何年一緒に過ごしていると思っているのだろう。確かに兄であるドラコには負けるけど、私だってホグワーツでは彼以上にダリアと一緒に居るのだ。それこそ一緒のベッドで寝たことだってある。私にも優しいダリアが家族と……それも一度見捨てたと考えている家族と会う時どんなことを考えるかなど分かるのだ。

 

ダリアはドビーに対して未だに罪悪感を捨てきれていない。ドビーが再び戻ってきたことを喜びこそすれ、決して自分のことを許しはしていない。

だからこそドビーに会いたいと思っていても、いざ会う段になれば必ず迷う。

本当に会っても良いものなのか。ドビーは自分を本当に許してくれるのだろうか。

自分はドビーの家族として、本当に相応しいのだろうか……と。

 

自分の出生に対して強烈な嫌悪感を抱いているダリアの自己評価は、その優秀な成績や優しい人格に比べて恐ろしく低い。そんな彼女が考えることはこんなところだろう。

ならばいざという時私がどうするべきかは自ずと判断できる。

 

「いいからいいから。さぁ、私を信じて……。大丈夫。どんなことがあっても、私が傍に居るから」

 

私はそっとダリアの背中を押し、彼女を厨房の中へと促す。

そう、これこそが私のするべきことだ。私がダリアの親友として、ダリアのために出来ること。

想像を絶する秘密を抱えるダリアの傍に寄り添い、そしてダリアが……

 

「ドビー……」

 

決して幸せを取り逃さないようにすることなのだ。

厨房は天井の高い部屋だった。大広間と同じくらい広い。石壁の前にはずらりと真鍮の鍋やフライパンが山積みになっており、奥には大きなレンガの暖炉まである。

そしてそんな立派な厨房の中のあちこちで屋敷しもべ妖精が忙しなく働いており、その中には当然……ドビーの姿もあったのだった。

二年生の最後に見た切りのドビーの姿に、私に背中を押されていたダリアが小さな呟きを漏らす。私には他のしもべ妖精とあまり区別がつかないけど、ダリアには彼の姿がハッキリと分かっているのだろう。大勢いる屋敷しもべの中から、先程から厨房で何か料理を作っているたった一人をダリアは見つめ続ける。

そしてドビーの方もドビーの方でダリアの声に気付き、

 

「……お、お嬢様」

 

大きな目を更に大きくして驚いている様子だった。

私もハーマイオニーも黙り込む中、二人はただお互いを黙って見つめ続ける。お互いに言葉はない。

でもそんな沈黙は長くは続かなかった。

後悔や罪悪感。家族の一人を見捨ててしまったという()()()()認識。それらを捨てきったわけでも、折り合いをつけたわけでもないのだろう。ダリアはそんな簡単に自分への評価を覆しはしない。

でも、それでもダリアは、ドビーは、

 

「ドビー……やっと会えた。やっと……やっと……」

 

「お嬢様……。ダリアお嬢様……」

 

やっぱりお互いを、どうしようもなく今でも家族だと思い続けているのだ。

後悔や罪悪感を感じていたとしても、再会が嬉しくないはずがないのだ。

ダリアのいつもの無表情がみるみる歪み、冷たい双眸からは止めどなく涙があふれ始めている。そして恐る恐るといった様子でドビーに近づき、そっと彼を抱きしめたのだった。

 

「よかった……。良かったわ……ダリア、ドビー。貴女もそう思うでしょう、ダフネ?」

 

「うん、そうだね、ハーマイオニー。本当に……良かった」

 

目元から溢れる涙を拭うハーマイオニーに、私も同じ仕草をしながら応える。

目の前にはただ涙を流しながら抱き合う家族という感動的光景。そんな光景を涙ながらに見つめながら、

 

「やっと……元通りになったね。これでダリアも……幸せを感じることが出来るよ」

 

小さく口の中で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()が君の名前をゴブレットに入れた。これで()()()()()んじゃないか? おかしいと思ってたんだよ。いいかい、ダリア・マルフォイは年齢線を越えることが出来る。僕等と同じ14歳なのにだ。それはつまりあいつがダンブルドアの魔法を実力で掻い潜ったってことだ。そんな奴が普通自分の名前を入れて、代表選手に選ばれないわけがない。セドリックなんかより遥かに実力的には相応しいはずだよ。でも実際はセドリック・ディゴリーが選ばれてる。それってつまり、あいつは自分の名前ではなくて……君の名前をゴブレットに入れたってことなんだよ」

 

盛大な宴会から一夜明け、僕とロンは朝食の席に向かわずに……シリウスに手紙を送るためフクロウ小屋に足を向けていた。

昨日ようやく仲直りできた僕はロンに話したのだ。

試練前シリウスと話したこと。カルカロフが『死喰い人』であったと知らされたこと。ダンブルドアが何か不穏な空気を感じ取ったために、今年ムーディ先生をホグワーツに呼んだこと。そしてカルカロフと……ダリア・マルフォイまでもムーディ先生の警戒対象であり、彼女は何故かセドリックに第一の試練の内容を話していたことを。

それを聞いたロンは朝食の席にハーマイオニーが居ないことをいいことに、僕に提案してきたのだ。

 

シリウスに今回の顛末と……ダリア・マルフォイについて知らせることを。

 

ハーマイオニーが居れば確実に邪魔されることだろう。未だにダリア・マルフォイやダフネ・グリーングラスと話そうとする彼女のことだ。必ずあいつらのことを疑うような内容をシリウスに伝えようとすれば猛反発する。

だから今彼女が居ないのは僕等にとっては好都合だった。

おかげでこうして僕らは()()をシリウスに伝えることが出来る。

フクロウ小屋に着き、適当なフクロウの足に手紙を括りつけている間、ロンが興奮したように続ける。

 

「二人とも動機は十分だ! カルカロフは死喰い人だったんだろう? だったら、あいつは君を試練で殺すために名前を入れたんだ! それでもしダリア・マルフォイだったら、きっとカルカロフと同じ理由か、若しくは君に恥をかかせるためだ。ほら、あいつは二年生の時、君に秘密の部屋のことで邪魔されたわけだろう? それを恨んでこんなことをしたんだよ。そうでなきゃ、あいつがセドリック・ディゴリーなんかに試練の内容を話すなんてあり得ない。動機は十分さ。寧ろあいつら以外が犯人なんてあり得ないよ」

 

そして更に、

 

「でもどうだ! あいつらの目論見はこれでおじゃんさ! あのさ僕……この試合で君が優勝できると思うんだ。ハリー、僕、マジでそう思うんだ。それで……だから……あいつらが何を企もうが、君なら絶対に大丈夫。僕はそう思うんだ」

 

そう続けたのだ。

ロンのこの発言は、ここ数週間の態度を埋め合わせるためのものだということは分かっている。でも、それでも僕にはそれが嬉しくて仕方がなかった。

たとえそれがダリア・マルフォイについてなんていう不愉快な内容でも、僕のことを真剣に心配して、更に僕を応援してくれているものだと思えば嬉しくないはずがなかった。

僕は手紙を括り終えると、ロンの方を振り返りながら言う。

 

「ありがとう、ロン。君にそう言ってもらえて嬉しいよ。でもまだ優勝できるかは分からないよ。それに生き残れるかもね……。まだあと二つも課題があるんだ。一つ目であれだったんだ。二つ目に何があるのかと考えるだけで憂鬱だよ」

 

「いや、でも僕は、」

 

そして僕らは二人そろって今度こそ朝食を摂るために大広間に向かう。

……僕は嬉しかった。

口では殊勝なことを言ったけど、本当はこうしてロンと一緒に居るだけで心が弾んで仕方がない。やっと欠けていたピースが埋まったような……そんな気がするのだ。

正直次の課題が何であろうとどうでもいい。勿論命の危険がある以上本当にどうでもいいわけではないけれど、今はただこの幸福な気分に浸っていたかったのだ。

それに次の試練が何であろうとも、ロンとハーマイオニーさえ居れば何とかなる。たとえダリア・マルフォイがセドリック・ディゴリーに味方しようとも、二人が居れば僕は必ず試練を乗り越えることが出来る。

 

 

 

 

そう僕は思っていたのだ。

 

でも……

 

「あぁ、ここにいましたか、ポッター。探していたのですよ。クリスマスのダンスパーティーの件ですが、貴方は代表選手なのです。必ずパートナーを見つけなさい。代表選手はパーティーの初めにダンスをする。これは三大魔法学校対抗試合の伝統です。いいですか、ポッター。必ずクリスマスパーティーまでにパートナーを見つけるように」

 

どうやら二人が居てもどうしようもない課題も、この三大魔法学校対抗試合にはあるらしい。

大広間の手前、まるで待ち構えていたようにマクゴナガル先生に話しかけられた時、僕はそう思ったのだった。

 

段々と外の気温は下がってきている。もうじき誰もが楽しみにしているクリスマスがやってくる。

そんな中、僕はドラゴン以上に難しい課題を言い渡されてしまったのだった。


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