ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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賢者の石編スタート。



賢者の石
ダイアゴン横丁(前編)


ダリア視点

 

別に初めてというわけでもないが、私はあまりダイアゴン横丁に行ったことがなかった。ダイアゴン横丁は日光が入る明るい場所のせいか、お母様があまり私を行かせたがらないのだ。

代わりに私はよくノクターン横丁で買い物をする。

ノクターン横丁は日光があまり入らない暗い通りであり、その暗さに比例して治安も悪くなっている場所である。しかし私はマルフォイ家の娘であるため、純血主義の多いノクターン横丁で私に悪さをしようという人間はあまりいない。だが、治安が悪いことには変わりがない。どこの世界にも向こう見ずな人間は存在する。そのため私が買い物をする時は、必ずお父様がついてきてくださっていた。

私がダイアゴン横丁に行くのは、お兄様に付き合って箒の店をのぞく時か、ダイアゴン横丁にある高級レストランで食事をする時くらいのものだ。

 

だが、今回買うのは私がいつも欲しがるようなものではなく、ホグワーツで使うような()()()()()だ。ノクターン横丁ではなく、ダイアゴン横丁に行く必要がある。

 

お母様が人ごみをお嫌いなためすぐ帰れるようにということで、お母様とお父様が教科書や鍋などといった授業で使うような雑貨を。そして私たち兄妹は、私たち自身が絶対に必要となる制服のローブと杖をその間に買う手筈になっていた。

人混みがお嫌いな上にあまりお体が丈夫な方ではないのだから、私としてはお母様には家で休んでいてほしかったのだが、

 

『ホグワーツに行く最初の年なのだから』

 

とお母様がどうしてもとおっしゃったため、私も渋々納得した。

私はしっかり日光対策をした格好をし、日傘を持った状態で暖炉の前に行く。

 

「日光対策は問題ないようだな」

 

私の頭から爪の先までしっかり確認し、万全な状態であると判断されたのか、お父様は私から視線を外してフルーパウダーをひとつまみ暖炉の中にいれる。

そして暖炉の中で炎が緑色に変わるのを確認すると、炎の中に入り、

 

「ダイアゴン横丁」

 

と言って家からお父様が姿を消した。

 

我々もお父様をあまり待たせてはいけないとすぐに後に続くと、そこは古いテーブルが敷き詰められ、乏しい明りが薄暗く中を照らしている小汚いパブだった。

 

この『漏れ鍋』の暖炉は、魔法省からダイアゴン横丁の()()として煙突飛行の設定をされているわけだが……もう少しましな場所はなかったのだろうか。確かにここはマグルの世界とダイアゴン横丁をつないでいる唯一の入口である。だが、それならばもう少し掃除を心掛けさせるということは出来なかったのかと、私は疑問で仕方がなかった。

そう益体のないことを考えながら素早く店内を抜け、裏のレンガを決められた順にたたくと、そこには、ありとあらゆる()()()()魔法道具が売られている『ダイアゴン横丁』が広がっていた。

 

「さて、では私は今からお前達の教科書を買いに行ったのち、細々とした授業道具を買いに行く。お前たちはまずはオリバンダーの店にいくのだ。シシーはどうする?」

 

「私もオリバンダーの店に行くわ。この子たちが杖を買い終わったら、私の杖も少しみてもらうわ。最近杖の調子が悪いみたいで……。その後あなたに合流するわ。みんな買い物が終わったら、いつものレストランに行って昼食を食べてから帰りましょう」

 

そう今後の予定を確認すると、お父様はフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に、私たちはオリバンダーの店に行くのであった。

オリバンダー杖店。何世紀にもわたり、多くの魔法使いに最高の杖を売り続けてきた店。そこは壁中に杖の入った箱を置いているせいか、ずいぶん狭くみすぼらしい内装だった。

お母様は外でお待ちになっている。この店に三人入るのは流石に狭いとお考えになったのだろう。

店のドアを開けると鈴が鳴り、すると店の奥から薄く淡い、大きな目をした老人が出てくる。

 

「いらっしゃいませ。杖をお買い求めで?」

 

おそらくこの老人こそがオリバンダーなのだろう。多くの魔法使い達に杖を長年売り続けてきただけあり、その立ち振る舞いから只ならぬ雰囲気を感じた。

 

「ああ、そうだ。こっちの妹のものもだ」

 

オリバンダーはまず声を上げたお兄様を見やった後、一瞬私の方を見てどこかおびえたような顔をしたが、すぐに元の表情にもどる。

 

「ええ、ではあなた様から。杖腕をお出しください」

 

そう言われて右腕を出すお兄様。するとオリバンダーは巻き尺でお兄様の様々な所を測りだす。そして必要な所は測り終えたのか、彼は店の奥に杖を取り行ったわけだが……いくつかの巻き尺が未だにお兄様にまとわりついている。挙句の果てにお兄様の鼻の穴まで測りだしたので、私はそっと手袋をはずし、巻き尺の一つを()()()()()

そんなやりとりに気付くことなくオリバンダーは一本の杖を持ってくる。

 

「イトスギにドラゴンの琴線、23cm、変身術に最適。さあ、振ってみなされ」

 

一本目の杖。

しかしお兄様がその杖を振ると同時に、カウンターに置いてあった水差しが割れる。

お兄様に適合していないことは火を見るよりも明らかだった。

 

「だめのようですな」

 

そう言うとすぐ手に持った杖を奪い取り、次の一本を差し出してくる。

 

「スギにユニコーンの毛、22cm、耐久力に優れる」

 

この一本は振る前に奪われる。

そんなことをあと二回繰り返し、そして、

 

「サンザシにユニコーンの毛、25cm、ある程度弾力性がある」

 

ようやくその時が来た。

それを持つとお兄様の顔がどこか満足そうなものになり、さとされるまま振るうと、杖の先から花火がいくつか飛び出した。

私が拍手する中、オリバンダーは、

 

「ブラボー!!いや、すぐに決まってよかった。いや決まるといっても、使い手が杖を選ぶのではなく、杖が持ち主を選ぶんですがね」

 

そうぶつぶつ言った後、私の方を向いた。

 

「では、次はお嬢さんですな。杖腕はどちらで?」

 

「私も、お兄様と同じ右です」

 

そう言ってお兄様と同じくいろいろな角度から測られると、また店の奥に杖を取りに行く。私には巻き尺がまとわりつくことはなかった。

 

「さあ、リンボクにユニコーンの毛、20cm、火の魔法に最適」

 

持った瞬間から違うと思っていたら、すぐにとられてしまった。

 

「ブナノキにドラゴンの琴線、25cm、頑固」

 

これもすぐとられる。

そんなことが続き、もう駄目になった杖を数えるのが面倒になっていた頃、

 

「難しいお客じゃのう。じゃが、心配されるな。必ずあなたにあった杖を見つけてみせますぞ」

 

そう言った後にも数本を試し、そして、ついにそれが来たのだった。

 

「イチイの木にセストラルのしっぽ、33cm、()()()()()()()

 

オリバンダーがこれはあってくれるなと言わんばかりの顔をして持ってきた、真っ黒に染められた杖は、ずいぶんと不穏な言葉で締めくくられていた。

だが持ってみると、今までもってみた杖がゴミにしか思えないほど、私は素晴らしい充足感に満たされる。

 

ああ、この杖だ!

私の杖はこれだ!!

 

私はその感情のまま杖をふるう。

杖の先からは、スノードロップの花びらがいくつも飛び出し、店内を白く染めあげた。

 

「……お見事です。まさかこの杖に選ばれる方が現れようとは……」

 

そう、どこかおびえた様子の店主に代金を払い、私達はお店を後にした。

 

 

 

 

「大変お待たせしてしまいました、お兄様、そしてお母様。お母様、外は暑くありませんでしたか?」

 

「いえ、大丈夫よ。その様子だと無事杖を買えたようね」

 

長時間外でお待たせしてしまったというのに、そう我がごとのように喜んだ顔をされて、

 

「さあ、今度は私が杖をみてもらいますね。あなたたちはその間に制服を買ってくるといいわ。買ったらレストランで落ち合いましょ。ダリア、日傘をしっかりさすのですよ」

 

そう言ってお母様は店の中にはいっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリバンダー視点

 

わしは今しがた出て行った兄妹のことを考える。

 

この時期は、ホグワーツ入学を控えた子供たちが大勢つめかける。

あの二人もそんな中の二人じゃった。

兄の方は、青白く、顎が尖っている顔、そしてあの薄いグレーの瞳をみるに、マルフォイの家の子供だとすぐにわかった。

 

そして妹の方をみると、わしは思わずひるんでしまった。

 

そこにはホグワーツに入るばかりの年の子供とは思えない、美人だが、どこか冷たい雰囲気を醸し出す女の子がいた。

そんな子がこちらをその薄い金色の瞳で、無表情に見つめてくるので、思わずひるんでしまったのである。

 

長年この店を経営していてそんなことがあったのは、『例のあの人』が杖を買いにきた時のみだった。

 

兄の方は比較的はやく杖に選ばれた。いくつかかかったが、本当に長い客はもっと長い。

そんなことを思っていると、妹の方はその長い客であった。

 

一向に杖が決まらん中、ふとある杖が目に留まる。

もしや、このようなオーラを出す子であるなら、これに選ばれるのでは?

 

その杖は、わしの店にある杖の中で、最も売りたくない杖の一つだった。

この杖に選ばれた人間は、おそらく例のあの人に匹敵する闇の魔法使いになることじゃろうそう思わずにはおられないような、いわくつきの杖じゃった。

……そして選ばれてしまった。

 

『イチイの木にセストラルのしっぽ、33cm、闇の魔法に最適』

 

彼女には言わなかったが、そのイチイの木は、例のあの人の杖と同じ木からとられたものじゃ。

そしてセストラルのしっぽ。それはかの『ニワトコの杖』の芯と()()()()()()()の物との言い伝えじゃった。

ニワトコの杖と違い、持つものを最強にする杖というわけではない。じゃが、おそらく闇の魔法を使わせたら、どんな杖よりその扱いが楽になるものになるじゃろう。

そんな杖を売りたくはなかったが、このオリバンダーの店においてはどんな杖で、相手がどんなに闇に堕ちると分かっていても……一度たりとも杖を売らなかったことなどない。

わしら杖造りは、先のある若人たちの未来を決定することが仕事ではないのだ。実際、闇に堕ちると思っていても、実際は堕ちなかった魔法使いを何人もみてきた。

 

ああ、どうか、あの子が将来闇に染まるようなことがありませんように。

 

そう願わずにいられなかった。

 




スノードロップ。花言葉は「あなたの死を望みます」

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